レビュー
「ルーター&中継機」VS「メッシュWi-Fi」、どっちが誰に向いているのか?
2021年10月28日 06:55
最新のWi-Fi 6ルーターも普及時期に入り、お買い得ミドルレンジモデルが花盛りという状況になってきた。その一方で、Wi-Fiルーターの電波エリアを広げる中継機やメッシュといった機器も、だいぶ導入しやすくなってきている。
そこで今回は「安価に導入するなら、どのような製品をどう選ぶか」をテーマに、製品選びを考えてみたい。
想定シナリオは「とにかく安いメッシュ環境」と「機能と速度を重視しつつ、メッシュの代わりに中継機を使う環境」の2つ。製品としては、中国深センを拠点とするネットワーク機器メーカーであり、圧倒的コスパの高さで世界的にも人気のTP-Linkから選んでみた。
「本体性能重視で中継機を使う」環境と、「とにかく安いメッシュ」を用意
TP-Linkは中継機ラインナップが豊富
スマホアプリ「Tether」で簡単に設定できる
USBポートのストレージや「HomeCare」も便利
速度差はほとんどないので、使い勝手で選択しよう
少人数ファミリーならAX20+中継機のOneMesh 単体性能重視ならAX50がおすすめ
「本体性能重視で中継機を使う」環境と、「とにかく安いメッシュ」を用意
今回のチョイスは、「メッシュではない中継機を使う環境」に「Archer AX50」と中継機「RE605X」の組み合わせと、「とにかく安いメッシュ環境」の「Archer AX20」と中継機「RE505X」の組み合わせの2つ。
カタチもスペックも、とても似通った組み合わせなので選択が難しいところ。AX50は5GHzで2402Mbpsと基本性能に優れているが、同社のメッシュ技術「OneMesh」に対応していない。これに対してAX20は5GHzで1201Mbpsに留まり価格が安いが、「OneMesh」には対応している。
Archer AX20 | Archer AX50 | Archer AX73 | |
実売価格※ | 7227円 | 8080円 | 1万2000円 |
CPU | クアッドコア | デュアルコア | トリプルコア |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← | ← |
バンド数 | 2 | ← | ← |
160MHz幅対応 | × | ○ | ← |
最大速度(2.4GHz帯) | 574Mbps | ← | ← |
最大速度(5GHz帯) | 1201Mbps | 2402Mbps | 4804Mbps |
チャネル(2.4GHz帯) | 1~13 | ← | ← |
チャネル(5GHz帯) | W52/W53/W56 | ← | ← |
DFS | ○ | ← | ← |
ストリーム数 | 4 | ← | 6 |
アンテナ | 外付け×4 | ← | 外付け×6 |
WPA3 | ○ | × | ○ |
IPv4 over IPv6(MAP-E) | ×(FWアップデートで対応予定) | × | ○ |
WAN | 1Gbps×1 | ← | ← |
LAN | 1Gbps×4 | ← | ← |
リンクアグリゲーション | × | ○ | ○ |
USB | USB 2.0×1(Time Machine、FTP、メディア、Samba) | USB 3.0×1(Time Machine、FTP、メディア) | USB 3.0×1(Time Machine、FTP、メディア、Samba) |
メッシュ(OneMesh) | ○ | × | ○ |
セキュリティ | × | HomeCare | HomeShield |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 260.2×135×38.6mm | 260.2×135×38.6mm | 272.5×147.2×49.2mm |
※Amazon.co.jp調べ
AX50とAX20については、単体ですでにレビュー済みだ。価格に関しては大きく変わっているが、それ以外の詳細な機能はこちらを参照して欲しい。
どちらの組み合わせも、ファミリー世帯の1LDKや一軒家2~3階建ての自宅Wi-Fiに最適な組み合わせだ。メッシュWi-Fi機能を用いた拡張であれば、中継機をさらに追加し、もっとエリアを広げることもできる。
TP-Linkは中継機ラインナップが豊富
中継機は、RE605Xの方が2.4GHz帯もWi-Fi 6に対応していて、わずかに速度が速い。RE505XはWi-Fi 6対応が5GHz帯のみとなる分1000円ほど安い。
それ以外のスペックはほとんど同じで、いずれも「OneMesh」に対応しているので、RE505Xの方が一見お買い得にも見えるが、デュアルバンド対応のルーターと中継機を組み合わせる場合、2.4GHz帯でも通信するので速い方が有利だ。
RE605X | RE505X | |
実売価格※ | 7992円 | 6222円 |
最大速度(2.4GHz帯) | 574Mbps | 300Mbps |
