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住民税が高い/安い自治体はどこ? 差額はいくら?【2024年版 最新ランキング】

全47都道府県+4市を比較してみた

最終更新 2024年6月28日 11:45
初出日時 2022年8月19日 06:55

 勘違いしている人がいる住民税の地域差。正しい情報を伝えるため2022年から掲載している住民税ランキングの記事を、今年も徹底的に調べて正確な情報をお届けしたい。

 住民税は住む自治体によって差がある。ただし、差があると言っても多くの自治体でわずかな差しかなく、引っ越してメリットがあるほどの差ではない。ところが都市伝説的に「愛知県豊田市はトヨタがあるから住民税が安い」「自分の住む〇〇市は住民税が高い(らしい)」などと思っている人は少なくない(特に年配の人)。今回も住む自治体によって住民税がどれくらい高いのか、安いのかを「2024年版 最新ランキング」としてお知らせしよう。

住民税が高い/安いランキング1位の自治体は?「課税所得200万円の人」で比べてみた

 住民税の課税所得(課税標準額)が200万円の人の年間の住民税額をランキングで見てみよう。47都道府県に、住民税の高い「兵庫県豊岡市」「神奈川県横浜市」「兵庫県神戸市」、住民税の安い「愛知県名古屋市」を加えた51自治体を住民税が高い順に並べてみた。

課税所得(課税標準額)200万円の人の年間の住民税額を高い順に並べた自治体のランキング

 事例の課税所得200万円というのは、サラリーマン独身(扶養家族なし)、生命保険未加入で社会保険(厚生年金+健康保険+雇用保険)を65万円とすると、年収は440万円ほどとなる。なお、表の住民税額には森林環境税は含まれているが、調整控除(-2500円~)は含まれていない。また、2024年(令和6年)度限定の定額減税も反映していない。

 ほとんどの都道府県内の市町村民税に差はない。市町村まで含めたランキングにすると1700を超えるランキングとなってしまうので、ここでは税額が高い・安いことが知られている一部の市(4市)を加え、やや変則的なランキングとしている。これら4市以外の人は、原則、自分の住む都道府県ごとに税額を参照してほしい。

 住民税高いランキング1位は兵庫県豊岡市、2位は横浜市、3位タイは宮城県と神戸市、以下、5位タイは岩手県など6県が並んでいる。

 表の「差額」は、住民税を増税していない東京都(を含む41位タイの10都道県)を基準とした場合の差を表している。東京都に比べ兵庫県豊岡市は2800円、横浜市は1700円、宮城県と神戸市は1200円高い。サラリーマンは12分割(平成6年度のみ定額減税のため11分割)して毎月天引きされるので、宮城県や神戸市に住むと東京都より住民税が月額100円高くなる。

 一方、住民税が安いのは名古屋市。昨年まで減税を行っていた大阪府田尻町が通常課税に移行したため、住民税の減税を行っている自治体は名古屋市だけとなった。

住民税の計算方法――「都道府県民税」「市町村民税」と「均等割」「所得割」の内訳

 住民税の計算方法を簡単に確認しておこう。

 住民税は「都道府県民税」と「市町村民税」を合算したものが納税額となる。例えば、東京都町田市は都民税と市民税、宮城県仙台市は県民税と市民税となる。東京23区は特別区という扱いなので、市町村民税ではなく特別区民税となる。この記事では「市町村民税と特別区民税」と表記すると長くなるので、市町村民税の表記に特別区民税も含まれると思っていただきたい。代表的な表記は県民税と市民税としたい。

 さらに都道府県民税と市町村民税はそれぞれ「均等割」と「所得割」に分けられる。均等割は所得の額に関わらず、同じ自治体に住む納税者であれば、所得が100万円の人も1000万円の人も「県民税1000円、市民税3000円」など同額を納税する。所得割は課税所得(課税標準)に10%(一部自治体を除く)の税率を掛けたもので、所得が多い人ほど納税額も多くなる。

