特集
ゼロから始める個人事業主の確定申告
<基礎知識編>
起業した人、起業して間もない人、起業予定のサラリーマンへ
2019年2月5日 06:00
毎年、2月になると「確定申告」という言葉を耳にする機会が増える。医療費控除などでサラリーマンでも確定申告の経験がある人はいるが、多くのサラリーマンには確定申告は「未知」「無縁」の存在だろう。ところが起業して個人事業主(フリーランス・自営業)になるとサラリーマン時代とは一変。避けては通れない壁として立ちふさがるのが確定申告だ。何度も経験した人でさえ「憂鬱」と感じる確定申告。未経験の人は「何をするのか分からない」「何から始めるの」といった不安を感じるはずだ。今回は起業して初めて確定申告をする人、確定申告の経験が少ない人、これから起業を予定しているサラリーマンを対象として、確定申告の基礎から実践までを詳しく紹介しよう。
テクニカルライター、エンジニア、フォトグラファー、デザイナー……様々な職業で起業をする人は、専門分野の知識に長けているが、反面、経理の知識などに乏しく、起業する際の不安材料になることは珍しくない。そんな不安を払拭すべく、今回は確定申告をするために知っておきたい基礎知識を説明したい。例えば、よく出てくる用語を並べると「勘定科目」「複式簿記」「固定資産」「減価償却」「損益計算書」「貸借対照表」「按分」など、普段はあまり縁のない言葉も、事前に知っておくと確定申告に役立つ。経理の知識もある程度は理解しておくと、先々の節税にもつながるし、経営にもプラスになるはずだ。
各項に[初心者][初級者][起業志望]といった分類も明示した。それぞれの意味は以下のとおり。元々の知識にも個人差があると思うし、分類を見て不要なところは読み飛ばしていただいて結構だ。
- 起業して初めて確定申告をする人 [初心者]
- 確定申告の経験が少ない人 [初級者]
- 起業を予定しているサラリーマン [起業志望]
目次
▼確定申告とは[初心者][起業志望]
▼所得税の計算式を理解しよう[初心者][起業志望]
▼白色申告より青色申告がお得[初心者][初級者][起業志望]
▼複式簿記ってなんだ[初心者][起業志望]
▼勘定科目は難しく考えない[初心者][初級者]
▼按分という概念[初心者][初級者]
▼固定資産と減価償却[初心者][初級者]
▼確定申告で提出する書類を見てみよう[初心者]
▼領収書ってどうするの[初心者][初級者][起業志望]
▼クラウド(アグリゲーション)のお陰で楽なった[初心者][初級者][起業志望]
▼代表的な3製品を実際に使ってみた[初心者][初級者][起業志望]
「確定申告」個人事業主がゼロから始める方法 記事一覧
確定申告とは
[初心者][起業志望]
個人の関係する税金には「所得税」「住民税」「消費税」「固定資産税」などいくつもの税金があるが、確定申告は所得税を確定するための申告だ。サラリーマンは毎月の給与から所得税と住民税が天引きされているはずだ。サラリーマンの所得税は、1月分は1月の給与からみなしで天引きされる。2月以降も毎月天引きされ、年末調整で申告された生命保険料、扶養する家族の状況、支払った社会保険料(厚生年金、健康保険、雇用保険など)などが計算され、12月の給与で調整され納税が完了する。
医療費控除など年末調整で完了しなかった場合は、サラリーマンでも確定申告を行い、払いすぎた税金の還付を受けることができる。確定申告未経験のサラリーマンには精神的なハードルは高いが、医療費控除、ふるさと納税(寄附金控除)、住宅ローン控除などの申告は、ベースとなる源泉徴収票に対する差分の申告なのでやってみれば実務的なハードルはそれほど高くない。特に医療費控除、ふるさと納税(寄附金控除)は今年からスマホで申告が可能となった。
