レビュー

4804Mbpsの最速Wi-Fi 6ルーターが2.4万円!
「1人暮らしゲーマーに最適」なのはどうしてか?

ASUS「RT-AX82U」を試す

 ASUSが新たに投入したWi-Fiルーター「RT-AX82U」は、同社の製品中でも独特な立ち位置にいる製品だ。

 Wi-Fi 6対応で、通信速度はハイエンド機に並ぶ4804Mbps。それでいて実売価格は約2.4万円(9月上旬現在)と、かなり安価だ。他にもゲーマー向けの機能を搭載し、LEDライティングを備えるなど、中身も見た目もユニークだ。

 筆者は本機について、「ハイエンドのWi-Fi環境が欲しい1人暮らしのゲーマーに最適」だと思っている。その理由を解説しつつ、実際に製品を使って性能を確かめていきたい。

高速な5GHz帯を1本用意、他のスペックは抑えて購入しやすく

 現時点のWi-Fi 6対応ルーターは、ハイエンド機で最速4804Mbpsとなっている。4804Mbpsに対応した製品はASUSからも複数発売されているが、本機はその中で最も廉価な製品だ。では他の製品と何が違うのか。まずは本機のスペックを確認しよう。

【スペック】
Wi-Fi規格Wi-Fi 6
Wi-Fi速度4804Mbps(5GHz帯)、574Mbps(2.4GHz帯)
Wi-Fiストリーム数4×4(5GHz帯)、2×2(2.4GHz帯)
有線LAN1000BASE-T×1(WAN)、1000BASE-T×4(LAN)
搭載ポートUSB 3.2 Gen1×1

 まず言えるのが、本機は5GHz帯と2.4GHz帯が1つずつのデュアルバンド仕様である点。ハイエンド機では、5GHz帯が2つ、2.4GHz帯が1つのトライバンド仕様が多い。

 トライバンドのメリットは、通信負荷の分散だ。接続するWi-Fi機器が増えるほど通信は混雑し、個々の通信パフォーマンスが落ちていく。昨今はパソコンやスマートフォンだけでなく、スマートデバイスやIoT機器など、Wi-Fi通信を使用する機器が増えている。そこで5GHz帯のバンドを2つに増やすことで、接続を分散して通信をスムーズに保つというものだ。

 ただし、機器の数が限られているなら心配はない。特にWi-Fi 6では、複数の機器からの同時接続時の通信効率を上げる「OFDMA」が実装されたことで、規格としても同時接続に強くなっている。

 また2.4GHz帯も、最大2ストリームで574Mbpsに留まる仕様だ。ハイエンド機は最大4ストリーム1148Mbpsという製品が多いため、スペックとしてはここも低い。

 しかし2.4GHz帯はWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)では非対応だったことや、5GHz帯に比べて速度面で不利なこと、他の通信機器などからの影響を受けやすいことなどもあり、最近はあまり使われない傾向にある。唯一のメリットは5GHz帯よりも電波が遠くまで届くことだが、5GHz帯でも家中をカバーできる広さの住まいなら必要ない。古い機器ではWi-Fi 4(IEEE 802.11n)以前の2.4GHz帯にしか対応していないものもあるが、それは2ストリームで十分だろう。

 話をまとめると、1人暮らしなどで「使用するWi-Fi機器の数が少なく」「部屋もそれほど広くない」が「Wi-Fi 6の最高速度は確保しておきたい」……という人には、本機がとても無駄なく活用できる。逆に家がかなり広く、Wi-Fi機器が多い場合は、トライバンドやメッシュWi-Fiといった製品を選択すべき、ということになる。

背面端子はWAN×1、LAN×4、USB。4本のアンテナも背面から出ている

通信速度・距離とも十分な性能を発揮

 では実測で試してみよう。Wi-Fi 6の160MHz幅に対応したノートパソコンで本機に接続すると、リンク速度が2402Mbpsとなった。子機側が最大2ストリームとなるため、現状ではこれが最速である。それでもルーター側はまだ余裕がある計算だ。

ノートパソコンで接続すると、リンク速度が2402Mbpsとなった

 次にiperf3を使って通信速度をテストする。通信相手は1000BASE-Tで有線接続されたパソコン。本機の有線LANは1000BASE-Tのため、WAN側に出る通信は必然的に1Gbpsが最速となる。

 テストでは近距離での通信のほか、遠距離での通信も試した。筆者宅である3LDKのマンションで、本機を設置したのと対角線上になる部屋の隅で、間に2枚のドアも挟む。筆者宅にあるNURO光のホームゲートウェイ「HG8045Q」だと、5GHz帯の電波が途切れてしまう距離だ。

【計測データ】
上り下り
近距離916.9947.1
遠距離38.3456.03

※単位はMbps。iPerf3はパラメーター「-i1 -t10 -P10」で10回実施し、平均値を掲載

 特筆すべきは近距離下りで、実測950Mbps近い値が出ていることが多く、ほぼ有線側の限界値となっている。大容量ファイルのダウンロード時に、「有線の方が早いから面倒だけど接続しよう」といったことを考える必要はなくなる。

