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【図解で説明】年末調整の書き方 ~年末調整とは~
2019年11月15日 15:00
サラリーマンの年末の風物詩、「年末調整」がやってきた。SNSを見ると「面倒くさい」「ややこしい」「分かんねー」「誰かやってくれよ」など否定的なコメントが散見される。こうして記事を書いている筆者も、サラリーマン時代は何のために年末調整をしているか理解していなかった。まずは、「そもそも年末調整とは」「年末調整をすると何かいいことあるの」を簡単に説明しよう。
「理解する必要なし、時間なし、書き方だけ知りたい」という人は、それぞれの申告書の項に飛ぶか、記入例の図だけ見てもらえばよいだろう。ただ、税を知ることは国をよくすることにつながると筆者は思っている。年末調整は、普段は税に無関心な人も、税と向き合うよい機会だ。これから30年以上、増税が続くと予想されるので、税を理解すると将来的に役に立つことは多いだろう。
目次
▼そもそも年末調整とは
▼3枚の申告書を少し理解する
▼「給与所得者の保険料控除申告書」は生命保険の証明書を見ながら記入
▼保険会社の計算サポートサイトを利用しよう
▼「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」
▼自分の所得を計算……手抜きしてもいいんです
▼配偶者の所得の計算も手抜きしていいんです
▼「給与所得者の配偶者控除等申告書」を記入してみる
▼基礎控除が改正される令和2年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
▼人的控除は改正されたルールに注意
▼扶養親族は年齢に注意
▼16歳未満の子どもは住民税に関する事項に記入
※この記事は、令和元年(2019年)の年末調整について説明したものです。
令和2年(2020年)の年末調整については、こちらの記事をご参照ください。
このほか、「INTERNET Watch」では、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。
そもそも年末調整とは
サラリーマンは毎月の給与から所得税と住民税(入社2年目から)が天引きされているはずだ。所得税は毎月の給与の額から算出され“みなし金額”が納税されている。12月の給与が支給されると年収が確定する。そこから給与所得控除、配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などが差し引かれ、最終的な納税額が決まる仕組みだ。
サラリーマンの所得税の計算式は下の図のとおり。1行目の左が年収。その右の給与所得控除は一定式で決まっていて、差し引いたのが右側の所得と呼ばれるもの。2行目は、その所得から各種所得控除が引かれ、課税所得が算出される。課税所得に、それに応じた税率を掛けると納税額が決まる。2行目の各種所得控除は人により異なる。「専業主婦の奥さんがいる」「大学生の子がいる」「生命保険に加入している」など、差し引かれる(控除される)金額が多くなると納税額が減る仕組みだ。
控除額の算出には扶養する家族の状況、加入している生命保険の内容を知る必要がある。そのために家族の生年月日や所得、加入している生命保険の種類や支払い額を会社に申告し、正確な納税額を年末のこの時期に調整するのが年末調整だ。一般的に毎月天引きされる“みなし金額”がやや多めで、年末調整により12月の所得税は少なくなるため、少し手取り金額が多くなる傾向がある。
会社側から見ると、年末調整は社員の年収と控除を把握し納税額を正しく確定する作業だが、サラリーマン側は年末調整をすることで、多めに納めた税金を取り戻す作業だと考えよう。「税金が戻って来る」と思うと、面倒くささも1~2割は減るのではなかろうか。
ちなみに年末調整はかなり「面倒くさい」作業だが、もし起業して自分で確定申告をすることになると、年末調整の10倍以上、おそらく100倍くらい面倒くさい作業をしなければならない。税の知識も時間的な労力も必要となるが、会社では税の知識や労力の大半は総務や経理の人が補ってくれる。自分の面倒くささが100分の1になるのは管理部門のお陰なので、督促されても「うるせいなぁ」と思わず、感謝の気持ちを持っていただきたい。