筆者はサラリーマンを22年経験し、起業して13年目となった。サラリーマン時代は税金に関する知識は皆無で、年末調整の生命保険は1つで10万円を超えているのに、医療保険、学資保険……と書く欄がなくなるほど無駄に記入していた(1枚で済むことに気付いたのは最後の2年くらいだった)。当然、毎月の所得税の金額も覚えていないし、天引きされる社会保険の金額も知らなかった。それでも、会社の誰かが年収、給与所得控除、社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などを計算して所得税を納めていた、はずだ。正直なところ、当時は考えたこともなかったし、給与所得控除など言葉の意味も知らなかった。
起業、独立して直面する。「誰もやってくれない」。1年間の売り上げ、電気代、切手代、交通費、電話代、飲み代、修理代、備品代、ガソリン代、駐車料金といった膨大な数の領収書、国民年金、国民健康保険、生命保険、扶養家族などの控除を分類・集計しなければならない。
運よく奥さんが経理の経験者だったり、友人が税理士だったりすれば任せることができるが、助けてくれる人がいなければお金を払って税理士に依頼するか自力でやるしかない。売り上げ、経費、控除などを税金のルールに従って集計し、収支内訳書、損益計算書、貸借対照表、確定申告書などのフォーマットに記入。事業の収支を確定し、納税額を申告するのが確定申告だ。ハードルは低くない。
所得税の計算式を理解しよう
[初心者][起業志望]
所得税を理解するための基本の基は、所得税の計算式を理解することだ。計算式は以下のとおり。
1行目の式の売り上げと経費が集計できれば所得を求めることができる。2行目の式の各種所得控除が算出できれば課税所得を求めることができる。課税所得が分かれば、それに応じた税率を掛けることで所得税の納税額が算出できる。式の青文字で書かれた「売り上げ」「経費」「各種所得控除」を集計・算出すればよいことが分かる。
個人事業主の所得税に関しては、12月に掲載した「【保存版】個人事業主が年末にできる節税、年間を通してする節税」で細かく説明をしている。ここでは概要にとどめるので、より詳細を知りたい人はそちらもあわせてお読みいただきたい。
また、将来的に起業を考えているサラリーマンの人は、サラリーマンの所得税の算出方法も理解しておきたい。比較すると、サラリーマンの方が自営業より税金で恵まれていることが分かるはずだ。起業したあとに「個人事業主ってメッチャ損」と後悔しないためにも、先日掲載した「【保存版】知っておきたい源泉徴収票の見方を図解で説明」にも目をとおしていただきたい。
白色申告より青色申告がお得
[初心者][初級者][起業志望]
個人事業主の確定申告には白色申告と青色申告がある。筆者は起業した最初の年から青色申告を選択した。開業届けと一緒に青色申告承認申請書を提出したので起業と同時だ。理由は単純で「青色申告の方が得らしい」とネットで知ったから。その時点では記帳方法の違いなど、細かなところは理解していなかったと思う。
次のグラフは、事業所得者で申告納税額のある人の内で青色申告をした人の比率だ。筆者が起業した平成18年(2006年)以降を見ると年々青色申告する人が増えていることがうかがえる。特に平成25年あたりからグッと比率が上がっている。
その要因の1つは白色申告の記帳義務化だと思われる。平成25年(2013年)までは白色申告はゆるかった。所得300万円以下であれば記帳義務はなく、どんぶり勘定の申告が許されていた。平成26年(2014年)から白色申告のルールが大きく変更され、所得300万円以下の人を含め全ての人が記帳と帳簿保存が義務付けされ、確定申告において青色申告と白色申告の差がほとんどなくなった。
記帳義務化の前年、2013年に筆者が執筆した記事に掲載した写真を見ると、税務署から送られてきた平成24年分確定申告の手引に「平成26年1月から記帳・帳簿等の保存制度が拡大されます」と書かれている。記帳義務化の始まる少し前から青色申告に移行する気運は高まっていたと思われる。
青色申告には様々な特典があり、納税額を減らすことができる。代表的な特典は以下の4つだ。
- 青色申告特別控除の65万円
- 30万円未満の資産の即時償却
- 赤字の3年繰り越し
- 青色事業専従者給与
