特集

「洞道」を行く! NTTの長大地下インフラ、都内だけでも総延長290km

 東日本電信電話株式会社(NTT東日本)が11月末、同社の持つNTT霞ヶ関ビル内の通信設備などを報道関係者に公開した。同社では定期的にこのような見学会を開催しているので、内容としては過去の公開時と重複するところもあるが、普段、一般人が見ることのできない施設を見ることができたので、レポートをお届けする。

「洞道」の見学時はヘルメットを着用する。風邪気味でマスクを着用してた筆者は非常に怪しい感じである

 なお、基本的にどの設備も保安体制が厳重で、特に配線盤や交換機のある部屋は、撮影も不可だったため写真は掲載していない。

「NTTビル」とは? 「電話局」とは違うもの?

 今回、報道関係者に公開されたのは、NTT霞ヶ関ビルにある各種設備だ。NTT霞ヶ関ビルは、東京・日比谷にあるNTTの施設で、昔ながらの言い方をすると「電話局」の役目を担っている。

 ちなみに、いまはもう「電話局」とは言わないらしい。かつての電話局は契約や電報などの受付業務もやっていたので、通信設備だけでなく有人窓口があり、対外的に場所を公開し、地図記号も存在した。しかし現在は有人窓口のある通信施設ビルは存在しなくなり、対外的に場所を公開する必要がなくなったため、「NTT××ビル」などという名前になっている。

筆者の仕事場近所の、とあるNTTビル。窓のない建物と階段のない搬入口がイカニモなビルである。ここも20年くらい前はNTTの窓口があったが、現在はかつて窓口だったフロアを宅配業者が使っている。ADSL時代は電話局が家の近くだとイキることができた(ADSLは、電話局が近い方が通信速度が速いのだ)
NTT民営化前の通信関連マンホールのフタには電電公社のマークがある。このマークがかつての電話局の地図記号でもあった。ちなみに新しいマンホールにはNTTのロゴが、より古いマンホールには逓信省のマーク(〒)が書かれている

 各地にあるNTTのビルはそれぞれ、周辺の管轄区域内の加入者からの回線を集約し、交換機やルーターを介して電話網・インターネット網につなげる役割を持っている。ちなみに各NTTビルの管轄区域は、川や鉄道など通信線を通しにくい地形によって分かれることが多いため、××区××町×丁目のような住所区分とは一致しない。

 電話線の場合、全ての加入者からメタルケーブルが1本ずつ、電柱上や地下を通ってNTTビルまで引かれていて、NTTビル内のメタルケーブル配線盤(MDF)につながる。こちらは長さ30mほど、高さが天井まである棚が何列も並んでいるのだが、アナログの配線盤となると技術革新で更新されるようなものでもないせいか、棚は昔から使われていそうな、年季の入ったものだった。

 メタルケーブル配線盤で整理されたメタルケーブルは、別フロアにある交換機(PSTN)につながっていく。まず、1回線1個ずつの加入者交換機に接続し、そこから接続先をスイッチングする中継交換機、他事業者とつながる相互接続交換機へとつながっていく。

NTTビル周りの大まかな通信設備構成

 例えば、ほかの都道府県に電話をかける場合は、加入者交換機から電話局の代表の中継交換機→都道府県の代表となる中継交換機→相手側の都道府県の代表となる中継交換機→相手側の電話局の中継交換機と経由し、相手の加入者交換機につながる。近所に電話をかける場合は、電話局の中継交換機でそのまま折り返すように相手の加入者交換機につながる。

固定電話は多数の中継交換機を経由して音声を伝達する

 NTT霞ヶ関ビルの交換機は、メタルケーブル配線盤とは別フロアに置かれていた。同フロアには、光ケーブルの配線盤やルーターも設置されている。光ケーブルは近年追加された設備だが、技術革新などでメタルケーブルの交換機やほかの機器の専有面積が減った分、光ケーブルという新しい機器を設置できるようになったというわけだ。

 光ケーブルは複数の回線が段階的に集約され、最終的に8000回線がまとめられ、10Gbpsの回線でインターネットに接続する。メタルケーブルに比べると設備は小さく、より新しいようだった。

 現行のメタルケーブルの交換機は2025年ごろが維持限界とされている。そのため、メタルケーブルの電話回線も将来的にはIPネットワークに統合し、交換機をなくす方向に進んでいるとのことだ。