3枚の申告書を少し理解する
年末調整で配られる申告書は3枚が一般的で、会社によっては4枚配布される。一昨年までは2枚が一般的だったが、税金の仕組みが年々複雑になり、昨年から1枚追加された。3枚の申告書の長~いタイトルは以下のとおり。
- 令和元年分 給与所得者の保険料控除申告書
- 令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書
- 令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
1の「令和元年分 給与所得者の保険料控除申告書」は、自分が加入している生命保険、介護医療保険、地震保険などの今年分(平成31年/令和元年分)の支払い額を申告して税金を減らしてもらう申告書。2の「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」は、配偶者(旦那さんから見た奥さん、奥さんから見た旦那さん)の所得を申告して、該当すれば税金を減らしてもらう申告書。3の「令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、扶養家族の状況を申告し、来年1月から毎月天引きされる所得税の額を算出するための申告書だ。
1と2は、年末調整のために必要な申告書なので早めの提出が求められる。3は、来年の1月の給与計算に必要なので、それほど急ぎではないが、慣習として年末調整と同時期に配布・申告をすることが多い。2の給与所得者の配偶者控除等申告書の裏面には「令和元年の最後に給与の支払を受ける日の前日までに、給与の支払者に提出してください」と書かれているが、全社員が12月の給料日の前日に提出したら年末調整ができないので、大手企業ほど早めの提出が求められる傾向がある。同様に、3の給与所得者の扶養控除等(異動)申告書の裏面には「令和2年の最初の給与の支払を受ける日の前日までに……」と書かれているが、他の申告書と一緒に提出しよう。
会社によっては、4枚配布される場合がある。4枚目として「平成31年(2019年)分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が加わるが、これは昨年の年末調整で提出したもの。この1年で結婚したとか離婚したとか、扶養家族に変化がなかったかの確認用だ。
万が一、年末調整の提出期限に間に合わないときは、1と2が優先。3は遅れても実務上は支障がないはずだ。大きな声では言えないが、提出期限を過ぎても諦めないで、感謝の念を忘れず「申し訳ありません」とお願いすれば受理される可能性は高い。
年末調整のシステム化、電子化
筆者は秋ごろから、サラリーマンの人に年末調整についてヒアリングをしている。そこでよく耳にするのが「年末調整がシステム化されて楽になった」という声だ。社内システムに年末調整を組み込むことで、毎年同じ内容を記入する必要はなくなる。住所が同じ、扶養家族も同じ、生命保険も同じなら一瞬で年末調整は終了する。毎年ほぼ同じ内容を悩みながら30分掛けて記入しているのが一瞬で終われば、従業員の多い企業では大幅なコストダウンが可能となる。
税金の申告書は、単純な年度の更新や税制の改正があるので、毎年フォーマットの変更があり、買い切りではなく一定のランニングコストが必要だ。従業員数が少ないとシステム化のメリットが少なくなる可能性もある。
企業が外部サービスを利用するケースも増えている。これも自宅でスマホから年末調整が可能になるなど利便性は高い。実際、この秋はタレントの速水もこみちさんが「紙、要りません。ハンコ、要りません。……オリーブオイル、要りません……」とアピールする年末調整のテレビCMを何度も目にする機会があった(関東圏のみ)。
このCMを検索してみると、「SmartHR」というクラウド人事労務ソフトで、筆者の知人が勤める企業でも実際に導入されていた。スマホのスクリーンショットをもらったのでチラッとお見せしよう。
こうした企業が行うシステム化と別に、国も年末調整の電子化を予定している。来年(令和2年)の年末調整から生命保険などの控除証明書の電子データによる提供行われ、年末調整の電子化に向けた施策が実施されるらしい。面倒な年末調整の手書き記入から解放される日は近い……ようだ。