青色申告特別控除の65万円で課税所得が65万円少なくなれば、所得税の税率が20%の人なら住民税、国民健康保険を含め約26万円の節税となる。10年継続すればクルマが買えるほどの節税だ。その他の特典による節税も加味すると、生涯で1000万円級の節税ができる可能性があるのが青色申告だ。青色申告の詳細は「申込期限は3月15日 白色申告から青色申告に切り替えて1000万円を節税しよう」を参照していただきたい。
手書きで帳簿をつけ申告書を作成した時代には青色申告のハードルは高かった。複式簿記による記帳や貸借対照表の作成は、簿記などの経験がない人には無理だったと思われる。パソコンの普及、青色申告ソフトの普及により、ハードルは低くなった。筆者は白色申告ソフトのレビュー記事も青色申告ソフトのレビュー記事も執筆経験がある。どちらも難易度に大差はないと思っている。白色申告ソフトを使えば白色申告の申告書、青色申告ソフトを使えば青色申告の申告書が完成するだけだ。白色申告は記帳が簡単と言われたのは昔の話しと思っていただきたい。
パソコンが生活の一部であろうINTERNET Watchの読者には、青色申告を選択していただきたいが、残念なお知らせをしよう。青色申告をするには届出が必要だ。「所得税の青色申告承認申請手続」なるものを開業から2カ月以内に提出しなければならない。届出をした記憶がない人は、目の前に迫った平成30年(2018年)分の確定申告は白色申告となる。2019年分(2020年2~3月申告分)から青色申告に切り替える人は2019年3月15日までに手続きをしなければならない。
複式簿記ってなんだ
[初心者][起業志望]
青色申告で65万円の控除を受けるにはいくつか条件がある。その1つが複式簿記による記帳だ。「複式簿記ってなんだ」と思った人がいるだろう。筆者もそうだった。知らなくても青色申告ソフトが何とかしてくれるが、基礎的な知識として雰囲気だけはつかんでいただきたい。
お金の入出金を記録する行為として一般的なのはお小遣い帳や家計簿だろう。お小遣い帳なら日付、内容、金額を書けば十分と思われる。
家計簿になると、食費、教育費、電気代などの分類をして、「食費はもう下げられないから、旦那の小遣いを減らそう」と科目ごとの分析をしたりする。
複式簿記で記帳すると「何これ」と感じる人がいるだろう。簿記の本などに書かれている一般的な説明をすると、貸方を右手として、右手で108円の現金を渡し(貸し)、借方を左手として、左手で消耗品(ボールペン)を受け取った(借りた)というイメージだ。ボールペンの分類(勘定科目)は消耗品費、支払い方法は現金と細かく記録する。
電気代が銀行口座から引き落とされたときの記帳は、右手に預金通帳、左手に電気代の請求書を持つイメージで、大分類(勘定科目)が水道光熱費で小分類(補助科目)が電気代となる請求書を左手で受け取り、いくつかある預金口座(勘定科目)のうちのA銀行B支店(補助科目)から引き落とされたとなる。
「なぜこんなに複雑な記録をする」と感じただろう。だが、家計簿では電気代をコンビニで現金払いしたのか、銀行口座から引き落としされたのか分からないが、複式簿記の記帳ではA銀行B支店から引き落としされたことが分かる。ボールペンを買って財布の現金が減ったことも分かる。お金の動きがより明確になったということだ。
おそらく納得できない人が大半だと思うが、これがルールだ。実際の作業は青色申告ソフトがこのルールで記帳してくれるので、雰囲気だけ感じ取ってもらえばよい。
勘定科目は難しく考えない
[初心者][初級者]
記帳する際、入出金したものを分類しなければならない。これを「勘定科目に仕分ける」などと言う。経費であれば宅配便代は荷造運賃費、電気代は水道光熱費、電車、タクシーや高速代は旅費交通費、通話料や切手は通信費、飲み代は接待交際費、文具などの備品は消耗品費、オフィス代などは地代家賃などに科目分けされる。
経費以外も同様で、現金、普通預金、売掛金のように1つ1つの取り引きを勘定科目に分類する。勘定科目の名称は決められたものを使うのが基本だが、独自に勘定科目を作ることは許されている。損益計算書の経費欄も貸倒金の下に空欄があり、自分で独自の科目を作り集計することが可能だ。ちなみに筆者は起業したころはデジカメのレビューを書く機会が多く「取材費」という勘定科目を作り、動物園や水族館などの入場料を取材費としていた。「車両費」という勘定科目も設定している。
