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【保存版】知っておきたい源泉徴収票の見方を図解で説明

 「あなたの年収は?」「所得は?」「所得税の納税額は?」と聞かれて答えられるサラリーマンはどれくらいいるだろうか。その答えは毎年12月か1月の給与明細と一緒に受け取る源泉徴収票にある。ところが源泉徴収票を見ても年収、所得、納税額とは書かれていない。毎年受け取る源泉徴収票だが、税に関する知識がないとそこに書かれた数字の意味が理解できない。今回はサラリーマンなら知っておきたい源泉徴収票の見方を図解を使って詳しく説明しよう。

※この記事は、平成30年(2018年)分の源泉徴収票について説明したものです。
  令和元年(2019年)分の源泉徴収票については、こちらの記事をご参照ください。

このほか、「INTERNET Watch」では、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。

源泉徴収票が少し変更された

 以前はA6サイズの小さな紙だった源泉徴収票が、平成28年(2016年)分から2倍のA5サイズに変更された。さらに平成30年(2018年)分の源泉徴収票は、配偶者(特別)控除の見直しにより、ほんのわずかだが項目名が変更されているが、「間違い探し」程度の変更なので特に気にする必要はないだろう。

平成24~27年分の源泉徴収票。昔はA6サイズの小さな用紙だった
平成28~29年分の源泉徴収票。マイナンバーで倍のサイズに
平成30年分の源泉徴収票。今年は少しだけ変更された

 気になる人もいると思うので変更された箇所を見てみよう。配偶者(特別)控除が見直されたため、配偶者のところに(源泉)(特別)(源泉・特別)などの表記が追加された。

平成30年分から表記が少しだけ変更された、気にするほどではないだろう

源泉徴収票と所得税の計算式を3つに色分けして考える

 「平成30年分 給与所得の源泉徴収票」を受け取っている人は、手元に源泉徴収票を用意して検証してみると、より深く理解できるだろう。源泉徴収票にはさまざまな数字(金額)や印が記載されているが、所得税の算出方法を知らないとそれらの関連性は理解できないようになっている。

 まずはサラリーマンの所得税の計算式を確認してみよう。1行目は収入(年収)から所得を求める式。2行目は所得から課税所得(税金の対象となる所得)を求める式。3行目は課税所得の額に応じた税率を掛け、所得税の納税額を求める式となっている。

 この3つの式を1行目はブルー、2行目はピンク、3行目はグリーンとして、源泉徴収票の該当する部分を色分けしてみた。順番にそれぞれの式に該当する部分を見ていこう。

給与所得控除とは

 最初の式に該当するブルーの部分。源泉徴収票では「(会社からみた)支払金額」が660万円、「給与所得控除後の金額」が474万円となっている。660万円は給与と賞与の合計額、平成30年の(自分からみた)収入=年収だ。「年収は?」と尋ねられたらここに記載された金額を答えればよい。474万円は収入から給与所得控除というものを引いた金額で、所得と呼ばれている。税金の話で頻繁に出てくる収入(=年収)と所得の関係はこの式で求めることができる。

給与の収入金額-給与所得控除=給与所得
660万円-186万円=474万円

 よく分からないのが給与所得控除だ。給与所得控除はサラリーマンの必要経費と言われ、「スーツ、カバン、クツ代、自腹スマホ&電話代、自腹PCなど会社には請求できないけど仕事に必要な経費があるはず」ということで、収入に応じて一定額を課税の対象から差し引いて(控除して)くれるものだ。給与所得控除は以下の計算式で求められる。

 計算してみよう。事例の安倍さんの年収は660万円なので「360万円超 660万円以下」に該当し、計算式は「収入金額×20%+54万円」となる。

給与所得控除
660万円×20%+54万円=186万円

給与の収入金額(年収)-給与所得控除=給与所得
660万円-186万円=474万円

 源泉徴収票には書かれていない給与所得控除の186万円を年収から差し引くと、474万円の所得を導き出すことができる。

 手元にあるご自身の源泉徴収票を見ながら「自分の年収は538万2000円だから、給与所得控除後は……」などと計算すると、源泉徴収票に書かれた額と微妙に差異が発生した人がいると思う。年収660万円未満の人の給与所得控除後の金額の算出は「平成30年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(PDF)という速算表を使用することになっている。これが差異の原因だ。その一部を見てみよう。

