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税務調査は個人事業主の所にもやって来る! 税務署から電話が来てから追徴課税を納めるまで

実録:ある個人事業主の「初めての税務調査」体験記

更新 2018年7月23日 12:00
初出日時 2018年3月23日 06:00

着信画面に「昭和税務署」……ビビった

 昨年夏、スマホの着信表示を見て驚き、スマホを落としそうになったことがあった。画面には「昭和税務署」と表示されていた。起業して11年。人生初の“税務調査”の事前通知だ。法人はともかく、個人事業主で税務調査を受けた人から話を聞く機会は滅多にない。今回は筆者の税務調査体験記をお届けしよう。

 フリーランス、自営業の人達は確定申告を済ませてホッとしているころだと思う。前回の「税金の雑談」では、国税庁が公表しているデータから「へぇ~」「ふーん」「それで」という、さして役に立たない雑談ネタを紹介した。税務調査ネタも無縁の人が多いと思われるので、読み物として気楽にお付き合いいただきたい。


税務調査の予兆は○○の遅れ?

 税務署から突然の電話があったのは昨年7月6日。過去11年で税務署から電話があったのは2回ほど。1回目は大学生の息子のバイト代が103万円を超えていることを知らず、確定申告後に63万円の控除が取り消されたとき。2回目は売り上げが1000万円を超え、消費税の課税方式の申請に関する確認の電話だ。そもそも税務署の電話番号をスマホに登録したことを忘れていたので、着信表示を見た瞬間はかなりビビった。

[加筆 2018年7月23日]

 実はこれには伏線があった。3月に確定申告を済ませ、従来は4月に所得税の還付が振り込まれて終了となる。今回は人生初の消費税の還付申告をしたので、所得税の還付金と消費税の還付金がまとめて振り込まれると思っていた。振り込まれたのは所得税の分だけ。このときは「別々に振り込まれるんだ」くらいに思っていた。

 5月になっても消費税の還付金は振り込まれない。ネットで検索しても、所得税の還付に対し、消費税の還付が大きく遅れるという情報は見あたらない。5月末になっても税務署からの入金はなかった。このころからもしかして……と疑念を感じていた。筆者は消費税の還付が遅れてる理由を4つを考えた。

  1. 税務調査が行われている
  2. 初めての消費税本則課税、消費税還付申告で間違いがあった
  3. 前年まで消費税の申告をしていないので、税務署で処理が漏れている
  4. たまたま税務署が忙しく遅れている

 筆者の中では、1の税務調査が8割くらい。2~4は無理矢理こじつけた理由だ。

 6月になっても入金なし。6月中旬、以前勤めていた名古屋のPC周辺機器メーカーの株主総会に参加したついでに昭和税務署を訪れた。消費税の還付金が振り込まれない旨を伝え、さすがに「税務調査してますか?」とは聞けなかったので、先の2~4を伝えて様子を聞いてみた。若くて感じのよい署員が対応してくれて、「もうすぐ振り込まれると思います」とのことだった。

滅多に訪れない税務署なのでスマホで撮影しておいた。まさか記事でこの写真を使う日が来るとは
6月28日にシヨウワゼイムシヨから入金があった

 6月28日、昭和税務署から入金があり、消費税の還付金が戻ってきた。お金が入金されたことよりも、税務調査の心配がなくなった気がしてホッと一安心した。5月下旬から1カ月ほどモヤモヤしていたが、税務調査の文字が頭の中から消えかかっていた……が、それから1週間後に着信画面に「昭和税務署」の文字。恐怖映画の定番で、長い恐怖シーンを切り抜けホッとしたあと、一瞬の静寂の直後に背後から襲われた感じだ。もし還付金の振り込みが遅れたときは、税務調査が水面下で進んでいることを疑った方がよいかもしれない。

 電話で翌週に過去3年分の申告に関する税務調査を行いたいと言われたが、筆者が少々パニック状態だったのと、カレンダーが見られなかったので、日程を確認してから折り返すこととした。