「給与所得者の保険料控除申告書」は生命保険の証明書を見ながら記入
最初は「令和元年分 給与所得者の保険料控除申告書」から見ていこう。この申告書は5つのブロックに分かれている。上段は会社名や自分の氏名、住所などを記入する欄。下段の左側、大きなエリアが生命保険だ。右側は地震保険、社会保険、年金掛金などを記入する欄が縦に並んでいる。生命保険は8割ほどの人が控除を受けているので、多くの人が記入することになる。
作業に入る前に必要なのは、手元に生命保険会社などから送られてきた証明書を用意することだ。では早速記入をしてみよう。最上段のブロックは会社名や自分の氏名、住所など記入する欄となっている。おそらく左端の所轄税務署や会社名、法人番号、会社の住所は会社が記入してくれるか、配布時にゴム印などが押されてるだろう。実際には氏名と住所を記入して捺印すれば終了だ。
この申告書の主役は生命保険。ジックリ見ていきたい。事前の知識として、生命保険の控除は、平成23年以前に契約した保険が旧制度、平成24年以降に契約した保険がを新制度となっていることを理解したい。旧制度は一般生命保険(医療保険を含む)、個人年金保険の2種類、新制度は一般生命保険、個人年金保険に介護医療保険を加えた3種類で、新旧合わせて5種類に分類されている。
「平成23年は2011年で、自分が結婚して保険に入ったのは……」と記憶をたどる必要はない。手元にある証明書に適用制度が旧制度か新制度か、一般(生命保険)用、介護医療用、個人年金用などが記載されているので、それを見ながら記入しよう。この証明書は提出時に添付する必要があるので、記入を終えても捨てたりしてはいけない。
生命保険料控除は納税者の8割が控除を受けているので、記入例を2つ用意した。1つめはシンプルに旧制度の生命保険(+旧制度の医療保険)に加入している例だ。この例は死亡保険などの一般生命保険(旧制度)に12万円、入院給付金などの医療保険(旧制度)に9万円を支払っている。旧制度では介護医療保険の分類がないので、医療保険は一般生命保険と同じ分類となっている。
矢印に沿って「(a)のうち旧保険料等の金額の合計額」をB欄に21万円(12万円+9万円)と記入し、下段の「計算式II(旧保険料等用)」に照らし合わせ控除額の5万円を算出し、その後も矢印に沿って記入すれば完成となる。記入例では保険料の合計が10万円を超えているので、控除額は上限の5万円。計算式を見ると10万円以上は一律に5万円となっている。この記入例は生命保険だけで12万円なので、医療保険の8万円は記入する必要はない。
ちなみに筆者は二十数年のサラリーマン生活で10万円以上の保険を1枚記入すればよいことに気付いたのは最後の数年だった。それまではA社の保険、B社の保険、子ども2人の学資保険など全て記入していた。筆者のような無駄な労力を掛けないように記入不要な保険を記入例に入れてみた。
2つ目の記入例は保険がてんこ盛りだ。旧制度の生命保険に、新制度の介護医療保険と旧制度の年金保険を加えている。内容も図も複雑になったので、旧制度の一般生命保険は青文字/青実線、新制度の介護医療保険は赤文字/赤点線、旧制度の年金保険は緑文字/緑実線となっている。
一般の生命保険料は、先ほどの記入例と同じだ。青の実線矢印に沿って計算し、控除額は5万円(イ)となる。新制度の医療保険は、下段の介護医療保険料の欄に記入する。赤の点線矢印に沿って9万円の保険料を「計算式I(新保険料等用)」に照らし合わせ、控除額の4万円を(ロ)に記入する。
旧制度の個人年金保険料は、記入例の緑の実線矢印に沿って計算すると控除額は5万円(ハ)。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の控除額の合計は14万円となるが、上限が12万円なので合計の欄は12万円と記入しよう。
保険会社の計算サポートサイトを利用しよう
掲載した記入例は合計額が12万円を超える例にしたいこともあり、控除額の計算が簡単だったが、実際に支払った年間の保険料は1円まで端数があり複雑な計算になることがある。そこで利用したいのが生命保険会社のサポートツールだ。