 遠距離でも接続が途切れることはほとんどなく、50Mbps前後ながら速度のばらつきも少ない状態で通信できていた。計測条件が筆者宅のワーストケースなので、実使用上は本機1台でも何とか家中まかなえないことはない。部屋がもう少し狭い間取りだったり、本機の設置位置を改善できるなら、特に問題なく使用できそうだ。

Wi-Fi・有線ともにゲーマー向け機能を搭載

 現状最速のWi-Fi 6があれば、Wi-Fi 6対応の最新スマートフォンで最高のネットワーク環境が得られ、ゲームプレイでも有利に働く。それだけでも十分なメリットと言えるが、加えて本機にはモバイルゲームの通信を優先する「モバイルゲームモード」が搭載されている。

 これは、スマートフォンアプリ「ASUS Router」を使うと、ワンタッチで切り替えできる。あくまで通信を優先させるためのものなので、非混雑時にパフォーマンスが上がるというものではないが、対戦ゲームやイベントなどで極力良好な通信状況を確保したい時などには安心できる要素と言える。

「ASUS Router」から設定できる「モバイルゲームモード」
機能をオンにすると、最優先設定との表示が出るとともに、通信状況の診断結果も出る(右上の値はパケットロスではなくPINGの偏差のよう)

 有線LANはWAN側・LAN側とも1000BASE-Tで、LAN側は4ポートとなっている。ハイエンド機だとLAN側が8ポートだったり、マルチギガなどより高速な規格に対応していたりもするので、ここも上位機種との差と言える。有線接続機器が4つ以下なら本機で問題ないし、不足すればハブを買い足すなど方法はあるので、それほど重要度は高くはない。

 本機で注目したいのは、有線LANにもゲーマー向けの機能を搭載している点だ。4ポートあるうちのLAN1のポートがゲーミングLANポートとなっており、他のLANポートに接続されたデバイスの通信よりも優先される。普段ゲームに使うパソコンやゲーム機をこのポートに接続しておくだけでいいので使い勝手もいい。

 このほか、ゲームやストリーミングなど特定の通信を優先する「Adaptive QoS」も搭載。パソコンやスマートフォンで予期せぬアップデートなどにより通信帯域が使われても、オンラインゲームの通信への影響を少なくできる。

Aura RGBによるLEDライティング

本体前面に搭載された「Aura RGB」によるLEDライティング

 本機でもう1つ特徴的な要素として、Aura RGBと呼ばれるLEDライティング機能が用意されている。本体前面部にLEDが仕込まれており、様々な色やパターンで光らせることができる。

 Aura RGBはASUS製のマザーボードやビデオカードなどの製品に搭載されるLEDライティング機能で、ゲーミング系の製品にもよく搭載されるデコレーション要素。パフォーマンスには影響しないため好みは分かれるが、Wi-Fiルーターも電波の通りを考えると目に見えるところに置きたいものなので、LED装飾好きの人に本機は数少ない選択肢の1つとなる。

 「ASUS Router」アプリでカスタマイズでき、光り方は7パターン用意されている。色も自由にカスタマイズ可能。なおAura RGBを無効にして、LEDを消灯させることも可能だ。

「ASUS Router」からLEDの光り方や色を設定できる
光り方は7パターン用意されており簡単に切り替えられる

1人暮らしのゲーマーに最強のWi-Fi環境を!

筐体のデザインもWi-Fiルーターとしては前衛的

 本機はWi-Fi 6対応で4804Mbps対応、それでいて2.4万円という安価なところが目を引く。そこは確かに大きな魅力ではあるが、2.4GHzが2ストリームだったり、有線LANが1000BASE-T止まりだったりと、機能を絞っている部分が多いことも理解しておきたい。

 では、デュアルバンドでも高速なWi-Fiが使えて安価な製品は、誰に求められるのか。1人暮らしなどで部屋がそれほど広くなく、ネットワーク機器の数も限られている環境でも、Wi-Fi 6の高いパフォーマンスは欲しい人、ということになる。

 ゲーマーは少しでもパフォーマンスを上げるため、あらゆるデバイスをハイエンドで揃えたいと願う。最新の高性能なスマートフォンやノートパソコンを手に入れたら、Wi-Fi 6で高速な通信環境を整えたくなる。しかしハイエンドのWi-Fiルーターは高価だし、特に1人暮らしの環境ではオーバースペックな部分があるのも確かだ。

 そこで本機は、有線・無線の両面でゲーミング機能を搭載。LEDライティングも採用し、明確にゲーマーを狙い撃ちにした製品に仕上げた。

 ……本機に触れると、開発者からのそういったメッセージが感じられる。ただ安くするだけでも、ラインナップを埋めるだけでもなく、製品企画としてターゲットが明確なのが本機のいいところだ。

 ハイエンドモデルに比べて仕様を落としてあると言っても、最新のWi-FiセキュリティであるWPA3にはしっかり対応しているし、USB端子に接続したストレージをSamba(ファイル共有)やFTPサーバーとして活用する機能もある。設定変更もスマートフォンアプリでできるのでわかりやすく手間もない。「自分が求める機能が揃っている」と感じるなら、安心して使える1台だ。

「ASUS Router」アプリの使い勝手の良さも特筆すべきところ。Adaptive QoSやポートフォワーディングの設定、システムのモニタリングなどもスマートフォンで完結する