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住民税が高い自治体/安い自治体はどこ? 地域差はいくら?【2025年版 最新ランキング】
全47都道府県+4市を比較してみた
2025年6月27日 08:55
最終更新 2025年6月27日 08:55
初出日時 2022年8月19日 06:55
勘違いしている人がいる住民税の地域差。正しい情報を伝えるため2022年から掲載している住民税ランキングの記事。今年も徹底的に調べて正確な情報をお届けしたい。
住民税は住む自治体によって差がある。ただし、差があると言っても多くの自治体でわずかな差しかなく、引っ越してメリットがあるほどの差ではない。ところが都市伝説的に「愛知県豊田市はトヨタがあるから住民税が安い」「○○競輪があるから住民税が安い」「自分の住む〇〇市は住民税が高い(らしい)」などと思っている人は少なくない。若い人は住民税の話をすることはまれなので、40代、50代、60代……と年輩の人ほど(飲んだ席で知人から聞いて?)住民税の都市伝説を信じている人が多い。今回も「2025年版 最新ランキング」として、住む自治体によって住民税がどれくらい高いのか、安いのか、加えて住民サービスが充実している(かもしれない)自治体はどこなのかを「2025年版 最新ランキング」としてお知らせしよう。
[目次]
- 住民税が高い/安いランキング1位の自治体は?
「課税所得200万円の人」で比べてみた - 住民税の計算方法――
「都道府県民税」「市町村民税」と「均等割」「所得割」の内訳 - 住民税の差=ほとんどが都道府県の「均等割」の差
-住民税(所得割)の税率を上げている自治体は神奈川県と兵庫県豊岡市の2つ
-住民税が安い自治体は名古屋市のみ - 課税所得ごとに「住民税が高い自治体」をランキング
神奈川県民は高所得者ほど順位が上昇!? - 住民税の差額を指定ゴミ袋の差額が上回ることも
- 住民税が安い「名古屋市」の市民として
- 住民税の一番高い「兵庫県豊岡市」とは
- 裕福な自治体はどこ?
- コラム
-夕張市の税率は?
住民税が高い/安いランキング1位の自治体は?「課税所得200万円の人」で比べてみた
住民税の課税所得(課税標準額)が200万円の人の年間の住民税額をランキングで見てみよう。47都道府県に、住民税の高い「兵庫県豊岡市」「神奈川県横浜市」「兵庫県神戸市」、住民税の安い「愛知県名古屋市」を加えた51自治体を住民税が高い順に並べてみた。4市以外は都道府県内の自治体の住民税は同じとなっている。
※事例の課税所得200万円というのは、サラリーマン独身(扶養家族なし)、生命保険未加入で社会保険(厚生年金+健康保険+雇用保険)を65万円とすると、年収は440万円ほどとなる。なお、表の住民税額には森林環境税は含まれているが、家族構成(人的控除)で決まる調整控除(-2500円~)はどこに住んでも一律なので含まれていない。
住民税高いランキング1位は兵庫県豊岡市、2位は横浜市、3位タイは宮城県と神戸市、以下、5位タイは岩手県、岐阜県など6県が並んでいる。
表の「差額」は、住民税を増税していない(=標準課税の)東京都(を含む41位タイの10都道県)を基準とした場合の差を表している。東京都に比べ兵庫県豊岡市は2800円、横浜市は1700円、宮城県と神戸市は1200円高い。サラリーマンの住民税は12分割して毎月天引きされるので、宮城県や神戸市に住むと東京都より住民税が月額100円高くなる。
一方、住民税が安いのは名古屋市。一昨年まで減税を行っていた大阪府田尻町が標準課税に移行したため、住民税の減税を行っている自治体は名古屋市だけとなった。
住民税の計算方法――「都道府県民税」「市町村民税」と「均等割」「所得割」の内訳
住民税の計算方法を簡単に確認しておこう。
住民税は「都道府県民税」と「市町村民税」を合算したものが納税額となる。例えば、東京都国立市は都民税と市民税、宮城県仙台市は県民税と市民税となる。東京23区は特別区という扱いなので、市町村民税ではなく特別区民税となる。この記事では「市町村民税と特別区民税」と表記すると長くなるので、市町村民税の表記に特別区民税も含まれると思っていただきたい。代表的な表記は県民税と市民税としたい。
さらに都道府県民税と市町村民税はそれぞれ「均等割」と「所得割」に分けられる。均等割は所得の額に関わらず、同じ自治体に住む納税者であれば、所得が100万円の人も1000万円の人も「県民税1000円、市民税3000円」など同額を納税する。所得割は課税所得(課税標準)に10%(一部自治体を除く)の税率を掛けたもので、所得が多い人ほど納税額も多くなる。
所得割の基準となる課税所得は個人ごとの収入と控除額(扶養家族、生命保険など)によるので、ご自身の課税所得は住民税の通知書などで確認していただきたい。