「生命保険料控除申告サポートツール」で検索すると、多くの保険会社の計算サポートサイトを見つけることができる。自分が加入している保険会社でなくても結果は同じなので、積極的に利用していただきたい。
- 生命保険料控除申告額試算サポートツール(明治安田生命)
- 生命保険料控除申告サポートツール(ソニー生命保険)
- 生命保険料控除申告サポートツール(かんぽ生命)
- 生命保険料控除申告サポートツール(住友生命保険)
- 生命保険料控除額計算サポートツール(第一生命保険)
地震保険も、証明書を手元に用意して記入しよう。紹介した2つの記入例の全体を掲載しておくので、参考にしていただきたい。大半の人はこれでこの申告書の記入は完了となる。
地震保険の下の社会保険の欄については、毎月の給与から天引きされている厚生年金、健康保険などは会社が把握しているので自分でこの欄に記入する必要はない。記入が必要なのは、年の途中で就職し、それまでに自分で国民年金、国民健康保険をを支払っていた場合や、20歳を超えた大学生の子どもの国民年金を代わりに支払った場合などが考えられる。
年金掛金のブロックも記入する人は少な目だ。近年、急増している個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している人がこのブロックの対象者となる。「iDeCo、何それ」という人はスルーでOKだ。
「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」
次は「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」だ。昨年から1枚増えたのがこの申告書で、増税をするために税の仕組みを細分化・複雑化したために追加された申告書といった感じだ。
税制の複雑化が加速している
この申告書が追加された背景は、平成30年分から配偶者控除の改正が行われたためだ。配偶者とは、旦那さんから見た奥さん、奥さんから見た旦那さんで、ここでは配偶者控除の対象が奥さんの場合を例に説明しよう。平成29年(2017年)までは奥さんの所得が38万円以下であれば、旦那さんは年収500万円でも1500万円でも配偶者控除を受けられた。所得のない専業主婦はもちろん、パート、アルバイトで給与をもらっていても(=給与所得者)、給与所得控除の65万円が収入から差し引かれるので、年収103万円以下であれば38万円の配偶者控除の対象となった。
平成30年分から改正が行われ、旦那さんの所得が多いと配偶者控除が受けられなくなった。要するに、旦那さんの稼ぎが多い家庭は、奥さんがいても控除をなくして増税しようということだ。奥さんの所得が38万円以下の場合、旦那さんの所得が900万円以下(年収1120万円以下)であれば配偶者控除は従来と同じ38万円。旦那さんの所得が950万円以下(年収1170万円以下)であれば配偶者控除は26万円。旦那さんの所得が1000万円以下(年収1220万円以下)であれば配偶者控除は13万円と段階的に減り、旦那さんの所得が1000万円(1220万円)を超えると配偶者控除が受けられなくなる。
パッと読んでも理解できないと思う。昨今の税制の複雑化は加速的で、増税のために重箱の隅を突きまくっている印象だ。数十年後には旦那さんの所得を500万円から1000万円まで38分割して、配偶者控除が段階的に1万円ずつ減る税制が成立するかもしれない。
税制が複雑になると、さまざまな事務量が増加する。年末調整の申告書が1枚増えるのもその1つだ。今後さらに複雑化すると、税収も増えるが事務量も増加する。税制の複雑化→企業の事務量増加で生産性の低下→企業の収益低下→社員の報酬低下→法人税・個人所得税の減少となり、増税目的の複雑化が経済損失を増やし、結果として税収が減らないことを祈りたい。「税金はシンプルに」と方向転換して欲しい。
「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」も記入欄は5つのブロックに分けられる。最上段は自分の情報。その下は、A 自分の所得金額、B 配偶者の所得金額、C 所得金額の計算表、D 控除額の計算となっている。記入する順番を考慮すると、Cで自分と配偶者の所得を計算し、AとBで区分を判定する。その区分をDで照らし合わせて結果を出すことになる。