住民税の内訳
住民税は所得割+均等割。市民税、県民税の所得割(税率)と市民税、県民税の均等割(○○円)の4つのパラメータで住民税の差が決まる

 所得割の基準となる課税所得は個人ごとの収入と控除額(扶養家族、生命保険など)によるので、ご自身の課税所得は住民税の通知書などで確認していただきたい。

住民税の通知書(給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定・変更通知書)の例
住民税の通知書の例(自治体により異なる)。この例では、課税標準・総所得③の206万5000円が課税所得の額

※住民税について詳しく知りたい人、ご自身の住民税を計算してみたい人は、こちらの記事を参照していただきたい。

住民税の計算方法:住民税=所得割額+均等割額

あなたの住民税、なぜその金額? 計算方法と住民税決定通知書の見方を徹底解説【2024年(令和6年)版】
「森林環境税」で今年から増税!? 「定額減税」の確認方法は?

 自治体のウェブサイトに掲載されている住民税の内訳をいくつか確認してみた。東京都国立市は市民税均等割が3000円、都民税均等割が1000円、所得割の税率は市民税6%、都民税4%で合計10%となっている。宮城県仙台市は市民税均等割が3000円、県民税均等割が2200円(+1200円)、所得割の税率は市民税8%、県民税2%で合計10%となっている。

東京都国立市のウェブサイトの住民税についての説明ページ
東京都国立市は市民税均等割が3000円、都民税均等割が1000円、所得割の税率は市民税6%、都民税4%で合計10%
宮城県仙台市のウェブサイトの住民税についての説明ページ
宮城県仙台市は市民税均等割3000円と所得割の税率の合計10%は同じだが、県民税均等割が2200円で、1200円高い。令和5年まで課税されていた復興財源という(本来の正しい)表記をしている自治体は少ない。地元の意地か? 素晴らしい
豊田市のウェブサイトの住民税についての説明ページ
都市伝説を信じている人には申し訳ないが、豊田市は県民税に「あいち森と緑づくり税 500円」が上乗せされ、東京都より住民税が高い。市民税は3000円で他の自治体より安くはない

 東京都(ランキング41位タイの10都道県)は、均等割の市町村民税が3000円、都道府県民税が1000円。これが均等割の標準額となる。

 2023年(令和5年)までは全国一律で東日本大震災の復興特別税がそれぞれ500円ずつ、計1000円増税されていた。2024年(令和6年)から、無期限の森林環境税1000円の増税が始まるため、終了した復興特別税と差し引きゼロとなる。

住民税の差=ほとんどが都道府県の「均等割」の差

 住民税の自治体ごとの差は、ほとんどが各都道府県の均等割の差によるものだ。

 均等割は、都道府県民税の額が1000円になっている10都道県は増税がなく、残りの37府県は府県独自の増税が行われている。このような自治体独自の増税を「超過課税」と呼ぶ。市区町村で均等割の増税を行っているのは横浜市(横浜みどり税 900円)、神戸市(認知症対策 神戸モデル 400円)の2つの市だけだ。

 37府県の増税額は、宮城県の1200円(みやぎ環境税)が最高額。大阪府の300円(森林環境税)が最少額。愛知、鳥取、広島、福岡などの500円が20県と半数以上を占めている。鳥取県は令和6年から全国で始まる住民税の増税(=森林環境税)を考慮して、令和5年から税額500円はそのまま、県独自の「森林環境税」を新たな「豊かな森づくり協働税」に変更した。真面目に取り組んでいる感があり好ましい。やるなぁ鳥取。

