レビュー
夢の「10GbE+オールフラッシュNAS」で4K動画編集……それはどれだけ快適なのか? ~導入編~
機材導入~速度計測まで
2020年10月27日 06:00
個人から企業まで幅広く活用されているNASだが、SSDの大容量化・低価格化に伴い、SSDのみで構成されたオールフラッシュ構成でも現実的な価格で導入できるようになってきた。また、10GbE(10Gigabit Ethernet)やWi-Fi 6など、有線や無線による高速LANの普及も、これを後押ししている。
こうした「オールフラッシュ構成のNAS」の活用は各所で進みつつあるが、1つの事例として興味深いのが“動画編集用”だ。
動画編集や雑誌誌面の編集を行う制作会社のワックスグラフィックスによると、動画編集の作業フローは「スタッフ各自が二重三重にバックアップしながら、その都度NASからローカルPCにコピーして作業する」という流れで、相当な時間を必要するので、ストレージの遅さが作業効率の悪化を招くという。そして、4K動画がさらに増えていく今後をにらみ、「さらなる高速化やデータ一元化による容量節約で、作業を効率化したい」と考えていたという。
【今回、AXELBOXを導入する環境】
事業内容:商業用動画の編集(4K含む)、雑誌の誌面デザイン・制作
現在の編集環境:iMac
現在のバックアップ環境:AirMac Time Capsule、USB外付けHDD
SSD NASの導入目的:コピー時間の短縮、バックアップデータの一元化
「オールフラッシュNASで4K動画編集」記事一覧
そこで今回、内部ストレージにSSDのみを採用したオールフラッシュ構成の高速NAS、AXELBOX「AXEL-673/12TB」を、動画編集業務で活用した事例を紹介してみたい。今回、実際に導入していただくのは、前述のワックスグラフィックス。
オールフラッシュ構成のNASを動画編集に活用しようとするとどうなるか? その実際や、そもそものオールフラッシュ構成NASの実力、また、気になるユーザーもいるだろうSSDの寿命の話などについて、導入事例から探っていきたい。
なお、今回は機材の導入編で、レポートとしては速度の測定まで。第2弾では、数カ月使用した上での利用感などを含めた活用編をお届けする予定だ。
導入企業:ワックスグラフィックス
AXELBOXの導入先となるワックスグラフィックスは、4Kサイズの動画を扱った動画の編集業務を手掛けるほか、オンライン配信イベントで収録されたものを再編集し、字幕の追加などを行った再配信用アーカイブ動画の制作も行っている。また、自作PC雑誌や自動車関連の業界誌のDTP誌面製作も手掛けている。
これまでデータのバックアップに用いていたのは、LAN接続の「AirMac Time Capsule」と、iMacに接続したUSB外付けHDD。そこで、高速なSSD NASを導入することで、「今回、コピー時間の短縮と、データ一元化で容量を節約し、作業を効率化したい」とのこと。
この導入をきっかけに10GbEの高速なLAN環境へ移行し、さらにテレワーク環境下でのリモートアクセスなど、業務変革を伴う新しい使い方のテストも実施してみたいとのこと。
近年の動画編集ソフトには、共同ビデオ編集機能を備え、NASなどの共有ストレージを活用した複数人による効率的な動画編集も行えるものもある。こうした機能も、動画編集にNASを活用する場合のポイントになりそうだ。
オールフラッシュ構成のNAS導入SSDの寿命に対する不安払拭がカギに
オールフラッシュ構成のNASであれば、ネットワークを介するとはいえ、SSD自体が備える強力なランダムアクセス性能を活かせる。HDDで構成されたNASとは比較にならない快適な環境が構築できることは、想像に難くない。
それどころか、快適な動画の共同編集の実現には、高速な共有ストレージの導入が必須の条件と言っていい。4Kや8Kなど、TBクラスのサイズの素材を扱うことが増えてきている動画編集では、実際に編集を行うPC自体の性能はもちろん、その素材を保存し、作業場所となるストレージの高速化は、避けて通れない課題だ。
このように、動画編集への活用が期待されているオールフラッシュ構成のNASだが、販売を手掛けるテックウインド株式会社によれば、問い合わせこそ増加しているものの、実際の導入にまではつながらないケースも現状では多いのだという。
HDDよりも容量単価が高いというコスト面の課題ももちろんあるが、要因の一つとして挙がっているのは「SSDに対する印象」なのだという。ご承知の通り、SSDはデータ書き込み回数に制限がある。つまり、理論上の寿命があり、「データを大量に書き込むほど、寿命が短くなる」という性質を持っている。
