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あなたの住民税、なぜその金額? 計算方法と住民税決定通知書の見方を徹底解説【2023年(令和5年)版】

「ふるさと納税」による控除額の確認方法も紹介

令和5年度(2023年度)の住民税決定通知書・変更通知書、市民税・県民税課税明細書

 サラリーマンの人は今月(6月)の給与明細と一緒に住民税の決定通知書を受け取るはずだ。個人事業主は住民税明細書と納付用紙(納税通知書)が6月上旬に郵送され手元に届いているだろう。

 受け取った通知書・明細書はお住まいの市区町村や、会社員か自営業かにより少し名称は異なるかもしれない。筆者(個人事業主)が住民票を置く愛知県名古屋市は「令和5年度 市民税・県民税 課税明細書」、INTERNET Watch編集部の人(会社員=給与所得者)が住む東京都町田市は「令和5年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」と書かれている。

令和5年度 市民税・県民税 課税明細書(愛知県名古屋市)
愛知県名古屋市の個人事業主「令和5年度 市民税・県民税 課税明細書」
令和5年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書(東京都町田市)
東京都町田市の会社員「令和5年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」

 通知書・明細書には「所得割額」「均等割額」「調整控除額」など、なじみのない言葉や算出根拠の分からない金額が書かれている。国に納める所得税の源泉徴収票は全国一律でフォーマットは共通、「源泉徴収票の見方」などで検索すると解説記事は多数見つけることができるが、住民税は自治体ごとにフォーマットに差異があり、現物を見せてもらうと形もサイズもさまざま。通知書の見方を掲載している自治体も少ない。「住民税の見方」などで検索しても自治体による違いに加え、所得税より複雑なので分かりにくい印象だ。

 受け取った住民税の通知書・明細書、あるいは給与明細の所得税と住民税の金額をジックリ見ると、さまざまな疑問を持つ人がいるだろう。

  • いつも所得税より住民税が高いんだけど……なぜ?
  • 所得税は前年より減ってるのに住民税は増えてる……なぜ?
  • 6月だけ住民税がチョット高い……なぜ?
  • 新卒から入社2年目、突然、住民税の天引きが始まった……なぜ?
  • 自分が住む○○市は住民税が高いらしい……なぜ?

 この記事では、こうした住民税に関するさまざまな「なぜ?」を解き明かしたい。最初にお伝えしておくと、“この記事はやたら長い”。到達点として最後まで読まれた人はご自身の通知書に書かれた「市民税所得割」「県民税均等割」「調整控除」などが算出できて納税額がピターッと合うことを目指している。「そこまで詳しく知る必要はない」「ふるさと納税の確認がしたい」という人は目次から必要そうな項をツマミ読みしていただきたい。来年、令和6年から住民税は全国民が増税されることも決まっている。「えっ、知らない」という人にも住民税に関する様々な情報をお伝えしよう。

[目次]

  1. 住民税とは
  2. 住民税はいくら納める?〔住民税額の計算方法〕
    -住民税は「所得税」から始まる
    -住民税は「所得割額」+「均等割額」
    -住民税の主役「所得割額」の計算式は所得税に似ている
    -「調整控除」は住民税の分かりにくさの象徴=負の遺産
    -「所得割」を源泉徴収票から計算してみよう
    -「年収」と「所得」は、源泉徴収票も住民税通知書も同じ金額
    -「所得控除」は所得税と住民税で控除額に差があり、要注意
    -負の遺産、超~分かりにくい「調整控除額」を計算する
    -市民税・県民税の「所得割額」を計算しよう
    -県独自の超過課税で差がある「均等割額」
    -「均等割額」の計算は簡単
    -「ふるさと納税」を確認する
  3. あなたの住民税をサクッと計算!〔住民税額シミュレーションツール〕
    -「住民税額シミュレーションツール」で半年前に納税額が分かる
  4. 住民税はいつから納める? パートやアルバイトは?〔住民税の注意点〕
    -住民税の納税時期、「普通徴収」と「特別徴収」
    -住民税の「時間差攻撃」に注意
    -スマホで納税「eL-QR」がスタート
    -住民税はいくらまで非課税? パートやアルバイトは注意しよう
  5. 最後に
    -住民税の「復興特別税」は令和5年度まで
    -令和6年から始まる住民税の増税
    -環境名目の自治体の超過課税はどうなる

1.住民税とは

 住民税とは地方税の1つで、1月1日に住民票のある住所地で課税される。住民税は都道府県民税と市町村民税(例えば東京都町田市の場合は都民税と市民税)に分かれているが、合算して納税し、後に分配されるため、納税者は県民税・市民税を意識することはなく、2つ合わせたものを住民税という。東京23区は特別区という扱いで都民税と特別区民税に分かれている。法人が事務所または事業所所在地に申告・納税する法人住民税もあるが、“住民税”というと“個人住民税”を表すことが一般的だ。

所得税は「国税」、住民税は「地方税」。消費税はどっち?

 所得税は国税に分類され、国に納める税金。住民税は地方自治体に納める地方税。では、消費税はどっち? 消費税は国税である“消費税”と地方税である“地方消費税”に分かれていて、10%の消費税の内訳は国税分の消費税が7.8%、地方消費税が2.2%で合算して10%となっている。食品など軽減税率8%の内訳は国税分が6.24%、地方消費税が1.76%となっている。

2.住民税はいくら納める?〔住民税額の計算方法〕

住民税は「所得税」から始まる

 会社勤めの人は昨年の10月下旬から12月上旬によく分からない年末調整の書類を出したはずだ。その際、家族構成や加入している生命保険などを記載したと思う。その情報を元に令和4年分の所得税が計算され、12月の給料で1年間の所得税の納税が完結する。

 その所得税の明細を記載したものが源泉徴収票だ。源泉徴収票は社員に配られ、会社から税務署と各社員の住居地の市町村に送られる。受け取った各自治体は市町村民の住民税を計算し住民税の通知書を会社に送り、6月の給与明細と一緒に社員に配られる。これが一連の流れだ。