メタルケーブルの電話回線もIPネットワークに統合されていく

都内一帯に縦横に張り巡らされた通信ケーブル用トンネル「洞道」

洞道。こちらは開削工法で作られた、NTTビルからわりと近い箇所。より深い洞道に移行する縦坑部分だ

 各加入者とNTTビルの間のメタルケーブルと光ケーブル、ほかのNTTビルとの間のメタルケーブルや光ケーブルは、NTTビルからは「洞道(とうどう)」と呼ばれる地下トンネルを通されている。今回はNTT霞ヶ関ビルから伸びる2本の洞道について、途中まで見学することができた。

 ビルの地下階からすぐ近くの洞道は、地上から真下に掘り進めて天井をあとから建造する、いわゆる開削工法で作られたものになっていた。ビルの地下階とのつなぎ目部分は、ゴムのジョイントのようなものになっていて、地震などで地盤がずれても建物に影響が出ないようにもなっている。

 開削工法の洞道をしばらく進むと、小さな扉のある壁に突き当たる。こちらは防火扉でもあり、水密扉でもあるという。ケーブルもここだけは壁に埋め込まれている。これは火災発生時や何らかの理由で洞道が水没したときなどに、ほかに影響を及ぼさないようにするためだという。

シールド工法の洞道に変わる箇所。100mくらい一直線に続いている

 さらにしばらく歩くと階段があり、それを降りていくと、断面の丸い洞道に移行する。ここからは水平に掘り進めて建設する、いわゆるシールド工法で作られた洞道だ。出入り口近くは開削工法、中間部分はシールド工法という構成は、地下鉄や高速道路などと変わらない。

 洞道は基本的に人間が通れる大きさで、今回見せていただいた洞道は直径5mくらいと、そこそこの大きさだ。通信向け洞道としては大きいが、電車どころか自動車が行き違うのも困難な大きさなので、交通系のシールド工法トンネルに比べると小規模である。

上の写真と同じ場所の写真だが、ケーブルについて説明を加えてみた

 洞道内には壁面と中央から水平に梁状のラックが伸びていて、そこに大量のケーブルが並べられている……のだが、意外とラックのスペースには余裕がある。というのも、光ケーブルは細い線でもメタルケーブルの10倍の収納能力を持つため、メタルケーブルから光ケーブルへ移行が進めば進むほど、洞道内を通るケーブルの分量は減っていくからだ。

JR横須賀線を越えるための縦坑。撮影場所がすでに地下10mくらいだと思うが、それでもこんなに深い

 洞道の深さは、建設時のほかの地下構造物の深さによって深くなったり浅くなったりする。例えば、NTT霞ヶ関ビルから東に延びる別の洞道は、すぐ東の地下を南北に走るJR横須賀線のさらに下をくぐるために、NTT霞ヶ関ビルからしばらく行くと、突如、深さ約50mまで落ち込んでいる。これは首都高の山手トンネルの深さ約55mに匹敵する深さで、NTTの洞道の中でも最も深いものの1つだという。当然だがエレベーターもエスカレーターもないので、メンテナンスなどをするためには階段を上り下りすることになる。今回の見学会では底まで降りなかったが、貧弱な筆者は降りないでホント良かったと思っている。

 洞道には地下水が漏れ出ることはあるが、ほかの下水道や共同溝とはつながっておらず、換気や排水の設備はあるが基本的に密閉されていて、文字通りネズミ1匹も侵入することはない。

シールド工法トンネルが終わって縦坑を上っていく箇所。ジャングルジムみたいになっている

 もちろん携帯電話の電波も入らないので、作業中の連絡のために、メタルケーブルのところどころに電話機を接続できるジャックが用意されている。こちらの回線、電話番号も割り当てられていて、電話機をつなげば、普通の電話と同じように好きなところに電話をかけられるという。

 都内には総延長約290kmにも及ぶNTTの洞道が縦横に走っている。ちなみに首都高(都外含む)が約320km、地下鉄は東京メトロ単独で約195kmとかなので、それらと比較すればかなりの総延長だとお分かりいただけるだろう。例えば、NTT霞ヶ関ビルから洞道だけを通って新宿などに行くことも可能らしい。ちなみに日本国内でも総延長650km程度なので、その半分近くが東京に集中していることになる。これだけの通信用の洞道があるのは、全世界でも珍しいという。

 大規模な地下トンネル網ではあるが、一般生活では用事がないこともあり、あまり一般には知られていない。そもそも保安上の理由でどこに洞道があるかなどの情報は、あえて公にされていないようでもある。

事故や災害への対策も万全に

 1984年、東京・世田谷でNTT(当時は電電公社)の洞道で火災が発生したことがあったという。死傷者は出なかったが、その火災をきっかけとして、洞道に防火・水密壁を設置したり、洞道内ケーブルに防火カバーを巻くとともに新設ケーブルを難燃素材にしたり、洞道から電話局への入り口部分にも延焼を防ぐ構造を追加している。