※住民税について詳しく知りたい人、ご自身の住民税を計算してみたい人は、こちらの記事を参照していただきたい。
えっ! 住民税ってそういうことだったの!? 住民税の通知書に書かれた数字のナゾ、まるっと解決します
【2025年(令和7年)版】
自治体のウェブサイトに掲載されている住民税の内訳をいくつか確認してみた。東京都国立市は市民税均等割が3000円、都民税均等割が1000円、所得割の税率は市民税6%、都民税4%で合計10%となっている。宮城県仙台市は市民税均等割が3000円、県民税均等割が2200円(+1200円)、所得割の税率は政令指定都市なので市民税8%、県民税2%で合計10%となっている。「トヨタがあるから住民税が安い」と言われる愛知県豊田市は市民税均等割が3000円、県民税均等割が1500円で標準課税の自治体より500円高い。
住民税の差=ほとんどが都道府県の「均等割」の差
住民税の自治体ごとの差は、ほとんどが各都道府県の均等割の差によるものだ。
均等割は、都道府県民税の額が1000円になっている10都道県は増税がなく、残りの37府県は府県独自の増税が行われている。このような自治体独自の増税を「超過課税」と呼ぶ。市区町村で均等割の増税を行っているのは横浜市(横浜みどり税 900円)、神戸市(認知症対策 神戸モデル 400円)の2つの市だけだ。均等割の減税を行っているのは名古屋市のみ。200円の減税で市民税が2800円となっている。
超過課税を行っている37府県の増税額は、宮城県の1200円(みやぎ環境税)が最高額。大阪府の300円(大阪府森林環境税)が最少額。愛知、鳥取、広島、福岡などの500円が20県と半数以上を占めている。
鳥取県は令和6年から全国で始まった住民税の増税(=森林環境税)を考慮して、令和5年から税額500円はそのまま、県独自の「森林環境税」を新たな「豊かな森づくり協働税」に名称変更した。真面目に取り組んでいる感があり好ましい。同様に国の森林環境税と同じ名称の超過課税を行っている自治体のうち、大阪府と福岡県は令和7年から「大阪府森林環境税」「福岡県森林環境税」と名称変更を行っている。
自治体名 | 均等割 | 所得割 | 備考 | ||||
都道府県 | 市町村 | 都道府県 | 市町村 | 合計 | 都道府県 | 市町村 | 超過課税などの詳細 |
北海道 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
青森県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
岩手県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | いわての森林づくり県民税 1000円 |
宮城県 | - | 2200円 | 3000円 | 5200円 | 4.0% | 6.0% | みやぎ環境税 1200円 |
秋田県 | - | 1800円 | 3000円 | 4800円 | 4.0% | 6.0% | 秋田県水と緑の森づくり税 800円 |
山形県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | やまがた緑環境税 1000円 |
福島県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 1000円 |
茨城県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | 森林湖沼環境税 1000円 |
栃木県 | - | 1700円 | 3000円 | 4700円 | 4.0% | 6.0% | とちぎの元気な森づくり県民税 700円 |
群馬県 | - | 1700円 | 3000円 | 4700円 | 4.0% | 6.0% | ぐんま緑の県民税 700円 |
埼玉県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
千葉県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
東京都 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
神奈川県 | - | 1300円 | 3000円 | 4300円 | 4.025% | 6.0% | 水源環境保全税 300円、 県民税率 +0.025% |
神奈川県 | 横浜市 | 1300円 | 3900円 | 5200円 | 2.025% | 8.0% | 横浜みどり税 900円 |
新潟県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
富山県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 水と緑の森づくり税 500円 |