 この流れを見ると、住民税は所得税がベースになっていることが分かる。住民税より所得税の方が少しだけ分かりやすい。加えて住民税の所得割の計算方法は所得税の計算方法に近い。なので、住民税だけ理解するよりは、所得税とセットで理解することをお勧めしたいし近道だと思う。お時間のある人は今年1月に掲載した『詳しく解説! 1分でも分かる!「源泉徴収票」の見方を図解で説明【令和4年(2022年)分】』を一読いただきたい。

住民税は「所得割額」+「均等割額」

 住民税は「所得割額」と「均等割額」を合算したものが納税額となる。所得割額はその計算方法が所得税に似ていて、所得が多い人ほど納税額も多くなる。多くの人は均等割額より所得割額が高額になるので、住民税の主役的な存在だ。均等割額は所得に関わらず、同じ自治体に住む納税者であれば、所得が100万円の人も1000万円の人も同額を納税する。

 さらに所得割額、均等割額は都道府県民税と市町村民税に分けられる。具体的には埼玉県さいたま市の人が納めるのは県民税と市民税、大阪府摂津市の人は府民税と市民税、岐阜県加茂郡東白川村の人は県民税と村民税、東京都町田市の人は都民税と市民税、東京23区は特別区なので都民税と特別区民税となる。

住民税=所得割額+均等割額
住民税を簡単に分けると所得割と均等割、細かく分けると市民税の所得割、県民税の所得割、市民税の均等割、県民税の均等割の4つとなるが、合算した住民税の額は同じ

 この記事では毎回、都道府県民税、市町村民税と表記するのは長いので、基本は県民税と市民税(町田市の事例は都民税と市民税)と表記したい。道民、府民、特別区民、町民、村民などと、適宜ご自身が居住する自治体に応じて読み替えていただきたい。

住民税の主役「所得割額」の計算式は所得税に似ている

 住民税の主役と言える所得割額をサラリーマンを例に説明していこう。所得割額は以下の計算式で算出できる。住民税の所得割額はその下の所得税の計算式と全体の流れはほぼ同じだ。

住民税の所得割額の計算式
所得税の計算式

 所得割額と所得税の計算式の①行目[給与の収入金額-給与所得控除=給与所得]は同じだ。②行目の[給与所得-各種所得控除=課税所得]は式はほぼ同じだが、各種所得控除の金額が住民税(所得割額)と所得税で異なっている。令和5年(2023年)の住民税は令和4年(2022年)分の所得から算出するので、令和4年の所得税との控除額の違いを見てみよう。

住民税と所得税の所得控除額の違い

 表を見ると住民税の控除額は所得税より少ない。控除額が少ない=課税所得(課税標準額)が増える=所得税より(税率が同じなら)納税額が増えるということだ。代表的な控除を見ると、基礎控除は5万円少なく、扶養控除の一般は5万円、特定(ほぼ大学生)は18万円少ない。扶養控除は所得税も年齢と控除額の関係が複雑だ。その複雑な所得税の扶養控除に対し、住民税は差額が5万円、10万円、13万円、18万円と輪を掛けて複雑になっているので、言葉で説明するより図を見ていただいた方が少し分かりやすいだろう。

住民税と所得税の扶養控除額の違い

 ③行目[課税所得×税率(10%)=所得割]の税率は、一部例外な地域はあるが基本は10%。所得税のように課税所得に応じて5%、10%、20%……と累進することはない。所得税より分かりにくい住民税で、唯一分かりやすいのが税率かもしれない。

住民税と所得税の税率の違い

いつも所得税より住民税が高いんだけど

 所得税は課税所得が195万円以下であれば税率が5%。所得税と住民税は控除額の差で課税所得は同じにならないが、課税所得が195万円以下の人は税率が10%の住民税の納税額が多くなる。毎月天引きされる住民税が所得税より高い人は(時間差もあるが)税率の差と理解しよう。所得が増えると累進課税の所得税の納税額が住民税を上回ることになる。

 ほぼ一律10%の税率の内訳は市民税が6%、県民税が4%が基本。極一部に例外があり、都道府県では神奈川県が全国で唯一税率が高く10.025%だ。内訳は市民税が6%、県民税が4.025%となっている。市町村では名古屋市と大阪府田尻町が減税で税率を下げ、兵庫県豊岡市が増税で税率を上げている。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(神奈川県逗子市)
神奈川県逗子市は市民税が6%、県民税が4.025%で計10.025%となっている

政令指定都市は「市民税と県民税の配分」が違う

 話を複雑にして申し訳ないが、平成30年(2018年)から政令指定都市(地方自治法では「指定都市」)20市は市民税と県民税の税率の比率を6対4から8対2に変更した。従来の市民税の税率が6%から8%、道府県民税の税率が4%から2%となっている。

 宮城県仙台市は市民税が8%、県民税が2%、埼玉県さいたま市も市民税が8%、県民税が2%といった感じだ。以下の20市の人は市民税と県民税の比率が基本8対2なので注意しよう。指定都市移行順に大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市、熊本市が対象だ。

 例外は先ほど説明した横浜市と名古屋市。横浜市は市民税が8%、県民税が2.025%で計10.025%、名古屋市は市民税が0.3%低いので市民税が7.7%、県民税が2%で計9.7%となっている。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(神奈川県横浜市)
基本は8%対2%だが、横浜市は8%対2.025%
市民税・県民税の税率についてのウェブページ(名古屋市)
名古屋市は7.7%対2%

「調整控除」は住民税の分かりにくさの象徴=負の遺産

 住民税は市民税(所得割、均等割)と県民税(所得割、均等割)を合算したものが納税額となる……のだが、調整控除という理解しづらい計算が残されている。住民税の分かりにくさの象徴と言えるのが調整控除だ。筆者の名古屋市の「市民税・県民税 課税証明書」の調整控除の項目にはよく分からない計算式が書かれている。

「市民税・県民税 課税証明書」の調整控除の項目

 調整控除とは何か。時は平成19年(2007年)にさかのぼる。この年、所得税(国税)の税率を下げ、住民税(地方税)の税率を上げ、国から地方へ税源移譲が行われた。ザックリ言うと、当時は(今も?)お国がやや金持ち、地方が貧乏で国から地方へお小遣い(交付金)を渡していた。そこでお国の税収(所得税)を減らして、地方の税収(住民税)を増やせば、地方はお小遣いをもらわなくてもいいよね、的な考えで税源が国から地方へ移譲された。