最上段の会社名や自分の名前、住所は説明不要だろう。その先の記入の流れは、下図の①で自分の所得を計算し転記。②で配偶者の所得を計算し転記。①の結果から、区分Iの判定(③)。②の結果から、区分IIの判定(④)。区分Iを縦軸、区分IIを横軸に照らし合わせて最終結果⑤を求める。
自分の所得を計算……手抜きしてもいいんです
まず最初に行う作業は、自分の所得の計算だ。具体的には令和元年の自分の所得が900万円以下(年収1120万円以下)、900万円超950万円以下(年収1120万円超1170万円以下)、950万円超1000万円以下(年収1170万円超1220万円以下)に分類、判定する作業だ。ちなみに所得が1000万円(年収1220万円)を超えると配偶者控除は受けられなくなる。
年末調整を記入する段階で、今年の年収、所得を正確に知ることは難しい。一部の上級国民で年俸制であればこの時点で年収は決まっているが、毎月の給与に変動がある人が1月~10月の給与明細を合計し、それに11月、12月の給与と冬のボーナスを類推、加算するのはかなり面倒だ。さてどうする。
国税庁の統計データを見ると、所得が900万円を超える人は全体の数%。要するに9割以上のサラリーマンは所得900万円以下(年収1120万円以下)に区分される。最も短時間に作業を済ませる方法は、何も計算せず900万円以下の金額を記入することだ。
とはいえ、自分の所得が分からず「実際は500万円なのに700万円と書くのは恥ずかしい」と思う人もいるだろう。自分のおおよその年収や所得を知りたい人は、1月の給与で受け取った前年の源泉徴収票を参考にする方法がある。収入の増えない時代なので、源泉徴収票の金額を書いておけば大きなズレはないだろう。
幸か不幸か所得が900万円を超え1000万円以下の人は、地道に集計をして可能な限り正確な所得を算出しよう。該当する人は増税され、さらに事務量が増え、踏んだり蹴ったりだが頑張っていただきたい。
配偶者の所得の計算も手抜きしていいんです
自分の所得の計算が完了したら、次は配偶者の所得を計算しよう。配偶者控除が改正され奥さんの年収が103万円を超えても配偶者控除が受けられるようになったが、実際には奥さん本人の所得税、住民税、社会保険などの負担があるため、まだまだ従来どおり働き過ぎないようにしている人が多いようだ。
配偶者の所得の計算も、奥さんが従来どおり年収100万円に収まるなら、それらしい金額を記入すれば簡単に終わらせることができる。配偶者控除の税制改正により平成30年以降は働き方を変えて、103万円の壁を越える年収になりそうな人はまじめに計算をしよう。
「給与所得者の配偶者控除等申告書」を記入してみる
では実際に記入をしてみよう。今回は所得の目安として、1月に掲載した源泉徴収票の記事で使用した事例を見ながら進めたい。源泉徴収票を見ると、支払金額(=年収)は660万円だ。その隣に書かれた給与所得控除後の金額は474万円となっている。
「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」の裏に収入金額(年収)から所得を算出する表が用意されているので、実際に計算してみよう。年収660万円の所得金額は「6,600,000円以上 9,999,999円以下」の式を利用する。
660万円×90%-120万円=474万円
年収660万円から所得を計算すると474万円となった。この金額は源泉徴収票の給与所得控除後の金額と同じだ。要するに源泉徴収票には年収と所得が並んで記載されているので、計算をしなくても申告書を記入できるということだ。この事例の安倍さんの奥さんは専業主婦という設定なので収入金額、所得は0円だ。
判定をしよう。安倍さんの旦那さんの所得は474万円なので「900万円以下(A)」、奥さんの所得は0円、年齢は70歳未満なので判定は②となる。おそらく日本中でこの申告書を書いている人のほとんどがこの事例と同じ判定になるはずだ。
最下段の表の縦軸・区分IはA、横軸・区分IIは②となり、控除の金額は38万円。下の摘要は配偶者控除となったので、右端の上段に38万円と記入した。これで「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」の記入は終了だ。