自治体名均等割所得割備考
都道府県市町村都道府県市町村合計都道府県市町村超過課税などの詳細
北海道1000円3000円4000円4.0%6.0%
青森県1000円3000円4000円4.0%6.0%
岩手県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%いわての森林づくり県民税 1000円
宮城県 2200円3000円 5200円4.0%6.0%みやぎ環境税 1200円
秋田県 1800円3000円 4800円4.0%6.0%秋田県水と緑の森づくり税 800円
山形県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%やまがた緑環境税 1000円
福島県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%森林環境税 1000円
茨城県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%森林湖沼環境税 1000円
栃木県 1700円3000円 4700円4.0%6.0%とちぎの元気な森づくり県民税 700円
群馬県 1700円3000円 4700円4.0%6.0%ぐんま緑の県民税 700円
埼玉県1000円3000円4000円4.0%6.0%
千葉県1000円3000円4000円4.0%6.0%
東京都1000円3000円4000円4.0%6.0%
神奈川県 1300円3000円 4300円 4.025%6.0%水源環境保全税 300円、 県民税率 +0.025%
神奈川県横浜市 1300円 3900円 5200円 2.025%8.0% 横浜みどり税 900円
新潟県1000円3000円4000円4.0%6.0%
富山県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%水と緑の森づくり税 500円
石川県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%いしかわ森林環境税 500円
福井県1000円3000円4000円4.0%6.0%
山梨県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
長野県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%長野県森林づくり県民税 500円
岐阜県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%清流の国ぎふ森林・環境税 1000円
静岡県 1400円3000円 4400円4.0%6.0%森林(もり)づくり県民税 400円
愛知県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%あいち森と緑づくり税 500円
愛知県名古屋市 1500円 2800円 4300円2.0% 7.7% 市民税均等割 -200円、市民税率 -0.3%
三重県 2000円3000円 5000円4.0%6.0%みえ森と緑の県民税 1000円
滋賀県 1800円3000円 4800円4.0%6.0%琵琶湖森林づくり県民税 800円
京都府 1600円3000円 4600円4.0%6.0%豊かな森を育てる府民税 600円
大阪府 1300円3000円 4300円4.0%6.0%森林環境税 300円
兵庫県 1800円3000円 4800円4.0%6.0%県民緑税 800円
兵庫県神戸市 1800円 3400円 5200円2.0%8.0% 認知症対策 神戸モデル 400円
兵庫県豊岡市 1800円3000円 4800円4.0% 6.1% 市民税 +0.1%
奈良県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
和歌山県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%紀の国森づくり税 500円
鳥取県 1500円3000円 4500円4.0%6.0% 豊かな森づくり協働税 500円 ※名称変更
島根県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%水と緑の森づくり税 500円
岡山県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%おかやま森づくり県民税 500円
広島県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%ひろしまの森づくり県民税 500円
山口県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%やまぐち森林づくり県民税 500円
徳島県1000円3000円4000円4.0%6.0%
香川県1000円3000円4000円4.0%6.0%
愛媛県 1700円3000円 4700円4.0%6.0%森林環境税 700円
高知県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
福岡県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
佐賀県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
長崎県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%ながさき森林環境税 500円
熊本県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%水とみどりの森づくり税 500円
大分県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%大分県森林環境税 500円
宮崎県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%森林環境税 500円
鹿児島県 1500円3000円 4500円4.0%6.0%みんなの森づくり県民税 500円
沖縄県1000円3000円4000円4.0%6.0%
※赤文字は増税、青文字は減税、東京都などプラスマイナスのない標準課税は黒文字とした。

 次に、47都道府県に市民税の均等割が標準課税でない横浜市(市民税 +900円、県民税 +300円)、神戸市(市民税 +400円、県民税 +800円)、名古屋市(市民税 -200円、県民税 +500円)を加えた50自治体を、均等割の高い順に分類してみた。

 最高額の宮城県で年額1200円となるが、月額にして100円はそれほど大きな額ではない。近隣の岩手・山形・福島に引っ越しても年に200円の減税、青森・新潟なら年に1200円の減税となるが、そもそも各自治体の超過課税は数年後に増税・減税されるかもしれないので住民税を理由に引っ越す意味はないだろう。

  • 均等割増税額 1200円
    宮城県、(横浜市)、(神戸市)
  • 均等割増税額 1000円
    岩手県、山形県、福島県、茨城県、岐阜県、三重県
  • 均等割増税額 800円
    秋田県、滋賀県、兵庫県
  • 均等割増税額 700円
    栃木県、群馬県、愛媛県
  • 均等割増税額 600円
    京都府
  • 均等割増税額 500円
    富山県、石川県、山梨県、長野県、愛知県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県
  • 均等割増税額 400円
    静岡県
  • 均等割増税額 300円
    大阪府、(名古屋市)
  • 均等割増税額 0円
    北海道、青森県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県、福井県、徳島県、香川県、沖縄県

住民税(所得割)の税率を上げている自治体は神奈川県と兵庫県豊岡市の2つ

 均等割を増税している府県は37と半数を超えているが、住民税の所得割の税率を上げている(増税)のは神奈川県(+0.025%)と兵庫県豊岡市(+0.1%)の2つの自治体だけだ。都道府県民税、市町村民税の合計税率は通常10%だが、神奈川県民は10.025%、豊岡市民は10.1%となる。例えば課税所得(課税標準額)が100万円、200万円、400万円のそれぞれの所得割部分の増税額は、神奈川県民は250円、500円、1000円、豊岡市民は1000円、2000円、4000円と所得額に応じて増えていく。

夕張市の税率は?