住民税と所得税の税率の変更について(国税庁ウェブサイト)
平成19年から所得税と住民税の税率が変更された(国税庁ウェブサイトより)

 具体的には税率の見直しが行われ平成19年1月から所得税が減り、平成19年6月から住民税が増えた。これにより3兆円の税源が国から地方へ移譲されたらしい。

 この際に面倒なことが起こった。それまで所得税の税率10%、住民税の税率5%の部分が平成19年から逆の所得税5%、住民税10%(一律)になった。前述のように所得税より住民税の控除が少ないため納税額が増えてしまう(=増税)。これを解消するために調整控除なるものが施行され、結果として16年経った今も負の遺産として面倒な計算が必要とされている。

税源移譲で地方は国に頼らず自立した? 健全化された?

 余談だが国からお小遣いをもらっていない「不交付団体の状況」というPDFが総務省のサイトに掲載されている。国に頼らない不交付団体数の推移のグラフを見ると、税源の移譲が行われた平成19年は142と増えているが、リーマンショック後の平成22年(2010年)には42と激減、その後はジワジワと改善される(数が増える)も、令和になり減少し令和3年はわずか54団体が不交付となっている。新型コロナからの回復なのか令和4年は73団体と改善の兆しはあるが、1700超の市区町村のうち不交付団体が数%しかない現状は、住民税の税率を上げた程度では効果が足りないようだ。筆者の個人的な感覚としては、交付金を出す省庁と受け取る地方自治体の関係は、時として「言うことを聞かないと交付金を減らすぞ」的な不適切なパワーバランスを生みかねないので、消費税の国民負担はそのまま、国税分の消費税の率を下げ地方消費税の率を上げるなど別な施策が必要な気がする。

不交付団体数の推移グラフ

 不交付団体の内訳を見ると都道府県ではずっと東京都のみ。残りの46道府県は国から交付金をもらっている。都道府県ごとの不交付自治体数を見ると千葉県8自治体、東京都11自治体、神奈川県7自治体となっていて、最も不交付自治体が多いのは愛知県の16自治体だ。逆に半数を超える25の県はゼロとなっている。

 市町村名で目に付くのは北海道泊村、青森県六ヶ所村、福島県大熊町、茨城県東海村、新潟県刈羽村、福井県美浜町・高浜町、佐賀県玄海町などで、原子力発電関連の施設を誘致すると電源立地地域対策交付金(通称:原発交付金)などに加え、関連企業を含む人口と雇用の増加、個人住民税・法人税、固定資産税の増加、道路などのインフラ、防災整備など劇的に町や村は裕福になることが垣間見える。

 では実際に源泉徴収票を見ながら住民税の所得割額から計算してみよう。こと細かな計算は不要という人は「均等割額」の説明までジャンプしていただきたい。

▼県独自の超過課税で差がある「均等割額」へジャンプする

「所得割」を源泉徴収票から計算してみよう

 所得割を計算してみよう。会社員の人は、ご自身が1月に受け取った「令和4年分 給与所得の源泉徴収票」と、6月の給与明細と一緒に受け取った「令和5年度 給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」を用意して、照らし合わせて計算すると理解も深まるし、ピタッと計算が合うと快感が得られるだろう。

 源泉徴収票の例は1月に掲載した『詳しく解説! 1分でも分かる!「源泉徴収票」の見方を図解で説明【令和4年(2022年)分】』で事例とした河野一太郎氏の源泉徴収票を使用する。

令和4年分 給与所得の源泉徴収票

 千代田区の令和5年度の通知書のフォーマットが見つからなかったので、住民税の通知書の記入例は町田市のフォーマットを使用したい。表記が特別区民税ではなく市民税になるが、それ以外は特に差はないだろう。

令和5年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書

「年収」と「所得」は、源泉徴収票も住民税通知書も同じ金額

 所得割額の計算式に沿って源泉徴収票と住民税の通知書を見比べながら確認していこう。

所得割額の計算式

 ①行目の式は収入から給与所得控除を引き、所得を計算する式。給与所得控除は以下の表の計算式で求められる。この計算式は、基礎控除の改正とともに住民税は令和3年から(所得税は令和2年から)改正されている。

給与所得控除の計算式

 年収650万円の河野さんの給与所得控除の額は174万円(=650万円×20%+44万円)。給与所得控除後の金額(=給与所得)は476万円(=650万円-174万円)、源泉徴収票のブルーの部分だ。同じ金額が住民税の通知書にも記載されている。会社以外に所得がなければ給与所得と同額が右下の総所得金額①に記載される。

源泉徴収票に記載された支払金額と給与所得控除後の給与所得金額
源泉徴収票は会社から見た「支払金額」と表記されている。社員から見ると年収
住民税決定通知書に記載された総所得額
住民税通知書も同じ金額が記載されている。他に所得がなければ給与所得=総所得金額

 ご自身の源泉徴収票を見ながら「支払金額は638万2000円だから、給与所得控除後は……」などと計算すると、源泉徴収票、住民税通知書に書かれた額と微妙に差異が発生した人がいるはずだ。

 年収660万円未満の人の給与所得控除後の金額の算出は「令和4年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(PDF)という速算表を使用してほしい。表の638万2000円の部分を見てみよう。

「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」の一部

 年収638万円以上638万4000円未満の人の給与所得控除後の金額は466万4000円となっていて、年収が638万1000円でも638万2000円でも一律466万4000円となる。これが微妙な差異の原因だ。そろばんの時代には、1円単位の細かな計算をするより速算表の方が便利だったと思われ、その時代のルールが今も続いている。

 ご自身の源泉徴収票を正確に計算したい方は、この速算表で確認していただく方法が1つ。もう1つは国税庁の給与所得控除のページの下段にある給与収入から所得を計算するサービスだ。これなら年収の金額が1円単位まで細かくなっていても、サクッと所得が計算できる。

