清水理史の「イニシャルB」
1万2800円で買えるコスパ最強のWi-Fi 6対応ルーター登場! TP-Link「Archer AX50」
2019年11月11日 06:00
TP-Linkから、実売価格で1万2800円となるWi-Fi 6対応ルーターが登場した。Wi-Fi 6対応のiPhone 11など、スマートフォンメインの使い方に適した製品だ。同時に登場したPCI Express接続のWi-Fi 6対応アダプター「Archer TX3000E」も併せてテストしてみた。
買い時迫る実売1万2800円。
ようやく、通信機器マニアではない一般家庭ユーザーでも、無理なく買えるWi-Fi 6対応ルーターが登場した。
TP-Linkから発売された「Archer AX50」は、“Wi-Fi 6”の呼称で知られるIEEE 802.11axに対応したWi-Fiルーターだ。
Wi-Fi 6に対応したルーターは、NETGEARやASUS、国内メーカーではバッファローやエレコムからも発売されているが、いずれも価格が高価で、どちらかと言えばアーリーアダプターをターゲットとする尖った製品が多かった。
もちろん、NETGEARの「RAX40」やエレコム「WRC-X3000GS」など、スペックを抑えたエントリーモデルも一部にはラインアップされているが、それでも価格は2万円をわずかに下回る程度だった。
これに対して今回のArcher AX50は、1万円ちょっとという、1世代前のIEEE 802.11ac対応ルーターの上位モデルと同等の手ごろな価格で購入できる。
もちろん、ハイエンドモデルに比べ、無線のストリーム数(同一空間中に多重させる通信の数)が2ストリームに抑えられており、最大速度は2402Mbps(160MHz幅通信時)と、スペックは控えめだ。
しかしながら、現状、市場に存在するWi-Fi 6対応クライアントの最大速度は、PCで2402Mbps(2ストリーム、160MHz幅)、スマートフォン(iPhone 11やGalaxy S10など)で1200Mbps(2ストリーム、80MHz幅)となっており、一般的なクライアントを接続するには十分な性能を備えている。
もちろん、従来のIEEE 802.11ac/n/a/g/bにも対応しているため、家庭のWi-Fiを最新規格のWi-Fi 6へとアップグレードするには、全く不満はない。
Wi-Fiルーターの主要なベンダーでは、まだNECプラットフォームズがWi-Fi 6対応製品をリリースしていないので、その動向を見守る必要もあるが、おそらく現状のコスパ最強Wi-Fi 6製品は、このArcher AX50と言っていいだろう。
Intelプラットフォームを採用
現状、市販されているWi-Fi 6対応ルーターの中で、エントリーモデルとして販売されている製品は、先にも少し触れたNETGEARのRAX40、エレコムのWRC-X3000GSが存在するが、実はこれら3つの製品は親戚のような関係だ。
なぜなら、インテルが開発したWi-Fi 6対応チップセット(WAV654)をいずれも採用しており、基本的な無線スペックは共通となるからだ。
TP-Link Archer AX50 | エレコム WRC-X3000GS | NETGEAR Nighthawk AX4 RAX40 | |
実売価格 | 1万2800円 | 1万9778円 | 1万9170円 |
CPU | - | - | デュアルコア800MHz |
メモリ | - | - | 512MB |
Wi-Fiチップ | Intel WAV654 | ← | ← |
対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← | ← |
バンド数 | 2 | ← | ← |
最大速度(2.4GHz帯) | 574Mbps | 574Mbps | 600Mbps※1 |
最大速度(5GHz帯) | 2402Mbps | 2402Mbps | 2400Mbps |
チャネル(2.4GHz帯) | 1~13 | ← | ← |
チャネル(5GHz帯) | W52/W53/W56※2 | ← | ← |
ストリーム数 | 2 | ← | ← |
アンテナ | 外付け×4 | 内蔵 | 外付け×2 |
IPv6接続サービス対応 | × | DS-Lite、MAP-E | × |
WAN | 1000Mbps×1 | ← | ← |
LAN | 1000Mbps×4 | ← | ← |
USB | USB 3.0×1 | × | USB 3.0×1 |
動作モード | RT/BR | RT/AP | RT/AP |
※1 4ストリーム時 ※2 5GHz→100ch
とは言え、上の表を見ても分かる通り、細かな点には違いが存在する。
本製品で特徴的なのは、まずアンテナだ。外付けタイプが4本搭載され、角度などを自由に調整可能となっている。外付けと内蔵のどちらが有利なのかは、製品によっても違うので一概に言えないが、例えば筆者宅のように3階建ての住宅の1階に設置し、上の方向で集中的に使いたいといったケースで、アンテナを上に向けて調整できるなどのメリットがある。
一方、3製品を並べたときに欠点と言えるのは、エレコムのWRC-X3000GSが対応するIPv6サービスに、Archer AX50とNighthawk AX4 RAX40は対応できていない点かもしれない。TP-Linkは、一部の製品でMAP-EやDS-Liteへの対応を進めているが、本製品は現状、こうしたサービスには対応しない。今後に期待したいところだ。
このほか、ソフトウェア面では、「HomeCare」と呼ばれるセキュリティ機能に対応しているのが、他製品にない大きなメリットだ。トレンドマイクロのセキュリティ技術を利用したDPIによる悪意のあるサイトへのアクセス禁止や感染デバイスの隔離、保護者による制限などを実現する機能となっている。
PC上の感染ファイルなどを検出、除去できるわけではないので、PC側のセキュリティ対策と組み合わせて利用するのが基本だが、出入り口となるネットワークに1つの関門を設けることができる。