 年収538万円から538万4000円未満の人の給与所得控除後の額は376万4000円となっていて、538万1000円でも538万2000円でも一律376万4000円となっている。そろばん時代には、細かな計算をするより速算表の方が便利だったと思われ、速算表はその名残だ。正確にご自身の源泉徴収票を計算したい方は、この速算表で確認していただきたい。

余談その1:2020年から給与所得控除が減額する

 すぐそこまで迫っているので2020年の給与所得控除の改正について触れておこう。サラリーマンの税制でここ数年で頻繁に改正が行われているのが給与所得控除だ。2020年の給与所得控除の計算式は以下のとおり。

 平成31年(2019年)までと比べ、年収850万円以下の人は控除額が10万円減り、850万円を超える人は一律195万円となり増税される。特に控除額が一定となる年収の上限額の変更はここ数年すさまじい。2012年分までは上限なしだったが、2013年分から1500万円となり、その後も1200万円、1000万円と下がり来年は850万円。筆者は近い将来800万円に引き下げられると予想している。1500万円の上限が設けられたころは高額所得者に限定した増税と思われたが、800万円になると大手企業に勤めるサラリーマンはかなり該当しそうだ。

 2018年9月に公開された「平成29年分 民間給与実態統計調査」(PDF)を見ると、年間給与額が1500万円を超える人は59万2000人(1.2%)、1000万円を超える人は222万人(4.5%)、800万円を超える人は457万1000人(9.3%)となっている。この統計は非正規を含めた民間企業の従業員の給与に関する調査結果なので、これに公務員(国家公務員、地方公務員など)を加え、上限額が800万円に改訂されると民間企業+公務員で増税の対象となる人は10%を超えそうだ。

 試しに高額所得者がどれくらい増税されたかを計算をしてみよう。海外から日本に来て企業の経営者となり、年収が10億円の人がいたとしよう。平成30年分の給与所得控除は上限の220万円。平成24年分の年収1000万円超の計算式は「収入金額×5%+170万円」なので給与所得控除の額は5170万円となる。その差は4950万円。同じ10億円の年収で、平成24年より平成30年は所得が4950万円増え、現在の最高税率である45%を掛けると所得税だけで2227万5000円の増税となる。

 平成26年分までの最高税率は40%だったので単純に比較できないところもあるが、高額所得者に対する増税はすさまじい。給与所得控除の年収の上限額は前述のとおり1500万円、1200万円、1000万円と下がり、850万円まで引き下げられることが決まっているので、一部の高額所得者だけが対象とは言えない状況になりつつある。

源泉徴収票の所得控除欄の謎を解く

 2行目の式の各種所得控除に該当するのがピンクの部分だ。一番上の「所得控除の額の合計額」に308万円と記載されている。その下の段には○印や数字の1、38万円、99万円、12万円などの金額が記載されているが、予備知識なしにこれらの関係を理解するのは難しい。

 「所得控除とは」を説明しよう。「家族が多いと生活費が増えるので税金を減らしましょう」といった感じで、所得控除は扶養する家族や生命保険の支払いなどの個人個人の事情に合わせて、所得から一定額を差し引き(控除し)、税額を算出する金額(課税所得)を引き下げ、納税額を減らすものだ。同じ年収のサラリーマンなら、養う家族が多い人は独身の人より納税額が減ることになる。

 各種所得控除の中で多くの人が関係するのは配偶者控除、扶養控除といった人的控除、年金、健康保険、雇用保険といった社会保険料控除、生命保険に加入している人の生命保険料控除だろう。これらの所得控除が源泉徴収票のピンクの部分に「分かりにくく」記載されている。この分かりにくい所得控除欄の謎を順番に解いていこう。

(源泉)控除対象配偶者の有無等

 左上の(源泉)控除対象配偶者の有無等の「有」に○が付いていれば控除対象となる配偶者がいるということだ。旦那さんの配偶者は奥さん、奥さんの配偶者は旦那さん。事例の安倍さんの奥さんは専業主婦なので控除対象の配偶者となる。その右側の金額が配偶者控除の額で38万円となっている。

 年末調整で提出した「平成30年 給与所得者の配偶者控除等申告書」を思い出してみよう。あらためて見ると、安倍さんの年収、奥さんの年収から判定された控除額が右下に38万円と記載されている。年末調整で提出した申告書がここに反映されている。