石川県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | いしかわ森林環境税 500円 |
福井県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
山梨県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 500円 |
長野県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 長野県森林づくり県民税 500円 |
岐阜県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | 清流の国ぎふ森林・環境税 1000円 |
静岡県 | - | 1400円 | 3000円 | 4400円 | 4.0% | 6.0% | 森林(もり)づくり県民税 400円 |
愛知県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | あいち森と緑づくり税 500円 |
愛知県 | 名古屋市 | 1500円 | 2800円 | 4300円 | 2.0% | 7.7% | 市民税均等割 -200円、市民税率 -0.3% |
三重県 | - | 2000円 | 3000円 | 5000円 | 4.0% | 6.0% | みえ森と緑の県民税 1000円 |
滋賀県 | - | 1800円 | 3000円 | 4800円 | 4.0% | 6.0% | 琵琶湖森林づくり県民税 800円 |
京都府 | - | 1600円 | 3000円 | 4600円 | 4.0% | 6.0% | 豊かな森を育てる府民税 600円 |
大阪府 | - | 1300円 | 3000円 | 4300円 | 4.0% | 6.0% | 大阪府森林環境税 300円 ※名称変更 |
兵庫県 | - | 1800円 | 3000円 | 4800円 | 4.0% | 6.0% | 県民緑税 800円 |
兵庫県 | 神戸市 | 1800円 | 3400円 | 5200円 | 2.0% | 8.0% | 認知症対策 神戸モデル 400円 |
兵庫県 | 豊岡市 | 1800円 | 3000円 | 4800円 | 4.0% | 6.1% | 市民税 +0.1% |
奈良県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 500円 |
和歌山県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 紀の国森づくり税 500円 |
鳥取県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 豊かな森づくり協働税 500円 ※名称変更 |
島根県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 水と緑の森づくり税 500円 |
岡山県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | おかやま森づくり県民税 500円 |
広島県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | ひろしまの森づくり県民税 500円 |
山口県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | やまぐち森林づくり県民税 500円 |
徳島県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
香川県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
愛媛県 | - | 1700円 | 3000円 | 4700円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 700円 |
高知県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 500円 |
福岡県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 福岡県森林環境税 500円 ※名称変更 |
佐賀県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 500円 |
長崎県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | ながさき森林環境税 500円 |
熊本県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 水とみどりの森づくり税 500円 |