該当する人は少ないと思われるが、配偶者の年収が103万円を超える事例も紹介しよう。安倍さんの年収は660万円のまま、奥さんの年収が198万円になったとしよう。収入198万円を計算式に当てはめると所得は120万6000円で判定は④。最下段の表の縦軸・区分IはAのまま、横軸・区分IIは「120万円超123万円以下」となり控除の金額は3万円だ。下の摘要は配偶者特別控除となったので、右端の下段に3万円と記入した。
198万円÷4=49万5000円 49万5000円×2.8-18万円=120万6000円
これで「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」の記入は終了だ。ほとんどの人が記入する意味を持たないので、増えた税収よりも失った労力が多いと感じる申告書だ。
基礎控除が改正される令和2年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
来年、令和2年(2020年)から基礎控除が改正される。基礎控除は収入のある全ての人に適用される控除で、現在の控除額は38万円。この額は平成7年(1995年)から25年間変更がなかったので、税金の歴史の中では一大事なのかもしれない。これから記入する「令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、新しい税制に沿って記入することとなる。
歴史的な基礎控除の改正(らしい)
基礎控除は戦後間もない昭和22年に創設されている。最低限の生活を維持するために必要な収入からは税金を取らないという趣旨で、生きていくために必要なカロリーなどを考慮して控除額が設定されたそうだ。高度成長の昭和の時代は毎年控除額が引き上げられる(=減税)ことも珍しくなかったが、昭和53年から6年、昭和59年から5年、平成元年から6年と引き上げのスパンが長くなり、平成7年からは25年間というかつてない不変の期間となった。
過去において控除額は頻繁に変更されているので、抜粋して推移を並べると、昭和25年:2.5万円、昭和35年:9万円、昭和45年:17.8万円、昭和55年:29万円、平成元年~6年:35万円、平成7年~31年:38万円、令和2年~:48万円となる。
今回の改正は超久しぶりの改正という点と、創設の理念とも言える「収入のある全ての人に……」が70年の歴史で初めて崩れ、年間所得が2500万円を超える人は基礎控除がなくなるという点で歴史的な改正らしい。
筆者は起業して13年。サラリーマン時代は税金の知識は皆無に近く、平成7年(1995年)は神戸の震災とWindows 95が思い浮かぶ出来事で、基礎控除の改正など知るよしもなかった。
今回の基礎控除の改正で控除額が38万円から48万円に引き上げられ減税となるが、給与所得控除が10万円引き下げられ増税となるので、ほとんどのサラリーマンは差し引きゼロだ。年間所得が2400万円を超える人は基礎控除が減額、2500万円を超えると控除がなくなるため増税となる。
「令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」は、来年1月の給与から天引きされる所得税の税額を決めるための申告書だ。扶養家族などの申告に漏れがあると、毎月の所得税が増えるので、漏れなく記入したい。
この申告書は6つのブロックに分かれている。多くの人が該当するのは最上段の自分の情報、A 配偶者の情報、B 扶養親族(16歳以上)の情報、E 16歳未満の扶養親族の情報だ。
順番に見ていこう。最上段は自分の氏名、個人番号(マイナンバー)、生年月日、世帯主の氏名と続柄、住所、配偶者の有無を記入し、捺印する。個人番号の記入は会社のルールに沿って必要があれば記入する。自分が世帯主の場合は自分の名前を記入し、続柄は本人。父親が世帯主の場合は父親の氏名を記入し、続柄は父または親と記入する。
