特集
「ライバー」はYouTuberと何が違うのか?ファンと対話し、直接⽀えてもらう「ライブ配信」の新しい世界
SHOWROOM、17Liveで活躍する
2020年7月17日 07:11
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡⼤は、世界各地で⼈々の⽣活やビジネスに⼤きな影響を与えている。特に緊急事態宣⾔後は、テレワークによる在宅勤務者が増え、「Zoom」などのビデオ会議サービスによるオンライン会議・打合せも普通になったし、アフター5すらオンライン飲み会なる新たなコミュニケーション⽅法が誕⽣している。教育分野でも、オンライン授業が話題になり、いたるところでビジネス・⽣活スタイルのオンライン化が進んでいる。
……そして、エンターテイメント分野も例外ではない。
「ライバー」とは?
「ライバー」と呼ばれる⼈々が、今、コロナ禍で注⽬されている。
ライバーとは、ライブ配信アプリまたは⽣放送アプリと呼ばれるカテゴリーのアプリを使い、⽣放送をする⼈、つまり「ライブ配信をする⼈」という意味でライバーと呼ばれている。
実際には数年前からライバーは存在し、この分野で活躍するトップライバーはすでに若者たちの憧れの対象であり、中にはライバー活動によって⽣活したり、さらには⾼収⼊を得ている「プロのライバー」も増えている。
YouTuberが⼀般に知られるようになって久しいが、YouTuberが「動画中の広告を収⼊とし、間接的にファンに⽀えてもらう」構造なのに対し、ライバーは「投げ銭」機能をもった配信プラットフォームを使い、配信中にファンとコミュニケーションすることで、「直接、ファンに⽀えてもらう」のが⼤きな違い。そして、ファンとのかかわり⽅や盛り上がり⽅も変わってくると感じている。
事実、自分もお気に入りのライバーの配信をファンとして視聴している。それは、視聴というよりは、毎日ライバーに会いに行くというニュアンスのほうが近い。もちろん、動画を見に行くという感じではない。そして気がつけば、盛り上がるたびになぜか投げ銭をしている自分がそこにいる。
コロナ禍で在宅を強いられたこともあってか、ここ1、2か⽉でライバーの数も増えつつある。本稿では、「ライバー」の⽂化を知らない⽅向けに、「そもそもライバーとは何なのか」を紹介していきたい。
「ライブ配信アプリ」の世界
さて「SHOWROOM(ショールーム)」や「17Live(イチナナ)」「Pococha(ポコチャ)」というアプリをご存じだろうか?
これらは、今⼈気のライブ配信アプリだ。実はテレビCMが行われたことがあるぐらい、⼈気のアプリなのだが、その知名度は知る⼈ぞ知る、という世界でもある。「17Live(イチナナ)」は、コロナ禍で頻繁にCMを流しているのだが、⾃分とは無関係なものはスルーされがちなので、気づいていない⼈も少なくない。
これらは、スマートフォンアプリのみで、いつでもどこでも誰でも簡単にライブ配信ができるアプリで、若年層を中⼼に流⾏している。スマホのアプリひとつで、⽣配信もできてしまえば、また同じアプリで視聴もできるのがポイントである。要するにインターネットを介した⽣放送をスマホひとつで、しかも⼀対多のライブができてしまう⾮常に⼿軽なアプリなのだ。
ここまでの説明では、「YouTube」「ニコニコ⽣放送」「ツイキャス」などと何が違うのだろうか?と疑問に思われる⽅もいるだろう。それは、ライブ配信の中で表現される放送内容の違いだといえる。それを視聴するリスナーの気持ちも違うように思える。
まず、今回、紹介しているライブ配信アプリは、共通して投げ銭のシステムがベースにある。「ああ、投げ銭アプリなのね」といわれてしまうと、それもまたニュアンスがずれてしまうのだが、ベースにそれがあることは確かだ。これらのライブ配信アプリには、「いいね」と「ギフト(投げ銭)」、そしてイベント、ランキングという要素が絶妙なバランスで絡み合い、絶妙なコール&レスポンスの世界、応援したい環境を作り出しているのが⼤きな特徴なのだ。