大分県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 大分県森林環境税 500円 |
宮崎県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | 森林環境税 500円 |
鹿児島県 | - | 1500円 | 3000円 | 4500円 | 4.0% | 6.0% | みんなの森づくり県民税 500円 |
沖縄県 | - | 1000円 | 3000円 | 4000円 | 4.0% | 6.0% | - |
※赤文字は増税、青文字は減税、東京都などプラスマイナスのない標準課税は黒文字とした。 |
次に、47都道府県に市民税の均等割が標準課税でない横浜市(市民税 +900円、県民税 +300円)、神戸市(市民税 +400円、県民税 +800円)、名古屋市(市民税 -200円、県民税 +500円)を加えた50自治体を、均等割の高い順に分類してみた。
最高額の宮城県で年額1200円となるが、月額にして100円はそれほど大きな額ではない。近隣の岩手・山形・福島に引っ越しても年に200円の減税、青森・新潟なら年に1200円の減税となるが、そもそも各自治体の超過課税は数年後に増税・減税されるかもしれないので住民税を理由に引っ越す意味はないだろう。
- 均等割増税額 1200円
宮城県、(横浜市:300円+900円)、(神戸市:800円+400円) - 均等割増税額 1000円
岩手県、山形県、福島県、茨城県、岐阜県、三重県 - 均等割増税額 800円
秋田県、滋賀県、兵庫県 - 均等割増税額 700円
栃木県、群馬県、愛媛県 - 均等割増税額 600円
京都府 - 均等割増税額 500円
富山県、石川県、山梨県、長野県、愛知県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県 - 均等割増税額 400円
静岡県 - 均等割増税額 300円
大阪府、(名古屋市:-200円+500円) - 均等割増税額 0円
北海道、青森県、埼玉県、千葉県、東京都、新潟県、福井県、徳島県、香川県、沖縄県
住民税(所得割)の税率を上げている自治体は神奈川県と兵庫県豊岡市の2つ
均等割を増税している府県は37と半数を超えているが、住民税の所得割の税率を上げている(増税)のは神奈川県(+0.025%)と兵庫県豊岡市(+0.1%)の2つの自治体だけだ。都道府県民税、市町村民税の合計税率は通常10%だが、神奈川県民は10.025%、豊岡市民は10.1%となる。例えば課税所得(課税標準額)が100万円、200万円、400万円のそれぞれの所得割部分の増税額は、神奈川県民は250円、500円、1000円、豊岡市民は1000円、2000円、4000円と所得額に応じて増えていく。
夕張市の税率は?
かつて全国一住民税が高いと言われたのは財政破綻した北海道夕張市だった。市民税の均等割が+500円、所得割は+0.5%と兵庫県豊岡市の+0.1%を大幅に上回る税率だ。財政再生計画の見直しにより均等割の+500円を廃止、6.5%だった所得割の税率を6%(道民税と合わせて10%)に戻している(東京都と同じ)。これは当時、全国最年少で夕張市長となった鈴木直道氏(現:北海道知事)の手腕によるものと思われる。
住民税が安い自治体は名古屋市のみ
次に住民税の安い自治体も見てみよう。令和5年まで住民税の安い自治体で全国1位だった大阪府田尻町の町民税が標準課税に移行したため、住民税が安い自治体は名古屋市のみとなった。
名古屋市は市民税の均等割が-200円だが、愛知県の県民税が+500円なので東京都より300円増税となる。所得割の税率は名古屋市が-0.3%で7.7%。県民税の税率が2%なので計9.7%となる。名古屋市の課税所得(課税標準額)が100万円、200万円、400万円の所得割部分の納税額は、-3000円、-6000円、-1万2000円と所得額に応じて減税される。この減税額はそこそこ魅力的だと感じられる。
河村たかし市長時代にスタートした名古屋市の市民税の減税。市民税6%、県民税4%のときに市民税の6%の税率を5%(=0.3%)減税し5.7%となった。政令指定都市の税率が市民税8%、県民税2%に移行し、現在の税率は市民税7.7%(=-0.3%)、県民税2%となった。河村たかし氏が2024年に衆議院議員となり、空席となった名古屋市長に当選したのは河村たかし氏が推薦した広沢一郎氏。広沢一郎氏の選挙公約の1つが「市民税減税5%→10%」。実現すれば現在7.7%の税率が7.5%となる。ちなみに河村たかし市長から継承した政策の1つは、2830万円の市長報酬を800万円に減額する条例案で、市議会で可決・成立している。
課税所得ごとに「住民税が高い自治体」をランキング神奈川県民は高所得者ほど順位が上昇!?
