清水理史の「イニシャルB」
4804Mbps無線も2.5Gbps有線も、テレワークもゲーミングもこれ1台のWi-Fi 6ルーター、ASUS「RT-AX86U」
上位モデルの「イイトコ」を集めた質実剛健スタンダード
2020年8月31日 06:00
ASUSから、Wi-Fi 6に対応したデュアルバンドWi-Fiルーター「RT-AX86U」が登場した。同社のラインアップの中では、特にゲーミングをうたわないベーシックな「RT-xxU」シリーズのミドルレンジ機だが、最大4804MbpsのWi-Fi 6や最大2.5Gbpsの有線LAN、実用性の高いゲーミング機能と、ほかのシリーズのいいとこ取りをしたお得なモデルだ。無線も有線も高速で、豊富な機能はビジネスにもゲームにも効く、そんな同製品を実際に使ってみた。
迷ったらコレのスタンダードシリーズ
現在のルーター市場のプレーヤーを見渡しても、ASUSほど多面的にプロダクトを展開している企業はない。
スタンダードな「RT-xxU」シリーズだけでも、ハイエンド、ミドルレンジ、ローエンドの製品展開があるが、これに加えて、ゲーミングブランドにも「ROG Rapture」「TUF」があり、さらにメッシュ対応の「ZenWiFi」や「Lyra」シリーズまでもが存在する。
通信機器にも、それだけユーザーごとに細かなニーズの違いがあるという考えなのだろうが、これだけラインアップが豊富だと、選ぶ側としては正直迷ってしまうこともある。
そんな中、新たにASUSから登場したのが、今回取り上げる「RT-AX86U」だ。「RT-[規格名][モデル番号]U」で構成される同社のスタンダードなシリーズの製品で、「IEEE 802.11“AX”(Wi-Fi 6)」対応の「86(デュアルバンドのミドルレンジ)」に相当するモデルとなっている。
スペックは次の通りだ。無線性能は、4ストリーム160MHz幅で最大4804Mbpsの5GHz帯と、3ストリーム40MHz幅で最大861Mbpsの2.4GHz帯のデュアルバンドとなっている。
RT-AX86U | |
実売価格(税別) | 2万7000円前後 |
CPU | クアッドコア、1.8GHz |
メモリ | 1GB |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 861Mbps |
最大速度(5GHz) | 4804Mbps |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch |
チャネル(5GH) | W52/W53/W56 |
ストリーム数 | 4(2.4GHzは3) |
アンテナ | 外付け3本、内蔵1本 |
WAN | 1000Mbps×1 |
LAN | 1000Mbps×4 |
2.5Gbps×1(WAN/LAN) | |
USB | USB 3.2 Gen1×2 |
動作モード | RT/AP/RP/MB/Mesh |
IPv6 | ○ |
WPA3 | ○ |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 242×100×325mm(アンテナ含む) |
最近は低価格なWi-Fi 6対応機も増えてきたが、ローエンドモデルでは5GHz帯の無線性能が2ストリーム80MHz幅で最大1201Mbps、もしくは2ストリーム160MHzで最大2402Mbpsである製品がほとんど。一方で本製品は、ハイエンドモデルに匹敵する4804Mbpsの速度を実現しているのがポイントだ。
しかも、有線LANもギガ超えを実現していて、背面には1Gbps対応のWAN×1とLAN×4に加え、2.5Gbps対応のWAN/LAN×1も搭載。10Gbpsクラスのインターネット回線や、2.5Gbps接続に対応するNASなどのネットワーク機器を接続可能だ。
型番では上位にあたる「RT-AX88U」と比べても、5GHz帯の無線性能は同等かつ、有線性能は今回の「RT-AX86U」が上と、先行してリリースされた上位モデルを部分的には凌ぐ性能を持っていることになる。
詳しくは後述するが、本製品では、同様に先行してリリースされたゲーミングモデルからゲーム向けの機能を取り込んでいたり、対応ルーター同士でメッシュ構成も可能な「AiMesh」に対応していたりと、既存モデルの「イイトコ」が、積極的に取り込まれている。
マザーボードなどのASUS製品を知るユーザーにとっては、「ROG」や「TUF」などのブランドが冠されたモデルに比べると一見地味な存在に見えるスタンダードなシリーズだが、実は、こうしたイイトコドリの良さが存在するわけだ。
つまり、豊富なASUSのラインアップで“迷ったらコレ”というのが、今回の「RT-AX86U」というわけだ。無線も有線も速く、ビジネスにもゲームにも効き、セキュリティ対策も、テレワーク環境の構築も、メッシュWi-Fiの構成もできる、そんな万能モデルに迫ってみよう。
4ストリームなのにアンテナが3本?