本稿での評価時点では、まだファームウェアが対応していなかったが、今後のアップデートによって利用可能になるだろう。
スマートフォンから初期セットアップ
最初のセットアップには、同社が提供するスマートフォン向けアプリ「Tether」を利用する。
Bluetooth対応の上位モデル(Archer AX6000やAX11000)は、アプリからBluetooth経由で近くのアクセスポイントを検出して初期設定することが可能だが、本製品はWi-Fiの接続までは手動で、アプリからはその後のインターネット接続や管理を実行する形態となる。
製品同梱の「Wi-Fi情報カード」に記載されたSSIDやパスワードを使って、スマホやタブレットからWi-Fiルーターに接続後、アプリを使ってインターネット接続などを構成する。初期設定で管理画面のパスワードやSSID、パスワードを変更することができるので、外部から不正アクセスされないような値に変更しておくといいだろう。
インターネット接続は自動検出だが、先に触れたように、国内で利用者が増えているMAP-EやDS-Liteを利用したIPv6接続サービスには対応していない。
ただし、IPv6自体には対応しており、標準では「パススルー(ブリッジ)」設定になっているため、上位で管理されているIPv6アドレスなどがクライアントにそのまま割り当てられる。IPv6のフィルターなどは、本製品ではなく、上位の通信機器で管理する必要がある。
設定関連では、このほかOpenVPNとPPTPによるVPNサーバー機能や、Alexaのスキルに対応する「スマートライフアシスタント」機能なども利用できる。エントリーモデルとしては、比較的、機能が充実した製品と言えるだろう。
実効で上り854Mbpsをマーク
気になるパフォーマンスだが、次の表の通りだ。いつものように木造3階建ての筆者宅の1階にArcher AX50を設置し、各階でiPerf3による速度を計測した。クライアントには、ノートPCとiPhone 11の両方を利用した。
なお、標準設定のままでは、ノートPCからのリンク速度が1.2Gbpsが上限となってしまったため、今回のテストではチャネル幅を手動で160MHzに設定して計測している。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
ThinkPad P1 | 上り | 854 | 372 | 249 | 135 |
下り | 754 | 491 | 364 | 148 | |
iPhone 11 | 上り | 565 | 265 | 103 | 62 |
下り | 723 | 337 | 170 | 110 |
結果はなかなか良好だ。ノートPCの場合は最大2404Mbpsでリンク可能なため、1階で最大854Mbpsと、iPerf3サーバーとして稼働させたNASとの接続に利用している有線LAN(1Gbps)の上限に近い速度で通信できている。最も遠い3階の端でも100Mbpsを超える速度なので、長距離でも比較的問題ない印象だ。
iPhone 11では、80MHz幅の最大1.2Gbpsでリンクするので、さすがに一回り速度が落ちるが、それでも近距離で最大723Mbps、3階の端でも下りは100Mbps越えを実現できている。エントリーモデルのWi-Fiルーターとしては、なかなか優秀な結果だ。
個人的には、過去にテストしたIntelチップ採用Wi-Fiルーターの結果が、特に長距離であまり好ましくなかったので、速度にはあまり期待していなかったのだが、本製品は外付け4本アンテナの効果が大きいためか、なかなか優秀な結果をマークしている。
これで1万円ちょいという価格なのだから、お得感は大きい。
ただし、残念な点もなくはない。まず、WPA3に対応していない。Windows 10もWPA3に対応したので、今後は、こちらが主流になるかと思われるが、本製品は現状はWPA2までの対応となっている。
また、前述のWPA3未対応も関係するかもしれないが、Wi-Fi 6対応ではあるもののWi-Fi Allianceの「Wi-Fi 6 CERTIFIED」の認証は取得していない。とは言え、今時のWi-Fi対応製品で、相互接続性が問題になることはほとんどないので、このことが製品自体の魅力を下げることには、あまりつながらないだろう。
デスクトップPCをWi-Fi 6化できる「Archer TX3000E」
続いて、同時期にリリースされたPCI Express接続のWi-Fi 6対応アダプター「Archer TX3000E」をテストしてみた。
同様の製品はいくつか市場に存在するが、本製品も基本的にはIntelのAX200チップを搭載した製品だ。2ストリーム、160MHz幅で最大2404Mbpsに対応した製品で、Bluetooth 5.0にも対応する。
Bluetooth 5.0を利用するには、付属のUSBケーブルでPCのUSB内部コネクターと接続する必要があるが、ドライバー自体はWindows 10で自動的にインストールされるため、手間なく利用できる。
速度的も不満のない印象で、近距離でのiPerf3による通信速度は最大で、下り844Mbps、上り847Mbpsであった。同一フロア内なら有線LAN並の速度で利用できるだろう。
起爆剤としての存在感は高い
以上、TP-Linkから登場したArcher AX50を試してみたが、スペック的にも、実効速度的にも、前評判通りのコスパの高さを実現できている製品と言えそうだ。
個人的には、AX11000など上位モデルの方が気になってしまうが、一般的な家庭で利用するのであれば、断然、AX50をオススメする。これで、MAP-EおよびDS-Liteに対応していれば文句ナシだが、現状は対応しないので、その点だけはマイナス評価としたいところだ。
とは言え、このスペックで、この価格を実現した製品が登場したことで、一気に市場が活性化する可能性がある。今後ほかのメーカーの価格戦略や製品戦略に、ますます注目したいところだ。