 このとき筆者の頭の中には映画「マルサの女」のテーマ曲が流れていた。ちなみに「マルサの女」は1987年に公開され、日本アカデミー賞の最優秀作品賞など主要部門賞を独占した映画で、国税局査察部(通称マルサ)の女性査察官がラブホテル経営者の脱税を追う姿を描いた故・伊丹十三監督の作品。個人的には日本映画史に残る傑作だと思っている。年配の読者なら、多くの人が作品やテーマ曲を記憶しているだろう。

 いったん電話を切りカレンダーとにらめっこ。そもそも税務調査で何をするのか、事前に何を準備するのかが分かっていないので、1日でも先延ばしをしようと翌週の金曜日、7月14日にした。待ち遠しくもなく、戦闘の準備はできていないが「決戦は金曜日」だ。


税務調査が来る確率は、○○人に1人

 多くの個人事業主は「大して稼いでないから税務調査は来ないでしょ」と思っているだろう。筆者もその1人だった。自分には関係ない、自分のところに税務調査など来ない、と思いつつ「来たらどうしよう」「申告内容は正しいのか」「あの領収書は経費として認められるのか」など、何となく不安を感じている人も多いと思われる。

[加筆 2018年7月23日]

 随分昔に、知り合いの著名ライターさんが税務調査で追加の税金を取られたと言っていた。聞くと売り上げは1800万円。原稿料でその金額はすごいなあと思いつつ、起業直後だった筆者はそんなに稼ぐことはないから大丈夫と感じていた。筆者が個人事業主で税務調査を受けたと聞いたのはこの1件だけだった。

 売り上げ2000万円以下なら税務調査は来ない、など世間話として聞いたことはあるが実際はよく分からない。想像すると東京23区内のように、人が多くてお金持ちが多そうな地域を管轄する税務署と、人が少なく所得水準が低めの地域では、税務調査のしきい値も異なりそうだ。

 東京23区では所得2000万円でも税務署にはヘッて感じだが、地方都市では所得1000万円でも目を付けられるかもしれない。具体的な売り上げ、所得、課税所得の金額は分からないが、ある程度以上の稼ぎがあると対象になるのだろう。

 税務調査の実績を調べてみた。「平成28事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」を見ると、所得税の調査件数は7万238件。申告漏れ所得金額の総額は5359億円。追徴税額の総額は819億円。1件当たりの申告漏れ所得金額は763万円と、多くの調査対象者は大金持ちと言えそうだ。

 分母となる数字も探してみよう。「国税庁レポート2017」(PDF)と「平成28年分 申告所得税標本調査」(PDF)によると、平成28年分の就業者数は6440万人。申告納税者は638万人となっている。

 サラリーマンで年末調整をして源泉徴収で納税が完結している人や、医療費等の還付申告だけの人はこの638万人に含まれていない。サラリーマンでも副収入があり確定申告をしている人は含まれている。638万人の所得ごとの人数は、以下の表のようになっている。

所得区分人数
事業所得者173万5000人
不動産所得者110万1000人
給与所得者246万2000人
雑所得者77万1000人
その他30万7000人

 サラリーマンでも副業の部分の税務調査を受ける可能性はあるので、それを含めた638万人を分母とすると

  7万238/638万=1.1%

100人に1人。平たくすべての申告納税者を調査すると100年に1回となる。現実的には所得が少ない人より多い人の方が調査を受ける可能性は高い。また、現金取引をする業態は売り上げを隠しやすいため調査対象となりやすい。すべての売り上げが銀行振込の場合は売り上げを隠すことは難しいが、現金手渡しで売り上げを受け取れば、その一部を事業口座に入金しなければ売り上げを少なく見せることができる。映画やドラマで隠し金庫に現金を置いたり、地面に埋めたり、偽名の隠し口座を用意するのはそのためだ。

 よって、原稿料のように源泉徴収されて口座に振り込まれ、年間の原稿料が数百万円であれば、常識外れの経費計上をしない限り税務調査が来る可能性は低いと思われる。


なぜ、税務調査が来たのか?