勘定科目に分ける仕訳が難しいと聞いた記憶があるが、実際にはそうでもない。例えば請求書を送る際の切手は通信費とすることが一般的だ。ゆうパックは荷造運賃費。ではゆうパック代を切手で支払った場合は……。などと難しく考える必要はない。どちらに仕訳しても経費の金額は同じ、支払う税額も同じだ。宅配便を全て通信費にしてもさして問題はない。たまに「この領収書の勘定科目は?」と思うことがあっても「○○代 仕訳」などで検索すればいくつか候補が見つかるので適当に決めれば大丈夫だ。ただし、後述する「按分」に関わる経費は慎重に科目分けが必要となる。
按分という概念
[初心者][初級者]
個人事業主という文字は個人と事業主からなっている。お金も個人用と事業用が混在することが多い。例えば自宅で仕事をすると、自分も含め家族が使用する電気代は経費ではない。仕事で使用するパソコンなどの電気代は経費となる。電気代の中に個人使用と仕事使用が混在することとなる。自宅と別にオフィスを用意し、クルマも仕事用、プライベート用の2台持ちと明確に分かられれば混在はなくなるが、現実的にはスマホの2台持ちと違い、オフィスやクルマを別途用意するのは簡単ではない。どうする……。
そこで必要となるのが「按分」という考え方だ。例えば独身で会社勤めをしていた人が起業し、自宅で仕事をすると電気代は激増する。サラリーマン時代は出勤して帰宅するまで冷蔵庫と微々たる待機電力しか使用しなかったのが、終日エアコンはフル稼働、パソコンもフル稼働となれば、3000円の電気代が1万円を超えることも珍しくない。仮に起業前の電気代が3000円で起業後が1万円なら、70%が事業用、30%が個人用と按分し、電気代の70%を経費とする。このように1つの経費から事業分を割り出すことを按分という。
実際には按分の真実の値は誰も分からない。パソコンでプライベートな閲覧をする時間もあるし、テレビで仕事に関係する番組を見ることもある。クルマでスーパーに買い物に行き、本屋で仕事関係の本を買って帰宅した場合、仕事分のガソリン代を算出することは不可能。真実の値は自分にも税務署にも分からない。按分する方法として、面積で割る、コンセントの数で決める、使用した日数で割る、時間で割る……など様々な方法がネットで散見されるが、知りたいのは本当に仕事で使った経費だ。自分が納得できて、税務署の人に聞かれたら明確に答えられる、確からしいルールで按分をしていただきたい。
勘定科目の最後に「按分」に関わる経費は慎重に科目分けが必要となる、と書いた。例えばオフィスや店舗で仕事をして、電気、ガス、水道代が全て事業経費であれば大分類の勘定科目の水道光熱費として記帳すればよい。自宅で仕事をして電気代は70%、水道代は30%、ガス代は10%が事業分として按分するとしよう。この場合、水道光熱費という勘定科目(大分類)の下に補助科目(小分類)として電気代、上下水道代、ガス代という科目を設定し、電気代は70%、上下水道代は30%、ガス代は10%と按分して経費とする。
Excelで縦1列に電気、水道、ガスの金額を記入すると、別々に合計して割り算しづらいから、別々のセルにして電気代の列、水道代の列、ガス代の列とした方が後処理が楽になるイメージだ。按分をしておかないと決算で集計をする段階になって「アチャーッ」と落胆することになるので、記帳を始める前にセル(勘定科目・補助科目)を用意しておこう。
念のためにクルマを例に説明を加えておこう。仮にクルマを事業分60%、プライベート40%で按分するとしよう。クルマの購入費、ガソリン代、月極駐車場代、自動車税、車検代などは按分の対象となる。仕事でクルマを使用する際の高速代、コインパーキング代などは100%仕事の経費なので按分する必要はない。例えば車両費という勘定科目を作り、按分するものは車両費に仕訳し、高速代などは旅費交通費に仕訳すれば、決算のときに簡単に、正しく按分することができる。