 かつて全国一住民税が高いと言われたのは財政破綻した北海道夕張市だった。市民税の均等割が+500円、所得割は+0.5%と兵庫県豊岡市の+0.1%を大幅に上回る税率だ。財政再生計画の見直しにより均等割の+500円を廃止、6.5%だった所得割の税率を6%(道民税と合わせて10%)に戻している(東京都と同じ)。これは当時、全国最年少で夕張市長となった鈴木直道氏(現:北海道知事)の手腕によるものと思われる。

住民税が安い自治体は名古屋市のみ

 次に住民税の安い自治体も見てみよう。令和5年まで住民税の安い自治体で全国1位だった大阪府田尻町の町民税が標準課税に移行したため、住民税が安い自治体は名古屋市のみとなった。

 名古屋市は市民税の均等割が-200円だが、愛知県の県民税が+500円なので東京都より300円増税となる。所得割の税率は名古屋市が-0.3%で7.7%。県民税の税率が2%なので計9.7%となる。名古屋市の課税所得(課税標準額)が100万円、200万円、400万円の所得割部分の納税額は、-3000円、-6000円、-1万2000円と所得額に応じて減税される。この減税額はそこそこ魅力的だと感じられる。

課税所得ごとに「住民税が高い自治体」をランキング神奈川県民は高所得者ほど順位が上昇!?

 均等割の増税は所得金額の影響を受けないが、所得割の税率による増税は高額所得者ほど増税額が大きくなる。そこで、51自治体(47都道府県+4市)における課税所得100万円、200万円、400万円の場合の住民税を算出してみた。

 差額の欄は、東京都と同じく増税・減税のない10都道県は0円となっている。所得割の税率(10%)に差がないほとんどの自治体は課税所得が100万円、200万円、400万円と増えても東京都との差額はずっと一定だ。例えば宮城県は課税所得が100万円でも200万円でも400万円でも差額は1200円。大阪府はずっと300円だ。

 所得割の税率が10%より高い神奈川県、兵庫県豊岡市、10%より低い名古屋市の3自治体は課税所得が増えると差額が大きくなっていく。

51自治体の住民税の差額の一覧(課税所得100万円、200万円、400万円の場合)
51自治体の住民税の差額の一覧(課税所得100万円、200万円、400万円の場合)

 では、課税所得ごとに、住民税が高い順に自治体を並べたランキングを見ていこう。

 まず課税所得100万円のランキングは、1位が兵庫県豊岡市、2位が神奈川県横浜市、3位タイで宮城県と兵庫県神戸市と続く。豊岡市は年間10万6800円で、これは東京都(41位タイ)の10万5000円よりも1800円高い。横浜市は同じく1450円高い10万6450円、宮城県と兵庫県神戸市は1200円高い10万6200円。

課税所得(課税標準額)100万円の人の年間の住民税額を高い順に並べた自治体のランキング

 次に課税所得200万円の場合のランキング。こちらも1位が豊岡市(20万7800円)、2位が横浜市(20万6700円)、3位タイで宮城県と神戸市(20万6200円)という順位は変わらない。東京都(20万5000円)との差額は、それぞれ+2800円、+1700円、+1200円。注目されるのは、県民税の所得割の税率が増税されている横浜市を除く神奈川県(20万5500円)のランキングが、課税所得100万円のときの18位タイから11位タイに上昇している点だ。