 ではなぜ筆者のところに税務調査が来たのか。実際に税務調査が実施され、調査の対象は海外企業との免税取引ということが分かった。いきなり免税取引と聞いても意味不明だと思うので、まず筆者の仕事内容を大きく4つに分けて紹介しておこう。

 1つは、こうして原稿を執筆するライター業。税金に関する原稿以外にもモータースポーツ関係の記事も執筆しているし、過去にはデジカメ、オーディオ、家電、雑貨などさまざまな記事を書いている。

 2つ目は撮影業。主にモータースポーツ関係の撮影で、F1MotoGPSUPER GTなどを報道カメラマンとして撮影している。

モータースポーツの撮影も筆者の仕事の1つ
東京マラソンは先頭グループの前を走るカメラ車から撮影

 最近は富士山女子駅伝や設楽雄太選手が1億円を獲得して話題となった東京マラソンもオフィシャルカメラマンとして撮影した。ライター業と撮影業は表から見える仕事だ。

 3つ目は広報業。メーカーの新製品などをニュース記事として掲載してもらったり、製品レビューを執筆してもらう仕事で、表からは見えない裏方仕事だ。1990年代にパソコン周辺機器メーカーの広報を担当したのがスタートで、起業したときのメインの仕事はこの広報業だ。

 4つ目は広告代理店業。長年避けてきた仕事だが、数年前から断り切れなくなり、広報をお手伝いする企業などが広告を出稿するときに、広告代理店の役割もしてきた。他の3つの仕事と異なるのは、仕入が発生すること。広告のマージンを10~20%とすると、100万円の広告でマージンが15%ならクライアントから100万円の入金があり、雑誌社に85万円を支払うことになる。ときに数百万円が右から左へ動くので、年に何台も車を売り買いしているようで、1人経営の個人事業主としては避けたかった仕事だ。

 加えて広告は見かけ上の売り上げが増加する。原稿料3万円の記事を5本書くと売り上げは15万円。100万円の広告の利益は15万円だが売り上げは100万円となる。単純に換算すると、ライター業の売り上げ300万円と広告代理店の売り上げ2000万円は同じということだ。売り上げが1000万円以下なら消費税の免税事業者となるが、超えると課税事業者となるため税負担は増える。

 最初の電話で「いろいろなお仕事をされてますね」と言われたので、筆者が複数の仕事をしていることを税務署は調べ済み。社交辞令で「税金の記事、分かりやすかったです」と言っていたので過去記事も読んだらしい。何年も更新していないアイピーアール(筆者の屋号)のホームページを見たのか、SNSをチェックしたのかは不明だが、尾行されているような怖さを感じた。

 結果として4つの仕事で調査対象となったのは、広告代理店業に関する部分だった。見かけ上だが売り上げが倍以上になった。さらに海外企業の広報と広告を担当したため、消費税の還付申告が発生した。推測だが、税務署は「こいつ売り上げが倍増しているし、消費税を還付しろって申告しているから、チョット調べてみるか」といった流れで税務調査が始まったと思われる。

 ちなみに筆者は自宅マンションが名古屋市内にあり(住民票も)、5年前から川崎市内の小田急線沿線にオフィス兼住居を借りている。税務署の人は名古屋から川崎まで来て調査を行うので、通常より時間や経費がかかる。よほど怪しく思えたのだろう。


消費税の還付申告とは

 消費税の免税事業者、課税事業者、免税取引など、なじみのない言葉を説明しておこう。必要ない人はこの部分は読み飛ばしていただきたい。まず消費税の徴収の仕組みから。本体1万円のものを消費者が購入すると税込で1万800円を支払う。仮にメーカーは販売店に本体価格8000円で卸していたら、販売店は消費者から受け取った800円の消費税からメーカーに支払った640円の消費税を引いて160円を納税する。メーカーは販売店から受け取った640円を納税する。納税額の合計は800円となる。これが基本。

消費税の納税イメージ

 実際はもっと複雑で、販売店は店舗の水道光熱費、運送費などさまざまな経費で消費税を支払っている。なので、売り上げに乗せて受け取った消費税から仕入、経費で支払った消費税を引いたものが納税額となる。メーカーも販売価格に乗せて受け取った消費税から、部材の仕入や経費の消費税分を差し引いて納税をする。