こうした知識が前提にあると、「では、大容量ファイルの読み書きをする用途に使って大丈夫なのだろうか?」と思ってしまうのも無理はない。
これについては、SSDの仕様として総書き込み容量を示す「TBW(TeraBytes Written)」という数値が設定され、少なくともその容量に達するまでは書き込めるし、AXELBOXが採用しているNAS向けSSD「WD Red」では、この値が特に高い。さらに、NAS側のOSには「SSDエキストラオーバープロビジョニング」という耐久性を高める機能も搭載され、これによっても信頼性が高まっている。
また、SSDの耐久性が最も消耗していくのは、実は「大容量ファイルの書き込み」ではなく、データベースなどの「細かいデータの大量な書き込み」であり、むしろ大容量ファイルの書き込みでは「書き込み容量」に比して「SSDの消耗」はさほどではない。
これらから考えると、「たとえ業務用途でも、並大抵の動画編集では、SSDの寿命が問題になるような状況にはならないはず」というのが筆者の考えだ。しかし、「実際にデータを見ないと不安」という人も多いだろう。
そこで本企画の次回掲載記事では、「使い勝手」だけでなく「寿命の消耗度」という観点でも検証したいと考えている。
10GBASE-Tでオールフラッシュの4ベイNAS「AXELBOX TS-473」WDのNAS向けSSD「WD Red SA500」を採用して高耐久性を実現
ワックスグラフィックスが今回導入したNASは、テックウインドが発売しているAXELBOXシリーズの「AXEL-673/12TB」。AXELBOXシリーズは、QNAP製のNAS「TX-x73」シリーズに、WesternDigitalのNAS向けSSD「WD Red SA500 NAS SATA SSD」と、もともとオプション扱いの10GBASE-T LANカードを組み込んだ製品だ。
4ベイの「TS-473」、6ベイの「TS-673」、8ベイの「TS-873」のベースモデル3種類ともに、CPUにはAMD RX-421ND(クアッドコア、2.1GHz)を採用している。搭載メモリは、4ベイモデルは8GB、8/6ベイモデルは16GBの構成だ。AXELBOXシリーズは、8/6/4ベイの各ベースモデルに「WD Red SA500 NAS SATA SSD」の4/2/1TBモデルを搭載した計9モデルをラインアップしている。
採用SSDのWD Red SA500 NAS SATA SSDは、通常のデスクトップPC向けSSDと比べて4倍の耐久性を実現していることに加え、AXELBOXシリーズでは、ストレージを当初からRAID 6構成とした上で、QNAPのNAS用OS「QTS」によって予備領域を「10%」とした「SSDエキストラオーバープロビジョニング」があらかじめ設定。これにより、信頼性と耐久性がさらに高められている。
このほか、最低限必要となる設定がすべて行われた状態で出荷されるため、簡単な初期設定を行うだけで導入できるという特長も備える。
ワックスグラフィックスが今回導入した「AXEL-673/12TB」は、2TBのSSDを6台搭載済みの実効容量約6.39TBのモデル。市場想定価格は59万9000円前後(税別)だ。テックウインドのテストによるAXELBOXシリーズの最大転送速度は、もっとも低価格なAXEL-473/4TBの場合で読み込みが1238.2MB/s、書き込みが691.3MB/sと、Serial ATA SSDの2倍以上の性能を実現している。
高速な共有ストレージの導入が共同ビデオ編集による効率化のキモ4K動画の増加で共有ストレージ高速化が喫緊の課題に
AXEL-673/12TBを導入したワックスグラフィックスは、映像の編集業務を中心にDTPなども手掛けている。同社によると、毎月のデータ書き込み量は、現状は多い月で「5TB」ほどとするが、最近では、4K動画の編集業務が増え、扱うデータの総容量は増加傾向にあるという。そこで課題となってきたのが、動画編集に利用するストレージ環境である。
同社のこれまでの作業環境は、LAN接続の「AirMac Time Capsule」をデータのバックアップ用途に共有しているほかには、各自が使用する3台のiMacそれぞれにUSB接続の外付けHDD(6TB、2TB、2TB)を接続するというものだった。