均等割の増税は所得金額の影響を受けないが、所得割の税率による増税は高額所得者ほど増税額が大きくなる。そこで、51自治体(47都道府県+4市)における課税所得100万円、200万円、400万円の場合の住民税を算出してみた。
差額の欄は、東京都と同じく増税・減税のない10都道県は0円となっている。所得割の税率(10%)に差がないほとんどの自治体は課税所得が100万円、200万円、400万円と増えても東京都との差額はずっと一定だ。例えば宮城県は課税所得が100万円でも200万円でも400万円でも差額は1200円。大阪府はずっと300円だ。
所得割の税率が10%より高い神奈川県、兵庫県豊岡市、10%より低い名古屋市の3自治体は課税所得が増えると差額が大きくなっていく。
では、課税所得ごとに、住民税が高い順に自治体を並べたランキングを見ていこう。
まず課税所得100万円のランキングは、1位が兵庫県豊岡市、2位が神奈川県横浜市、3位タイで宮城県と兵庫県神戸市と続く。豊岡市は年間10万6800円で、これは東京都(41位タイ)の10万5000円よりも1800円高い。横浜市は同じく1450円高い10万6450円、宮城県と兵庫県神戸市は1200円高い10万6200円。
次に課税所得200万円の場合のランキング。こちらも1位が豊岡市(20万7800円)、2位が横浜市(20万6700円)、3位タイで宮城県と神戸市(20万6200円)という順位は変わらない。東京都(20万5000円)との差額は、それぞれ+2800円、+1700円、+1200円。注目されるのは、県民税の所得割の税率が増税されている横浜市を除く神奈川県(20万5500円)のランキングが、課税所得100万円のときの18位タイから11位タイに上昇している点だ。
最後は課税所得400万円の場合のランキング。1位の豊岡市(40万9800円)、2位の横浜市(40万7200円)は不動のワンツーだが、神奈川県(40万6300円)が3位に上昇した。東京都(40万5000円)との差額はそれぞれ+4800円、+2200円、+1300円。
神奈川県民は18位→11位→3位と上昇、どこまで順位が上がるのか心配されたかもしれない。2位の横浜市民と3位の横浜市以外の神奈川県民の差は、横浜市が増税している「横浜みどり税 900円」によるもので、この差は所得が増えてもずっと900円のまま。2位横浜市、3位神奈川県の順位は課税所得がさらに増えても逆転することはない。
横浜市の住民税は高いが、SNSで「横浜は、特定健診は全員無料で非課税 or 均等割のみ or 後期高齢者はがん検診も無料、ごみ袋は自由。」とコメントをいただいた。こうした住民サービスの充実は、住民税の差額よりも価値は高いと思う。
住民税のランキング、実際の税額の差については以上だ。住民票を置く自治体によって住民税に差はあるが、住民税を理由に住む自治体を選ぶ必要はないだろう。もし回りの年長者が住民税の都市伝説を話し始めたら、やんわりと「月に100円程度の差ですよ」と正しい情報を伝えていただきたい。
この先は雑談レベルの内容なのでお時間のある人はお付き合いいただきたい。住民税の差額ではなく、指定ゴミ袋、自治体の裕福度、住民サービスなど自治体選びの可能性を考えてみたい。
住民税の差額を指定ゴミ袋の差額が上回ることも
筆者は昨年12月に岐阜県加茂郡白川町という山奥の町に移住した。移住前の12年間は神奈川県川崎市にオフィス兼住居を借りていた。だが、筆者の住民票は自宅マンションのある名古屋市で、ずっと名古屋市民だ。住んでみて感じる自治体の差をお伝えしよう。
名古屋市、川崎市、白川町で住民税を比較してみよう。表は税金の安い名古屋市を基準として、課税所得100万円、200万円、400万円の川崎市、白川町の年間の差額だ。川崎市と白川町の差は数百円と小さい。課税所得400万円では名古屋市より川崎市は1万3000円高く、白川町は1万2700円高い。実際に3つの自治体に住んでみると、住民税だけではない違いを感じることはある。