 1万800円、216円などの消費税分は簡単に計算できるが、税込1万円の消費税分は?と聞かれると即答は難しい。数千件の入出金の1つ1つの消費税分を、パソコンがなかった時代に計算するのは大変な作業だったと思われる。そこで売り上げの少ない事業者は消費税は納税しなくてよいことになった。これが免税事業者で、2年前(2期前)の売り上げが1000万円以下であれば取引先から受け取った消費税を納税しなくてよい。ただし、仕入や経費には消費税が乗っているので、売り上げ×8%がまるまる残るわけではない。

 売り上げが1000万円を超えると2年後は課税事業者となる。その売り上げが5000万以下なら簡易課税と本則課税が選択できる。簡易課税はどんぶり勘定で納税額を決める方式。業種ごとのみなし仕入率を差し引いて計算するので、1つ1つの取引金額から消費税分を算出する必要がなく事務作業が軽減できる。本則課税は1つ1つの取引金額から受け取った消費税、支払った消費税を算出する方法で事務負担が大きくなる。

 取引先が海外の企業の場合は免税取引となる。仮に出版社から広告費として80万円+消費税6万4000円を請求され、海外の企業に100万円で売っても消費税分の8万円を受け取ることはできない。出版社に対して支払った6万4000円の消費税は確定申告により還付される仕組みだ。

免税取引と還付のイメージ

 これも実務的には原稿料や国内のクライアントから受け取った消費税分を合算し、さまざまな経費に乗っている消費税と仕入に乗っている消費税を合算し、受け取った消費税より支払った消費税が多ければ還付となる。どんぶり勘定では免税取引分が算出できないので簡易課税では還付を受けることはできない。

 今回の税務調査の対象期間は過去3年、平成26~28年分だ。平成26年の売り上げが1000万円を超えたので平成28年分から消費税の課税業者となった。筆者が海外企業との取引を始めたのは平成27年の初頭。外資系企業の日本法人との取引はあったが、海外企業と直接取引をするの初めて。当初は広報だけ担当していたが、彼らの広告活動があまりにもひどいので「プロモーションプランを教えてくれ」と聞いたら、「広告も手伝ってほしい」となった。

 平成27年は本則課税の課税事業者ではないので、出版社から請求された広告費の消費税分は筆者の自腹となる。三百数十万円の広告に乗った二十数万円の消費税の負担は痛かったが、広告も手伝ってあげないと日本市場で成長できないと思い、広告も担当することにした。1人経営なので自分が判断するしかない。この判断は正解だった。彼らは2009年から日本市場に進出するも5年間鳴かず飛ばずだったが、この3年で日本での販売は100倍以上に伸び、大手通販サイトや価格比較サイトの製品ランキングで1位になることができた。

 平成28年からは本則課税に切り替えた。簡易課税の経験はあったが初めての本則課税はハードルが高く、筆者には理解不能。申告ソフトがはじき出してきた結果を信じるだけだ。広報分と広告分を合わせると、免税取引が1500万円を超え、消費税の還付は60万円ほどとなった。実質的な収支はそれほど増えていないが、見かけ上の売り上げは2000万円をはるかに超えたので「こいつ怪しい」となったのだろう。


個人事業主の税務調査がありそうな時期

 税務調査まで1週間ほど。まずは税務調査について検索し情報収集を行った。税務調査について書いている人の多くは税理士・会計士と元税務署員で、法人の税務調査が多い印象だ。税務調査を受けた個人事業主本人が執筆したものは見あたらなかったが、事前に準備すること、当日の流れなど予備知識としては役に立った。

[加筆 2018年7月23日]

 いくつかのウェブサイトで見かけたのは、税務署は7月~翌年6月末が事業年度(事務年度)で7月10日に人事異動があり“税務調査が多いのは秋”という記述だ。「秋? おいおい、まだ7月第1週で梅雨明けしてませんけど……早すぎでしょ」と思った。秋に多いというだけで、3月でも6月でも税務調査は行われているらしいが、もしかすると7~8月の夏は個人事業主を対象とする税務調査が行われやすい時期かもしれない、

