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【図解で詳しく説明】前年と違うよ! 税制改正された令和2年分「源泉徴収票」の見方

給与明細に同梱される源泉徴収票

 サラリーマンは12月か1月の給与明細に「給与所得の源泉徴収票」と書かれた紙が同封されているはずだ。受け取った源泉徴収票には昨年(令和2年分)の年収、所得、所得税の納税額などが書かれている。だが、紙には年収、所得とは書かれていないし、所得や納税額の算出方法は少し知識がないと理解できない。多くのサラリーマンが「書かれた数字の意味が分からん」とチラ見してスルーだろう(←サラリーマン時代の筆者はそうだった)。源泉徴収票の見方を知るだけで所得税の仕組みは理解できる。筆者はスルーのまま20年ほどのサラリーマン生活を終えたが、サラリーマンとして40年ずっと受け取る“謎の紙”に書かれた暗号は、一度解読すると一生ものの知識となるので、ぜひこの機会に理解していただきたい。

※この記事は、令和2年(2020年)分の源泉徴収票について説明したものです。
  令和3年(2021年)分の源泉徴収票については、こちらの記事をご参照ください。

このほか、「INTERNET Watch」では、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。


源泉徴収票とは

 源泉徴収票とは、1年間に会社から支払われた給与等の金額(=年収)と納めた所得税の金額が記載された書類だ。年収から納税額を算出するために必要な、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除、生命保険料控除など、個人個人で異なるさまざまな控除も記載されているので、この書類を見れば納税額が算出された根拠まで分かる。退職時に受け取った源泉徴収票は1月から退職までの収入、社会保険の支払い額、納税済みの所得税が記載されている。

1分で理解できる源泉徴収票

 先にお伝えしておく。「この記事はやたら長い」。最後まで読めた人は、ご自身の受け取った源泉徴収票に書かれた数字を計算して、納税額がピターーーッと合えば高尾山に登ったくらいの快感を得ることができるはずだ(←筆者は登ったことなし)。「いやいや、とりあえずどこに年収と税金が書かれているかだけ知りたい」と思う人もいるだろう。

 まずは1分で源泉徴収票に何が書かれているかだけ理解していただきたい。スタート! 記載例の最初「支払金額」の欄に書かれている大きな金額(紫色)が年収。その右側の少し金額が減っている「給与所得控除後の金額」の欄が所得(青色)。1つ飛ばして右端の「源泉徴収税額」の少なめな金額が所得税の納税額(緑色)だ。最低限この3つを知ると、スルーよりは大幅な進歩だ。給与所得控除って何だ?という人は最後までお付き合いいただきたい。

 ピンクの部分は全て控除(=差し引かれるもの)。下から順番に支払った生命保険料。それから算出した生命保険料控除の額(矢印の先)。その左右は、左側が支払った社会保険(厚生年金+健康保険+失業保険)、右側が地震保険の控除額。

 その上の行は扶養する家族で、左端の○は配偶者控除(=奥さん)、その右側の特定欄の1はほぼ大学生1人。その右側の老人はじいちゃんかばあちゃんが1人。もう少し右側の16歳未満……は中学生以下の子1人。これらピンクの生命保険とか年金とか子どもとかの控除の全ての合計額が、上段の所得と税金の間に書かれている。

38万円? 48万円? 65万円? 55万円? 税制改正で源泉徴収票が変わった

 昨年、令和2年(2020年)は大きな税制改正が実施された。収入のある全ての人に適用される所得税の基礎控除が、平成7年(1995年)以来25年ぶりに改正された。1995年といえばWindows 95、阪神淡路大震災……税制改正←記憶にない。当時サラリーマンの筆者は基礎控除の意味も知らなかったと思う。

 小難しい税制改正の説明はあと回しにするが、多くのサラリーマン、パート/アルバイトは基礎控除が38万円から48万円となり、給与所得控除が10万円減り、その最低額は65万円から55万円となった。どういうこと?