それでは、実機を見ていこう。
本体は、アンテナ込みで242×100×325mm(幅×奥行×高さ)のサイズとなっていて、コンパクトとは言えないまでも、設置の邪魔にならない、ちょうどいいサイズ感となっている。
本体下部にあしらわれた赤のアクセントと長めのアンテナから、それなりに目立つ存在ではあるが、デザインとしてはシンプルなのでリビングなどへの設置もさほど抵抗はないはずだ。
興味深いのはアンテナで、外付けは3本「しか」ない。
冒頭の紹介で、すでにお気付きの方もいるかもしれないが、本製品の5GHz帯は4ストリーム対応だ。4つの電波を使って同一空間で同一周波数の信号を同時に送受信するので、当然のことながらアンテナも4本必要になるが、1本見当たらない。
もう1本はどこにあるのかというと、実は本体内部に搭載されている。つまり、外付けの稼働式アンテナ3本+内蔵の固定アンテナ1本の合計4本となっている。同社製品には、ZenWiFiのようにアンテナ内蔵のモデルもあるので、その気になれば全て内蔵してしまうこともできるのだろうが、RT-AX86Uでは、サイズと性能のバランスを考慮してか、このような構成になったと考えられる。
現状、Wi-Fi 6に対応した子機は、スマートフォンやPCなど2ストリームまでに対応する製品がほとんどなので、外付けアンテナが3本でも十分に対応できる。実用性を考えると、実に合理的という印象だ。
各種インターフェースは背面に用意されており、USB 3.2 Gen1×2に加え、1Gbps×1のWAN、1Gbps×4のLAN、そして2.5Gbps対応のLAN/WANの各ポートが搭載されている。
10Gbps対応の回線やNASの登場で、1Gbpsを超える有線のニーズが高まっている。これを受けてミドルレンジの本製品でも、2.5Gbpsに対応したことになる。
このポートは、通常はLANとして動作するが、設定画面でインターネット接続用ポートを2.5Gbpsポートに切り替えることで、WANとしても利用できる。通常は複数台のアクセスが集中するNASなどを接続するのが適しているが、10Gbps対応のインターネット回線を契約しているなら、WANとして利用するのがいいだろう。
「テレワーク」や「ビデオ会議」への最適化も可能
セットアップは、もちろんPCからも可能だが、ASUS製品ではおなじみの「ASUS Router」アプリを使った方式となる。
出荷時状態では、暗号化なしのSSIDが設定されているため、これに接続した状態でアプリを起動すると、ウィザード形式でインターネット接続、Wi-FiのSSIDやパスワード、管理者パスワードなど、必要な設定を簡単に構成できる。
このアプリはなかなか多機能で、グラフィカルに現在のトラフィックを確認できる上、Wi-Fiルーターのほとんどの項目を手元から設定できる(一部の設定はPCが必要)。
ROGやTUFなどのゲーミングルーターから引き継いだ機能として、「モバイルゲームモード」も搭載されている。スマートフォンからワンタップでこのモードをオンにすると、ルーター側でQoSの設定がオンになり、オンにしたスマートフォンの優先度が自動的に「最高」に設定される。
これにより、スマートフォンは、PCやほかのスマホ、家電などよりも通信が優先的に処理されるようになり、ゲームなどでの遅延を抑えられる。
もちろん、用途はゲームだけに限らない。この機能では端末の優先度が上がるので、ゲームだけでなくZoomなどのビデオ会議の通信を優先させることもできる。テレワークなどで、ビデオ会議にスマートフォンを使う場合には、これをオンにしておけば、家族が同時にネットワークを使っている環境でも、映像や音声の品質を落とすことなく、ビデオ会議に臨める。
なお、本製品には、Adaptive QoSも搭載されているため、優先度を端末単位ではなくアプリ(通信)単位で設定することも可能だ。
そして注目なのは、Adaptive QoSの項目に「Learn-From-Home」や「Work-From-Home」が存在する点だ。従来は、「ゲーム」や「ブラウジング」などの大きなカテゴリでしか選択できなかったが、自宅でのオンライン学習や在宅勤務など、より具体的な用途に応じた選択が可能となっている。
QoSは、その機能がなかなか分かりにくく、効果が見えにくい場合が多いが、こうした具体的な用途を示して、ユーザーが使いやすい環境を用意している点は高く評価したい。
いいぞ!「Open NAT」
もう1つ、個人的に評価したいのは、「Open NAT」の機能だ。
これは、ゲームの対戦などで特定のポートを開放しなければならない場合でも、簡単にポートの開放/非開放を切り替えたり、ゲームごとに用意されたプロファイルを選ぶだけで必要なポートを自動的に設定できる機能だ。