 筆者の想像だが、日本の企業は3月決算が多く、5月に法人税の申告を行う。個人事業主は3月15日までに確定申告を行うので、法人より個人は2カ月半ほど早い。秋に税務調査が多いのは法人で、個人事業主はその前、「夏に来る」のかもしれない。稼いだ翌年の夏は要注意だ。


調査日までに事前に準備したこと

 事前に準備するのは帳簿類や領収書、請求書など。それぞれの内容もチェックする必要があり、過去3年分の領収書と帳簿を付き合わせるだけでも大変な作業だ。確定申告を数年分やり直す感じで、やればやるほど泥沼にはまっていった。

 調査対象は過去3年だが、「その前の年の領収書も見せて下さい」と言われたらどうしよう。今年前半の整理していない領収書も見られるかなあ、などと小心者ゆえどんどん作業が増えた。例えば接待交際費、会議費の領収書をチェックすると大半は食事した相手の名前が書いてあるが一部記載漏れもあり、7年分の領収書を記載漏れがないようにすべて記入。日常の業務は停止状態。1週間、ずっと確定申告モードとなった。

 別件で話をしたINTERNET Watchの編集長からヘロヘロ状態の筆者に「それ、記事にしたいから原稿発注していいですか」と、傷口に塩を塗るような依頼があり、結果こうして原稿を書いている。Facebookに「人生初の税務調査。業務停止状態。やること多くて死にそう(>_<)」と書いたら、「財務省同様に廃棄した、で大丈夫じゃないですか」などお気楽なコメントが並んだ。

 反面調査も気を付けたい。確定申告書や決算書ではすべての取引先は分からないが、税務調査をすると、筆者がどこと取引しているかが白日の下となる。筆者が支払いをした相手が、それを申告しているかを確認するのが反面調査だ。過去にクライアントの役員から「今日、定期の税務調査が来て、奥川さんとの取引をしつこくチェックしていました」と連絡をくれたことがあり「ありがとうございます。ちゃんと申告してますから大丈夫です」と応えた。

源泉徴収された取引先は申告書の第二表で税務署は確認できる

 この会社からは源泉徴収をされて振り込まれていたので、筆者の確定申告書Bの第二表に社名が記載されている。税務署から筆者に連絡はなかったが、反面調査として調べられたのだろう。それなりの法人は問題ないが、火の粉が飛ぶかもしれないので、過去3年のフリーランス系やベンチャー系の取引先には税務調査が入ることを事前に連絡した。


見つけた間違いは修正申告する?

 作業を進めると、高速代の経費計上に大きなミスを発見。取材で利用した高速代は原稿料とは別に出版社に立替払いとして請求していたが、本来は省くべき高速代が筆者自身の旅費交通費として経費計上されていることに気付いた。このミスは平成28年分のみで、過去の申告では正しく処理されていた。

 ミスの原因は筆者の確認漏れだが、発生要因の1つは会計ソフトのアグリゲーション機能だ。筆者が使用している会計ソフトは「やよいの青色申告」。この製品はパッケージタイプだがアグリゲーション機能に対応していて、インターネットバンキングやクレジットカード会社のウェブサービスから履歴を取り込むことができる。高速道路を利用した際のETCの履歴を取り込み、立替払い分を削除し忘れたため二重計上が発生した。

「やよいの青色申告」はETCの履歴を簡単に取り込めるが、経費にならないものを省かないと過少申告となる

 昔は手元の領収書を見て会計ソフトに入力したので、出版社に提出した領収書は手元に残らず二重計上することはなかった。現在は取り込んだ履歴から不要なものを削除する必要があり、これを忘れると本来経費にならないものが経費として計上される。経費が増えると納税額が減り過少申告となる。

 ただ、2014年の「やよいの青色申告 15」からアグリゲーション機能は搭載されていて、平成26年分(2014年)の確定申告は正しく処理されているので、平成28年分のミスは単純に筆者の確認漏れということだ。