勘定科目の初期設定は、最後に按分することを考慮して慎重に行いたい。とはいえ、難しいのは初めて確定申告をする人はよく分からないということだ。按分の可能性が高いのはスマホ関連(通信費)、家賃(地代家賃)、水道光熱費、クルマなど。職種、業態によって異なるので正解はないが、何も考えずに記帳を初めて、決算で科目の追加、修正作業に追われないように意識をしていただきたい。
固定資産と減価償却
[初心者][初級者]
筆者は税理士でも税の専門家でもないが、税金の原稿を10年ほど執筆している。なので知り合いから税に関する質問を受けることがある。確定申告でよく聞かれるのが固定資産と減価償却の処理方法(記帳方法)だ。確かに分かりにくい。
10万円未満の備品は消耗品費として記帳する。消耗品費は10万円未満または使用可能期間が1年未満の少額減価償却資産のことで、100均で買った文具も9万円のスマホも消耗品費となる。これに対し、10万円以上のものは固定資産となる。クルマやお高めのパソコン、高級一眼レフカメラなどは固定資産だ。
固定資産はジャンルごとに耐用年数が定められていて、クルマは6年、パソコンは4年、カメラは5年などとなっている。クルマであれば6年=72カ月に分割して経費とする。長期に使用するから価格=価値を分割して経費にしていくことを減価償却という。
例えば30万円のカメラを7月に現金で購入したとしよう。購入した段階は固定資産を入手して現金を30万円支払ったことを記帳する。まだ経費にはなっていない。決算時に減価償却の方法を毎月定額で5年=60カ月に分割して経費にすると処理すれば、1カ月分は5000円、7~12月の6カ月分の3万円がその年の経費として減価償却費に計上される。翌年からは12カ月分の6万円が経費となり、60カ月継続されることになる。
このように固定資産を購入したことの記帳と減価償却費として分割して経費算入する2段階の処理が必要となる。「同じカメラを2度記帳してるけど大丈夫?」と心配になるが、2段階の処理しなければならないことを覚えていただきたい。
確定申告で提出する書類を見てみよう
[初心者]
最終的に確認申告で提出する書類を見てみよう。青色申告で提出するものは「所得税青色申告決算書」と「確定申告書B」の2つ。事業の部分を表す決算書は4ページで構成され、1~3ページ目は損益計算書、4ページ目は貸借対照表となっている。
損益計算書の1ページ目の左列上半分①が売り上げ。左列の下半分と中央列が経費。勘定科目の水道光熱費、通信費、消耗品費などを合計した額が②の経費となる。青色申告の場合、右列の下線が青色申告特別控除の65万円。①の売り上げから②の経費と青色申告特別控除の65万円を引いた③が所得となる。もう一度、前述した所得税の計算式を見てみよう。計算式の1行目が損益計算書の1ページの実際の値となる。
4ページ目は貸借対照表。貸借対照表を見て意味が分からない人でも、青色申告ソフトに売り上げ、経費などを入力していけば自動的に貸借対照表が完成する。
確定申告書Bは第二表から見ていこう。第二表の右上は控除に関する部分。代表的な控除を紹介すると、④が社会保険料控除、⑤が生命保険料控除。生命保険料控除は保険の支払額を記入する。手書きだと自分で複雑な生命保険料控除の額を計算しなければならないが、青色申告ソフトを使えば控除額を算出してくれる。少し下段に⑥配偶者控除、⑦扶養控除がある。
第二表の右側は源泉徴収税額⑨。原稿料など支払時に源泉徴収されたときは、支払調書を見てここに源泉徴収税額を記入する。
最後は確定申告書Bの第一表。損益計算書と第二表を集計したのが第一表だ。左上の①は損益計算書の売り上げ、左中段は損益計算書の所得③が転記されている。左下段は第二表から④社会保険料控除、⑤生命保険料控除、⑥配偶者控除、⑦扶養控除が転記され、その下が基礎控除となっている。これらの控除額を合計した⑧が各種所得控除の額となる。
所得税の計算式の2行目。所得③から控除⑧を引いた課税所得が右上の⑩となる。3行目の式の課税所得⑩に税率を掛けた所得税の額がその下の⑪。所得税⑪に10.21%を掛けた⑫が復興特別税。⑪と⑫の合計が納税額となるが、源泉徴収されている人は第二表⑨が出版社などから納税済みなので、⑪+⑫-⑨が納税額となり、マイナスになれば⑬の還付額が確定申告後に指定した口座に振り込まれる。