課税所得 | 名古屋市 | 川崎市 | 白川町 |
100万円 | - | 3250円 | 3700円 |
200万円 | - | 6500円 | 6700円 |
400万円 | - | 1万3000円 | 1万2700円 |
日常の小さなことではゴミ袋。川崎市は指定のゴミ袋はなく、レジ袋がそのまま使用できる(住民税が高いお隣の横浜市も指定ゴミ袋なし)。白川町は指定ゴミ袋で価格も高めとなっている。名古屋市は指定ゴミ袋だが、メーカーが複数あり価格もまちまちで安め。スーパ-、ドラッグストア、ホームセンターやネット通販でも販売されている。
筆者は移住して約半年。一人暮らしの筆者が使用した指定ゴミ袋代は2000円ほど。年間4000円は、ほとんどの自治体の住民税の差額よりも大きい。大家族でゴミの量が多い人は住民税よりも自治体の指定ゴミ袋の価格を気にした方がいいかもしれない。
住民税が安い「名古屋市」の市民として
名古屋市民は住民税が安くていいことずくめなのかを考えてみた。川崎市在住のころ、名古屋市民として不満を感じていたのはマイナンバーカードによる住民票などのコンビニ交付ができないこと。政令指定都市で唯一、名古屋市だけが未対応。これに関する名古屋市の回答は「コンビニ交付の導入には、システムの改修等が必要となるため、令和6年度に調査を行い、令和8年度中の導入を予定しております」とのことだ。
補足すると、筆者は移住のため不動産購入の手続きに住民票が必要となった。その際に知ったのが「広域交付住民票」。これは住民登録をしている市区町村以外の全国の市区町村窓口で住民票が取得できる制度で、20年以上前から対応が始まっていたらしい。川崎市の区役所で名古屋市の住民票を取得することができ、コンビニほど近くはなかったが「助かった~」と思った。
筆者が名古屋市から住民票を移動しない理由は、住民税の安さもあるが、それ以上に重視しているのは無料の「名古屋市国民健康保険 特定健診」だ。名古屋市民で国民健康保険に加入していると、年に一度「特定健康診査」を無料で受けることができる。SNSで知り合いのライターさんのコメントを見ると自費で診断を受けている人もいて、自治体の差がありそうだ。川崎市は無料だが「令和元年度から無料になりました」と記載されている。筆者は起業した十数年前からずっと無料。健康診断はそこそこ費用がかかるので、住民税の差は簡単に逆転できる。自営業の人はチェックする価値はありそうだ。
名古屋市の減税は魅力的ではあるが、地元民として土地勘・肌感で思うに、近隣の豊田市、日進市、大府市、東海市、長久手市などから名古屋市内に引っ越せば確かに税金は安くなるが、住居費(アパート、分譲住宅、駐車場など)の増加は減税分を上回る可能性が高い。
価値観は人それぞれだと思うが、名古屋市は都会過ぎず、田舎過ぎず、トータルバランスで住みやすいと筆者は思っている。
岐阜に移住してローカルなニュースを目にする機会が増えた。その1つが愛知県知多郡武豊町で初当選した鳥羽悠史町長(40歳)の町民税の5%減税公約だ。武豊町は後述する不交付団体で、JERA武豊火力発電所など大規模な事業所もあり裕福な自治体だ。首長が減税を謳うと議会が反対するのが定番で、果たして実現するか注目している。
住民税の一番高い「兵庫県豊岡市」とは
住民税の一番高い兵庫県豊岡市。初めて自治体の名を聞いた読者がいるだろう。そこには何があるの? なぜ住民税が高いの? そもそもどこにあるの?……疑問にお答えしよう。
日本一住民税の高い兵庫県豊岡市は、兵庫県の北東の端、北は日本海、東は京都府に面した自治体だ。兵庫県で最も面積が大きな自治体で、日本で最後の野生コウノトリの生息地とのこと。人口約7万2000人の市が日本一住民税の高い自治体となった理由は「都市計画税の廃止に伴い、平成21年度から超過課税を適用しています」としたためだ。どういうこと?
