特集

巧妙化するモバイル広告詐欺(アドフラウド)――日本企業の対策は世界で最下位?

デジタル広告ネットワーク特有の技術を使い、広告費用をだまし取るアドフラウド(Ad Fraud=広告詐欺)が世界的な問題となっている。しかし、実際に対策を行っている日本企業は未だに少なく、日本はアドフラウド防止ツールの導入率が世界で最も低い国の1つと言われている。

今回は、アドフラウドの現状と日本のモバイルアプリ業界に与える影響について、防止ツールの開発元であるAdjust(アジャスト)のデータをもとに見ていく。解説は同社の佐々直紀氏。

 スマートフォンの普及に伴い、日本のモバイルアプリ市場は順調に拡大しています。特に広告の成長は著しく、2018年末時点ではモバイル広告費の市場規模は1兆円を上回ると予測されています。しかしながら、市場の成長に影を落とす存在であるアドフラウド(広告不正)については、事業者の間で十分に認識されていません。

 アドフラウドは、世界のあらゆる地域のアプリ市場に損害を与えています。Adjustが提供している「アドフラウド防止機能」は、グローバルで1日に約100万件の不正行為を検知し排除しています。当社では、2018年末までには、約5535億円(49億ドル)に達するだろうと推定しています。日本では毎週約2540万円(22万4000ドル)、つまり1カ月あたり約1億円の契約企業(広告主)の損失を防いでおり、この数値は増加の一途をたどっている状況です。

モバイルアドフラウドの種類

 モバイルアドフラウドとは、モバイル広告の技術を悪用し、広告主やパブリッシャー、サプライサイドパートナーに対して不正を働き、広告主のキャンペーン予算を不正に受け取る行為です。

 不正の種類にはさまざまな形態がありますが、不正業者はユーザーになりすまし、次に関連する不正行為を行っています。

  1. ビュー(閲覧)やクリックなどのユーザーエンゲージメント
  2. インストールやセッション(訪問から離脱まで)、イベントなどのユーザーアクティビティ

 アドフラウド対策をとっていない企業につけこんで、彼らは莫大な金額を搾取しています。

 例えば、あるネットワークのインストール数が急激に増え始めた場合、マーケティング担当者はそこにより多くの予算を充てようとするでしょう。しかし、これらのアトリビューション(そこに至るまでのアクション)の大半が不正という可能性もあります。実際、Adjustを利用していたある企業では、アプリの3カ月間に発生した6割以上のアトリビューションが不正だったというケースもありました。

 リターンの高い健全なチャネルに対して広告費を投資することができず、結果として、広告効果が低下することにもなりかねないのです。

 アドフラウドは広告費の損失だけではなく、広告媒体の評価や計測データにも大きな誤差を発生させます。アドフラウドのパターンを見分ける知識やツールがないと、インストールが本物か不正かを見分けることができないだけでなく、それがどこから流入したものかを判別することができません。また、不正防止ツールを利用せずにアドフラウドの検知を行う場合、配信ログの確認などに膨大な時間と労力がかかってしまい、本来のマーケティング施策に集中することができなくなってしまいます。

日本に多いSDKスプーフィング

 アドフラウドの手口はますます巧妙になっており、私たちが1つのアドフラウド手法を検知すると、相手はすぐに別の不正行為を考案します。

 Adjustは、アドフラウドの分布状況をタイプ別に検知して、それぞれに対策を行っています。モニタリングをしている不正行為の発生率が急激に低下した場合、不正業者が他の手段を使っていないかどうか確認する作業を行います。現在、急速に増加しているタイプは「SDKスプーフィング」です。これは、ユーザーの携帯端末の情報を不正に使ってアプリインストールが発生したかのように見せかける手口です。Adjustのような計測事業者をだます手口で、どの計測事業者も対策が必要です。また、端末はユーザーが実際に使っているものであるため、見極めるのは困難です。アトリビューションの6割がSDKスプーフィングを用いた不正だったという事例もあります。

Adjustグローバルベンチマーク 2018年第三四半期 アドフラウドのタイプ別分布状況

 自社アプリのパフォーマンスを他のアプリと比較することができるAdjustのグローバルベンチマークツールによると、アドフラウドとして検知・拒否されたインストール数の割合は、グローバルで14%に達しています。日本での発生率は他国と比較して低めですが、これは日本における不正が少ないからではなく、その全体像が十分に認識されていないからです。Adjustが確認しているのは氷山の一角にすぎません。アドフラウドの分布モデルを分析してみると、計測された数値よりも状況はずっと深刻ではないかと考えられます。日本は不正防止ツールの利用率が最も低い国の1つのため、見逃されている不正事例が膨大にあることが推測されるからです。

業界全体で協力関係の構築を

 アドフラウドは今後もますます深刻化する問題です。アプリ広告業界の透明性と健全性を保つには、パブリッシャーやネットワーク、広告主の相互理解と協力が不可欠です。モバイルエコシステム全体に利益をもたらすソリューションを手にするために、業界全体で取り組まなければなりません。

 まずは、広告主やネットワークとアドフラウドについての情報共有を積極的に行い、広告予算を無駄に投じないようにすることが重要です。不正行為者は仕掛ける不正をブラックボックス化して、見抜かれまいとします。マーケティングキャンペーンを担当する媒体を正しく評価し、どんなアドフラウド対策を取っているかを確認し合うことが大切です。

 Adjustは、最新のアドフラウド防止ツールを開発・提供する企業として、アドフラウドの正しい情報を伝えていくことが大切だと考えています。調査レポートやセミナー、当社が発足したアドフラウド防止連合(CAAF)を通して、モバイルアプリ業界をはじめ、社会全体のアドフラウドに対する認識の向上と対策の強化を図る活動を、今後も進めていきたいと考えています。

佐々 直紀(さっさ なおき)

1974年生まれ。2000年4月からデジタルマーケティングに携わり、オンラインモールのキュリオシティ、Yahoo!ショッピング、ショッピングサーチビカム、リターゲティング・DMPのVizuryにてAE、AM、マーケティング業務を経験。2016年1月からTUNEの日本法人の立ち上げメンバーとして、本格的にアプリ計測分野に参入、2016年11月よりAdjustに参画。数々のスタートアップの立ち上げから軌道に乗せた経験を生かし、カントリーマネージャーとしてAdjustの日本オフィスを統括している。