 例えばアルバイト学生の年収が103万円の場合、2019年までは給与所得控除の65万円と基礎控除の38万円を引くと所得がゼロ円となり所得税は無税というロジックだったが、2020年からは給与所得控除の55万円と基礎控除の48万円を引くと所得がゼロ円と結果は同じだがロジックが変更となった。

 注意していただきたいのは、これから数年、ネットの情報は書かれた時期により税制改正の前後の情報が混在することだ。記事が掲載された日付などに注意、「基礎控除の38万円」「給与所得控除の65万円」と書かれていたら税制改正前に掲載された情報だと思われる。

源泉徴収票を3つのパートに分けて理解しよう

 源泉徴収票にはさまざまな数字(金額)や印が記載されているが、それらの関連性は所得税の計算方法を知らないと理解できない。所得税の計算式と源泉徴収票に記載された数字を照らし合わせながら、順番に“謎の紙”に書かれた暗号を解読していこう。

 手元に「令和2年分 給与所得の源泉徴収票」を用意いただき、自身の源泉徴収票で実際に計算・検証してみると、より深く理解できるだろう。ピタッと計算が合うと“快感”だ。

 まずはサラリーマンの所得税の計算式を確認してみよう。1行目は収入(年収)から所得を求める式。2行目は所得から課税所得(税金の対象となる所得)を求める式。3行目は課税所得の額に応じた税率を掛け、所得税の納税額を求める式となっている。

 この3行の式を、1行目をブルー、2行目をピンク、3行目をグリーンとして、源泉徴収票の該当する部分を色分けしてみたのが下の図だ。1行目と3行目の部分はわずか。この2行は決まった式で計算できるので理解も容易だ。大きなピンクの部分は独身、既婚、奥さんの所得、扶養する子や親の有無、生命保険の支払い額……などさまざまな個人の事情により異なるので複雑となっている。


「収入」「所得」どう違うの?「給与所得控除」って何??

 順番にそれぞれの式と源泉徴収票の該当する部分を見ていこう。1行目の式と源泉徴収票のブルーの部分。事例の源泉徴収票では、(会社から見た)「支払金額」が650万円、「給与所得控除後の金額」が476万円となっている。650万円は給与と賞与の合計額、令和2年の(自分から見た)収入=年収だ。

 「年収は?」と尋ねられたら、ここに記載された金額を答えればよい。476万円は収入から給与所得控除というものを引いた金額で、所得と呼ばれている。税金の話で頻繁に出てくる収入(=年収)と所得の関係は1行目の式で求めることができる。

 1行目の「給与の収入金額-給与所得控除=給与所得」という式を見て「給与所得控除って何?」と思われた人がいるはずだ。給与所得控除はサラリーマンの必要経費と言われ、「スーツ、カバン、クツ、自腹スマホ&電話代、自腹PCなど、仕事に必要だけど会社に請求できない経費があるはず」ということで、収入に応じて一定額を「税金を払わなくていいよ」と課税の対象から差し引いて(控除して)くれる、サラリーマンの税金のありがたい特典だ。給与所得控除は以下の計算式で求められる。

 事例の河野さんの給与所得控除を計算してみよう。年収が650万円なので「360万円超 660万円以下」に該当するので計算式は「収入金額×20%+44万円」となる。

給与所得控除
650万円×20%+44万円=174万円

給与の収入金額(年収)-給与所得控除=給与所得
650万円-174万円=476万円

 源泉徴収票には書かれていない給与所得控除の174万円を年収から差し引くと、所得の476万円が算出できる。

 ご自身の源泉徴収票を見ながら「支払金額は638万2000円だから、給与所得控除後は……」などと計算すると、源泉徴収票に書かれた額と微妙に差異が発生した人がいるはずだ。

 年収660万円未満の人の給与所得控除後の金額の算出は「令和2年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」(PDF)という速算表を使用してほしい。表の638万2000円の部分を見てみよう。

 年収638万円以上638万4000円未満の人の給与所得控除後の金額は466万4000円となっていて、年収が638万1000円でも638万2000円でも一律466万4000円となる。これが差異の原因だ。

 パソコンが普及する以前、そろばんや電卓の時代には1円単位の細かな計算をするより速算表の方が便利だったと想像される。その時代のルールが今も続いているようだ。ご自身の源泉徴収票を正確に計算したい方は、この速算表で確認していただきたい。

「所得控除」欄の暗号を解読する

 2行目の計算式は「給与所得-各種所得控除=課税所得」。1行目で算出した給与所得から各種所得控除を引き算して課税所得を算出する式だ。この式の各種所得控除が源泉徴収票のピンクの部分だ。源泉徴収票の大きな面積を占めていて、○や人数、金額が混在するため暗号を解読しないと控除額を知ることができない。“分かりにくい”源泉徴収票の主役とも呼べる部分なのでジックリ解読しよう。

