レビュー
Wi-Fi 6で「もっと速いNAS」を実現、安くなった2.5G NASを活用してみた
ファイルコピーは2割高速に ~ASUSルーター+ASUSTOR NASレビュー~
2020年10月13日 10:00
動画や写真の高画質化に伴ってファイルやオンラインコンテンツの大容量化が進み、データをNASにバックアップしようにも、これまでなら高速だった“ギガビット”のLANですら、力不足を感じはじめてきた。
そこで登場したのが、“マルチギガビット”とも呼ばれる「2.5GbE」有線LANに対応するNASと、従来の数倍も高速な無線通信が可能な「Wi-Fi 6」だ。
これら新世代のネットワーク技術を採用した機器は高額な上、ほかの設備投資も必要で導入しにくいと思われがち。だが、手の届きやすいリーズナブルな価格帯の2.5GBASE-T対応製品も増えてきている。
2.5GbEには、ギガビットに対応するCAT5e以降の環境なら、既存のLANケーブルを交換不要でアップグレードできるメリットもある。Wi-Fi 6もPCやスマートフォンでの普及が進み、ギガビット超えの超高速通信が可能な環境は整いつつある。
例えば、ASUSのWi-Fi 6ルーター「RT-AX86U」は、2.5GBASE-Tに対応しながら実売価格は3万円ほど。この速度を生かせるASUSTORのNASキット「AS6602T(Lockerstor 2)」も、実売5万5000円程度で手に入る。これらを組み合わせると、家庭やSOHO、中小企業のLANをどの程度高速化できるのか確かめてみよう。
用意したもの1:ASUS 「RT-AX86U」Wi-Fi 6+2.5GbE LANの高速ルーター、最大4804Mbps
ASUSのWi-Fi 6対応ルーター「RT-AX86U」は、Wi-Fi 6接続時に最大4804Mbpsもの速度で通信できる。さらに2.5GBASE-T対応のLANポートを1つ備える。これであればWi-Fi経由でPCやスマートフォンからアクセスする場合に、高速なインターネット回線やNASなどの機器で2.5GBASE-Tの性能を存分に生かせるはずだ。
当然ながら、最大限に高速化したいならPCやスマートフォンもWi-Fi 6対応であることが求められる。が、非対応だからといって2.5GBASE-Tが宝の持ち腐れになるというわけではない。RT-AX86UはWi-Fi 5(11ac)接続時でも最大4333Mbpsで通信できるからだ。
複数デバイスの通信トラフィックを高速に並行処理するMU-MIMOや、複数台のルーターをメッシュネットワーク化して通信範囲をスマートに拡大できる「AiMesh」にも対応しており、利用するユーザー全員がWi-Fi 6対応でなくても、RT-AX86Uの高速性能の恩恵を十分に受けられるのである。
ただ、RT-AX86Uの高速な有線LANの性能を生かすには、2.5GBASE-Tに対応したNASが必要になる。
用意したもの2:ASUSTOR「AS6602T」2.5GBASE-Tを備えた格安NAS、M.2 SSD×2も使えて5万円台
そこで出番となるのが、ASUSTORの「AS6602T」だ。2ベイながら2.5GBASE-T対応ポートを2つ備え、高速なデータ転送をウリにしたNASだ。ギガビット対応のLANで標準的に使われているCAT5e以降のLANケーブルを使っているなら、そのまま流用するだけで最大2.5Gbpsの通信速度を実現できる手軽さが特徴だ。
2つのLANポートはリンクアグリゲーションにも対応するので、同様に対応するルーターやハブがあれば、通信速度は最大5Gbpsに達する。LAN×2はフォールトトレラントとして設定し、2.5Gbpsの通信速度でありながら冗長性を持たせた構成でも運用できる。高速さと安定性を兼ね備えた1台と言えるだろう。
ハードウェア面では、2GHzのクアッドコアCPUに4GBのDDR4メモリ(最大8GB)を搭載し、家庭やSOHO環境はもちろんのこと、チーム単位や中小企業規模の通信トラフィックであってもさばける余裕を持った設計。2つの3.5インチベイにはSATA接続のHDDやSSDを搭載でき、RAID 0/1などを構築可能だ。
最大容量は1ベイあたり18TB、2台では36TBと、NAS単体でも十分。データアクセスを高速化するキャッシュ用にM.2 NVMe SSDスロット×2も備え、複数人が同時に大量の動画データを扱うような業務でも、高いパフォーマンスを発揮できる。
2.5GbpsでPCは25%、スマホで14%ファイルコピーが短縮Wi-Fi 6でどこでも通信速度にバラつきなし!