国税庁のウェブサイトにある給与収入から所得を計算するサービス
年収を入力して[計算する]をクリックすると所得金額が表示される
国税庁のウェブサイトにある給与収入から所得を計算するサービスのスマートフォン版画面
スマホでも年収から所得の計算ができる

「所得控除」は所得税と住民税で控除額に差があり、要注意

 ②行目の式[給与所得-各種所得控除=課税所得]は各種所得控除の金額から計算しよう。前述のとおり住民税の控除額は所得税より少ないので、控除額の計算を間違わないように要注意だ。計算が面倒な生命保険料控除は特に注意したい。

 生命保険の控除は、平成23年(2011年)以前に契約した保険が「旧制度」、平成24年(2012年)以降に契約した保険が「新制度」となっている。さらに旧制度は「一般生命保険」(医療保険を含む)と「個人年金保険」の2種類、新制度は「一般生命保険」「個人年金保険」に「介護医療保険」を加えた3種類で、新旧合わせて5種類に分類されている。

生命保険の旧制度と新制度における所得控除限度額の違い

 計算式は以下の表を参照。上段が所得税、下段が住民税となっている。年末調整で計算して記入したときのことを思い出していただきたい。それぞれの控除額も上限額も住民税の控除は減ることになる。

所得税の生命保険料控除額と住民税の生命保険料控除額の計算式

 いざ計算しようとして「生命保険、いくら払ってた?」と思った人は、源泉徴収票を確認しよう。摘要欄の下に記載されているのが生命保険料の支払い額。事例では旧生命保険が12万円、介護医療保険が9万円、旧個人年金保険が12万となっている。

 所得税控除はそれぞれ5万円、4万円、5万円で3つの控除額の合計は14万円だが、摘要欄の上の生命保険料の控除額には合計上限額の12万円と記載されている。生命保険料の控除額の左側は社会保険料控除(厚生年金、健康保険など)、右側は地震保険料控除だ。

源泉徴収票に記載された社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、生命保険料の支払額
上段は左から社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除。下段は支払った生命保険料(赤線)

 住民税通知書は所得控除の左列に社会保険料 96万円(所得税と同額)、生命保険料控除は3万5000円、2万8000円、3万5000円で合計9万8000円だが合計上限額の7万円となっている。

 地震保険料控除は、所得税では5万円が上限で支払った保険料の全額、住民税では2万5000円が上限で支払った保険料の半額となり、地震保険料の控除額は5000円と記載されている。

住民税決定通知書に記載された社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除
社会保険料控除は所得税と同額だが、生命保険料は上限7万円。地震保険料控除は所得税の半額に減っている

 控除の最後は人的控除。源泉徴収票は「控除対象配偶者の有無等」の有に○があり、右側の控除額が38万円となっている。

 その右側は特定(特定扶養親族)が1となっているので、ほぼ大学生の子どもが1人いる。老人の3枠は、真ん中の1は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、左側の「内」に1とあるのは老人扶養親族のうち、同居老親が1人いることを表している。

 老人の右側のその他の欄は高校生や成人など一般の扶養親族の人数で事例は0人。右端の「16歳未満扶養親族の数」は16歳未満の子どもの人数で控除の対象とならない。所得税では特定扶養親族は63万円、同居老親は58万円となるが、源泉徴収票には金額の記載がなく不親切だ。

源泉徴収票の人的控除の記載欄

 住民税通知書も右側の「控配」は控除対象配偶者の意味で、「*」があるのは、控除対象となる配偶者がいることを表している。さらに右側の扶養親族該当区分は、特定、同老、老人、16歳未満は源泉徴収票と同じ内容を表している。控除額は配偶者が33万円、扶養は特定扶養親族の45万円と同居老親の45万円を合計して90万円と記載されている。基礎控除は令和3年分から10万円増えたので43万円となっている。

住民税決定通知書の人的控除の記載欄

 河野さんの事例の所得税と住民税の控除額の差を確認しておこう。支払った全額が控除となる社会保険料控除(96万円)だけ同額で、それ以外は軒並み控除が減り、合計額は269万5000円となった。所得税の控除額の合計が316万円なので46万5000円も控除が減ることになる。もし所得税と住民税の控除額に差がなければ、税率10%分の4万6500円も住民税は減る(減税)。

住民税と所得税の各種控除額と差額

 ①行目の式で計算した所得の476万円から、控除額の合計の269万5000円を引くと課税標準所得の206万5000円が算出され、②行目の式が完成する。住民税通知書では中央の最上段、課税標準の総所得③に記載されている。この事例は切りの良い数値となっているが、端数が出た場合1000円未満は切り捨てとなる。

住民税決定通知書に記載された所得控除額の合計、所得から控除を引いた課税標準 総所得
赤枠、左上の476万円が所得、下の269万5000円が所得控除額の合計、所得から控除を引いた課税標準 総所得が右上の206万5000万円となる

負の遺産、超~分かりにくい「調整控除額」を計算する

 税源移譲の負の遺産、住民税の分かりにくさの象徴である調整控除額を計算してみよう。まずは町田市の「令和4年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」の裏面の説明書きを見てみよう。

「令和4年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」裏面の税額控除(調整控除)についての説明書き(東京都町田市)
町田市の通知書の裏面に記載された調整控除の説明

 筆者はINTERNET Watchの読者は読解力が高いと思っている。読解力に自信がある人はこの調整控除の説明書きを読んで理解していただきたい。筆者は……無理。

 同じ調整控除だが、次のは名古屋市の個人事業主向けの「令和5年 市民税・県民税 課税明細書」。こちらは計算の元となる金額と計算式と結果が記載されていてやや親切な印象だ。こちらをベースに河野一太郎さんの調整控除額を計算してみたい。

個人事業主向けの「令和4年 市民税・県民税 課税明細書」における調整控除についての説明書き(名古屋市)
名古屋市の通知書は親切。政令指定都市なので4%と1%(8対2)になっているが、通常の自治体は3%と2%(6対4)

 課税標準の総所得③に記載された金額が課税所得金額の[A]。人的控除の差額は基礎控除5万円、配偶者控除5万円、扶養控除(特定)18万円、扶養控除(同居老親)13万円で、計41万円が[B]となる