「ライブ配信アプリ」はたくさんあるSHOWROOM、17Live、Pococha……
ライブ配信アプリを使ったサービスは、スマートフォンアプリを中心にしたものが主流で、リスナーにとってはPCについては、重要ではないと見られている(PCで利用できるものもある)。
逆に、「スマホさえあれば配信でき、スマホがあれば視聴できること」が重要で、いつでもどこでもがキーになっている。「推しのライバーが配信を始めた」という通知が来たら、リスナーは即駆けつける、だからスマホなのだ。
ちなみにライバー、リスナーの数が⽐較的多いライブ配信アプリで、自分が視聴したことがあるアプリをざっくりと並べてみたか、こうしてみると結構あったことに驚かされる。もしかしたら、まだあるのかもしれない
- SHOWROOM(ショールーム)
- 17Live(イチナナ)
- Pococha(ポコチャ)
- MixChannel(ミクチャ)
- Live.Me(ライブミー)
- LINE LIVE(ラインライブ)
- MeMe Live(ミーミーライブ)
- Mirrativ(ミラティブ)
そしてひとつ不思議なのだが、各サービスはシステムが非常によく似ている。
サービス同⼠の違いは、システムというより、集まるライバーの違いが⼤きい。リスナーは好きなジャンルのライバーがいるサービスに集まるため、システムが同じでも意外に差別化が図られているのだが、サービスの⾒た⽬が似ているのは⾯⽩い。
システムが似ているのは、「元となったアプリが中国で爆発的な⼈気となり、他社がこぞって似たようなサービスを始めたことがきっかけ」ともいわれているが、真相は定かではない。中国では、⼀時期、似たサービスが多かったのは事実だが。
ライブ配信アプリによる生配信方法
さて、実際のイメージを文章で説明してみよう。
まず、ライバーは、ライブ配信アプリを起動し、⽣放送をする。配信時刻の予告機能もあるので、事前に予告している場合も多い。いずれにせよ、ライバーの多くは顔出しだ。
一方のリスナーはアプリを起動し、その時に配信しているライバーから好きなライバー、気になるライバーを選択し、ライバーが配信をしている一対多のチャンネル(部屋)に入室する。リスナーは、それをチャンネル・部屋ではなく、「枠(配信枠)」と呼び、一般的には、ライバーの枠(部屋)に入室し、視聴するといういい方をする。
「枠」では、ライバーおよびリスナー全員が、配信中の枠へ誰が入室してきたか、あるいは退室したかがわかるしくみになっている。スマホの特徴である縦長の画面全体にライバーが表示され、画面の下半分に、参加リスナーの情報やコメントがチャットのような文字としてリアルタイムで表示される。
このチャットでコメントするのが、リスナーの標準的なコミュニケーション⽅法だ。もちろんコメントはリスナー全員が⾒ている。サービスによってはライバーしか⾒られないコメントを送ることができるものもあるが、通常、あまり利⽤されないし、この⽅法でも「何かを送った」ことはわかる仕組みだ。
ライブ配信アプリでのチャットは、コンサートのコール&レスポンスに似ている。⼈気ライバーは、配信中すべてのチャットに反応し、コメントに対してライブ中に⾔葉で返す。これがリアルタイムでしっかりと反応できるライバーほど⼈気があがる傾向にある。
ライブ配信アプリの⼈気急上昇に気がついたYouTuberや芸⼈、あるいは話芸が達者な他業界のプロがライバーに挑戦することが少し前はよくあったが、従来の⽣放送では支持されるような「⾯⽩いことをしゃべっていく」という一方的な内容では、⼈気が得られず、ことごとく撃沈されていたことがあった。ライブ配信アプリの世界は、コール&レスポンスが命なのだ。
