レビュー
NASは「SSDと10GbE」で4倍速くなる! AXELBOXと10GbE、Wi-Fi 6で、テレワークの業務効率を改善してみた
2021年3月26日 06:00
Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応ルーターが普及価格帯となり、10GbEのネットワーク製品も手の届くところまできた。
長らく続いた1GbEとWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)の環境で「ネットワーク速度が業務のボトルネック」と感じていた人も少なくないと思うが、いよいよ、これを改善できるチャンスが来たわけだ。
そこで気になるのが10GbEに対応し、SSDを標準搭載した高速NASだ。
オフィスでのデータ交換の中心とも言えるNASを高速化すれば、業務効率は大きく向上するだろうし、中小企業や大企業のサテライトオフィスだけでなく、在宅勤務中の従業員の自宅でも、高速NASを導入するメリットは大きいはずだ。
そこで今回、テックウインド株式会社から発売されたSSD NAS「AXELBOX(アクセルボックス)」をお借りして検証。これまでの主流だった「HDD搭載NASと1GbE&Wi-Fi 5の組み合わせ」から、AXELBOXと10GbE&Wi-Fi 6の環境に移行することで、どれほど業務効率が向上するか、確かめてみることにした。
結果としては、単純な転送速度が最大4倍速と驚異の速度に高速化、そしてこれを生かして業務ルーチンを変更できるところにこぎ着けた。
詳しい検証は以下の通りだ。気になる方はぜひ参考にしてほしい。
SSD×6基、10GBASE-T×2ポート搭載の高速NAS「AXEL-673/12TB」
AXELBOXは、QNAP製のNASに高耐久のSSDを搭載し、拡張カードで2ポートの10GBASE-Tを増設した完成品のNASだ。これらのSSDやパーツはあらかじめ装着され、NASとしての初期設定も完了している状態で出荷されるため、設置後すぐに使い始められるのも特徴だ。
今回お借りした「AXEL-673/12TB」の市場想定価格は65万8900円(税込)。価格は「手頃」とは言えないが、後述するように、その性能はなかなか凄い。製品構成は、QNAPの6ベイNASキット「TS-673」に、2TBのSATA SSD「WD Red SA500」を6基フル搭載し、10GbEカードも内蔵、すぐ使い始められるようにセットアップ済みで出荷される、というものだ。
2TB×6ではあるが、RAID 6の冗長構成となっており、実効容量としてはおよそ6.39TB。業務データを長期にわたって蓄積していくというよりは、アクティブなプロジェクトのデータを頻繁にやり取りするような用途で活躍してくれるものになるだろう。過去のアーカイブデータについては別に用意した大容量のファイルサーバーで管理する、という使い分けが考えられそうだ。
1GbE&Wi-Fi 5から10GbE&Wi-Fi 6への移行だけでも最大40%以上の高速化をマーク!
SSD NASに期待されるのは、やはり速度。従来のHDD NASに比べてデータ転送速度がどれくらいアップするのか、というのは一番気になるところだ。
ちょうど筆者の既存環境も、1GbEのHDD NAS(8TB HDD×4)で、無線LANはWi-Fi 5。同じような環境のオフィスや自宅の読者も多いはずだ。これをSSD NASのAXELBOXに換えるとともに、ネットワークも10GbEとWi-Fi 6にアップデートするとどうなるのか、早速チェックしてみたい。
今回のテストでは、PCからNASに対して以下2つのパターンでデータを転送した。前者は、高解像度の写真や動画などのデータをやり取りすることを想定したもので、シーケンシャルなデータ転送のパフォーマンスが分かる。後者は、HTMLやプログラミングコードのような小さなデータが大量にある場合を想定したもので、ランダムアクセスのパフォーマンスが分かるはずだ。
- 約10GBの動画ファイル1点
- 計274MBのファイルおよそ1万点
まずは既存NASのまま、ネットワークだけをWi-Fi 6にアップデート(10GbEはNASが非対応のため省略)したときのデータ転送速度を計測し、従来環境と比較してみたのが以下のグラフだ。最大1GbpsのHDD NASのポテンシャルを何とかして引き出そう、という狙いだが……。
Wi-Fi 5(リンク速度866Mbps)とWi-Fi 6(同1201Mbps)の理論速度の差は約38%。動画ファイルの転送でも、この理論値の差に近い37%程度の高速化が図られている。こういったファイル転送のシチュエーションでは、Wi-Fi 5とWi-Fi 6とでは、実質的に理論値の違い以上の効果が得られる可能性がある、と言えるかもしれない。
もちろんWi-Fi 5でも1Gbpsを超える仕様の機器も存在する。しかしWi-Fi 6は、OFDMA(直交周波数分割多元接続)や、より高度なMU-MIMOなど、いくつかの技術的な進歩もあり、オフィスのように複数ユーザー(機器)が同時アクセスする環境だと、Wi-Fi 6がより高い性能を発揮しやすい。
そういったことも考えると、単純な数字では測れない「差」が実環境においてはより顕著になってくることもありえるだろう。
もう1つ注目したいのは、動画ファイル転送においてWi-Fi 6と1GbEの差がほとんどないところ。環境や機材の問題で、どうしても有線LANが引けないオフィスや自宅もあるだろうが、それでも従来の有線LAN並みの速度を得たいなら、Wi-Fi 6にするのはいいアイデアだ。
HDD搭載NASからSSD NASへの移行でデータ転送速度は4分の1に!驚異的な速度は業務ルーチンまで変える!