家を購入した人は固定資産税と都市計画税を納めていると思う。このうち都市計画税を廃止し、市民税の所得割の税率を6.0%から6.1%に引き上げている。
筆者は毎年4月に納付している名古屋の自宅マンションの「固定資産税・都市計画税課税明細書」と、今年から納付することになった白川町のオフィス兼住居の「固定資産税課税明細書」を見てみた。白川町の物件は都市計画区域外なので都市計画税はなし。名古屋市のマンションは土地と家屋それぞれの価格、固定資産税課税標準額、都市計画税課税標準額、税相当額などが明記され、別紙「納税通知書」に固定資産税と都市計画税の納税額が記載されている。
都市計画税の算出根拠は理解していないが、手元にある通知書の都市計画税の金額がゼロ円になるなら、市民税所得割の税率が0.1%増税されても、トータルの納税額は減りそうな印象だ。
豊岡市の住宅事情は認識していないが、豊岡市の市民で自宅を購入していて、これまで都市計画税を納税していた人はこの部分が減税、市民税所得割が増税され、減税分の金額が上回っていれば得となる。固定資産税・都市計画税は立地に左右される。例えば駅近の物件で不動産価値が高ければ都市計画税の廃止はかなり美味しい。都市計画区域外に住んでいる人や、アパートなどの賃貸物件に住んでいると都市計画税廃止の恩恵はなく増税されるだけだ。大都市圏と比べると地方都市は持ち家の率が高くなるので、この日本一高い住民税という市民税の改正は豊岡市の多くの住民にとってウェルカムかもしれない。
裕福な自治体はどこ?
自治体ごとの住民税の差は少ないが、裕福な自治体は住民サービスが充実している可能性が高い。引っ越し先、永住先の選択肢として、「裕福な自治体」はどこかを考えてみたい。
「地方交付税」という言葉を聞いたことがあるだろうか。国から財政が厳しい地方の自治体に支給されるお金だ。次の図は地方交付税を受け取っていない「不交付団体(=財政的に自立している自治体)」の数の推移。令和6年度の不交付団体は83、全国1700超の自治体の中で5%以下だ。この不交付団体の資料は毎年7月下旬に公開される。もうしばらくすると今年、令和7年度の不交付団体を知ることが可能だ。
47都道府県では東京都のみ。市町村で不交付団体となったのは以下の表の自治体だ。都道府県ごとの自治体数が最も多いのは愛知県の19、毎年ブッチギリの1位だ。やはりトヨタの影響力は絶大と思われる。以下、東京都が10、千葉県が8、神奈川県が7となっていて、22都道府県に不交付の自治体がある。この不交付団体となっている自治体は、「裕福な自治体」だと思われる。
「うーん、自分の住む県には1つもないんだけど」という読者がいると思う。もう少し深掘りしてみよう。不交付団体となる指標は「財政力指数」。財政力指数が1.0を超えることが地方交付税の不交付団体となる目安らしい。
総務省の「令和5年度地方公共団体の主要財政指標一覧」に「指標の説明」「指標のみかた」があるので、算出方法・算出式などはそちらを見ていただきたい。財政力指数の説明を抜粋すると「収入額/需要額の過去3年間の平均値で、財政力指数が高いほど財源に余裕があるといえる」とある。
都道府県と市町村のExcelファイルがダウンロードできる。都道府県の財政力指数の一部を見ると、東京都が1.10で唯一の1.0超え。都道府県で東京都だけが不交付団体となっている。
順位 | 都道府県名 | 財政力指数 |
1 | 東京都 | 1.10 |
2 | 愛知県 | 0.86 |
3 | 神奈川県 | 0.84 |
4 | 千葉県 | 0.74 |
5 | 大阪府 | 0.73 |
全国の市町村の上位を見ると、愛知県の飛島(とびしま)村が1.94で断トツの1位。青森県六ケ所村、福島県大熊町、北海道泊村、新潟県刈羽村、茨城県東海村と原発関連の自治体が上位となっている。