 過去の膨大な領収書から間違いを見つけるのは、砂の山からわずかな砂金を見つけるような作業だ。ギリギリまで作業をして、筆者が見つけ出したのはこれだけだった。

 見つけた過少申告をどうするか、どうなるか。確定申告をしたあとで間違いを見つけた場合は修正申告をする。実際に確定申告を済ませたものを見直す機会は少ないと思うが、翌年の確定申告をしているときに、前年のミスに気付くことはあると思う。“面倒くさい”と無視することもできるが、修正申告をした方が安心だ。

 加算税という言葉を聞いたことがあるだろう。加算税制度は平成29年1月1日以降申告分から改正され厳罰化がなされた。「加算税制度の改正のあらまし」(PDF)から抜粋したのが以下の図となる。

平成29年(2017年)から厳しくなった

 修正申告等の時期は3つに区分されている。

①法定申告期限等の翌日から調査通知前まで
②調査通知以後から調査による更正等予知前まで
③調査による更正等予知以後

 言葉を説明しよう。法定申告期限は確定申告の期限。自営業なら3月15日。調査通知は「税務調査に行きます」と連絡があった日。調査による更正等予知は税務調査の指摘により納税額が増えそうだと思われたとき、となる。

 刑事ドラマに例えると、①は事件発生から捜査が始まる前に自首した場合、②は捜査が始まって(指名手配されて)から自首した場合、③は自首しなかった場合、といったイメージだ。平成28年まで過少申告の加算税は①②とも加算対象外、③は10%(50万円を超える部分は15%)だったが、平成29年からは②は5%(同10%)の加算税が取れらることとなった。

 もし過去に過少申告していることに気付いたら、調査の通知前に自主すれば加算されないということだ。筆者の場合は税務調査の前に自分で修正申告をすれば②となる。参考までに過少申告より罪が重いのは無申告で③の場合は15%(同20%)。さらに重いのが仮装・隠蔽で、意図的に売り上げを隠したり、架空の領収書で経費を水増しすると重加算税(35%)の対象となる。これらすべてを追徴課税と呼ぶが、「ミス」「未提出」「改ざん」の順で罪は重くなる。

 政治資金規正法は別物だが、城崎温泉にカラ出張をしたり、チラシ業者に印刷代の架空の領収書を発行させたりすると重加算税の対象となる。文書改ざんでニュースを賑わしているのは財務省。組織的には財務省-国税庁-国税局-税務署とつながっているので、財務省の改ざんと聞いて「この時期に加算税の厳罰化とかあり得ないでしょ」という声も聞こえてきそうだ。

 筆者は……とりあえず自首しよう。


郵便局は閉まっていた

自首した証拠写真として郵便局の写真をFacebookに投稿

 税務調査は7月14日の10時から。ギリギリまで砂金の採掘作業をして前日13日の22時過ぎに修正申告書を完成させ、車で10分ほどの麻生郵便局(大型局)へ向かった。窓口で13日中に受け付けをしてもらうつもりだったが、郵便局は真っ暗。「24時間じゃないの?」。一昔前は地域の大型の郵便局は24時間営業だったが、現在は極一部の局だけが24時間窓口を残していることを筆者は知らなかった……ガーン。

 ちなみに神奈川県で今も24時間窓口を継続しているのは横浜中央郵便局のみ。筆者は経験はないが、一昔前のように3月15日の深夜ギリギリに郵便局に確定申告書を出しに行くことは難しくなったようだ。深夜にポストに投函するのはイマイチなので、そのまま帰宅して深夜3時ごろまで確認作業を続け、14日の朝9時に近所の郵便局の窓口から発送した。意味はないと思いつつ自首した証拠写真として郵便局の写真をFacebookに投稿した。


税務調査当日

 朝10時の予定だったが、20分ほど早く2名の税務署員が訪ねてきた。玄関で身分証を提示されたが、一瞬でほとんど見えなかった。7月14日は快晴で最高気温は33度。筆者のオフィスは小田急線の読売ランド前駅から徒歩10分ほどだが、高低差が60mほどあり炎天下に登ってくるのはかなり辛い。事前の電話で「駅まで車で迎えに行きましょうか」と伝えたが「大丈夫です」とのことだった。