では、NASをAXELBOXに変えるとどうなるのだろうか。ネットワークを10GbE&Wi-Fi 6にした場合のデータ転送速度の計測結果を、先ほどのグラフに加えてみよう。
これを見ると、従来のWi-Fi 5環境であっても、NASをAXELBOXにすることで一定の速度アップが望めることが分かる。Wi-Fi 6と組み合わせた場合にも多少の改善が見られるため、将来的により高性能な(2402Mbps超などの)Wi-Fi 6子機にアップグレードしたときには、さらなる高速化が望めそうだ。
一方で1Gbpsの有線LANでは、AXELBOXでもパフォーマンスの伸びはほとんどない。ここがある意味1GbEの「限界」ということなのだろう。SSD NASであるAXELBOXの性能を引き出すためには、少なくとも将来的に子機側で拡張の余地があるWi-Fi 6にするか、10GB超のファイルをわずか22秒で転送し切る圧倒的な高速性能をもつ10GbEにするか(もしくは2.5GbE/5GbEなどのマルチギガビットにするか)の、どちらかしかない。
それにしても、22秒という10GbEの高速なデータ転送はさすがにインパクトがある。1GbEの実に4分の1となるこの速度は、ほとんどローカルストレージにアクセスしているかのよう。最大10GbpsのUSB 3.1 Gen2のストレージと同じ……とは言えないにしろ、USB 3.1 Gen1(5Gbps)くらいの体感速度はあるだろうか。
ちなみに筆者のNASの用途は、主に仕事データのバックアップだ。PCで作成するあらゆる仕事関連のデータは、USB 3.1 Gen2の外付けストレージ上で直接作成・編集し、定期的にNASのUSBポートに物理接続してバックアップしている。外付けストレージを使っているのは、外出時や万が一のときの可搬性を考えてのことだ。
本来ならネットワーク経由で手早くバックアップしたいところ。しかし、比較的ファイルサイズの大きな写真も多数含まれるため、最大1Gbpsのネットワークでは時間がかかることがある。実際は仕事部屋が常時有線LAN接続できるような環境ではなくWi-Fi接続だったりするので、さらに厳しい。毎回物理接続は面倒ではあるけれど、NASのUSB 3.0(5Gbps)ポートの速度は捨てがたいのだ。
ところがNASがAXELBOXになり、10Gbpsでデータ転送できる環境になれば、いちいちストレージを物理接続する手間は不要になる。QNAPのNAS向けには「NetBak Replicator」というWindows用のバックアップツールがあり、指定のローカルストレージからAXELBOXに自動バックアップするのも簡単だ。
もしくは差分でバックアップをとっていくことも、定期的に全体をバックアップすることも可能で、業務時間外の夜間に勝手にバックアップしておいてもらう、なんてこともOK。AXELBOX側にはTime Machineの機能があるので、macOSのバックアップも問題なし。AXELBOXの高速さは、個人レベルでも日々の業務ルーチンを改善してくれるのである。
WAN環境まで10Gbps化すれば、インターネット経由のデータ共有も高速に
ところでNASと言えば、LANの中でファイル管理に使う「自分(チーム)専用のストレージ」というイメージが強いかもしれない。しかし、AXELBOXは高機能なQNAP製のNASということもあり、インターネット経由の安全なアクセスも簡単に実現できる仕組みも実現している。つまり、外出先からAXELBOX内のファイルを参照したり、ほかの人とのファイルの受け渡しに使ったり、ということができるのだ。
ここで鍵となるのが「myQNAPcloud Link」という機能。ユーザー登録して「QNAP ID」を取得するだけで、DDNSによって固有のドメインを使えるようになり、インターネット経由でAXELBOXにアクセス可能になる。一般的な環境ならオフィス・自宅のネットワーク設定を変えることも、VPNのような難しいことも、考える必要はない。
myQNAPcloud Linkを使うと、「xxxx.myqnapcloud.com」のようなドメインを取得できる。以降はそのドメイン名を使って、PCやスマートフォンなどから直接管理画面にアクセスしたり、保存しているファイルやフォルダーを外部の人に共有したりできる。ファイル共有は、感覚的にはクラウドストレージを使うときとほぼ同じで、実に簡単だ。