最大速度(5GHz帯) | 1201Mbps | ← |
アンテナ | 2 | ← |
メッシュ(OneMesh) | ○ | ← |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 74×46×124.8mm | 74×46×124.8mm |
※Amazon.co.jp調べ
なお、RE605Xは、上位機種である「Archer AX73」との組み合わせでもレビューを掲載している。予算を若干追加しても少し上の機能が欲しいなら、こちらの組み合わせがお勧めだ。さらにAX73より少しだけ速度を落とした「Archer AX4800」というモデルもあり、こちらもリーズナブルだ。
TP-Linkの中継機には、Wi-Fi 6対応のRE605XとRE505X以外にも、Wi-Fi 5対応モデルについても、4ストリームで最大1733Mbpsの「RE650」、3ストリームで最大1300Mbpsの「RE550」と「RE450」、2ストリームで最大867Mbpsの「RE330」、「RE305」、「RE300」などラインナップが豊富だ。
このうち、OneMeshに対応するのは、RE605XとRE505Xの他、RE550、RE450、RE300、RE305で、ルーターには最大4台まで接続できる。既存のWi-Fi 5のルーターでエリアを少し広げたい場合や、OneMeshではなく中継機としてルーターに追加する場合、接続先はTP-Link製に限らず、どのルーターとも組み合わせられる。
なお、TP-LinkのメッシュWi-Fi技術「OneMesh」は、対応ルーター同士は組み合わせられず、対応するルーターと中継機を組み合わせでのみ動作する点には注意したい。
そのため、少しスペックのいいルーターを選んだ方が快適に使えるだろう。また、あくまでもWi-Fiの電波エリア内に中継機を追加する方法となるので、バックホールを有線LANで接続することもできない。
スマホアプリ「Tether」で簡単に設定できる
Wi-FiルーターのAX50とAX20のインターネット回線への接続と、Wi-Fiのセットアップは、専用のスマホアプリ「Tether」を使い、画面に表示される手順に従っていけば完了する。
手順通りに実行すれば、電源投入>初期SSIDへの接続>ログイン用パスワード設定>Wi-FiのSSIDと暗号化キーの設定>設定後のSSIDへの接続の順で、スムーズに進められるようになっている。もちろんPCなどでウェブブラウザーを使って設定を行っても構わない。
なお、AX50をTetherアプリで設定したままの場合、iPhoneでWi-Fiに接続したときに「安全性の低いセキュリティ」と表示されてしまう[*1]。
可能なら、初期設定後にウェブブラウザーで設定画面にアクセスし、[詳細設定]タブにある[ワイヤレス]を5GHz帯、2.4GHz帯ともにデフォルト設定の「自動」から[WPA2-PSK(WPA3があるモデルではWPA3)]と[AES」へ切り替えれば、iPhoneで安全性が低いと表示されなくなる。なお、AX20ではデフォルトでAESが選択されているため、この問題は起きない。
[*1]……Wi-Fiの暗号化方式の設定でTKIPでの接続が可能なときに表示される。WPA2でAESのみ、もしくはWPA3に設定すると表示されなくなる
中継機の接続やメッシュの構築も、Tetherアプリから同じように行える。中継では個別のSSIDが設定され、OneMeshでは同一のSSIDになるという違いはあるが、手順自体はさほど変わらない。
USBポートのストレージや「HomeCare」も便利
付加機能を見ると、AX50とAX20ともに、USBポートにストレージを接続して共有する機能を備える。簡易的なものだが、メディアサーバー機能もあり、あればそれなりに便利だ。
共有するかはフォルダー単位で設定できるし、WindowsやMacだけでなく、iPhoneの「ファイル」アプリからも共有ファイルへアクセスできるので、自宅にLAN内で音楽や写真を共有するなど活用が可能だ。AX50の方は、USB 3.0に対応するので、よりアクセスが高速だ。
AX20にはなくAX50にあるのは「HomeCare」と呼ばれるトレンドマイクロの技術を使ったセキュリティ機能だ。
ページ閲覧、ダウンロード、ゲーム、ストリーミングといった通信の種類ごとに優先度を決めたり、端末ごとに優先させたりするQoS機能もある。さらに、接続の一時停止や時間制限、サイトブロック、コンテンツフィルターなども使える。これらの機能を無料で利用できるのは魅力的だ。
ちなみに上位機種のAX73やAX4800には、Aviraの技術を使った「HomeShield」というセキュリティ機能が付属する。
AX50は最新の暗号化方式「WPA3」には対応しておらず、NTT東西のフレッツ回線で使われるIPoE IPv6接続サービスにも未対応だ。このあたりの機能が必要なら、対応する上位機種を狙うようにしよう。