NTT霞ヶ関ビル旧館入り口。2階の受付に上がる階段とエレベーターがあるが、その裏をよく見ると出入り口や窓が塞がれた痕跡が残ってる

 また、洞道で大規模な火災が発生したときは、鎮火のための最終手段として洞道をまるごと水没させることもできるようになっているという。水密壁がある理由は、洪水などで水没したときの対策だけでなく、火災鎮火の最終的な備えでもあるわけだ。

 水害対策はこれだけではない。NTT霞ヶ関ビルは新館と旧館の2つからなっているが、いずれも入り口が2階にあり、1階部分は入り口や窓などの開口部がほぼ存在しない。以前は普通のビルのように1階に入り口があったが、水害対策で塞がれ、2階から出入りするように改築されたのだ。NTT霞ヶ関ビルは皇居の南東、日比谷公園や新橋駅の近くにあるが、このあたりは海抜が低いため、水害対策が必要ということだろう。

停電対策に、鉛蓄電池+ディーゼル発電機+ガスタービン発電機+移動電源車

 停電への対策も何重にも施されている。

 まず、NTT霞ヶ関ビルの地下には、シール型の鉛蓄電池による非常用電源が用意されている。こちらは常時満充電に保たれていて、ビル内の設備(空調を除く交流・直流電源装置)を最大3時間動かすことができる。

鉛蓄電池群。単体で電圧は約2Vだが、直列して48Vや200Vなど必要な電圧を作り出している

 短時間で復旧しなかったときの2次バックアップとして、地下に1台のディーゼルエンジンの発電機、屋上に2台のガスタービンエンジンの発電機が用意されている。いずれも燃料は軽油で、出力はディーゼルが2000kVA、ガスタービンが4500kVAで、備蓄燃料により20~30時間、ビルが受電しているのと同じ6600Vで電源供給できるようになっている。

ディーゼル発電機。中型船舶の主機のような巨大さ

 ピストン運動を回転運動に変換するいわゆるレシプロエンジンであるディーゼルエンジンは、燃費がよく、制御やメンテナンスもしやすいが、本体自体も大型な上に冷却水も用意しなければならないなどの難点がある。一方の燃焼ガス流でタービンを回すガスタービンエンジンは、燃費が悪く、メンテナンスに手間がかかるなどの弱点があるが、レシプロエンジンに比べると小型軽量で、騒音も少なく、冷却も不要(ただし排気がやたら高温)ということで、屋上に設置されている。特性や設置場所が異なる2系統の発電機を用意しておけば、何らかの理由でどちらかが使えなくなっても、もう一方が使える可能性が高いというわけだ。

移動電源車。発電機のあるコンテナ側には乗車できないので、乗員は運転席と助手席で2名のみ。通常のオペレーションは伴走車両の人員と合わせて行なうとか

 3次バックアップとしては、ビル外に大型の移動電源車が常駐している。こちらは出力2000kVAのガスタービンエンジンの発電機を搭載している。ここに停車している移動電源車はNTT東日本が保有する電源車の中でも最大のタイプで、NTT東日本は同形車両を4~5台配備しているという。より小さいトラックの移動電源車もあり、用途や移動先によって使い分けているという。

 移動電源車の最大のメリットは移動できることで、NTT霞ヶ関ビル以外で停電が起きた場合にも、応援に行くことができる。今年は台風により千葉県で大きな被害が出ているが、その際には移動のしやすさなどから小さい移動電源車を派遣したという。災害や事故などの緊急時に移動することから、NTTの移動電源車は緊急自動車として登録されていて、赤色の警光灯やサイレンも搭載している。

 ちなみに移動電源車両の維持・運用は、ビル内の発電機などと同様に、株式会社NTTファシリティーズが担当していて、移動電源車両の運転から電源線の接続(6600Vで最大出力2000kVAだ)、ガスタービンエンジンの始動・発電までのオペレーションを行なう。インフラの維持にはさまざまな業種の人々が携わっているが、緊急時に備え、こうした大型発電機の維持・運用までやっていると思うと、インフラ維持の大変さがよく分かるところだ。

移動電源車両内のガスタービンエンジンと発電機。車両下のツールボックスに始動用蓄電池や施設に接続するためのケーブルなどが収納されている
移動電源車後部の制御パネル。男子たるもの「エンジン始動!」って言いながらこういう制御パネルのボタンをポチることに憧れてしまうのは当然のことである