では、2.5GBASE-TとWi-Fi 6でNASのアクセスは本当に高速化するのか、早速試してみよう。プライベートや業務での利用を想定し、今回はASUSのWi-Fi 6対応PCIeカード「PCE-AX58BT」(最大2402Mbps)を装着したデスクトップPCと、Wi-Fi 6対応スマートフォンを使ってデータ転送の速度を計測してみた。AS6602Tには2TBのNAS用HDDを2台、RAID 1でセットアップしている。
計測したのは木造2階建ての筆者の自宅。在宅勤務時のいろいろなシチュエーションをシミュレートし、「近接」「同フロア」「別フロア」の3パターンで試した。
「近接」はルーターとデバイス(PCのWi-Fiアンテナやスマートフォン)が近距離(1メートル以内)にある場合で、「同フロア」は同じフロアの少し離れた場所(見通せる4メートル程度の距離)にある場合、そして「別フロア」は2階天井付近に置いたルーターから1階の隅まで離した場合(間に床や壁を挟む7~8メートル程度の距離)とした。
PCでは、複数の動画ファイル計20GBをNASへ転送するのに要した時間を計測。スマートフォンではAS6602T上で写真・動画の管理を簡単にする「AiFoto 3」アプリを使用し、写真・動画合わせて4.4GB(144ファイル)のデータを転送するのに要した時間を測った。
さらに速度の違いが分かりやすいよう、「2.5GBASE-T+Wi-Fi 6」での検証に加えて、従来環境を想定した「1000BASE-T+Wi-Fi 5」でも、同様のテストを実施している。通信条件をできるだけ一定にするため、Wi-Fi 6とWi-Fi 5ともに5GHz帯を利用し、チャンネルは固定とした。
グラフからも分かる通り、どの場面でも「2.5GBASE-T+Wi-Fi 6」の方が高速(ファイル転送が短時間で完了)。さすがに実測で2.5倍速というわけにはいかないが、PCの場合は最大で1分(約25%)、スマートフォンでも23秒(約14%)短縮しており、特にスマートフォンではルーターに近づくほどその差は顕著になった。2.5GbpsとWi-Fi 6の恩恵は間違いなくあると言っていいだろう。
RT-AX86UはもともとWi-Fi 5の方もかなり高速なのと、業務での実使用を想定した安全性の高い(オーバーヘッドのある)RAID 1で構築していることなどから、それほど大きな差にはならなかった。これは見方を変えれば、Wi-Fi 5の環境でも快適にNASを利用できることを意味している。例えば、PCでのテスト結果を見ると、距離の違いで転送速度が左右されることがあまりなく、家のどこにいても同じように通信できるようだ。
つまり、そのときの気分に合わせて家の中の好きな場所で仕事をしても問題ないし、オフィスでも席により通信速度にバラつきが出るようなことも少ないから、全員が平等に高速にアクセスできることになる。
もし、仕事のパフォーマンスをアップさせたいなら、まずはNASとルーターというインフラ部分をアップグレードし、もう一段高速化を狙いたいときにデバイスもWi-Fi 6化する、といったように、段階的に導入していく選択肢もあるのではないだろうか。
NASは「単なるファイルサーバー」にあらず、多彩なアプリで使い方いろいろVPNサーバーで外から社内LAN、クラウド同期やスマホバックアップにも
ところで、AS6602Tは単純にファイルをバックアップするだけのNASではない。管理画面にある「App Central」からさまざまなアプリを追加することができ、NASの使い道を広げてくれるのだ。
ビジネス用途では、AS6602Tにインストールできる「VPN Server」アプリも活躍するだろう。VPNは、通常はセキュリティ上の問題でインターネットから直接アクセスできない社内のネットワークへアクセスできるようにするもの。社内にあるシステムを利用したり、特定のファイルサーバー上にあるデータを参照したりできるようになる。
VPN Serverアプリを使えば、AS6602T上でVPNサーバー(PPTP、OpenVPN、L2TP/IPsecに対応)が稼働し、比較的簡単にVPNを使える。
このとき、ルーター側でもポートフォワーディングの設定が必要になることを頭に入れておこう。もちろん今回組み合わせたRT-AX86Uもポートフォワーディングの設定が可能なので、問題なく利用可。一部のクラウドサービスが制限されている国から、普段と同じようにアクセスするのに、このVPNを活用するのもいい。
このほか、GoogleドライブやDropbox、OneDriveなどのクラウドストレージサービスと連携できる「DataSync Center」アプリや、プライベート用途では、スマートフォン内の写真・動画を一気にアップロードできる「Photo Gallery」アプリなどもおすすめできる。
2.5GBASE-T+Wi-Fi 6環境なら「とりあえずNASに保存」で十分快適テレワーク環境でのチーム内ファイル共有にも
2.5GBASE-T+Wi-Fi 6の環境をしばらく自宅で使い続けてみて実感したのは、NASの使いやすさが圧倒的に高まったこと。これまではデータアクセスのスムーズさの面からまずはローカルにファイルを保存しておいて、後でまとめて定期的にNASにバックアップする、というのがルーチンになっていた。それが日常的に「とりあえずNASに保存するか」という気持ちに変わってしまったのだ。
NASを利用するときに、今までどうしても頭にちらついていたボトルネック。ところが、データ転送速度が最大2.5Gbpsに引き上げられたおかげで、そんなボトルネック自体を意識することがなくなり、迷わずNASを指定してファイル管理するようになった。これは自宅などのテレワーク環境で使うときだけでなく、オフィスでも同じだろう。マルチギガビットとWi-Fi 6の広帯域が生きるのは、特にオフィスのような複数人が同時にアクセスする状況だからだ。
マルチギガビットの高速性能を手軽に手に入れられるのに加え、Wi-Fi 6対応ルーターのRT-AX86Uとの相性も抜群で、アプリで機能拡張までできてしまうAS6602T。自宅の基本的なバックアップからオフィスにおけるチーム単位のデータ管理まで、活躍する場面は数え切れないほどありそうだ。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)