(11/1更新) 記事掲載当初、AX20のWPA3対応について、誤った記載がありました。AX20はWPA3に対応しております。お詫びして訂正させていただきます。
速度差はほとんどないので、使い勝手で選択しよう
では、この2つの環境で通信速度を比較してみよう。木造2階建て一軒家の1階に設置したAX50とAX20に、Wi-Fi 6接続できるiPhone 12を5GHz帯で接続し、iPerf3により速度を計測した。サーバー側のWindows PCは、Wi-Fiルーターの有線LANポートに接続している。OneMeshではSSIDが同一なので、接続先を設定画面で確認しながら計測している。
今回のスマホ接続で比べてみたところ、細かな数値の違いはあるものの、速度に差はほとんどなかった。使い勝手の面から、シームレスにつながるOneMeshの環境に軍配が上がる。さらに台数を増やせる点もメリットだろう。
AX50 | RE505X | エクステンダー | AX20 | RE605X | OneMesh接続 | |||
平均 | 最低 | 最高 | 平均 | 最低 | 最高 | |||
中継機不使用 | (A)ルーターと超近距離 | 下り | 698 | 624 | 724 | 725 | 553 | 781 |
上り | 546 | 441 | 678 | 487 | 407 | 553 | ||
中継機経由 | (B)ルーター遠距離 2F中継機から近距離 | 下り | 194 | 126 | 222 | 210 | 175 | 244 |
上り | 222 | 189 | 237 | 173 | 150 | 190 | ||
(C)ルーター遠距離 2F 中継機から遠距離 | 下り | 70 | 47 | 99 | 77 | 14 | 182 | |
上り | 41 | 27 | 56 | 66 | 33 | 89 | ||
中継機不使用 | (D)遠距離2F Bと同じ位置 | 下り | 288 | 190 | 369 | 258 | 199 | 334 |
上り | 199 | 160 | 286 | 144 | 91 | 186 | ||
(E)遠距離2F Cと同じ位置 | 下り | 84 | 38 | 115 | 42 | 2 | 129 | |
上り | 59 | 14 | 113 | 8 | 1 | 25 |
(A)Wi-Fiルーターとスマホで接続した本来の速度。ワンルームならこれだけで十分快適。AX50とAX20の速度は誤差程度
(B)中継機を使っていても快適な一方、直接ルーターにつないだ方が高速だったりもする距離
(C)エリア限界近くまで離れても快適な状態が続く。これがシームレスに続くのがメッシュ環境の真骨頂
(D)Wi-Fiルーター単体で離れた状態。一軒家だとよくあるシーンだ。下手をすると中継機経由より高速
(E)Wi-Fiルーター単体でかなり離れた。通信可能だが、動くと位置によって快適でなくなる。AX20はやや不安定
大きな差はないので細かな数値の違いを見る程度にとどめておくのがよいが、2つの環境で傾向をみると、今回のスマホ接続での速度差はほとんどない。1つの大きな部屋で、居場所がしょっちゅう変わる場合には、OneMeshの方がストレスなく自動的に切り替わっていくので使いやすいはずだ。
逆にエリアを少し(一部)拡張するだけであれば、AX50と中継機の組み合わせも悪くない。また、中継機を使わないAX50単体での接続(E)では、遠くても比較的安定していることが分かる。どちらにつながっているのかも明確なので、部屋間の移動が少なく、接続先の切り替えをいとわないなら、逆に使いやすいかもしれない。
少人数ファミリーならAX20+中継機のOneMesh単体性能重視ならAX50がおすすめ
端末の接続数が少なく(ファミリーの人数が少ない)シンプルにメッシュ環境を導入したければ、AX20はおすすめできる。最初からOneMeshを導入しておけば、電波エリア端でも安定した通信で快適に使えるだろう。
AX50は、メッシュで接続性を強化するよりも、ファイル共有を少しでも速くしたい場合や、セキュリティ機能・QoSを重視する場合に選択することになるだろう。こうした場合でも、安価な中継器でエリアを補強できるので、まずはAX50単体の性能を重視して導入し、後ほど拡張したければ中継機を追加する、というのがオススメだ。
もう少し予算を出せるなら、上で紹介したAX50の上位機種のAX73やAX4800のレビューも参考にしつつ、購買対象に入れてみるといいかもしれない。両モデルともOneMeshに対応している。ファミリー世帯では接続端末が多くなりがちなので、選択意義は十分にある。
とくにメッシュ環境では、中継機の分端末が増えるようなものなので、上位機種の方が快適になる。このあたりは、単純に1端末の速度計測だけでは分かりにくい部分だ。
今回は、普及モデルの選択肢がとても多いTP-Linkを例にしてみたが、うまく選べば余計な出費をせずに、自宅の環境にピッタリな機能をチョイスできるはずだ。ぜひストレスのない快適な自宅Wi-Fi環境を構築してみて欲しい。