損益計算書の1ページ目、確定申告書B 第二表、第一表の相関図を作成してみた。過酷な作業に入る前に、全体の雰囲気を感じ取っていただきたい。
領収書ってどうするの
[初心者][初級者][起業志望]
業種により差はあるが、筆者の肌感では確定申告の作業は、売り上げの記帳が1割、経費の記帳が7~8割、控除から決算書・確定申告書の作成が1~2割だと思っている。圧倒的に手間がかかるのが経費だ。確定申告=膨大な数の領収書との戦いである(←大袈裟)。
具体的な領収書の処理方法を紹介しよう。まず前提となるのは、筆者はズボラで、毎日、毎週、毎月こまめに記帳はしない。ひたすら貯め込んだ領収書を、確定申告に向けてまとめて処理している。なので、お勧めの方法ではなく「こんなやり方もある」程度に見ていただきたい。
起業したころはバインダーなども利用したし、最終保存はノートに貼るなどしたが、手間も掛かるし、貼り付けた領収書で膨らんだノートは書棚などに入れにくく、楽な方法を模索し現在にいたっている。
領収書の一次保管は2つの箱を利用している。どんな箱でもよいと思うが、筆者はたまたまケーブルボックスを利用している。箱の隙間から領収書をさし込めるので便利だ。2つの箱には意味があり、1つはクレジットカードや口座引き落としのデータがある領収書用。もう1つは現金支払いをしたデータのない(手入力による記帳が必要な)領収書用。
次に1年分の領収書を封筒に分ける。基本は勘定科目ごとだが、科目による枚数差があるので、領収書の多い消耗品費はネット通販系と店舗系に分けるなど実情に合わせている。1月、2月……12月と時系列で保存する方法もあるが、まとめて記帳する場合は、電気代、宅配便代……と同じ科目を連続して記帳した方が効率的と思っている。2つの箱から優先するのはデータのある領収書。インターネットから青色申告ソフトに取り込んだデータと照らし合わせる。ネット通販で領収書のプリントアウトがされていないものは、ここで履歴などで照合して必要なら印刷する。もう1つの箱は100均で買った文具など現金払いでデータのない領収書。同じように科目分けして、黙々と入力する。
記帳の終わった領収書は封筒のままファスナーファイルケースに入れて保存。随分昔に税務指導に来た税務署員も「問題ありません」と言っていたし、一昨年の税務調査の際も3年分の領収書はファスナーファイルケースのまま並べたが、この方法で問題はないようだ。
クラウド(アグリゲーション)のお陰で楽なった
[初心者][初級者][起業志望]
筆者が起業したころは青色申告ソフトはパッケージ型で、インストールをして使用した。ここ数年はクラウド型の申告ソフトが登場し激変した感がある。操作がクラウドという面もあるが、アグリゲーション機能と呼ばれる、「銀行口座」「クレジットカード」「電子マネー」などの取り引き履歴をインターネットから申告ソフトに取り込めるようになり、作業時間は大幅に短縮されることとなった。
パッケージ型でインストールする申告ソフトでも、アグリゲーション機能で取り引き履歴が取り込めるものもあり、1000枚を超える領収書を全て手入力した時代には考えられないほど楽になった。
注意点を挙げると、過去にさかのぼって履歴が取得できる期間は、金融機関などで異なっていること。例えば筆者が主に利用している三菱UFJ銀行は前月の1日まで。2019年の2月に取得できるのは2019年1月1日以降となる。これから確定申告を行う2018年のデータを取得することはできない。筆者はほぼ休眠状態のジャパンネット銀行は数年分のデータを取得できるので、利用している人は2018年分のデータはまるまる取得可能だ。
クレジットカードは、メインのVIEWカードは2月初旬時点で2018年3月分まで。3月分は1月末締め3月引き落とし分なので2019年のデータはギリギリ取得可能だ。ノンビリしていると2018年1月分のデータは取れなくなる。