ライバーは、歌を歌ったり、⽇常的な会話を楽しんだり、中にはゲーム実況、絵を描いたり、料理配信をしたりなど、それぞれが⼯夫をした配信を⾏っているのだが、そのような配信下でもコール&レスポンスは⽋かさない。
「応援したくなる」その仕組み
配信中は、チャットのほかに、「いいね(ハート)」やグラフィカルな課⾦アイテム(ギフティング/投げ銭)を投げることができるのも特徴だ。ライバーの⾏動、⾔動に対し、気に⼊ったり感動したりしたら、有料ギフトを応援の意味で投げ銭のように投げる、という⽂化があるわけだ。
課⾦アイテムは、誰が何を投げたかがリスナー全員にわかるのも特徴。⾼価なギフトほど派⼿なアニメーションで誰もが⽬視できる仕組みになっている。価格は数円から数万円まで、さまざまなものが⽤意されている。
また、ライバーがどれだけのギフトをもらったかわかるのも特徴だ。各サービスでは、ライバーの⼈気度が「ギフトをもらった数」でランキング化され、推しライバーがどれだけの⼈気なのかも、視覚化されるようになっている。
課⾦アイテム以外にも無料で応援できる仕組みもある。サービスによって名称が異なるが「いいね(ハート)」というのがそれで、だいたいどのサービスにも存在する。
「いいね」は、配信中に押されただけ、現在配信中の枠の盛り上がり度を⽰すことができる。つまり、「いいね」を押すことによって、枠を⾒ていないリスナーに向けて、⾃分の推しているライバーの盛り上がりをリアルタイムで知らせることができる仕組みなのだ。「いいね」を押すと配信画⾯の下からポコポコと絵⽂字のようなものが⽣まれては消えていくのもライブ配信アプリの特徴で、画⾯上で誰かが「いいね」を押しているというのがリスナー同⼠、枠内でも確認できるようになっている。
また、「特定のライバーに、どのリスナーがどれだけギフトを投げたか」もランキング化される。要するに、「推しライバーのトップファンが誰だかがわかる仕組み」で、これもライブ配信を盛り上げる。
多くのアプリでは、ライバー、リスナー共に、レベルという仕組みがあり、配信すればするほど、また視聴すればするほど、かつ応援されればされるほど、また応援すればするほどレベルが上がり、レベルアップごとに、コール&レスポンスで盛り上がる。サービスによっては、⾼レベルなリスナーが枠内に⼊室すると、派⼿なエフェクトが発動され優越感に浸れるものもある。ライバーとリスナーの絆を強くする仕組みとして⽋かせない要素になっている。
ライブ配信アプリでは、いかにギフトを投げさせるかの⼯夫が施されており、ライバー同⼠が⼈気の度合いを(ギフトの数等で)競うイベントも⽇々開催されている。
リスナーとしては、やはり「推しライバーをイベントで上位にランクインさせたい」と思うし、だから頑張って応援する。⾃然にそうなってしまうシステムがなかなか恐ろしいが、「それがライバーの収⼊になるのなら、それでもいいや(あるいは、むしろそうしたい)」、そう思えるのが⼤きなポイントだと思う。
ライブ配信アプリが収入源になる仕組み
ライバーは、この仕組みを使って⾃由にライブ配信を楽しんでいる。というのも、多くのライブ配信アプリでは、もらったギフトの数や⼈気に応じてライバーには何らかのインセンティブが与えられるからだ。報酬はサービスによって異なる。
たとえばアーティスト等を応援するサービスでは、インセンティブとして新⼈アイドル発掘オーディション、リアルライブ(コンサート)、テレビ番組出演、モデル・俳優オーディションといった報酬を⽤意しているサービスもある。
これらのサービスでは、純粋に新⼈アイドルを応援するために投げ銭をして、みんなでメジャーへと押し上げようというアイドルを推すファンという構図がある。ライブやイベント等でアイドルを応援するよりも、ライブ配信アプリのほうが、より⾝近に感じられることもライブ配信アプリが⼈気アプリとなる要因のひとつではないだろうか。