駅からオフィスまでずっと登り坂。急坂は2カ所。ざっと20階建てマンションを上るイメージ
税務調査前に遮熱シートを設置

 税務調査を事前に検索して飲み物はOK、昼食は不要となっていたので、打ち合わせスペースに通して冷えたペットボトルを提供。それ以外の暑さ対策として、濡らしたハンドタオルをジップロックに入れて冷蔵庫で急造のおしぼり、午後は西日で35度近くになるので数日前に遮熱シートを設置しておいた。これらは税務署員以外の一般の来客でも同じ。強いて言えば歩いてここに来たのは現在まで税務署の人だけだ。

 当初は1名の予定だったが、直前に2名で訪問と連絡を受け「おいおい、そんなに怪しいのか」とビビった。電話をくれたのは20代半ばの人で、もう1人は20台後半。20代半ばの人は嵐の二宮君に似ていた。本人に「嵐の二宮君に似てるって言われません」と聞いたら「時々」とのことなので、ここからは二宮君と表記しよう。

 予備知識では、税務調査の最初は職歴など沿革の説明とのこと。ドラマ「99.9」の松潤なら「では生い立ちから」と耳に手をかざしてくれそうだが、目の前にいるのは二宮君なので、最初に就職した測定機メーカー「ミツトヨ」から現在にいたるまで、各社のホームページなどをテーブルに取り付けたディスプレイに表示して説明した。

打ち合わせスペース。ディスプレイを使って沿革の説明

 また、この段階で平成29年分から売り上げも激減し、消費税は還付でなくなることを話すと少し驚いた表情を見せた。平成27年の後半から手伝っていた海外メーカーの広告を平成29年の前半でやめたからだ。最初のころは筆者が作成したプランに沿って媒体を選び広告の内容を決めていたが、日本での売り上げが急上昇すると、彼らは自分達流のやり方に戻そうとし意見がぶつかるようになった。国民性の違いは明らかで「どうしてですか」「なぜですか」の質問攻めと議論に費やす時間に負担を感じ、最後は「広報は続けるけど、広告は自分達でどうぞ」と筆者から断ったあとに税務調査がやって来た。

 自作の壁収納の棚に平成26年~28年の申告書、決算書、帳簿、領収書、請求書などをドサッと用意。高速代の経費に間違いがあり修正申告を当日の朝に送ったことを説明。あとは用意した資料をもとに2人は税務調査を開始。筆者は仕事部屋にいて、ときどき様子を見に行くだけだった。途中「編集長から記事にして、と言われてるので、お二人の写真を撮っていいですか」と聞いたら「いや、写真は……」とやんわり断られた。

筆者は科目ごとに領収書をまとめ、封筒を年ごとにファイリングしている。ノートに貼るより簡単

 お昼になり2人は猛暑の中、駅まで徒歩で食事に。戻ってきたとき二宮君は「さすがにきついですね」と言っていた。「田舎の工場で歩いて食事に行けないときはどうするのですか」と聞くと、「企業の人と食事に行っても、席は別々にします」とのこと。

 電卓を叩きながら作業をする2人に、「エクセルとか使ったら楽じゃないですか」と聞くと「そうですね」と言いつつPCの持ち込みはNGのようだ。「この資料持ち帰って、後日返送します」と言われ「スマホで写真撮っていったら」と言うと、「紛失する可能性があるのでスマホとかは使えません」とキッパリ。ガジェットに囲まれた生活をしている一般人とは別世界な感じがした。ちなみにメール、FAXの利用もNGで、税務署と納税者のやりとりは電話と郵送のみ。だだ漏れ感の強い厚生労働省とは違い、税務署はローテクによる究極のセキュリティだと感じた。

 質問したいことはあったが、「それは経費になりません」と言われるのが怖くて、小心者の筆者は突っ込んだ質問はできず。筆者「マルサの女は知ってますか」二宮君「生まれる前の映画ですけど見ました」など、たまに世間話をする程度だった。

 午後、作業が進み間違いが見つかった。企業から預かっている貸出機を編集部などに送る際の送料を、海外企業に請求しつつ荷造運賃費に計上していた。高速代と同じく二重計上だ。少し違うのは高速代は省かなければいけないことを知っていて、省き忘れたミス。こちらは指摘されて「アッそうですね」と、省かなければいけないという認識すらなかった。こちらも平成28年分のみの間違い。平成27年分は英文の契約書に書かれた「送料は別途支払う」という項目を見落としていて請求をしていなかった。