居住地と住民登録の住所が同じなら住んでいる住所を書けばよいが、独身の人で住民票は居住地ではなく実家という場合は会社のルールを確認しよう。この申告書の情報をもとに住民税が課税されるが、住んでいる市区町村にデータが送られた際、住民登録がないと役所から会社に確認が行われる。会社のルールが住民票の住所を記載となっていれば実家の住所、欄外に住民票の住所を記載し、住所欄は現住所を記載というルールならそれに従って記入する。独身で親を扶養していない人は、この欄を記入したらこの申告書の記入は完了だ。
左側の給与の支払者の名称(=会社名)、法人番号、住所などは会社が記入するか、配布時にゴム印が押されてるので自分で記入する必要はない。左端の所轄税務署も会社が記入。その下の市区町村は居住地に住民票があればその市区町村を記入。現住所と住民票が異なる場合は会社と相談しよう。
人的控除は改正されたルールに注意
ここからは令和2年から改正された基礎控除、給与所得控除の影響を受けるので注意深く記入を進めよう。パッと申告書全体を見ても前年(と言っても平成31年=令和元年分なので今年だが、令和2年に対し前年の意)と変わったようには見えないが、障害者等の欄(水色C)の右下の(注)を見比べて見よう。
上が前年(平成31年)、下が今回記入する令和2年の注意書きだ。「源泉控除対象配偶者とは~」の説明が、上は所得の見積額が85万円以下、下は95万円以下となっている。また、「同一生計配偶者とは~」の説明が、上は所得の見積額が38万円以下、下は48万円以下となっている。う~ん、間違い探しレベル、普通は気付かないだろう。
サラリーマンは所得が10万円増えるぜ
少し税金の知識がある人は「103万円の壁」という言葉を知っているだろう。例えばパートの主婦やアルバイトの学生は、年収が103万円以下であれば、給与所得控除の65万円を引くと年間の所得が38万円以下となり、所得が38万円以下なら旦那さんの配偶者控除、親の扶養控除に入れる、というルールだ。これまでは。過去二十数年間はこう説明されてきた。
令和2年からは同じ説明が「給与所得控除の55万円を引くと48万円以下となり、所得が48万円以下なら控除の対象となる」と、話が10万円シフトすることになる。しばらくはシックリこない感じだ。
この計算式は冒頭で紹介した所得税の計算式。1行目の式の給与所得控除が10万円減るので全てのサラリーマン(パートもアルバイトも)は自動的に、見かけ上の年間の所得が10万円増えることになる。めでたい。いや、そんなことはない。
インターネットに掲載されている情報は、いつの時点の情報か分からないものも多い。これから税金について調べる人は混乱しそうだ。統計上も令和2年からサラリーマンの所得がポンと増えることになる。この税制の改正を知らない人が将来統計データを見ると「オリンピックの効果」「アベノミクスの効果」と勘違いするかもしれない。だが、そんな効果などあろうはずがない。知らなくても困ることはないと思うが、(見かけ上)所得が増えた理由を知っておくと、いつか役に立つかもしれない。
税制改正を頭の隅に置いて、A 配偶者の情報から見ていこう。配偶者とは、旦那さんからみた奥さん、奥さんからみた旦那さんで、ここでは配偶者控除の対象を奥さんとして説明しよう。
平成29年(2017年)以前は、奥さんの所得が38万円(年収が103万円)以下であれば旦那さんは配偶者控除を受けられた(=税金が減る)。平成30年(2018年)からは、旦那さんの所得が900万円以下という条件が加えられた。奥さん側は所得が85万円(年収150万円)以下となった。令和2年からは、奥さんの所得が95万円(年収は変わらず150万円)以下であれば配偶者控除が受けられる。
説明を読むと複雑で面倒くさいが、先ほど紹介した「令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書」の判定のように、ほとんどのサラリーマンは年間所得900万円を超えないし、依然として年収103万円を超える奥さんも少ないので実質的には従来と同じ。深く悩まないで記入しよう。
扶養親族は年齢に注意
B 扶養親族(16歳以上)のブロックは、控除対象となる扶養親族(子や親)を記入する。ここは年齢により控除額が異なるため少々複雑だ。まずは所得と年齢の条件を確認していこう。