もらったギフトや⼈気の度合いを現⾦と交換できるサービスもある。ギフト=現⾦ではないが、ギフトを誰でも現⾦化できるサービスもあれば、名誉だけのサービス、⼈気によって⼀定収⼊が得られる公式ライバー登録制度というものもある。ライブ配信アプリを収⼊源として活動しているライバーも多いようだ。ただ、その交換レートは、ライバーとリスナーの関係上、⽣々しさを強調してしまうことから明らかになっていないことが多い。
また、芸能事務所が介在し、ライブ配信アプリ運営会社とライバーの間に⼊り、ライバーの活動をマネージメントする仕組みも存在する。ライブ配信アプリ運営会社は、質の⾼いライバーを確保することができ、芸能事務所は⼈気ライバーを囲い込むことができる。またライバーは安定収⼊が得られるなど、三者にとってメリットがある。運営会社の⼦会社が事務所を開設している場合もある。
このほか、トップライバーの収⼊を概算予測しているWEBサイトも少なくない。それらのサイトによれば、トップライバーの中には年収数千万円のライバーもいるという。それは極端な例としても、ライバーの収⼊だけで⽣活している⼈もいるし、学⽣や主婦が⼩遣い稼ぎをしている例もある。前述の通り、サービス側からいくら⽀払われているかは定かではないが、1回の配信で数⼗万円分(の購⼊額)のギフトが⾶び交うライバーが多数いるのも事実。「配信中にいくら使われたか」は、リスナーとして参加していれば誰でも知ることができる情報だ。
ライブ配信アプリの市場規模
⽇本でライブ配信アプリ「17 Live(イチナナライブ)」を運営する17 Media Japanの親会社M17グループ(以下「M17」)は2019年11⽉5⽇、同様にライブ配信アプリを運営している台湾MeMe Live(ミーミーライブ)社の買収を発表した。
「MeMe Live」は、台湾のほかに⽇本やインドでもサービスを展開している。特にインドは好調であるという。M17はグローバル化をもくろみに同社を買収する。これにより、⽇本、台湾、⾹港におけるM17のマーケットシェアは約60%という⼤きな占有率になった。また、インド進出も視野にしながらグループ連結売上⾼1000億円を⽬指すという。現在、「MeMe Live」ブランドは、そのままサービスを残し、平⾏して運⽤されている。
このニュースリリースからも、その市場規模の大きさを伺い知ることができるだろう。
まずは配信アプリを楽しんでほしい
ここまでライブ配信アプリのシステムと収入源となる投げ銭の仕組みを中心に解説をしてきたが、そういったものを気にせずに、まずはライブハウスに行って無料ライブを見るような感覚で参加してみて欲しい、というのが筆者の願いだ。そしてぜひ魅力的なライバーに出会ってほしい。
ライバーとの関わり合い方は、きっと今までの動画配信アプリやSNSとは違った体験になるはず。投げ銭をするのはライバーのファンになってからでいいし、投げ銭をせずに応援をする方法もある。配信アプリの視聴を経験したことがない人はこれを機にぜひ視聴してみていただきたい。
自分は、ライブ配信アプリ視聴歴約3年になるが、今はほぼ毎日ライブ配信を視聴している。自分は極端な例だと思うが、テレビや動画サイトを見ない日があっても、ライブ配信アプリを視聴しない日はないほどだ。それは、どんなメディアよりも、よりライブ感が強いためで、「視聴」というよりは「みんなに会いに行く」といった感覚に近い。ライバーのみならず、同じライバーを推すリスナーに会い行くのもその理由のひとつだ。
ライブ配信アプリにハマった人は、リスナーだけではなく自分自身もライバーになる人も少なくない。
その気になれば、いつものアプリで気軽にライバーになれるのも、他の動画配信アプリにない手軽さだ。これは持論だが、デジタルネイティブ世代にとっては、ライブ配信アプリが日常的なコミュニケーション手段のツールになる日も近いといっても過言ではない。少なくともこれからのスターはライブ配信アプリから誕生することは間違いないだろう。