レビュー
v6プラスでネットを快適に、高コスパなWi-Fiルーター「Archer A10」の最新ファームを試す
2019年8月30日 06:00
「v6プラス」は、日本ネットワークイネイブラー株式会社(JPNE)提供のインターネット接続サービスで、IPoE IPv6方式を採用している。NTT東西の光回線を用いた回線で利用できるが、簡単に言えば、従来のPPPoE方式で認証を行う部分などをスキップできる。これにより、回線のボトルネックを通らずに済むので、通信の遅延を解消できるわけだ。
実際の導入手順や詳細は、こちらの記事でも詳しく解説している。今回は、海外メーカー製のWi-Fiルーターとしては、いち早くv6プラスに対応するファームウェアの提供を開始したTP-LinkのWi-Fiルーター「Archer A10」を用い、v6プラスとルーター双方を検証してみよう。
ネットワーク回線は重要だけど、引っ越すまで速度は分からない
引っ越し先を探すとき、非常に重要ながら当てにならないのが、ネットワーク回線とISPの選び方だ。住居としての利便性や安全面などは、直接足を運べばある程度は確認できるが、ことネットワークに関しては、そう簡単には行かない。
レビューサイトの口コミなどでは快適とされるIPSも、地域やマンションの違いによって遅かったりすることもある。さらに、ISPを変えてみても、速度の遅延が解消しないことも多いのだ。
こんな悩みを解消してくれる存在がv6プラスだ。筆者がv6プラスへの移行を決意したのは、非常に低速なPPPoE通信が原因だった。以前契約していたプランでは、最大200Mbpsの通信速度がうたわれていたが、昼間や深夜こそ100Mbpsを超えていたものの、混雑時間帯である19~25時には実測で約1Mbpsと、理論値の実に100~200分の1という悲惨な状態だった。
せっかくゲームの発売日になっても、友人に一晩待ってほしいと言った回数は数知れず……。今でこそ、ゲームをダウンロードしつつ動画を視聴するといった行為も当たり前になっているが、高画質な4K動画を見ようとしても、1280×720ピクセルへと解像度を落とされてしまう始末だった。
さらに、この頃はまだ、v6プラスに対応するWi-Fiルーターは、国内メーカーであっても選択肢は非常に限られていた。v6プラスをはじめとするIPoE IPv6接続サービスは日本独自のものなので、海外メーカー製Wi-Fiルーターでの対応はさらに遅れ気味だった。
そうした海外メーカー製のルーターは、高性能、高機能をうたうハイエンド製品が珍しくなく、コアなユーザーを中心に人気を集めている。しかし、v6プラスの環境では、機能が制限されるアクセスポイントモードで使わざるを得ない状況が続いていたのだ。
コスパに優れたWi-Fiルーター「Archer A10」、万人受けする癖のない仕様
そんな中、コストパフォーマンスが優れた製品を多数展開するTP-Linkから、v6プラスに対応する最新ファームウェアの提供が開始された。対応するルーターは「Archer A10」と「Archer A2600」の2モデル。前者はAmazon.co.jpのみで販売されているが、仕様は以下の通りで、縦置きスタンドを同梱する点以外には、あまり違いはないようだ。
製品名 | Archer A10 | Archer A2600 |
実売価格 | 7990円 | 9150円 |
対応規格 | IEEE 802.11ac/n/a/g/b | ← |
最大速度(2.4GHz帯) | 800Mbps | ← |
最大速度(5GHz帯) | 1733Mbps | ← |
2.4GHz帯チャンネル | 1~13 | ← |
5GHz帯チャンネル | W52/W53/W56 | ← |
アンテナ | 外付け(3本)、内蔵(1本) | ← |
DS-Lite | 〇 | ← |
MAP-E | 〇 | ← |
WAN/LAN | 1000Mbps×1(WAN)、1000Mbps×4(LAN) | ← |
動作モード | RT/AP | ← |
Archer A10は、デュアルバンドに対応するWi-Fiルーターで、5GHz帯で最大1733Mbps、2.4GHz帯で最大800Mbpsの速度を誇る。
ビームフォーミングやMU-MIMOに加え、周囲の電波強度や帯域を判別し、2.4GHz帯と5GHz帯から混雑していない方へ接続を自動で振り分けるバンドステアリングと、特定デバイスが帯域を占有しないように割り振るエアタイムフェアネスの各機能にも対応する。
これらは、スマートフォンやIoT機器など、Wi-Fiを介して接続するデバイスが家庭内に増えている状況では、非常に重要な技術と言えるだろう。
さて、Archer A10の外観を見ていこう。本体は平置きを想定して、さまざまな環境に溶け込めるように、自己主張の少ないシンプルなたデザインに仕上げられている。なお、コストを少しでも下げようというこだわりからか、縦置き用のスタンドは別売りだ。
本体背面には、いずれもギガビットに対応するWAN×1ポートとLAN×4ポート、さらに電源ボタンを装備する。
アンテナは外付け3本、内蔵1本となっている。一般的にねじ込みでユーザーが固定する必要がある外付け式は、気付かないうちに緩んでくることがあるので、個人的にはあまり好きではなかった。だが、Archer A10はこの部分が固定式となっていて、緩みを気にしなくていい点は評価したい。
ある程度触るする機会があるWPSボタンやリセットスイッチなどは、左側面にまとめられている。ケーブルやアンテナ類がひしめく場所ではないため、アクセスしやすい。
PCでもスマホでも初期セットアップできる
ソフトウェア面ではどうだろうか。初期設定や管理を行なう方法は2種類用意されている。ネットワークに接続し、ウェブブラウザーでアドレスバーに「tplinkwifi.net」と入力するか、スマートフォン用アプリ「Tether(テザー)」を利用する方法だ。