 ピンクの部分の最上段「所得控除の額の合計額」に316万円と記載されている。その下の段には○印や数字の1、38万円、96万円、12万円などの金額が記載されている。これらの金額を足しても引いても合計額の316万円にはならない。予備知識なしにこれらの関係を理解するのは不可能だ。

 「所得控除とは」から説明しよう。所得控除は「子どもがいるとお金掛かるよね」「親と同居していると生活費が増えるよね」といった感じで、扶養する家族や生命保険の支払いなどの個人個人の事情を考慮して、所得から一定額を差し引き(控除し)、税額を算出する金額(課税所得)を引き下げ、納税額を減らすものだ。控除額が増えれば増えるほど、納税額は減ることになる。同じ年収のサラリーマンなら、養う家族が多い人は独身の人より納税額が少なくなる。

 ピンクの部分が大きいのは障害者のための控除、シングルマザーのための控除など、さまざまな控除があるからだ。その中で多くの人が関係するのは配偶者控除、扶養控除といった人的控除。毎月天引きされている年金、健康保険、雇用保険といった社会保険料控除。生命保険に加入している人の生命保険料控除だろう。これらの所得控除が源泉徴収票のピンクの部分に“分かりにくく”記載されている。

「配偶者控除」は年末調整の判定が反映されている

 左上の「(源泉)控除対象配偶者の有無等」の「有」に○が付いていれば控除対象となる配偶者がいるということだ。事例の河野さんは奥さんが控除対象の配偶者で「有」に○が付いていて、その右側の「配偶者(特別)控除の額」の金額が38万円となっている。

 年末調整で提出した「令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」というウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書のコピーかスマホで撮った写真があれば見ていただきたい。

 事例の「令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 ……(長い)」を見ると、河野一太郎さんの年収と河野景子さんの年収から判定された控除額が38万円となっている。このように年末調整で提出した申告書は源泉徴収票に反映されている。

上が年末調整で提出した申告書、下が源泉徴収票。年末調整で判定された配偶者控除の額が源泉徴収票に反映されている

 もし奥さん(配偶者)が正社員としてフルタイムで働いていて、所得が133万円を超えると配偶者(特別)控除の対象とならない。配偶者ではあるけれど、控除対象配偶者ではないということだ。また、旦那さんの所得が1000万円を超えると、奥さんが専業主婦でも配偶者控除を受けることができない。

 念のために付け加えると、配偶者とは旦那さんから見た奥さん、奥さんから見た旦那さん。また、給与所得者でも個人事業主でも所得の条件を満たせば配偶者控除を受けることができる。例えば奥さんが売れっ子小説家で、旦那さんが売れない脚本家なら、所得の多い奥さんが配偶者控除を受けた方が世帯トータルの納税額を減らすことができる。

「控除対象扶養親族」の人数の意味と「控除額」を解読する

 配偶者控除の右側は「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」という欄がある。おそらく多くの人が該当する欄だが、最も分かりにくく源泉徴収票の理解に立ちはだかる最大の壁と言えよう。

 「控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。)」の下の特定に1、老人の左に1、真ん中に1となっている。右側の「16歳未満扶養親族の数」にも1と記入されている。

 扶養控除は子どもや親を養っていると受けられる控除だ。扶養控除は対象となる親族の年齢により控除額が異なっていてやや複雑なので図を見ていただこう。

 令和2年の年末時点の年齢が16~18歳(ほぼ高校生)であれば38万円。19~22歳(ほぼ大学生)であれば63万円。23~69歳であれば38万円。70歳以上で同居していれば58万円(同居老親等)、別居であれば48万円(同居老親等以外)となっている。年齢以外の条件もあり、控除対象となるのは所得が48万円以下の扶養親族だ。

 控除が増額になっている19~22歳はほぼ大学生で、対象となる親族を特定扶養親族と呼ぶ。「大学に通う子どもがいるとお金が掛かるから控除を増やして税金を減らしましょう」という趣旨だ。ただし、大学に通っていることは条件となっていないので、浪人中でもフリーターでも年齢と所得の条件を満たし、生計を一としていれば(親が養っていれば)、別居でも控除の対象となる。

 もう1つ増額されているのは70歳以上で、老人扶養親族と呼ぶ。老人扶養親族は同居(同居老親等)なら控除額は58万円、別居(離れた実家や老人ホームなど)なら控除額は48万円となる。