課税所得(課税標準額)200万円の人の年間の住民税額を高い順に並べた自治体のランキング

 最後は課税所得400万円の場合のランキング。1位の豊岡市(40万9800円)、2位の横浜市(40万7200円)は不動のワンツーだが、神奈川県(40万6300円)が3位に上昇した。東京都(40万5000円)との差額はそれぞれ+4800円、+2200円、+1300円。

課税所得(課税標準額)400万円の人の年間の住民税額を高い順に並べた自治体のランキング

 神奈川県民はどこまで順位が上がるのか心配されたかもしれない。2位の横浜市民と3位の横浜市以外の神奈川県民の差は、横浜市が増税している「横浜みどり税 900円」によるもので、この差は所得が増えてもずっと900円のまま。2位横浜市、3位神奈川県の順位は課税所得がさらに増えても逆転することはない。

 住民税のランキング、実際の税額の差については以上だ。住民票を置く自治体によって住民税に差はあるが、住民税を理由に住む自治体を選ぶ必要はないだろう。この先は雑談レベルの内容なのでお時間のある人はお付き合いいただきたい。

住民税の差額を指定ゴミ袋の差額が上回ることも

 筆者は自宅マンションが名古屋市内、住民票も名古屋市なので住民税が減税されている。ここ10年ほど筆者は川崎市にオフィス兼住居を借りて仕事をしている。たまたま住民税が高めの神奈川県だ。

 課税所得200万円で比べると神奈川県は+800円、名古屋市は-5700円。実際の課税所得は上下するが、事例のケースの人が住民票を川崎市に移すと住民税は年額6500円増税となる。微妙な金額差だが、実際に2つの自治体に住んでみると、住民税だけではない違いを感じることはある。

 日常の小さなことではゴミ袋。名古屋市は指定のゴミ袋。川崎市は指定のゴミ袋はなく、レジ袋がそのまま使用できる。4年前、2020年7月のレジ袋有料化以前であれば、川崎市はレジでもらったレジ袋でゴミを捨てられたのでほぼ無料。名古屋市では余り気味だった無料レジ袋が、川崎市では無駄なく消化できる印象だった。

 中学の同級生のLINEで聞いてみると、名古屋市はもちろん近隣の長久手市、みよし市などは指定ゴミ袋。価格はサイズや種類(名古屋市の場合は可燃ゴミ用、資源ゴミ用、不燃ゴミ用)によって異なる。大家族だと年間数千円になることもあるので、自治体によっては住民税の差額をゴミ袋の価格が上回ることもありそうだ。

 川崎市、横浜市は指定のゴミ袋がない。筆者のオフィスがある川崎市多摩区のすぐお隣、東京都稲城市と、名古屋市のホームセンターで、実際に販売されている指定ゴミ袋の価格を確認してみた。

  • 名古屋市:可燃20L 10枚 108円(税込)=単価10.8円
  • 稲城市:可燃20L 10枚 400円(非課税)=単価40円

 名古屋市の指定ゴミ袋はそこそこの価格。稲城市はやや高めの印象だ。ゴミ袋(レジ袋)の消費量は人により様々。おそらく独身のサラリーマンで、基本外食の人は少なめ。ファミリーならそこそこ多めとなりそうだ。仮に可燃ゴミ袋の消費量を2枚/週、4枚/週、6枚/週として、年間52週で比較すると、以下のようになる。

【ゴミ袋の年間コストを試算】
自治体単価枚数/週年額川崎市との差額
川崎市3円2312円
4624円
6936円
名古屋市10.8円21123円811円
42246円1622円
63370円2434円
稲城市40円24160円3848円
48320円7696円
61万2480円1万1544円

 住民税の安い東京都稲城市と、川崎市の住民税の差は課税所得200万円で年間800円。ゴミ袋週4枚の年間の差額は7696円。指定ゴミ袋のコスト差は住民税の差をはるかに上回っている。指定ゴミ袋の価格は差がありそうなので、消費量の多い人は引っ越す前に調べてみよう。ただし、ずっと先までゴミ袋の価格は一定とは言えない。

住民税が安い「名古屋市」の市民として

 名古屋市民は住民税が安くていいことずくめなのかを考えてみた。今、名古屋市民として不満に思うのはマイナンバーカードによる住民票などのコンビニ交付ができないことだ。政令指定都市で唯一、名古屋市だけが未対応。これに関する名古屋市の回答は「コンビニ交付の導入には、システムの改修等が必要となるため、令和6年度に調査を行い、令和8年度中の導入を予定しております」とのことで、2年後にやっと対応される予定だ。