・課税所得金額  A =206万5000円
・人的控除の差額 B =41万円

 [A]が200万円を超えているので計算式は以下のとおり。

B-(A-200万円)=C
※計算結果が5万円未満のときは一律5万円
C×5%=調整控除額

41万円-(206万5000円-200万円)=34万5000円
34万5000円×5%=1万7250円

 市民税と県民税が6対4の自治体なら調整控除額の市民税分は1万350円、県民税分は6900円となる。

市民税・県民税の「所得割額」を計算しよう

 難解な調整控除額が算出できたら所得割のゴールは目の前だ。Excel不要、電卓で十分な簡単な計算をするだけだ(Excelが楽だけど)。

住民税決定通知書に記載された市民税・都民税の所得割額の計算フロー

 住民税通知書の記入欄に合わせて市民税 6%、都民税 4%で計算してみよう。計算式は③行目の

課税所得(課税標準額)×税率=所得割
市民税所得割 206万5000円×6%=12万3900円 上段④
県民税所得割 206万5000円×4%=8万2600円 下段④

所得割-調整控除=所得割額
市民税所得割額 12万3900円
-調整控除   -1万350円(上段⑤)
=所得割額   =11万3550円(←100円未満切り捨て 上段⑥)

都民税所得割額 8万2600円
-調整控除   -6900円(下段⑤)
=所得割額   =7万5700円(←100円未満切り捨て 下段⑥)

所得割額の合計 11万3500円 上段⑥+7万5700円 下段⑥
=18万9200円

 この結果は住民税通知書で確認してみよう。右端の税額欄の上段④~⑥が市民税、すぐ下の④~⑥が都民税(内容、金額が異なる欄に同じ番号を振る理由は不明)で、市民税の上段④は課税所得に6%、上段⑤は前項で算出した調整控除額の1万350円、④-⑤が市民税の⑥所得割額となる。同様に下段④は課税所得に4%、下段⑤は前項で算出した調整控除額の6900円、④-⑤が都民税の⑥所得割額となる。ご自身の住民税通知書でもピターッと合っただろうか。

 市民税、県民税を分けて納税することはない。まとめて徴収され勝手に6対4や8対2に分けられるだけだ。なので自分の納税額をザックリ知るだけなら10%で計算すれば簡単になる(100円未満切り捨てによりわずかな差異が出ることもある)。

住民税課税所得×税率(10%)=所得割
住民税所得割 206万5000円×10%=20万6500円

所得割-調整控除=所得割額
20万6500円-1万7250円=18万9250円→100円未満切り捨て→18万9200円

県独自の超過課税で差がある「均等割額」

 均等割額は地域差があるので、まずは河野一太郎さんの事例にある東京都で確認してみよう。均等割額は特別区民税分が3000円、都民税分が1000円で計4000円が基本だ。これに東日本大震災の「復興特別税」が平成26年(2014年)度から令和5年(2023年)度まで10年間、都民税、区民税に500円ずつ上乗せとなり、特別区民税分が3500円、都民税分が1500円、合計5000円が均等割額となる。この額は所得100万円の人も1億円の人も同額だ。

 他の地域も見てみよう。埼玉県さいたま市は市民税が3500円、県民税が1500円で計5000円と同額。千葉県千葉市も同額の5000円だ(平成26年度から10年間)。

 では、神奈川県横浜市は……。市民税4400円、県民税が1800円で合計6200円と、1200円(24%)割高だ。

 まず、市民税は、ベースとなる3000円に復興特別税の500円が足され、さらに「横浜みどり税」の900円が上乗せされ4400円となっている。神奈川県の県民税の均等割は、ベースとなる1000円に復興特別税の500円がプラスされ、さらに水源環境の保全・再生のために「水源環境保全税」の名目で300円を県独自で上乗せし1800円となっている。県民税と市民税で計1200円が千代田区、千葉市、さいたま市よりも増税となっている。

個人の市民税・県民税についてのウェブページ(横浜市)

 横浜市独自の「横浜みどり税」や神奈川県独自の「水源環境保全税」など、自治体が独自に行う課税を「超過課税」という。総務省の超過課税の状況(令和3年)の資料によると、47都道府県で均等割額に超過課税を上乗せしているのは37団体(府県)。超過課税がないのは北海道、青森県、東京都、埼玉県、千葉県、新潟県、福井県、徳島県、香川県、沖縄県の10都道県だけというのが現状だ。超過課税の金額は500円前後が多く、先ほど紹介した横浜市(1200円)や宮城県(みやぎ環境税1200円)など1000円を超える自治体もある。前述のとおり、所得割額の税率に超過課税を課しているのは神奈川県のみだ。

 市町村で均等割額に超過課税を課しているのは横浜市と神戸市の2市。神戸市は認知症対策「神戸モデル」として400円を上乗せし「認知症の早期受診を推進するための診断助成制度」「認知症の方が外出時などで事故に遭われた場合に救済する事故救済制度」などの財源としている。所得割額の税率に超過課税を課しているのは兵庫県豊岡市のみだ。

 均等割額が安いのは名古屋市の3300円。市民税の均等割額は200円減税されているが、愛知県の県民税に超過課税の「あいち森と緑づくり税」500円が上乗せされているので差引プラス300円となり、超過課税のない10道府県よりは高い。

住民税の高い、安い自治体は?