 事例の源泉徴収票を見ると、特定(特定扶養親族)が1となっているので、ほぼ大学生の子どもが1人いることが分かる。老人の欄は、真ん中の1は70歳以上の老人扶養親族が1人いることを表し、左側の「内」に1とあるのは老人扶養親族のうち、同居老親が1人いることを表している。もし別居の老人扶養親族がいる場合は真ん中が1、左側の「内」は空欄(0人)となる。

 老人の右側のその他の欄は高校生や成人など一般の扶養親族の人数を記載する。右端の「16歳未満扶養親族の数」は16歳未満の子どもの人数で、所得税では控除の対象とならない。

 源泉徴収票には、控除対象扶養親族の人数しか記載されていないので、その人数を控除額に換算する必要がある。事例では特定扶養親族が1人で63万円、同居老親が1人で58万円、16歳未満の扶養親族が1人で0円となる。

 これも年末調整で提出した「令和3年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入した内容が反映されている。年末調整で記入漏れなどがあると控除が受けられず納税額が増えることもあるので、正しく申告をしよう。

上が年末調整で提出した申告書、下が源泉徴収票。これも年末調整で申告した内容が反映されている


「生命保険料控除」も年末調整を思い出そう

 ピンクの部分の次の段は左端が「社会保険料金等の金額」。これは毎月の給料から天引きされた厚生年金、健康保険、雇用保険の合計額で、事例では96万円となっている。その右隣は「生命保険料の控除額」で12万円。その右側は「地震保険料の控除額」で1万円となっている。摘要の下段には12万円、9万円、12万円の金額が記載されている。これらの金額の謎を解いていこう。

 下段の項目名は左から「生命保険料の金額の内訳」「新生命保険料の金額」「旧生命保険料の金額」「介護医療保険料の金額」「新個人年金保険料の金額」「旧個人年金保険料の金額」となっていて、分類された保険料ごとの支払った金額が記載されている。

 生命保険は平成23年以前に契約したものは旧制度、平成24年以後に契約したものは新制度と分けられている。さらに旧制度は「一般」「年金」の2つ、新制度は「一般」「介護医療」「年金」の3つに分けられ、計5つに分類されている。

 保険料ごとに控除額を算出し、合計した額が上段の「生命保険料の控除額」となる。ただし生命保険料控除には上限額があり、この例では上限額の12万円となっている。5つに分類された保険ごとの控除の限度額は図のとおりだ。

 年間に支払った保険料から控除額を算出する式は以下の表のとおり。旧制度の控除額の上限は5万円。新制度の控除額の上限は4万円。事例では「旧生命保険料の金額」と「旧個人年金保険料の金額」でそれぞれ12万円を支払っているので、控除額は上限額の5万円ずつ。新制度の「介護医療保険料の金額」に9万円を支払っているので、控除額は4万円。3つの保険の控除額は5万円+4万円+5万円=14万円だが、全体の上限額が12万円なので上段の「生命保険料の控除額」は12万円となる。

 上段、生命保険料の控除額の右側は地震保険料の控除額。生命保険料も地震保険料も年末調整で提出した「令和2年分給与所得者の保険料控除申告書」の結果がここに反映されている。

下が年末調整で提出した申告書、上が源泉徴収票。これも年末調整で申告した内容が反映されている


控除額の合計が合わない……無印の「基礎控除」を見逃すな

 ここまでの控除額を合計してみよう。合計額がピンクの部分の最上段にある「所得控除の額の合計額」の316万円になれば完璧だ。

配偶者控除    38万円
特定扶養親族   63万円
同居老親     58万円
社会保険料控除  96万円
生命保険料控除  12万円
地震保険料控除  1万円
合計       268万円

 ??足りない。「所得控除の額の合計額」の316万円に48万円足りない。48万円といえば、令和2年(2020年)から改正となった基礎控除の額だ。源泉徴収票のどこにも記載されていないが、一部の超高額所得者以外の人は48万円の基礎控除が受けられる。記載されていない自分自身の基礎控除を足すと、所得控除の額の合計額は316万円となる。

 特定扶養親族の欄に1人と書かれていたら63万円の控除、同居老親の1人は58万円の控除など、“1”の数字に暗号化された控除額を1つ1つ解読していくと、謎だらけの所得控除欄は全て理解できたこととなる。

 気にしなくて良いが、穴が開くほど源泉徴収票を見ると、ピンクの部分の最下段に今年から新設された「基礎控除の額」という欄がある。しかし空欄だ。

あれ、「基礎控除の額」という欄があるじゃん。でも空欄??