このように、便利なアグリゲーション機能だが、金融機関によって戻れない過去がある。もし現在はサラリーマンで、今年、来年に起業を予定している人は、今すぐにでもデータを取る準備をしていただきたい。起業して確定申告を迎えるたときには、今の自分を誉めたくなるはずだ。
代表的な3製品を実際に使ってみた
[初心者][初級者][起業志望]
MM総研による調査を見ると、会計ソフトの主流はPCインストール型。年々クラウドの利用者が増え、クラウド会計の市場は弥生、マネーフォワード、freeeの3社が市場のほとんどを占めている。INTERNET Watchの読者もこの3社から選択する可能性が高いと思われる。実際に使用してみたので使用感をお伝えしよう。
最初に断っておくが、筆者は起業した2006年から弥生ユーザーだ。パッケージ型の弥生のシェアは60%ほどなので、昔からのユーザーの多くは弥生製品を使用してきたと思われる。現在もパッケージ型の「やよいの青色申告 19」を使用しているので、弥生製品にやや操作面の慣れがあることはご理解いただきたい。
やよいの青色申告 オンライン
「やよいの青色申告 オンライン」にはセルフプランとベーシックプランがあり、機能面の差はない。電話サポートが必要なければセルフプランで大丈夫だ。価格が8000円(税別)。加えて初年度1年間(最大14カ月)無料となっている。2019年2月に使い始めると2020年3月末まで無料ということだ。目の前に迫った2018年(平成30年)分と2019年分の確定申告が、全ての機能が使えて無料という大盤振る舞いだ。
連携できるサービスはまずまず豊富と言える。筆者の場合は三菱UFJ銀行(個人と法人)、VIEWカード、MUFGカード、三菱UFJ-VISAカード、モバイルSuica、WAONを使用している。現状、全ての口座の履歴を取り込むことができている。
連携先に特徴があり、マネーフォワード、freeeは独自に連携を行っているが、弥生は独自の「口座連携」に加え、家計簿アプリの「Moneytree」「Zaim」「Money Look」からもデータの取り込みができる。筆者の場合、三菱UFJ-VISAカードだけ「口座連携」で取り込めないが、MoneytreeとZaimが対応しているため全ての口座を取り込むことができている。
やや残念なのはAmazonの購入履歴が取り込めないこと。現状はカード会社から取り込んだ履歴の摘要欄に「カード:AMAZON.CO.JP」と記帳される。筆者がよく使う他の通販も同様に「カード:ヨドバシカメラ(ツウハン)」など、取引先は記帳されるが何を買ったかは分からない。そこから経費にならない私物を購入したサイトの履歴を見ながら削除している。
ちなみに、弥生の連携先のZaimはAmazonの購入履歴を取り込むことができる。Zaimはプレミアム会員(有料)になるとデータのCSV出力が可能だ。そのCSVファイルを加工してやよいの青色申告 オンラインのインポート機能を使うと摘要欄に明細が自動的に記入される。試しにやってみた。
ただし、たまたまAmazonの履歴は取り込む方法があるが、現状はヨドバシの購入履歴を取り込む方法はない。他の通販も同様だ。摘要欄に明細があってもなくても経費の額も納税額も同じなので、そこまで細かな記帳の必要はないと思っている。もし税務調査が来て「9月10日の2052円は何を買いましたか?」と聞かれたら(まず聞かれないが)、領収書、メールの履歴、ウェブサイトの履歴で説明できれば十分だろう。強いて言えば一昨年に筆者の元へ税務調査が来たが、そんな細かなことに税務署員は興味がなさそうだった。
前述のように過去にさかのぼって履歴が取り込める期間には限界がある。起業予定のサラリーマンは無料でデータの取り込みができるMoneytree、Zaim、Money Lookに今から登録をしておこう。個人的なお勧めはMoneytree。スマホのインターフェースが秀逸だ。ZaimはAmazonに対応している。これを利用しておけば、起業までずっと口座のデータを取り込んでくれる。起業したあとにMoneytreeやZaimからやよいの青色申告 オンラインにデータを取り込むことができる。