 事例の安倍さんの奥さん(配偶者)が正社員としてバリバリ働いていると所得制限を超えるので控除の対象とならない。また、安倍さんの所得が1000万円(年収で1220万円)を超えると、奥さんが専業主婦でも配偶者控除を受けることができない。

余談その2:平成30年(2018年)から配偶者(特別)控除が改正、複雑になった

 平成29年分(2017年)までの配偶者控除は給与所得者(例えば旦那さん)の所得が300万円でも2000万円でも、所得額に関係なく配偶者(例えば奥さん)の所得が38万円(年収で103万円)以下であれば配偶者控除の額は38万円で固定されていた。平成30年分から配偶者(特別)控除の仕組みが大幅に改正され、かなり複雑となった。大きな変更点は3つ。

  • 旦那さんの所得額により配偶者(特別)控除の額が異なる
  • 旦那さんの所得額が1000万円を超えると配偶者控除が受けられない
  • 奥さんの年収の103万円の壁が150万円に引き上げ

 具体的には旦那さんの所得により以下のように配偶者控除の額が減額されることとなった。

配偶者控除の改正のイメージ図。手前の黄色が2017年(平成29年)。後ろ3つが2018年(平成30年)で給与所得者の所得額によって配偶者控除の額が異なるようになった

 配偶者控除の改正はかなり複雑なので、もう少し詳しく知りたい人は「大増税が迫ってくる? 自分への影響は? まずは源泉徴収票の見方を理解しよう<後編>」を参考にしていただきたい。

扶養親族の人数から控除額を算出する

 配偶者控除の右側は「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」という欄があり、その下の特定の欄に1、老人の欄の左に1、真ん中に1となっている。右端の「16歳未満扶養親族の数」にも1と記入されている。

 扶養控除は子どもや親を養っていると受けられる控除で、対象となる親族の年齢により控除額が異なっていてる。図で説明しよう。

 平成30年の年末時点の年齢が16~18歳(ほぼ高校生)であれば控除額は38万円。19~22歳(ほぼ大学生)であれば63万円。23~69歳であれば38万円。70歳以上で同居していれば58万円、別居であれば48万円となっている。年齢以外に所得が38万円以下という条件がある。

 増額になっている19~22歳はほぼ大学生で、対象となる親族を特定扶養親族と呼ぶ。「大学に通う子どもがいるとお金が掛かるから控除を増やして税金を減らしましょう」ということだ。ただし、大学に通っていることは条件となっていないので、浪人中でもフリーターでも年齢と所得の条件を満たし、生計を一としていれば(親が養っていれば)別居でも控除の対象となる。もう1つ増額されているのは70歳以上で、老人扶養親族と呼ばれている。老人扶養親族は同居(同居老親等)と別居で控除額が異なる。

 事例の源泉徴収票を見ると特定(特定扶養親族)が1となっているので、ほぼ大学生の子どもが1人いることが分かる。老人の欄は真ん中の1は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、左側の「内」に1とあるのは老人扶養親族の内、同居老親が1人いることを表している。もし別居で老人扶養親族がいる場合は真ん中が1、左側の「内」は空欄(0人)となる。老人の右側のその他の欄は高校生など一般の扶養親族に人数を記載する。右端の「16歳未満扶養親族の数」は16歳未満の子どもの人数で、控除の対象とならない。

 事例の控除額を確認しておこう。特定扶養親族が1人で63万円、同居老親が1人で58万円、16歳未満の扶養親族が1人で0円となる。

生命保険料控除と年末調整はつながっている

 下の段に移ろう。左上の「社会保険料金等の金額」は毎月の給料から天引きされた厚生年金、健康保険、雇用保険の合計額で事例では99万円となっている。その隣は「生命保険料の控除額」で12万円。最下段にも12万円、8万円、12万円の金額が記載されている。これらの金額の謎を解いていこう。

 最下段の項目名は左から「生命保険料の金額の内訳」「新生命保険料の金額」「旧生命保険料の金額」「介護医療保険料の金額」……となっている。これらは生命保険に関する項目だ。

 生命保険は平成23年以前に契約したものは旧制度、平成24年以後に契約したものは新制度と分けられている。さらに旧制度は一般と年金の2つ、新制度は一般、介護医療、年金の3つに分けられ、計5つに分類されている。最下段の5項は5つに分類された保険料の支払った金額が記載されている。保険料ごとに控除額を算出し、合計した額が上段の「生命保険料の控除額」となる。ただし生命保険料控除には上限額があり、この例では上限額の12万円となっている。5つに分類された保険ごとの控除の限度額は図のとおりだ。