 ○○市は住民税が高い……と聞いたことのある人がいるだろう。若い頃に税金の話をする人は少ないので、年齢を重ねるとこのような都市伝説を耳にする機会がある。上記のように都道府県ごとの超過課税を課しているのは37府県。最も増税額が多いのは宮城県で1200円。増税をしていない(税金の安い)東京都と比べると月額100円の増税だ。読者の中には「えっ、その程度の差」と感じた人もいるだろう。

 市町村で増税をしているのは横浜市、兵庫県の神戸市と豊岡市、減税をしているのは名古屋市と大阪府田尻町。全国的に見れば、ごく一部だ。住民税の地域差に関してはこちらの記事『【ランキング】住民税が高い/安い自治体はどこ? 差額はいくら? 全47都道府県+5市町を比較してみた』で詳しく説明しているので参考にしていただきたい。

「均等割額」の計算は簡単

 では、河野一太郎さんの均等割額を計算して住民税の納税額を完結させよう。東京都千代田区の均等割額は特別区民税が3500円、都民税が1500円だ。前項で算出した所得割額に加算すると特別区民税、都民税が確定。その2つを足すと住民税の納税額となる。市民税、県民税の均等割額の金額さえ分かれば足すだけなので計算は簡単だ。

特別区民税 11万3500円+3500円=11万7000円
都民税 7万5700円+1500円=7万7200円
住民税 11万7000円+7万7200円=19万4200円

住民税決定通知書に記載された市民税の所得割額と均等割額、都民税の所得割額と均等割額、特別徴収税額
フォーマットが町田市なので市民税、都民税となっているが、上段の所得割額⑥と均等割額⑦、下段の所得割額⑥と均等割額⑦を足すと住民税(特別徴収税額⑧)となる

 東京都も千代田区も超過課税はない。前述した超過課税のない10の道府県は所得割の税率も均等割額も同じなので、千代田区と納税額は同じとなる。超過課税のない10県に引っ越しても河野一太郎さんの住民税は同じだ。

「ふるさと納税」を確認する

 ふるさと納税をされた人は受け取った住民税決定通知書で正しく減税されたか確認できる。河野一太郎さんがふるさと納税で1万2000円を寄附したとしよう。一般的には返礼品を受け取り、寄附額から2000円を引いた1万円の税金が減税される。ここではワンストップ特例制度を利用した例を紹介しよう。以下の通知書の画像の青文字で示した箇所が、ふるさと納税による変更部分だ。

ふるさと納税による減税分に関する住民税決定通知書の記述箇所

 結果として納税額は19万4200円から18万4100円へ1万100円減っている。概ね1万円の減税となった。

 「100円多いんですけど」「備考欄の市民税と都民税が1円ずつ多いのはなぜ」と疑問に思った人がいるだろう。実際にSNSなどでも数十円多いといったコメントを目にすることがある。

 細かなところはスルーでよいと思うが、実は複雑な計算の過程をここではザックリと紹介しよう。まず寄附金税額控除の市民税は基本分の控除額が600円、特例分が5094円、申告特例控除額が307円で合計6001円となる。都民税は基本分の控除額が400円、特例分が3396円、申告特例控除額が205円で合計4001円となる。それぞれの額が備考欄に記載される。自治体によって合計額を記載することもある。

 元々の市民税の所得割額の式は課税標準額の6%から調整控除(=税額控除)を引いていた。元々の額は

12万3900円-1万350円=11万3500円(100円未満切捨)

 これに6001円の寄附金税額控除を調整控除に足すと1万6351円となるので

12万3900円-1万6351円=10万7549円→10万7500円(100円未満切捨)

 市民税の減税額は6000円となった。

 次は都民税。元々の都民税の所得割額の式は課税標準額の4%から調整控除(=税額控除)を引いていた。元々の額は

8万2600円-6900円=7万5700円(100円未満切り捨て)

 これに4001円の寄附金税額控除を調整控除に足すと1万901円となるので

8万2600円-1万901円=7万1699円→7万1600円(100円未満切り捨て)

 都民税の減税額は4100円となった。100円の差異は4001円の1円と100円未満切り捨てによるもののようだ。

 個人事業主やワンストップ特例制度に該当しない人が確定申告をした場合はさらに複雑となる。こちらもザックリ説明すると、1万2000円の寄附をすると確定申告で1万円が所得控除に加算される。例えば税率が10%の人なら1万円の10.021%(復興特別税含む)=1000円強が所得税から差し引かれる。残りの9000円弱、例えば8980円が市民税、県民税それぞれから税額控除され、約1万円の減税となる。

住民税決定通知書における「ふるさと納税」控除の記載例(愛知県名古屋市の個人事業主「令和5年度 市民税・県民税 課税明細書」)
名古屋市の個人事業主向けの明細書では2カ所にふるさと納税が記入される

3.あなたの住民税をサクッと計算!〔住民税額シミュレーションツール〕

「住民税額シミュレーションツール」で約半年前に納税額が分かる

 所得割、調整控除、均等割と難解な住民税の納税額を、サクッと計算してくれるサービスがある。名称は各自治体で「住民税額シミュレーションシステム」「税額試算コーナー」など様々。全国で180の自治体が導入している。先日掲載した『あなたの住民税がいくらか計算するには? ふるさと納税の限度額は?「住民税額シミュレーションツール」が便利』で180の自治体のシミュレーションサイトのリンクを紹介している。記事では自分の住む自治体に「住民税額シミュレーションツール」がないときの対処法なども説明しているので参考にしていただきたい。

東京都千代田区の住民税額シミュレーションサイト
東京都千代田区の住民税額シミュレーションサイト

4.住民税はいつから納める? パートやアルバイトは?〔住民税の注意点〕

住民税の納税時期、「普通徴収」と「特別徴収」

 サラリーマンの住民税は給与から天引きされるのが一般的で、個人事業主は1年分の住民税を1回で納税するか、4回に分け自分で納税する。後者の自分で納税する方法を「普通徴収」、前者の給与から天引きされる方法を「特別徴収」という。サラリーマン向けの住民税の通知書の名称が「令和4年度 給与所得等に係る市民税・都民税 特別徴収税額の決定通知書」となっているのはこのためだ。

 サラリーマンの毎月の給与明細から天引きされている所得税と住民税に1年以上の時差があるのをご存じだろうか。所得税はその月の給与から社会保険料などを差し引き、みなしで天引きされている(源泉徴収)。要するに1月分の所得税はその月に納税、それを毎月繰り返し、12月の給与で年収が確定するので生命保険料控除などを反映、年末調整で正しい税額に調整して1年間の納税が完了する。

 その結果をまとめたものが源泉徴収票だ。源泉徴収票は社員本人と税務署、そして住民票を置く地方自治体に送られ、その自治体の税率、均等割により住民税の額が決定し、6月から翌年5月まで天引きされている。具体的には、昨年(2022年)の1~12月に所得税を納税し、住民税は今年(2023年)の6月~来年(2024年)の5月に納税をすることになる。

住民税と所得税の納税時期の違い
住民税と所得税の納税時期の違い。所得税は給与から毎月納税し、年末調整で確定・納税が完了。住民税は翌年6月から納税

所得税は減り住民税は増える? 6月だけ住民税が高い? 入社2年目に突然住民税が?