順位 | 都道府県名 | 市町村名 | 財政力指数 |
1 | 愛知県 | 飛島村 | 1.94 |
2 | 青森県 | 六ケ所村 | 1.61 |
3 | 長野県 | 軽井沢町 | 1.52 |
4 | 東京都 | 武蔵野市 | 1.51 |
5 | 福島県 | 大熊町 | 1.46 |
6 | 北海道 | 泊村 | 1.44 |
7 | 千葉県 | 浦安市 | 1.42 |
8 | 新潟県 | 刈羽村 | 1.39 |
9 | 茨城県 | 東海村 | 1.38 |
10 | 福島県 | 広野町 | 1.34 |
1位の飛島村をGoogle マップで見ると、北部は農地と住宅地、南部の名古屋港の埋立地はコンテナターミナルとなっていて、2023年に発生したランサムウェアによるシステム障害が記憶に新しい。埋立地には「トヨタ自動車 飛島物流センター」「三菱重工業 名古屋航空宇宙システム製作所 飛島工場」など著名企業の施設があり、固定資産税、法人税などの税収により財政力指数が全国1位になっていると思われる。
不交付団体が1つもない県は26県。例として筆者が移住した岐阜県の自治体を見てみよう。岐阜県には42自治体があり、ベスト5、ワースト5は以下となる。財政力指数は1.0を超えないが、上位は岐南町、各務原市、大垣市などとなっている。最下位の42位は東白川村、筆者が移住した白川町は40位、白川郷で有名な白川村は39位だ。お住まいの都道府県内の財政力指数を確認すると、県内の裕福な自治体=住民サービスのよい自治体の目安になるかもしれない。
順位 | 都道府県名 | 市町村名 | 財政力指数 |
1 | 岐阜県 | 岐南町 | 0.89 |
2 | 岐阜県 | 各務原市 | 0.85 |
3 | 岐阜県 | 大垣市 | 0.83 |
4 | 岐阜県 | 岐阜市 | 0.82 |
5 | 岐阜県 | 可児市 | 0.81 |
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38 | 岐阜県 | 郡上市 | 0.32 |
39 | 岐阜県 | 白川村 | 0.32 |
40 | 岐阜県 | 白川町 | 0.27 |
41 | 岐阜県 | 七宗町 | 0.24 |
42 | 岐阜県 | 東白川村 | 0.15 |
住民サービスの方向性はそれぞれ。子育て関連を重視する自治体もあれば、図書館・美術館など文化関連を重視する自治体もあると思う。太陽光発電の補助金、電気自動車の補助金など、財源にゆとりのある自治体は補助金なども充実している可能性が高い。筆者が重視した名古屋市の無料の国民健康保険 特定健康診査も住民サービスの1つだ。財政力指数は1つの目安として、ご自身のライフスタイルに合う自治体を見つける際の参考にしていただきたい。
住民税の地域差はネタとしては面白いが、ほとんどの地域で大差はない。一人歩きする住民税の都市伝説を少しでも訂正するため、来年以降も正しい情報をお伝えしよう。そして今回も最後にお願いをしたい。筆者は執筆した記事に対するコメントを全て読ませていただいて参考にしている。住民税に関しては全国1700を超える自治体の情報を調べることは困難なので、読者の中に「自分の住む町は税金安いよ」「住民サービスが充実している」などの情報をお持ちの人は、この記事の最上段のX(旧Twitter)などでコメントを寄せていただけると幸いだ。
※「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。関連記事インデックス『サラリーマンと個人事業主の“税金の話”まとめ』よりご参照ください。