 調べてみると、国税庁が源泉徴収票を作成する人向けに配布する「令和2年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」に「基礎控除の額が48万円の場合には、転記する必要はありません」(=空欄)となっていた。所得が2400万円以上で基礎控除が減額された人だけ記入される欄のようだ。

基礎控除が48万円の人は空欄となる。「令和2年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」から引用

 「源泉徴収票の理解に立ちはだかる最大の壁」を超えることができた。高尾山?の山頂はすぐそこだ。各種所得控除の計算ができたので、やっとやっと2行目の式の課税所得を算出してみよう。

給与所得-各種所得控除=課税所得
476万円-316万円=160万円

476万円(所得)-316万円(控除)=160万円(課税所得)


課税所得に税率を掛け「納税額」を算出

 所得税の計算式の3行目は、課税所得に税率を掛けて所得税の納税額を算出する式だ。

課税所得×税率=所得税

 この式は源泉徴収票のグリーンの部分に該当する。グリーンの面積が小さいように内容も簡単だ。課税所得の額に応じた税率を掛けるだけで、簡単に納税額は計算できる。まずは税率を確認しよう。所得税の税率は以下の表となっている。

 税率は課税所得の額により5%から45%まで上がっていくが、課税所得全体にその税率が掛かるわけではなく、その金額の部分に対する税率となる。

 例えば課税所得が300万円の場合、195万円までの部分の5%と195万円を超え300万円までの部分の10%を合計した額が納税額となる。実際に計算してみよう。

課税所得300万円の所得税

195万円×5%=9万7500円 ①
105万円(300万円-195万円)×10%=10万5000円 ②

①+②=9万7500円+10万5000円=20万2500円

となる。税率表の右側にある控除額(差し引く額)を使用すると、簡単に計算することができる。

課税所得金額×税率-控除額=納税額
300万円×10%-9万7500円=20万2500円

 では事例の河野さんの所得税を計算しよう。

課税所得×税率=所得税
160万円×5%=8万円(課税所得は1000円未満の端数は切り捨て)

 源泉徴収票に記載された「源泉徴収税額=所得税」の8万1600円にかなり近づいたが、まだ1600円の差異がある……あとチョット。所得税の納税額は計算のとおり8万円で間違いないが、平成25年(2013年)から25年間は東日本大震災の復興特別所得税が上乗せされる。復興特別所得税=「所得税の納税額の2.1%分」を上乗せしよう。

8万円+(8万円×2.1%)=8万1680円
100円未満を切り捨て  =8万1600円

 ピッタシ。頂上にたどり着くことができた、快感だ。これで源泉徴収票の暗号を全て解読することができた。このように給与所得控除、各種所得控除額、課税所得、税率など源泉徴収票に記載されていない所得税の算出方法を知らないと理解できないのが源泉徴収票だ。個人的にはA4用紙にして「①-②=課税所得③」のように解説付きにすれば国民の理解が深まると思う。現状はハッキリ言って「わざと分かりにくくしていませんか?」レベル。国民に税金の仕組みを理解して欲しくない姿勢の表れと感じるのは筆者だけか。

 東日本大震災のための増税が続く中で、新型コロナウイルス感染症対策の補正予算は震災をはるかに上回り、いつまで続くのか終わりが見えない状況だ。定額給付金も持続化給付金も休業補償も全て税金が原資なので、この先かつてない増税が待っている。

 税制の改正(=増税)は頻繁に行われ、年々複雑になっている。それは今後ますます加速するだろう。個人の所得税は控除額などさまざまな改正は行われるが、基本的な考え方はそれほど変化はない。源泉徴収票の見方を知るだけで、ずっと納めるご自身の所得税の仕組みが見えるはずだ。これは一度理解すると一生役に立つ知識だと思う。

 事例の源泉徴収票に記載された年収から所得税算出までの流れをイメージ図にしてみた。全体を把握するときの参考にしていただきたい。


源泉徴収と源泉掛け流し

 源泉徴収票の納税額(=所得税+復興特別所得税)の欄は「源泉徴収税額」となっている。「源泉徴収税額って意味分からん」と思われた人はいないだろうか。言葉としては聞いたことのある源泉徴収だが、イマイチ説明に困る言葉だ。