 年間に支払った保険料と控除額の関係は以下のとおり。旧制度の控除額の上限は5万円。新制度の控除額の上限は4万円。事例では「旧生命保険料の金額」と「旧個人年金保険料の金額」でそれぞれ12万円を支払っているので、控除額は上限額の5万円ずつ。新制度の「介護医療保険料の金額」に8万円を支払っているので、控除額は4万円。3つの保険の控除額は5万円+4万円+5万円=14万円だが、全体の上限額が12万円なので最上段の「生命保険料の控除額」は12万円となる。

 この生命保険料の計算に見覚えはないだろうか。年末調整で提出した「平成30年分 給与所得者の保険料控除申告書」の結果がここに反映されている。このように年末調整と源泉徴収票は密接につながっている。お時間のあるときに「年末調整の書き方を図解で説明 そもそも年末調整とは」に目をとおしていただくと理解が深まるだろう。

隠された基礎控除を見逃すな

 ピンクの部分の謎解きが進んだので、それぞれの控除額を合計してみよう。

配偶者控除    38万円
特定扶養親族   63万円
同居老親     58万円
社会保険料控除  99万円
生命保険料控除  12万円
合計       270万円

 最上段の「所得控除の額の合計額」の308万円に38万円足りない。源泉徴収票のどこにも記載されていないが、所得がある人は全員に38万円の基礎控除がある。記載されていない自分自身の基礎控除を足すと、所得控除の額の合計額は308万円となる。

余談その3:2020年から基礎控除が増額……減税される?

 基礎控除は2020年分から10万円上乗せとなり48万円となる。それだけ見ると控除が増え減税となりそうだが、前述のとおり2020年から年収850万円以下の人は給与所得控除が10万円減るので差し引きゼロ。基礎控除と給与所得控除の改正で影響を受けるサラリーマンは年収850万円超の人で、結果として増税となる。

 各種所得控除の計算ができたので、所得税の計算式の2行目を計算してみると課税所得が算出できる。

給与所得-各種所得控除=課税所得
474万円-308万円=166万円

課税所得と税率から納税額を算出

 所得税の計算式の3行目は課税所得に税率を掛けて所得税の納税額を算出する式だ。

課税所得×税率=所得税

 所得税の税率は課税所得の額が増えると税率が上がる。所得税の税率は以下の表となっている。

 税率は表のように課税所得の額により5%から45%まで税率は上がっていくが、税率は課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、その金額の部分に対する税率となる。

 例えば課税所得が295万円の場合、195万円までの部分の5%、195万円を超え295万円の部分の10%を合計した額が納税額となる。実際に計算してみよう。

課税所得300万円の所得税

195万円×5%=9万7500円 ①
100万円(295万円-195万円)×10%=10万 ②

①+②=9万7500円+10万円=19万7500円

となる。税率表の右側にある控除額を使用すると、簡単に計算することができる。

課税所得金額×税率-控除額=納税額
295万円×10%-9万7500円=19万7500円

 安倍進次郎さんの事例の所得税を計算してみると、

課税所得×税率=所得税
166万円×5%=8万3000円
(課税所得は1000円未満の端数は切り捨て)

 源泉徴収票に記載された「源泉徴収税額=所得税」の8万4700円にかなり近づいた。所得税の納税額は計算のとおり8万3000円で間違いないが、平成25年から25年間は東日本大震災の復興特別所得税を上乗せする必要がある。復興特別所得税額は所得税の納税額の2.1%分となっている。

8万3000円+(8万3000円×2.1%)=8万4743円
100円未満を切り捨て       =8万4700円

 これで無事に源泉徴収票の謎を解くことができた。このように給与所得控除、各種所得控除額、課税所得、税率など源泉徴収票に記載されていない所得税の算出方法を知らないと理解できないのが源泉徴収票だ。税制の改正は頻繁に行われるが、基本的な考え型はそれほど変化はない。一度理解すると一生役に立つ知識だ。

 すでに理解できていると思うが、冒頭の「年収は?」「所得は?」「納税額は?」と聞かれたときは、源泉徴収票の「支払金額」「給与所得控除後の金額」「源泉徴収金額」がそれぞれの答えとなる。

 安倍さんの源泉徴収票の記載された年収から所得税までの流れをイメージ図にしてみた。全体を把握するときの参考にしていただきたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。