受け取った動画編集用の素材は、それぞれが自身の環境にバックアップを作成し、それを元に作業を行っていた。この環境では、素材を自身の環境にバックアップするだけでも相当な時間が必要になる。さらに、作業を進めていく上で、二重三重のバックアップを作成しながら動画編集を行うケースもあり、ストレージの遅さが作業効率の悪化を招くこともあったという。今後扱う機会が増えていく4K動画のことを考えると、ストレージ環境の高速化を行いたいと考えるのもうなずける。
また、ワックスグラフィックスでは、かねてより共同ビデオ編集に興味をもっていた。素材などを1カ所に集約し、作業を行う共同ビデオ編集を実現できれば、これまで個々で行っていた編集作業のさらなる効率化を図れるし、バックアップの作成も最小限に留めることができる。高速な共有ストレージの導入は、それを実現するためのキモといっていい。
加えて言えば、オールフラッシュで構成されたAXEL-673/12TBは、これを実現するためにうってつけのNASと言っても過言ではない。実際に同社では、AXEL-673/12TBを動画編集用の作業領域として使用することによる業務の効率化だけでなく、これを使用した共同ビデオ編集の実現に大きな期待を寄せている。
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でリモートワークも導入している同社では、社内ネットワーク環境だけでなく、VPN接続によるリモートワーク環境における共同ビデオ編集も実現してみたいとのことだ。
導入作業は想像よりも簡単!社内ネットワークも10Gbps化
ワックスグラフィックスが導入したAXEL-673/12TBの性能を最大限活かすには、10GbE対応のネットワーク環境が必要になる。このため、AXEL-673/12TBの導入に際して、ワックスグラフィックスでは既存の1GbEのネットワーク環境から10GbE対応のネットワーク環境への移行を行っている。
具体的には、既存のネットワーク環境に10GBASE-T対応のスイッチを設置。そのスイッチとAXEL-673/12TBや3台のiMacを接続して10GbEのネットワークを構築している。インターネット接続に使用するルーターに変更はないため、配線を少し変更する程度でネットワーク環境は移行できた。
なお、既存のiMacは10GbEに対応していない。このためiMacには、Thunderbolt 3対応の10GbEアダプターやUSB 3.2 Gen 1対応の5GBASE-Tアダプターを接続し、10GbEへの対応を行っている。
ネットワーク環境の移行が完了したら、次は、AXEL-673/12TBの初期設定を行う必要があるが、この作業も特に大きな問題もなくスムーズに行えた。AXEL-673/12TBは、最低限の初期設定が行われた状態で出荷されており、設定画面を表示するためのツールをあらかじめ準備しておき、設定画面をウェブブラウザーで開けば、画面の指示に従って操作をするだけで初期設定の作業は完了する。
注意点があるとすれば、設定画面を表示するためのツールを忘れずに準備しておくことぐらいだ。設定画面さえ開いてしまえば、続く作業はさほど難しくない。
10GbE環境で557MB/sの速度を発揮ローカル使用のSATA SSD並の速度を実現
AXEL-673/12TB導入後のファーストインプレッションだが、10GbE環境で使用したAXEL-673/12TBの速度を、macOS用のベンチマークソフト「AmorphousDiskMark」で計測したところ、最大読み出し速度が557.19MB/s、最大書き込み速度は480.61MB/sであった。この速度は、ローカル接続したSerial ATA SSDと、ほぼ同程度の速度である。
ネットワーク越しということもあり、さすがにランダム性能はローカル接続時ほど速くはないが、HDDと比較すると十分に高速と言えるだろう。
また、AXEL-673/12TBの速度を5GBASE-Tと1000BASE-Tの環境でも計測してみたところ、前者は最大読み出し速度が422.18MB/s、書き込み速度が391.54MB/s、後者はそれぞれ116.5MB/s、110.81MB/sであった。AXEL-673/12TBの性能を最大限活かすには、やはり少なくとも5GbE以上のネットワーク環境が必要で、理想はやはり10GbE環境ということになる。
ワックスグラフィックスによると、AXEL-673/12TBによると日常のバックアップに要する時間が短縮され、共有ストレージに対して行う作業が高速化されたという。その使用感は、上々のようだ。
次回は、AXEL-673/12TBを実際の業務に用いてどのぐらい業務効率が改善したかやSSDの耐久性、実際に運用を行ってみたときの課題などについてレポートしたい。
(協力:テックウインド株式会社)