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住んで分かった福岡移住とリモートワーク環境、IT系移住者が感じた福岡の魅力とは

都心でも家賃が安く、コワーキングスペースも充実

 日本の中では福岡市が元気だ。そんな印象を持つ読者はいるだろう。人口は福岡市では150万人強、福岡都市圏では250万人強で、なお日本では数少ない人口が増え続ける見込みとなっている。

 人口が増えている背景には、九州の中心の都市だから九州中から人を集まるという点と、福岡市には他の地域の企業の支社や支店が多くある支店経済都市なので東京や大阪などからビジネスパーソンが赴任する点がある。他の支店経済都市と異なるのは、福岡市が国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)に指定されたこと、もともと福岡市が本社のレベルファイブのほか、LINEやMobike Japanが福岡に拠点を構えていることなどから、「他の地域となにか違って元気そうだ。福岡に移住しようかな」と思う読者もいるだろう。

 かくいう筆者も、外国にいることが多いが、日本では福岡に移住して6年目となる。筆者の経験と、他地域から福岡に拠点を変えてリモートワークをする人々の話を交え、福岡の生活環境とリモートワークについて紹介してきたい。

後述するコワーキングスペース「ヨカラボ天神」

東京や大阪へのアクセスの選択肢が豊富、福岡空港のほか、北九州空港や佐賀空港も活用可能

 福岡の魅力の1つは空港だ。博多駅から地下鉄で2駅という驚異的な近さの場所に福岡空港駅がある。福岡空港駅と直結しているのは国内線ターミナルで、国際線ターミナルは滑走路を挟んで反対側であり、福岡空港駅から連絡バスで10分ほどかかる。もっとも、福岡空港国際線ターミナルは地図で見てもらえれば分かるのだが、さらに市街地に近いので、バスで直接、博多駅に行く手段もあるし、急ぎであればタクシーに乗るという手もある。

 福岡空港からは、国内線では東京や大阪や那覇はもちろん、札幌や仙台や中部の都市など主要都市にフライトがある。LCCではジェットスターとピーチが運航しているので、東京(成田)や大阪(関西)への出張コストもそうかからない。

 国際線のフライトに関しては、韓国、中国、東南アジアの国々であれば主要都市には就航している。また、韓国の釜山に限れば、空路だけでなく船を使う手もあり、博多港から高速船で3時間ちょっとで釜山に着く。

 北九州空港や佐賀空港も、福岡との移動で利用できる。北九州空港については、スターフライヤーによる北九州発東京行のフライトが福岡発東京行よりも朝早くに就航。東京発北九州行のフライトが東京発福岡行よりも深夜遅くに就航し、かつ北九州空港と福岡を結ぶ乗り合いタクシーが運航しているので、東京に朝から夜までいることができる。また、佐賀空港については、LCCの春秋航空が東京(成田)や上海に就航している。ハイシーズンでなければ、成田や上海に片道1万円(往復2万円)以内で行ける。博多から佐賀までは、特急列車で実質片道1000円ちょっと(回数券使用時)、時間にして40分だ。

 もちろん、博多駅から東京や大阪への鉄道利用も可能だ。新幹線は東京までだとコストと時間がかかるが、大阪以西であれば利用する手もある。さらなる手段として深夜バスを利用するという手もあるが、バスで寝ることに慣れてない人や寝付けない人であれば、到着の午前中は休む時間に充てたほうがいいだろう。

福岡なら都心で家が借りられる、ワンルームで家賃5万円台

 住む場所は空港アクセスが便利なところを選びたいと思うだろう。近距離交通を見ると、JR九州と西日本鉄道(西鉄)と福岡市営地下鉄がある。このうち福岡市営地下鉄空港線は、福岡空港から福岡都心の中心となる博多と天神、飲食店の多い中洲(中洲川端)と赤坂、副都心であり文教地区でもある西新~藤崎などを結んでいるのでお勧めだ。