 サラリーマンの所得税の住民税には17カ月の時差がある。これが様々な疑問を生んでいる。リーマン、新型コロナなど大きな経済の落ち込みで所得が減る人がいる。毎月の給料が減ると天引きされる所得税は減る。住民税は前年の所得から計算されるので人によっては増えることがある。

 所得税は毎月計算されて天引きされるが、住民税は1年分を12分割して天引きされる。例えば住民税が12万300円の人は6月に1万300円。7月から翌年5月まで1万円となるので、6月だけ金額が異なるのが一般的だ。

 新卒で入社すると前年の所得がないので住民税は天引きされない。2年目の6月に初めて住民税が天引きされるので、6月の給与明細を見て突然手取りが少なくなったと驚くことがないようにしよう。

住民税の「時間差攻撃」に注意

 ずっと同じ会社に勤めていると所得税と住民税の時差があることに気付かないが、退職すると1年遅れの住民税を納税することになり、「えっ住民税20万円!」と驚くケースは珍しくない。例えば12月に退職すると前年分残り5カ月+その年分12カ月で17カ月分を納めることになる。退職を考えている人は住民税の時間差攻撃に注意しよう。

所得税と住民税の時間差攻撃のイメージ
サラリーマンは住民税の時間差攻撃に注意。個人事業主は所得税、住民税と春の連続攻撃だ

 個人事業主の場合は前年分の所得を2~3月で確定申告し、所得税と消費税を1年分を納税。6月に住民税の通知を受け取り、6月に全額を納税するか、6月・8月・10月・1月に分けて納税するかを自分で選択する。これに加え、家持ちクルマ持ちの人は4月に固定資産税、5月に自動車税と納税が連続する春は税金ラッシュとなるので厳しい。

スマホで納税「eL-QR」がスタート

 令和5年(2023年)4月から地方税統一QRコード「eL-QR(エルキュ-ア-ル)」を利用した地方税の納付が始まった。住民税はもちろん固定資産税や自動車税など自治体から送付される納付書にeL-QR(QRコード)が記載される。これを読み取ることでスマートフォン決済アプリによるキャッシュレス納付が可能となる。

「eL-QR(エルキュ-ア-ル)」のQRコードが記載された住民税の納付書(愛知県名古屋市)
名古屋市の今年の納付書はeLのロゴとeL-QRが印刷されている

 地方税共同機構が管理・運営するeLTAX(エルタックス)の「地方税お支払サイト」を見ると、様々なスマホ決済アプリに対応しているようだ。

eLTAXの「地方税お支払サイト」に掲載されている対応スマートフォン決済アプリ一覧
地方税の支払サイトに掲載されたスマホ決済アプリ一覧

 筆者は昨年まで「モバイルレジ」アプリで支払っていたので大きな利便性の向上はないが、普段よく利用するPayPayが使えるのは歓迎している。もちろん従来どおりコンビニや金融機関での納税は可能だ。

「モバイルレジ」アプリによる住民税の支払い画面
QRコードを読み取るとこの画面。[今すぐ支払う]をタップすると瞬時に納税が完了する
PayPayによる住民税の支払い画面
PayPay!

住民税はいくらまで非課税? パートやアルバイトは注意しよう

 所得税は年収が103万円以下であれば、パートやアルバイトは基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円が引かれ、課税所得が0円となり非課税となる。これは全国一律だ。

 住民税が非課税となる額は所得税と異なる。例えば東京都千代田区や神奈川県横浜市は所得100万円まで住民税は非課税。学生がバイトで100万1円の年収があった場合、所得税は0円だが住民税は課税対象となり、均等割額は千代田区なら5000円、横浜市なら6200円を納税しなければならない。「1時間短く勤務していたら非課税だったのに」となるかもしれないので、パートやアルバイトの人は要注意だ

 住民税は、年収100万円(パート・アルバイトなら所得45万円)以下なら均等割、所得割とも非課税となるという情報が多いが、この額は自治体ごとに差があるので注意しよう。

 例えば同じ埼玉県内でさいたま市は100万円(所得45万円)、熊谷市は96万5000円(所得41万5000円)、秩父市は93万円(所得38万円)以下なら住民税は課税されない。自治体のサイトを探してみると、97万円(所得42万円)以下、98万(43万円)円以下など、均等割が非課税となる上限額は様々。全国約1700の自治体の中にはさらに上限額が異なる自治体があるかもしれない。住民税ゼロ円を狙う人は地元自治体のサイトで確認しよう。

埼玉県さいたま市の市民税・県民税についての説明ページ
埼玉県さいたま市は所得45万円(給与収入100万円)以下で非課税
埼玉県熊谷市の市民税・県民税についての説明ページ
埼玉県熊谷市は所得41万5000円(給与収入96万5000円)以下で非課税
埼玉県秩父市の市民税・県民税についての説明ページ
埼玉県秩父市は所得38万円(給与収入93万円)以下で非課税
山形県山形市の市民税・県民税についての説明ページ
山形県山形市は所得42万円(給与収入97万円)以下で非課税
宮城県山元町の町民税・県民税についての説明ページ
宮城県山元町は33+10=43万円(給与収入98万円)以下で非課税

全国に市町村はいくつある?