 悪い面だけではない。名古屋市民で国民健康保険に加入していると、年に一度「特定健康診査」を無料で受けることができる。SNSで知り合いのライターさんのコメントを見ると自費で診断を受けている人もいて、自治体の差がありそうだ。川崎市は無料だが「令和元年度から無料になりました」と記載されている。筆者は起業した十数年前からずっと無料。健康診断はそこそこ費用が掛かるので、住民税の差は簡単に逆転できる。自営業の人はチェックする価値はありそうだ。

名古屋市国民健康保険 令和6年度 特定健康診査(無料)の案内
名古屋市国民健康保険 令和6年度 特定健康診査(無料)の案内

 名古屋市の減税は魅力的ではあるが、地元民として土地勘・肌感で思うに、近隣の豊田市、日進市、大府市、東海市、長久手市などから名古屋市内に引っ越せば確かに税金は安くなるが、住居費(アパート、分譲住宅、駐車場など)の増加は減税分を上回る可能性が高い。

 価値観は人それぞれだと思うが、筆者自身はトータルバランスで名古屋市は住みやすいと思っている。

住民税の一番高い「兵庫県豊岡市」とは

 住民税の一番高い兵庫県豊岡市。初めて自治体の名を聞いた読者がいるだろう。そこには何があるの? なぜ住民税が高いの? そもそもどこにあるの?……疑問にお答えしよう。

 日本一住民税の高い兵庫県豊岡市は、兵庫県の北東の端、北は日本海、東は京都府に面した自治体だ。兵庫県で最も面積が大きな自治体で、日本で最後の野生コウノトリの生息地とのこと。人口約7万5000人の市が日本一住民税の高い自治体となった理由は「都市計画税の廃止に伴い、平成21年度から超過課税を適用しています」としたためだ。どういうこと?

 家を購入した人は固定資産税と都市計画税を納めていると思う。このうち都市計画税を廃止し、市民税の所得割の税率を6.0%から6.1%に引き上げている。

 筆者は毎年4月に納付している名古屋の自宅マンションの「固定資産税・都市計画税課税明細書」を見てみた。土地と家屋それぞれの価格、固定資産税課税標準額、都市計画税課税標準額、税相当額などが明記され、別紙「納税通知書」に固定資産税と都市計画税の納税額が記載されている。

名古屋市の固定資産税・都市計画税の封筒
名古屋市の固定資産税・都市計画税の封筒

 都市計画税の算出根拠は理解していないが、手元にある通知書の都市計画税の金額がゼロ円になるなら、市民税所得割の税率が0.1%増税されても、トータルの納税額は減りそうな印象だ。

 豊岡市の住宅事情は知らないが、豊岡市の市民で自宅を購入していて、これまで都市計画税を納税していた人はこの部分が減税、市民税所得割が増税され、減税分の金額が上回っていれば得となる。固定資産税・都市計画税は立地に左右される。例えば駅近の物件で不動産価値が高ければ都市計画税の廃止はかなり美味しい。一方でアパートなどの賃貸物件に住んでいると都市計画税廃止の恩恵はなく増税されるだけだ。大都市圏と比べると地方都市は持ち家の率が高くなるので、この日本一高い住民税という市民税の改正は豊岡市の多くの住民にとってウェルカムかもしれない。

裕福な自治体はどこ?

 自治体ごとの住民税の差は少ないが、裕福な自治体は住民サービスが充実している可能性が高い。引っ越し先、永住先の選択肢として、「裕福な自治体」はどこかを考えてみたい。

 「地方交付税」という言葉を聞いたことがあるだろうか。国から財政が厳しい地方の自治体に支給されるお金だ。次の図は地方交付税を受け取っていない「不交付団体(=財政的に自立している自治体)」の数の推移。令和5年度の不交付団体は77、全国1700超の自治体の中で5%以下だ。