 時々作業の様子を見ると、海外からの入金の確認に苦労していた。広報費は2カ月分が後払いなのだが、海外企業ゆえ激しく遅延する。広告費の支払いは先払いとなっている。例えば11・12月分の広報費を12月末に請求すると、日本の企業なら1月末に支払われるが彼らは適当。遅れると3月の支払となる。広告費は支払わないと広告が掲載されないので3月に請求し3月に入金。

 筆者の事業口座は三菱東京UFJ銀行で、海外からの入金は手数料が500万円までは4000円。複数の請求をまとめて送金すると手数料負担が減る。結果、12月と3月の請求をまとめて入金しているので、複雑なお金の動きの確認に苦労したようだ。

 夕方になり作業は終了。修正となったのは筆者が見つけた高速代と彼らが見つけた宅配便の送料。それ以外は「接待交際費の領収書も名前が書かれていますし、消耗品の領収書も問題ありません」とのこと。最終確認用に帳簿の一部を持ち帰って後日連絡をくれることとなった。


追徴課税は(税務調査後)

 翌週、二宮君から電話があり、筆者が税務調査前に送った修正申告書を取り下げるための書類を捺印して送って欲しいとのこと。荷造運賃の修正が追加されているし、もともと理解していなかった消費税の修正申告書の内容が間違っていたようだ。

取り下げの書類に捺印して返送した

 数日後に税務署側で修正した申告書が送られてきた。電話でも説明を受けたが、消費税の修正申告書はほとんど理解できなかった。結果、旅費交通費と荷造運費が減ったので経費が減り、課税所得が増え、所得税が増える。課税所得が増えたので住民税も増える。さらに国民健康保険も増える。経費に乗った消費税が減ったので消費税も増える。

 すぐに届いたのが所得税と消費税の振込用紙。7月の下旬に送られてきて、所得税が1万7000円ほど、消費税が1万3000円ほど。前半で説明した加算税はなし。疑問に思い二宮君に電話して聞くと「加算税は5000円未満は切り捨て」とのことだ。

[加筆 2018年7月23日]

 筆者は調査直前に自首する振りはしたが、郵便局も閉まっていたし、修正申告書の取り下げもしていたので自首をしていないことになる。「調査による更正等予知以降の過少申告加算税」は10%となるが、追徴課税自体が5万円を超えなかったので、加算税は5000円未満となり、請求はなかった。

 10月に住民税の追加分が届き1万7000円ほど。直後に国民健康保険で2万円ほど。合計額は7万円弱となった。どれも、もともと支払いする分なので不満はないが、強いて言えば調査前の準備に1週間を費やしたことが損失として大きかった。

所得税と消費税の振込用紙は7月中に届いた
住民税は10月に届き、10月と1月に納税した
国民健康保険も10月に修正され、10月引き落とし分から増額された

 また、8月上旬に「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書」なるものが届き、平成26~28年を調査して平成26年、平成27年は更正なし(修正なし)と書かれていた。実際に数時間の税務調査で過去3年分のすべてを確認する時間はなかったと思われるが、修正(更正)した平成28年分を含めこの3年分は問題なしということだ。なので次に調査が来るのは最短で平成29~31年分なので2020年(元号は変わるが平成32年)以降と思われる。

平成26~28年分を調査して平成26年分、平成27年分は更正なし

 現実的には名古屋から川崎まで出張するのは手間だし、隠蔽などはしていないことが分かったし、数週間前に確定申告した平成29年分は見かけ上の売り上げも減り、消費税も還付ではなく納税となったので、この先10年くらいは税務調査は来ない気がする。では、やりたい放題かと言うと、小心者なので無茶をする気もなく、これまでと同じように申告をするだけだ。

 税務調査が来た理由、事前準備、調査当日、調査後を筆者の視点でお伝えした。個々の事例で内容は異なるが、税務調査を受ける可能性がある人は、雰囲気だけ参考にしていただければと思う。