 “源泉”と言えば「源泉掛け流し」だろう。「源泉掛け流し」は温泉の元(=源泉)から引いたお湯を、そのまま湯船に満たすこと。水で薄めたりしていないという意味だ。源泉徴収は、源泉=元から(←会社が支払う前に)税金を徴収することを意味している。平たく言うと「税込で給与所得者に給与を支払って、あとから自分で税金分を納めてね」ってすると、納税しないヤツがいそうだから、会社が(=源泉)税金分を差し引いて(=徴収)給与を支払うことを言う。源泉徴収税額=すでに(会社が)納税済みの税額、と解釈しよう。


令和2年(2020年)から「基礎控除」と「給与所得控除」が改正された

 最後に小難しい話しをしよう。冒頭でも紹介したとおり、令和2年(2020年)は大きな税制改正が実施された。収入のある全ての人に適用される所得税の基礎控除が、平成7年(1995年)以来25年ぶりの改正となった。とはいえ25年前、税に無関心なサラリーマンだった筆者は全く記憶にないし、知らなくて困ったこともなかった。今回の改正も知らなくても困ることはないが、一応に説明をしておこう。源泉徴収票の見方を理解して満足された人は、この先は読み飛ばしていただいて結構だ。

 令和2年からほとんどの人は基礎控除の額が38万円から48万円に引き上げられた。基礎控除が創設された戦後まもない昭和22年(1947年)から70年あまり、基礎控除の額は所得に関係なく一律に適用されてきた。2019年であれば年収100万円のアルバイトも年収1億の人も38万円と一律だった。令和2年(2020年)からは以下の表のように納税者本人の合計所得金額に応じて控除額が異なることとなった。

 基礎控除の改正と同時に給与所得控除も改正された。次の表は上段が令和2年(2020年)以降、下段が令和元年(2019年)以前の給与所得控除の計算式だ。

 令和2年の給与所得控除の改正をそれ以前と比較すると、年収850万円以下では10万円減。給与所得控除の上限は220万円(年収1000万円)から195万円(年収850万円)に引き下げられた。この給与所得控除と基礎控除の改正により、年収850万円以下の人は基礎控除が10万円増え(38万円→48万円)、給与所得控除が10万円減り、トータルはプラスマイナスゼロ、増税も減税もない。年収850万円を超える人は給与所得控除が減ることで増税。所得2400万円を超える人は基礎控除も減り、さらに増税となった。

 基礎控除の所得2400万円から2500万円で3段階に控除額が減るのは、正直言って意図が理解できない。24m先から50cm進むごとに48cm→32cm→16cmと段差が設置されている光景は何を意味するのか。多くの人は所得2400万円は無縁の世界だ。所得2400万円の人は控除額が数十万円減っても気にならないかもしれない。しかし、これがいつか大きな変化(=増税)への布石になりそうな気はする。

 給与所得控除の年収の上限額が850万円に引き下げられた。年収850万円は大手企業に勤める人なら珍しくない金額だ。筆者が以前執筆した『税金の雑談:自分の年収は平均より上? 下? 給料の高い業種は? 国税庁の統計を見てみよう』からグラフだけ抜粋すると、平成28年(2016年)は男性50~54歳の平均給与は661万円、従業員5000人以上の企業では男性の給与と賞与の合計額の平均は673万円、業種別の電気・ガス・熱供給・水道業の平均給与は769万円となっている。大手電力会社の50歳以上の男性は増税の対象と思われる。

年齢階層別の平均給与。男性50~54歳の平均給与は661万円
従業員の人数別、給与と賞与の額。従業員5000人以上の企業では男性の給与と賞与の合計の平均は673万円
業種別の平均給与。電気・ガス・熱供給・水道業の平均給与は769万円

 給与所得控除の増税は平成25年(2013年)分から始まった。上限額に達する年収の推移は、平成25年(2013年)分が1500万円、平成28年(2016年)分が1200万円、平成29年(2017年)分が1000万円、そして令和2年(2020年)分から850万円と、サラリーマンの増税は高額所得者からジワジワと包囲網が狭まってきている。

 今は所得2400万円を超える人だけ基礎控除が減額(=増税)となっているが、これもジワジワと下がってくるのだろう。若い人は年収850万円や所得2400万円は無縁の世界と思われるかもしれないが、人生は長い道のりなので、狭まる増税の包囲網を突き抜ける日がくるかもしれない。今から少しは税金に興味を持っていただきたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。