令和5年度 不交付団体の状況
総務省の資料(PDF)より抜粋

 47都道府県では東京都のみ。市町村で不交付団体となったのは以下の表の自治体だ。都道府県ごとの自治体数は、最も多い愛知県が18、以下、東京都が10、千葉県と神奈川県が7となっていて、21都道府県に不交付の自治体がある。この不交付団体となっている自治体は、「裕福な自治体」だと思われる。

令和5年度普通交付税不交付団体一覧表
総務省の資料(PDF)より抜粋

 「うーん、自分の住む岐阜県には1つもないんだけど」という読者がいると思う。もう少し深掘りしてみよう。不交付団体となる指標は「財政力指数」。財政力指数が1.0を超えることが地方交付税の不交付団体となる目安らしい。

 総務省の「令和4年度地方公共団体の主要財政指標一覧」に「指標の説明」「指標のみかた」があるので、算出方法・算出式などはそちらを見ていただきたい。財政力指数の説明を抜粋すると「収入額/需要額の過去3年間の平均値で、財政力指数が高いほど財源に余裕があるといえる」とある。

 都道府県と市町村のExcelファイルがダウンロードできる。都道府県の財政力指数の一部を見ると、東京都が1.06で唯一の1.0超え。都道府県で東京都だけが不交付団体となっている。

順位都道府県名財政力指数
1東京都1.06
2愛知県0.87
3神奈川県0.85
4千葉県0.75
5大阪府0.74

 全国の市町村の上位を見ると、愛知県の飛島(とびしま)村が2.02で断トツの1位。青森県六ケ所村、北海道泊村、福島県大熊町、茨城県東海村、新潟県刈羽村と原発関連の自治体が上位となっている。

順位都道府県名市町村名財政力指数
1愛知県飛島村2.02
2青森県六ケ所村1.62
3長野県軽井沢町1.50
4北海道泊村1.49
5東京都武蔵野市1.48
6福島県大熊町1.46
7千葉県浦安市1.43
8茨城県東海村1.36
9新潟県刈羽村1.36
10茨城県神栖市1.35

 1位の飛島村をGoogle マップで見ると、北部は農地と住宅地、南部の名古屋港の埋立地はコンテナターミナルとなっていて、2023年に発生したランサムウェアによるシステム障害が記憶に新しい。埋立地には「トヨタ自動車 飛島物流センター」「三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所 飛島工場」など著名企業の施設があり、固定資産税、法人税などの税収により財政力指数が全国1位になっていると思われる。

 不交付団体が1つもない県は26県。例として岐阜県の自治体を見てみよう。財政力指数は1.0を超えないが、上位は岐南町、各務原市、大垣市などとなっている。お住まいの都道府県内の財政力指数を確認すると、裕福な自治体=住民サービスのよい自治体の目安になるかもしれない。

順位都道府県名市町村名財政力指数
1岐阜県岐南町0.91
2岐阜県各務原市0.87
3岐阜県大垣市0.85
4岐阜県岐阜市0.84
5岐阜県可児市0.84
6岐阜県美濃加茂市0.78
7岐阜県羽島市0.76
8岐阜県瑞穂市0.74
9岐阜県多治見市0.70
10岐阜県笠松町0.69

 住民サービスの方向性はそれぞれ。子育て関連を重視する自治体もあれば、図書館・美術館など文化関連を重視する自治体もあると思う。太陽光発電の補助金、電気自動車の補助金など、財源にゆとりのある自治体は補助金なども充実している可能性が高い。財政力指数は1つの目安として、ご自身のライフスタイルに合う自治体を見つける際の参考にしていただきたい。

 住民税の地域差はネタとしては面白いが、ほとんどの地域で大差はない。一人歩きする住民税の都市伝説を少しでも訂正するため、来年以降も正しい情報をお伝えしたい。そして今回も最後にお願いをしたい。筆者は執筆した記事に対するコメントを全て読ませていただいて参考にしている。住民税に関しては全国1700を超える自治体の情報を調べることは困難なので、読者の中に「自分の住む町は税金安いよ」などの情報をお持ちの人は、X(旧Twitter)などでコメントを寄せていただけると幸いだ。

※「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。関連記事インデックス『サラリーマンと個人事業主の“税金の話”まとめ』よりご参照ください。