やよいの青色申告 オンラインが操作性で他社を圧倒しているのは確定申告書などの出力系のユーザーインターフェースだ。画面に申告書のイメージが表示され、入力する場所が示される。計算が必要な生命保険料控除や配偶者控除なども自動的に算出してくれる。また、アラート機能が充実していて、記入漏れや金額の間違い、整合性の問題を指摘してくれる。税に詳しくない人は安心して使えるのがやよいの青色申告 オンラインだ。
マネーフォワード クラウド確定申告
家計簿アプリのマネーフォワードが運営しているので、連携できるサービスが豊富。筆者が使用している全ての口座から取り引きデータの取り込みができた。Amazonの購入履歴も明細まで直接取り込むことができる。
「マネーフォワード クラウド確定申告」には「フリープラン」「ベーシックプラン」「あんしん電話サポート付きベーシックプラン」があり、ベーシックプランとあんしん電話サポート付きベーシックプランに機能差はなく、電話サポートを必要としなければ、価格の安いベーシックプランで十分だと思われる。
データの連携、取り込み、記帳など操作感は迷うことが少なく好印象だ。やや気になったのは確定申告書などの出力系のユーザーインターフェースが見劣りすること。加えて税金の知識がない人には難しい控除額が自動計算されないことがあり、配偶者(特別)控除の税制が改正されたことなどを知らない人は要注意だ。
実際に意地悪な操作をしてみた。配偶者(特別)控除の上限額は38万円だが、わざと40万円と入力してみた。また、子の誕生日を平成10年6月(=特定扶養親族)とし、正しい控除額は63万円だが38万円としてみた。確定申告書を出力すると、そのまま40万円、38万円で申告書がプリントアウトできてしまう。
他社は控除額を自動計算してくれるので、出力部分は改善が望まれる。年々改正される税制を理解していれば間違うことはないが、特定扶養親族の意味を知っていて、その控除額が63万円と理解している人は多くないので、税の知識に自信がない人は、毎年税制を調べる必要がありそうだ。
freee(個人事業主向け)
freeeの個人事業主向けサービスはスタータープランとスタンダードプランがあり、スタータープランは消費税申告に対応していない。起業直後は消費税の免税事業者が一般的なので、ライター業などであればスタータープランで大丈夫だと思われる。売り上げが1000万円を超えると2年後に消費税の課税事業者となるので、その場合はスタンダードプランを選択しよう。輸出取り引きが主な場合は、本則課税という方式となるため、最初からスタンダードプランが望ましい。
操作感は独特。前述した補助科目という考え方はなく、本やネットで税金について調べた知識と整合性とれない点が気になるが、元々税金の知識がない人には関係ないかもしれない。連携できるサービスがやや少なめで、筆者の場合は三菱UFJ-VISAカードとWAONからの取り込みができなかった。自分の使用している金融機関に対応しているか事前に確認しておきたい。ネット通販ではAmazonの購入履歴を明細まで取り込むことができた。
代表する3社の使用感は以上。念のために言うと、会計ソフトは簡単ではない。3社に限らず基本的に知識がないと迷うことは多い。Excelだって使い始めたころはフィルターやピポットテーブルは理解できなかったし、2軸グラフの作成に悩んだ人はいるだろう。会計ソフトも慣れるしかないと思っている。多くの人が会計ソフトを使用して自力で申告をしているので、それほど難易度は高くないはずだ。検索能力の高いINTERNET Watchの読者なら大丈夫だ。
最後に価格を表にして比較してみた。価格面ではベースの価格が安く、しかも初年度無料の弥生が最も低価格だ。ちなみに弥生は白色申告に対応した「やよいの白色申告 オンライン」というサービスも行っていて、こちらは全ての機能が使えてずっと無料。まだ青色申告の届出をしていなくて、目の前の確定申告は白色申告という人は、他に選択肢がないのでお試しいただきたい。
<基礎知識編>は以上。次回は、より具体的に確定申告のやり方を紹介したい。