パスワードなどによるアクセス制限や、共有リンクの有効期限設定が行えるなど、セキュリティに配慮しながらの利用もできるため、幅広いシチュエーションで活用できるだろう。オフィスのチーム内でのファイル共有が楽になるのはもちろん、在宅勤務でチームメンバーがバラバラの場所で働いている状況でも、容易にファイルを受け渡せる。
付け加えると、AXELBOXを設置している場所で5Gbpsや10Gbpsの高速なインターネット回線を利用していれば、そのスピードを最大限に発揮し、一般的なクラウドストレージよりはるかに高速なデータ転送を実現できる可能性もある。AXELBOXの性能を十二分に生かすために、LANに加えてWANも、できれば5Gbpsや10Gbpsにしておきたいところだ。
SSDの採用で、低消費電力・高耐久・静音動作をあわせて実現
NASにSSDを採用したAXELBOXのメリットはまだまだある。例えば消費電力だ。同じNAS向けの「WD Red」だと、2TB HDDの読み書き動作時は4.1W、アイドル時は2.7Wとなっている。対してSSDは、読み書き時こそ3~3.8Wと大きな違いはないものの、アイドル時(動作しているが読み書きしていないアクティブ状態)はたったの0.06W。
これがストレージの台数分にかかってくるので、6台構成の今回のAXELBOXだと単純計算でHDDが計16.2W、SSDが計0.36W。なんと、AXELBOXは1Wに満たない(AXELBOXの筐体自体も電力を消費するので、実際の使用時の消費電力とは異なる)。NASは基本的に24時間動かし続けるもの。一般的には、読み書きしている時間よりアイドル状態になっていることの方が多いはずで、使い続けるほど消費電力の差は、そのまま電気料金の差となって表れてくる。
もう1つは耐久性だ。SSDの使用可能時間は、なんとなくHDDより短いと思い込んでしまいがちだが、NAS用の高耐久なWD Redは、HDDのMTBFが100万時間であるのに対し、SSDは200万時間と2倍。さらに、「ビット読み取りあたりの回復不可能な読み取りエラー」、いわゆる「UBER」は、HDDが10の14乗分の1、SSDが10の17乗分の1と、故障率は段違いにSSDが低い。
もし一部のSSDが故障したとしても、初期設定が冗長性のあるRAID 6となっており、故障したストレージだけを交換すれば元通りになる。これはHDDでも同様だが、その際には再構築(同期)の処理が必要で、HDDだと丸1日、場合によっては数日かかることがある。しかし高速なSSDであれば、その処理時間も短縮できる。業務のスピードだけでなく継続性を高める意味でも、SSDにする意義は大きい。
また、個人的に明確にメリットとして感じられたポイントは、常に静音動作してくれること。オフィスだとサーバールームに設置することもあるので、HDDでもそこまで騒音が気になることはないかもしれないが、コンパクトな事務所や自宅に設置する場合は身近に置くことも考えられる。
HDDは、アクセス時のシーク音には振動も伴うので、不快とまではいかなくても耳障りではある。AXELBOXにはそれが一切ない(電子的な動作音はわずかに聞こえる)というのは、在宅勤務ユーザーにはとてもありがたい。
SSD NASなら、10GbEを生かした高速化に加え、あらゆる業務の効率改善を目指せる
業務内容によっては大容量データを毎日1カ所のNASに統合するような処理が必要かもしれず、そうした場面では、データ転送の速度がプロジェクトの進行や持続性に関わってくることもありそうだ。既存環境では一晩で終わらなかったデータコピーも、AXELBOXならSSDと10GbEの高速性能を生かし、極めて短時間で完了させられ、業務をスムーズに回していけるはず。
外部からのアクセスやクラウドストレージ風のファイル共有も簡単に実現でき、あらゆる業務で活躍することも間違いなし。SSDならではの省電力、高耐久、静音動作も、当然ながら魅力的だ。
AXELBOXには、SSDが4台構成の低価格なモデルから、より大容量のモデルまで幅広くラインアップしている。ぜひともネットワークのWi-Fi 6化もしくは10GbE化を行った上で、業務内容や予算に合ったモデルを選んでみてほしい。
(協力:テックウインド株式会社)