今回は、PCからのウェブブラウザー経由のセットアップ手順を紹介するが、Tetherアプリでも方法はほぼ同じだ。指示に従いながら、わずか数ステップで設定ができるお手軽仕様だ。
ルーターの各種設定も、初期設定と同じくPCからはウェブブラウザーで、スマートフォンからはTetherアプリで行なえる。ブラウザーでの設定には、「基本設定」「詳細設定」の2項目が用意されており、ファームウェアの更新は「詳細設定」内の「システムツール」―「ファームウェアアップグレード」から行えるので、最新でなければ、ここからアップデートをしておこう。
混雑時間帯で大きな差が出たインターネット速度、v6プラスの高速さが如実に
インターネットの速度は、11acの3×3に対応し、理論値は最大1300Mbpsの「MacBook Pro(15-inch 2017)」を用いて測定した。計測ポイントはリビング、ルーターを隅に設置したリビング、最も遠い寝室、浴室の3箇所だ。今回はv6プラスとの速度の差を分かりやすくするため、あえて混雑時の平日22時~23時にかけ、SpeedTestとiPerfでそれぞれ速度を3回計測した平均値を掲載している。
リンク速度は、リビングと、扉1枚を挟んだ浴室が1300Mbps、扉を2枚挟んでいる上に距離も離れている寝室が527Mbpsだった。実際の計測では、この差がどう出るだろうか。
まずは試しに、いかに遅いかを知ってもらうため、PPPoE接続でのテスト結果を見てみよう。
ダウンロード | アップロード | |
寝室 | 4.1 | 333 |
浴室 | 3.2 | 320 |
リビング | 4.0 | 374 |
結果は凄惨たるもので、まともな通信ができているとはいい難い。寝室がもっとも速いが、誤差の一言で片付けられるレベル。この速度ではネットゲームのダウンロードはおろか、NetflixやYouTubeといった動画配信サイトでも、画質の劣化や動画の一時停止が起きる可能性がある。空いているためか、アップロードは速いが、ダウンロードが遅すぎるので、活かせる機会は少ないだろう。
もちろん、PPPoEが全ての環境や時間帯で必ずしも遅いというわけではない。冒頭でも述べたように、100~200Mbpsで通信が行えるときもある。が、混雑しやすい時間帯では、周りの環境に大きく左右されるので、肝心なときに遅い、スピードが出ないということが悩みの種となるわけだ。
それでは、v6プラスを用いた通信がどれだけの速度なのかという、本題の検証結果を見てみよう。
ダウンロード | アップロード | |
寝室 | 194.0 | 317.3 |
浴室 | 205.0 | 536.7 |
リビング | 205.0 | 737.3 |
ダウンロードの速度はPPPoEと比べて70倍近い数値が各所で出ている。ルーターから一番近いリビングで計測した値が最も高速だが、ダウンロード速度だけで見ると寝室でもほぼ変わらない結果だ。ある程度までの距離ならパフォーマンスをしっかり発揮できている。一方、アップロード速度はルーターからの距離に応じた結果だった。無線通信ということもあり、子機にあたるノートPCの性能や環境にも左右されるが、日常の用途において困ることはないだろう。
有線LAN経由のネット回線速度はさらに高速、LAN内の転送速度も十分
次にiPerfの結果を見ていこう。サーバーはCore i9-9900Kを搭載するWindows 10マシンをギガビットの有線LANでルーターに接続している。クライアントはSpeedTestと同じくMacbook Proを用い、リビング、浴室、寝室から計測を行なった。
結果はリビングと浴室がほぼ同一の速度、寝室は若干速度が落ちるものの、実用性は問題ない範囲に収まった。ルーター自体の実力を示すLAN内でのテスト結果として見ても、十分な転送速度と言える。
上り | 下り | |
寝室 | 197 | 196.7 |
浴室 | 445 | 445 |
リビング | 426.3 | 426.3 |
さらに、iPerfサーバーに用いたWindowsマシンで、有線LAN環境でのインターネット速度も測定してみた。すると、当初の目的だったゲームのダウンロードも圧倒的速度で、実測値で600Mbpsを超える速度を記録した。
非常に高速な環境では、自身のネットワーク以外にサーバー側環境も大きく影響するが、70GBのゲームデータですら20分程度でダウンロード可能だった。従来の1Mbpsなどの速度であれば確実に一晩は掛かっていたデータ量のダウンロードが、食事やお風呂の間に済んでしまう計算だ。
コスパに優れた「Archer A10」と高速な「v6プラス」の組み合わせは十分にお勧めできる!
数少ない海外メーカーが日本市場のためにv6プラスに対応したことはまず手放しで喜びたい。Wi-Fi通信における速度は十分高速で、デスクトップのギガビットLANを備えたようなPCであれば、圧倒的な速度を体験できるのは大きな魅力だ。
今回は触れていないが、v6プラスにはポートまわりに問題があったりはするものの、圧倒的な速度は非常に心強い。ゲームや動画など、さまざまなコンテンツがネット配信へ移行しつつある今、PPPoE通信で通信速度に不安を感じていて、まだv6プラスを試していない方は、ぜひ移行を検討してほしい。
対応ルーターとして今回紹介した「Archer A10」は、コストパフォーマンスに優れたTP-Linkの製品らしく、十分な速度を発揮しつつ、実売価格が9000円を切るという魅力的な製品だ。
価格だけならさらに安価なモデルも存在しているが、アンテナを3本装備し、豊富な機能も備えている。決して派手な機能や特殊なソフトを備えているわけではないが、普段使いには十分なもの。v6プラスの導入を検討していて、コストパフォーマンスが優れたルーターを探している方には、ぴったりの1台と言えるだろう。
(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)