まず控除対象となる令和2年の年末時点で16歳以上(平成17年1月1日以前生まれ)、所得の額は令和2年から48万円(見かけ上10万円アップ)。例えば子どもがアルバイトをしている場合は、年収で103万円以下であれば所得が48万円以下となり控除対象となる。仮にバイト代が毎月6万円なら年収は6×12=72万円。72万円-55万円(令和2年の給与所得控除)=17万円が所得となり控除対象ということだ。子に関して言えば、高校生、大学生といった制限はないので、就職浪人やリストラなどで所得が48万円以下であれば25歳でも40歳でも控除の対象となる。
親が公的年金を受給している場合は年齢により控除額が異なる。65歳未満の公的年金控除額は60万円、65歳以上の公的年金控除額は110万円。よって65歳未満なら公的年金が108万円以下であれば所得が48万円以下となり控除対象、65歳以上なら公的年金が158万円以下であれば所得が48万円以下となり控除対象だ。
母親が遺族年金を受給している場合は注意。遺族年金は課税対象とならないので、サラリーマンだった父親が亡くなって母親が遺族年金を受給している場合は、158万円を超えても扶養控除の対象となる。
扶養親族には控除額の優遇が受けられる年齢がある。上段の老人扶養親族(昭26.1.1以前生)、その下の特定扶養親族(平10.1.2生~平14.1.1生)と誕生日が書かれた欄に注目しよう。令和2年の年末時点で昭和26年1月1日以前に生まれた人は70歳以上、平成10年1月2日から平成14年1月1日に生まれた人は19歳から22歳だ。この2つの年齢の扶養親族は控除額が増える(=税金が減る)ので注意深く確認したい。
図のように70歳以上は老人扶養親族で、同居の場合は58万円、それ以外は48万円と控除額の加算がある。特定扶養親族の対象となる19歳から22歳はほぼ大学生の年齢で、控除額が25万円加算され63万円となっている。これらの年齢の扶養親族がいると控除額がグッと増え、納税額が減るということだ。
特定扶養親族は「大学生の子がいるとお金が掛かるから税金を安くしましょう」という趣旨だが、あくまで年齢が条件なので特定扶養親族は大学生である必要はない。浪人生でもフリーターでも生計を一として年間の所得が48万円以下であれば特定扶養親族となる。来春から子どもが大学生だ、という人で注意したいのは早生まれ(平成14年1月2日~4月1日生まれ)の子だ。令和2年の年末は18歳なので優遇を受けることはできない。
70歳以上の親を扶養している場合、同居なら同居老親等に、別居であればその他にチェックを付ける。同じく特定扶養親族にあたる子がいる場合は該当する欄にチェックを付けよう。
16歳未満の子どもは住民税に関する事項に記入
下段のE 16歳未満の扶養親族のブロックは住民税の控除を受けるための事項だ。所得税の控除の対象から外されているが、住民税は控除対象なので、令和2年の年末に16歳未満、平成17年1月2日以後に生まれた子どもがいる人はこのブロックに記入しよう。
ほとんどの人はこれで年末調整の申告書の記入は終了となる。年々複雑になり、どこまで説明を加えればよいのか迷うほどで、税の専門家でなければ理解するのは不可能だと思われる。理解はできなくても、年末調整を通して税の雰囲気をつかんでもらえれば幸いだ。
最後にINTERNET Watchの読者には、もしかすると朗報となりそうな情報をお届けしよう。筆者はキーボードに触れない日はないが、筆記具を持って字を書くことは極めてまれとなった。字が下手、漢字を忘れたなど、なさけない理由だが、宅配便の宛名も封筒の宛名もプリンターで印刷。手書きでパッと思いつくのはホテルのチェックインくらい。引きこもっていれば1週間以上、筆記具を持たないことがある。
筆者のように「手書き嫌~」という人は、年末調整の申告書の入力用ファイルをダウンロードしていただきたい。会社が認めてくれるかは要相談だと思われるが、名前や住所などコピー&ペーストができる部分もあるので、効率アップが期待できる。翌年も同じ記入内容はコピペできるので、システム化が期待できない状況では有効だと思われる。
- 令和元年分 給与所得者の保険料控除申告書 入力用ファイル(PDF、1397KB)
- 令和元年分 給与所得者の配偶者控除等申告書 入力用ファイル(PDF、1690KB)
- 令和2年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 入力用ファイル(PDF、3050KB)