同社製のゲーミングルーター「TUF-AX3000」で採用された機能だが、一般向けの本製品でも利用可能となっている。
筆者はあまりゲームに詳しくないので、どこまで最新のラインアップなのかは判断できないが、PC向けだけでなく、PlayStationシリーズのゲームタイトルも登録されており、どのゲームがどのポートを使うのかを詳しく調べなくても、ポートを開放できる。
そして、何よりすばらしいのは、この設定をPCのブラウザーから設定画面で簡単にオン/オフできることだ。
ポートの開放は、ともすると外部からの不正アクセスにつながる可能性があるためリスクも大きいが、本製品では、設定画面からワンクリックでポート開放をオンにしたり、オフにしたりできる。
このため、ゲームを始める前にオンにし、ゲームが終わったらオフにするというように、ポートの状態をコントロールできる。
従来のルーターでは、ポート番号や宛先PCを指定してリストに登録し、不要になったら削除、再び必要になったら再登録と言う操作が必要で、手軽にオン/オフできるようになっていなかったため古い設定が残りがちで、セキュリティホールになりやすかった。
欲を言えば、スマホのアプリから簡単にオン/オフできたり、スケジュール設定で自動的にオフにできればよりうれしいが、これだけでも大きな進歩と言える。
実力も十分
このほか、トレンドマイクロのセキュリティ機能「AiProtection」を搭載していたり、テレワーク用にVPNサーバー機能やUSBストレージの共有などもできるなど、盛りだくさんの機能を備えるが、全て紹介するとキリがないのでこのあたりにして、視点をパフォーマンスへ移そう。
以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にRT-AX86Uを設置し、1~3階の各ポイントでiPerf3による速度を計測した結果だ。今回は、本機の2.5GbpsポートをLANとして構成し、iPerf3サーバーとなるNASを接続している。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |||
5GHz | PC | 上り | 1210 | 525 | 299 | 97 |
下り | 1280 | 407 | 409 | 266 | ||
iPhone 11 | 上り | 625 | 300 | 156 | 43 | |
下り | 795 | 458 | 247 | 142 | ||
2.4GHz | PC | 上り | 121 | 102 | 103 | 65 |
下り | 199 | 168 | 167 | 91 | ||
iPhone 11 | 上り | 128 | 64 | 34 | 20 | |
下り | 148 | 120 | 108 | 61 |
※サーバー:Synology DS1517+、PC:Intel AX200搭載ノート
結果はかなり優秀で、1階の近距離では、上り下りとも1.2Gbpsと1Gbps超えを実現。2.5GbpsのLANの実力をまざまざと感じさせられる結果となった。
無線の性能も高く、2402Mbps接続可能なPCでは下りは、2階も3階も400Mbpsと非常に高速。最も遠い3階窓際でも250Mbps前後で通信できており、かなり優秀なパフォーマンスとなった。
ちなみに、本製品は2.4GHz帯が最大861Mbps対応と高速なので、念のため2.4Gbpsでの測定結果も掲載しておくが、こちらはあまり期待できない。
2.4GHz帯の861Mbpsは、3ストリームMIMO時の速度だが、現状、3ストリームに対応したクライアント(PCやスマートフォン)は存在しないため、実質的には576Mbpsでしか接続できない。そもそも2.4GHz帯は混雑が激しいため、その実力をフルに発揮できるシーンは都市圏ではまれだろう。
速度を気にしない機器のみ2.4GHz帯で接続し、PCやスマートフォンなどを5GHz帯で接続するというように、うまく使い分けるといいだろう。
迷ったらコレ
以上、ASUSのRT-AX86Uを実際に使ってみた。ミドルレンジモデルという位置付けながら、2.5Gbps LANやゲーミング機能など、上位モデルの機能もうまく採り入れられており、非常にバランスのいい製品と言える。
冒頭でも触れたように、ASUSのラインアップで“迷ったらコレ”というのがピッタリで、パーソナルユースでもビジネスユースでも使える万能選手といった印象だ。ローエンドモデルほど安い製品ではないが、それだけの価値を備えたお買い得モデルと言えるだろう。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)