 総務省の広域行政・市町村合併のサイトに「本日の市町村数」が表示されている。2年前に見たときと同じで市町村の数は1718。内訳は市が792、町が743、村が183となっていた。1700ほどの市町村の住民税の詳細を知るのは容易ではない。大都市は住民税の税率や均等割などの情報がウェブで確認できるが、町村になると電話で確認することが多い。毎年、1700の市町村の改正を把握するのは難しい。自治体の数が多いことも住民税が分かりにくい理由の1つかもしれない。

 ちなみに明治21年には町村の数が7万を超えていたが、明治の大合併で市町村の数は1万5859となり、昭和の大合併で3472、平成の大合併で1730に減ったらしい。平成の大合併では浦和市、大宮市、与野市が合併してさいたま市、静岡市と清水市の合併などが行われた。それほど昔ではないので、近隣の合併を覚えている人もいるだろう。

5.最後に

住民税の「復興特別税」は令和5年度まで

 東日本大震災からの復興のための財源の確保を目的として、個人の所得税は平成25年(2013年)から令和19年(2037年)まで25年間、住民税は平成26年(2014年)度から令和5年(2023年)度まで10年間増税されることになった。

確定申告書の復興特別所得税の記入欄
確定申告書には現在も“復興”の文字がある

 所得税の確定申告書には“復興”と書かれているが、住民税に関してはほとんどの自治体に復興の文字はない。例えば東京都は「平成26年度から令和5年度まで、地方自治体の防災対策に充てるため、住民税の均等割額は都民税・区市町村民税それぞれ500円が加算されています」と書かれている。要するに震災地域ではなく、地元自治体の防災のための増税ということだ。

 本来の趣旨は「復興特別税」だったのだが、震災からしばらくして「復興予算流用問題」が話題となった。「都内の税務署の改修」「沖縄の道路」など震災の復興とは無関係な費用に使われていることが問題視されたこともあり“復興”という文字は使われなくなったのかもしれない。

 その住民税均等割の1000円の増税も今年が最終年となる。令和6年から住民税は減税となる……一応。

令和6年から始まる住民税の増税

 皆さんは新たな増税「森林環境税」が、住民税に上乗せされることをご存じだろうか。偶然にも10年間の復興特別税が終わると同時にシームレスに増税が開始される。さらに偶然は重なり税額は年額1000円と同じだ。

 筆者が初めてこの森林環境税について書いたのは2017年12月に掲載したこちらの記事『大増税が迫ってくる? 自分への影響は? まずは源泉徴収票の見方を理解しよう<前編>』。さらに年明けの記事『〃<後編>』で「一部報道では、復興特別税の徴収が2024年に終わるので、名称をすげ替えて増税を継続するために唐突に提案されたのがこの森林環境税(仮称)と言われている」と記述している。

2018年1月から2024年4月における主な税制改正の概要表
2017年(平成29年)12月の記事に掲載した税制改正の表。一番下が森林環境税。令和という年号が決まる前で西暦で記載している

 読者の中には初めて耳にする人がいるだろう。あまり話題にもならず5~6年が経過した。概要を簡単に説明しよう。森林環境税は、復興特別税と異なり期限はなく恒久的な増税となった。住民税の納税者を約6000万人とすると、年間600億円の税収となる。住民税の均等割に上乗せされて徴収されるが、全て国が召し上げることになっている。地方自治体は集金係だ。集めた税金は国から自治体に森林環境譲与税の名称で配分される。

 増税の時期が近付いてきたので“森林環境税”を検索してみると(批判も含め)情報はグッと増えている。林野庁のサイトを見ると配分の比率は50%が私有林人工林面積、20%が林業就業者数、30%が人口となっている。他にも林野率による補正や都道府県と市町村の割合など分配基準が決められている。なんとなく山間部の自治体に多めに配分され、森林もなく林業就業者数もいない都市部の自治体でも人口分の配分がされると想像される。

 森林環境税の徴収は令和6年(2024年)から始まるが、自治体への配分は令和元年(2019年)から前倒しで行われている。ただし使い道が定まらない自治体もあり400億円近くが余っているという話もある。そのためか総務省のサイトには活用例が掲載されている。ユニークなのは

  • スケートボードセクションの制作を通じた青少年への木育啓発教育の実施【兵庫県尼崎市】

 苦肉の策とも思えるが、これなら森林を持たない都市部の自治体は「木育啓発のため木をふんだんに使用した図書館の建設」など使い道は無限に広がりそうだ。森林もない、箱物も不要の自治体は「木材運搬業者が通過するための道路整備費用」というのはどうだろう。

 普段は税に興味のない国民も消費税の増税には敏感だ。防衛費のための増税には反対の声もある。一方で復興のため、環境のためと言うと反対の声が出にくい印象はある。「使い道はなくても取れる税金は取り続けておこう」などと考えている政治家や役人はいないと思うが、永久に森林環境税という名目で増税を続けることが正しいのか筆者は疑問に思う。人口での配分などはやめて、半分は森林のため、残り半分は防衛費や少子化対策の財源とした方がいさぎよいと思う。

環境名目の自治体の超過課税はどうなる

 自治体が超過課税として均等割に上乗せしている増税の名称を見ると「いわての森林づくり県民税」「秋田県水と緑の森づくり税」「やまがた緑環境税」「ぐんま緑の県民税」「いしかわ森林環境税」「長野県森林づくり県民税」「あいち森と緑づくり税」「琵琶湖森林づくり県民税」「ながさき森林環境税」など環境税がズラーッと並んでいる。唯一異なるのは「認知症対策 神戸モデル」。増税の目的がハッキリしていて筆者は好感が持てる。

神戸市が均等割額に課している超過課税の目的「認知症 神戸モデル」の説明ページ
認知症 神戸モデル特設サイト

 超過課税は自治体が徴収して地元のために使う税金。森林環境(譲与)税は国から配分される税金。自分で稼いだバイト代と親からもらったお小遣い的な違いはあるが、環境に利用する財源としては重複する印象はある。取りやすい名称の増税ではあるが、使い道が限定されて余るなら「認知症対策 神戸モデル」のように別の目的に名称を変えて新たな超過課税にしてもよいと思う。あるいは廃止するのも1つの選択だ。水道インフラや橋の老朽化など自治体が必要な財源は環境以外に多数ありそうだ。森林環境税のスタートに合わせ、ご自身が住む自治体の超過課税がどうなるか注目してほしい。

 繰り返しとなるが森林環境税の税額は年1000円。サラリーマンが12カ月に分けて納税すると月83円。目くじらを立てる額ではない。しかし、国民も野党もテレビ・新聞も消費税以外に関心がないことを尻目に、知らないところで使い道もない増税が行われるのはいかがなものかと思う。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。