副都心「百道(西新)」エリア

 福岡市民の間では東方面の香椎や千早をはじめとしたJR沿線や、南方面の西鉄沿線やJR沿線も人気ではあるし、市内を網羅する西鉄バスを活用する住民は多くいるものの、空港アクセスとリモートワークの場を意識した福岡への移住を考えるなら、とりあえずは地下鉄空港線沿線がいい。家族同伴でなければ博多~赤坂間の都心エリアに家を借りると便利だ。コワーキングスペースもこのエリアに集中する。

 家賃は東京と比べればずっと安く、福岡都心に住むことは不思議ではない。電車が走っているからといって、無理に郊外に家を借りる必要はない。都心のワンルームで月の家賃が5万円台、地下鉄空港線の終点の姪浜やその隣の室見であれば、2万円台で容易に見つかる。姪浜や室見からでも天神まで20分とかからない。また、ファミリー向け物件でも10万円以下が大半だ。

 筆者自身が最初、郊外に家を借りたのだが、福岡人から「なんでそんなところに家を借りたのか」と怪訝な顔をされたことがある。地下鉄空港線でも終点の姪浜までは理解してくれるが、その先で乗り入れするJR筑肥線沿線に借りたり、西鉄やJRの特急停車駅の二日市以南だと、そうした反応をされるだろう。ただ、郊外は自然が豊富なのは福岡のいいところ。筆者は当初はJR筑肥線沿線に住んだので、仕事がオフのときには海山がすぐだ。休憩したいときは浜辺でまったりしたり、山登りをすることができた。

車で1時間もかからない「糸島」は福岡市民に人気の地域

小学校跡地の官民共働型スタートアップ支援施設など、コワーキングスペースも充実

 前述したようにコワーキングスペースは、地下鉄空港線の博多駅から赤坂駅の間に集中している。本誌でも紹介した、小学校の建物を活用した官民共働型のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」は天神駅と赤坂駅の中間に位置する(2017年2月24日付関連記事『福岡市が小学校跡地に官民共働型スタートアップ支援施設、さくらインターネットなどが共同運営』参照)。

「Fukuoka Growth Next」には、すでに多くの企業や店舗が入っている

 Fukuoka Growth Next内には無料で起業・創業の相談ができる「STARTUP CAFE」ほか、飲食店とDIY工房が入っている。STARTUP CAFEではコンセントとWi-Fiを完備しており、加えて常駐する起業コンシェルジュへの無料相談や弁護士への雇用労働相談が可能だ。また、外国人起業家が福岡で起業しやすいよう、スタートアップビザの申請受付や外国語での起業相談も可能となっている。セミナールームも併設しており、起業に関する無料セミナーを頻繁に行っている。

「STARTUP CAFE」

 STARTUP CAFEは静かで、コンセントがあるデスクを用意。ビジネス書籍も置かれていて、パソコンでのデスクワークをするには向いている。そのほか、コミュニティスペースとしてカフェチェーンの「ハニー珈琲」がFukuoka Growth Next内に入居している。

「STARTUP CAFE」

 さらにレーザーカッターやカッティングマシン、3Dプリンターなどをそろえた「GOODAY FAB DAIMYO」というDIY工房も入っている。ちなみに「DAIMYO」とは、この建物が立地する地名「大名」のこと。大名は福岡ではオシャレな繁華街として人気の地域だ。施設内にはSTARTUP CAFEとは別にオフィス用コワーキングスペースがあり、入居申請を行い、契約したのちに利用可能となる。

「Fukuoka Growth Next」ではさまざまなイベントが実施される

 Fukuoka Growth Next以外にもコワーキングスペースが何軒かある。例えば、天神駅と赤坂駅の間にある「ヨカラボ天神」では、コンセントとWi-Fiを完備し、さまざまな机のオープン席を用意。一部PC周辺機器がレンタルでき、ジュース類も飲み放題となっている。ヨカラボはその場で会員登録することで時間制ないし1日1500円で利用可能だ。また、ヨカラボ天神は、別館として「レンタルスペースヨカラボ」があり、イベントを開催することができる。

「ヨカラボ天神」

 このほか、博多~天神間にはネットカフェが何軒かあるほか、福岡の中心繁華街の天神にあり、天神駅直結の「天神地下街」ではWi-Fiを完備。天神地下街にはカフェが何軒もあり、ここでちょっとノートPCを広げて作業するということもできる。

IT系移住者に聞く福岡の魅力「海行って山行って、帰りにヨドバシまで1日で」

 ビジネス拠点としての福岡の魅力は何だろうか。「家賃が安い」「食が美味しい」「街がコンパクト」というのは誰もが言うところ。筆者自身もまさにそれは思うところで、スーパーや居酒屋などで新鮮な肉や魚が購入できることや、日本国内外に気軽に行ける空港のアクセスには満足している。筆者の福岡拠点は、地下鉄駅から徒歩10分、14畳ワンルームで家賃は月2万5000円弱である。仕事のために月1度、片道1万円・往復2万円で東京に往復したとしても(東京に寝床があれば)月5万円で済んでしまうわけだ。

 実際のところ、実家のある東京に行くのが実際の距離とは異なり心理的に近く、また、中国やアジア諸国にもさくっと行けている。海を挟んだ韓国の釜山へは安価なツアーが常時あるが、筆者が経験したものでは、特価ではあるがフェリー利用でホテル1泊付で3980円というツアーを利用したことがあった。

福岡といえば屋台

 他地域から移住した人に話を聞くと、ほかにも福岡の魅力について意見が出てきた。

 編集プロダクションの外村克也氏は、「福岡の魅力は余計な情報に惑わされない点ですね。東京いるときは金の話ばっかりでしたから」「東京は遊びも多いですね。あと、適度にモノがないので、過剰な物欲はなくなります」と、誘惑を断ち切って黙々と仕事できる点がよいのではないかと自身を振り返る。「適度にモノがない」というのを補足すると、例えば「Raspberry Piに付ける電子工作部品を売っている店が秋葉原に比べて福岡では少ない」というレベルだ。家電1つとってもヨドバシカメラとビックカメラ、さらに地場のベスト電器があり、チェーン店でそろうものについては困ることはない。一方でコンパクトで自然が近いことから「海行って山行って、帰りにヨドバシに行くまでのコースを1日で行けるコンパクトさが魅力」とも語った。

 日本と中国でソフトウェア会社の社長を務める三宅雅文氏は、福岡を拠点の1つに、日本各地のクライアントや、中国東北地方の大連の開発拠点を行き来している。「グローカル(グローバル+ローカル)」をビジネスポリシーとする三宅氏は「福岡が元気なのはアジアの国々に近いからこそ。東京と上海・台北・ソウルなどのアジアの主要都市を並列で見られるという地政学的魅力があり、インバウンド/アウトバウンド双方のハードルが比較的低い。アジアに出やすいだけではなく、アジアの人々を呼んできて消費する場にできる可能性を持っている。日本のローカルとアジア(世界)のローカルを直接つなぐ――これを実現するに最適なのが福岡でしょう」と語った。

三宅雅文氏。博多駅にて

 「住めば都」とは言うが、特に福岡はリモートワークに適している。例えば東京であれば、都心エリアに住むと会議や買い物には困らないが、生活費が高く、自然からは遠い。かといって山手線沿線から電車で30分以上かかる地域は、家賃も自然も中途半端だ。都心に居ながらにして、自然豊かなところに行くのもすぐで、かつ日本の他都市やアジア各の国の都市へもすぐに行けるというのは強い。また、東京や大阪と比べて人が少なく、ギスギスしてない点も魅力だと筆者は思う。

 また、東京の特徴として、住むエリアによって住民がクラスタ分けされるが、地方の福岡は良くも悪くもそれがない。まんべんなくさまざまな人がいて、学校も公立学校が十分強いという地方の強みを福岡は持つ。個人でも家族でも魅力な土地と言えよう。