特集

都市部に住んだまま地方の仕事をする「逆テレワーク移住」が可能、新潟県妙高市が推進する「リモート関係人口」とは

国立公園の中に、Zoom監修のテレワーク施設をオープンした狙い

妙高高原にオープンしたテレワーク研修交流施設「MYOKO BASE CAMP」

 地方へ移住する一方で、転職はせずに都市部の企業でそのままテレワーク勤務を続ける「テレワーク移住」。コロナ禍でフルリモートワークを認める企業が拡大したのに伴い、こうした移住者の受け入れ促進へ支援制度を充実させている自治体もある。

 それとは反対の、いわば「逆テレワーク移住」とでも言えそうな働き方ができるのが、新潟県妙高市だ。都市部に暮らしたまま、地方でビジネスを展開したい、あるいは地域に貢献する活動に参加したいという個人を「関係人口」として積極的に受け入れるべく、「越境人材」がリモートでも妙高市と関わりを持てるような環境づくりを推進している。その要となる拠点として今年7月、「Powered by Zoom」認定を受けたテレワーク施設「MYOKO BASE CAMP」も新しくオープンした。

 「妙高市に逆テレワーク移住する」とはいったいどんなことなのか? 同市が推進するさまざまな取り組みについて取材した。

国立公園の中に、Zoomが監修したテレワーク施設「MYOKO BASE CAMP」

 妙高高原に今年7月オープンした「テレワーク研修交流施設『MYOKO BASE CAMP』」は、木造2階建て・延床面積388㎡。月額契約制の「シェアオフィススペース」や1人用の個室「ワークスペース」、月額契約不要で利用できる「コワーキングスペース」や「会議スペース」などがある。

「MYOKO BASE CAMP」の開館時間は4月~10月が8時~20時、11月~3月が9時~18時(12月29日~1月3日は休館)

 Web会議サービスのZoom社による「Powered by Zoom」の認定を、公共施設として国内で初めて取得。Web会議システム「Zoom Rooms」に対応した大型タッチパネルディスプレイなど、より効率的にWeb会議を行える最新デバイスを常設しているのはもちろんのこと、机や椅子、壁の色に至るまでZoomの監修を受けており、快適にテレワークが行える環境を提供する。

 妙高戸隠連山国立公園内という立地も大きな魅力だ。すぐ近くには妙高高原を代表する観光スポット「いもり池」もあり、窓から覗く木々や静寂の中で鳴り響く虫の声は、都会にはない非日常の空間を提供する。仕事中はもちろん、休憩中や仕事終わりに自然と触れ合うことで気分を一新し、仕事も観光も楽しめるという、まさにワーケーションに最適な施設と言える。

「シェアオフィススペース」は固定席1席につき月額2万円。「Zoom Rooms」専用の55インチタッチパネルディスプレイ「DTEN」も設置されている
「コワーキングスペース」は30分100円から。1日1000円、1カ月1万円のプランもある
「会議スペース」は3室あり、こちらにも55インチの「DTEN」を設置。利用料金は、会議スペースのみ利用する場合が30分250円~1000円、ワークスペース利用者なら30分50円~250円
エントランスには「Powered by Zoom」のロゴ。なお、テレワークの要とも言えるインターネット回線は最大1Gbpsの光回線。ワークスペースの利用者は館内のWi-Fiを無料で利用できるほか、1カ月以上の長期利用者であれば有線LANも利用可能だ

人口減少が進む地方都市でなぜ? テレワーク施設に2カ月で9000人の利用者

 MYOKO BASE CAMPが目指すのは「関係人口」の創出・拡大の要となる拠点だ。関係人口とは、地方活性化のキーワードとして注目を集めている言葉で、移住による定住人口でもなければ、観光で一時的に訪れる交流人口でもない、地域と密接に関わる人々を指す。

 「一部の例外を除けば、地方都市にとって人口のV字回復はありえない。(県内で最大の都市である)新潟市ですら若者が流出している。人口減少・過疎化が進む地方都市にとって、関係人口の創出・拡大は地方創生の切り札だ。」(妙高市企画政策課課長兼SDGs推進部長の葭原利昌氏)

 妙高市の人口は2022年4月現在、3万571人。ピークだった1945年の6万473人(合併前の新井市・妙高高原町・妙高村の合計)から半減した。さらに2060年には1万4000人を切るとの推計もあり、このままでは地域社会の機能を維持できなくなる可能性も指摘されている。

 危機感を持つ妙高市が地域社会の機能の担い手として必要としているのが関係人口であり、その関係人口を創出・拡大するために2020年度から取り組んでいるのが“ワーケーション”を起点とした5カ年事業だ。まずはワーケーションを誘致することによって地域への新たな人の流れを生み出し、そこから都市部の企業・人材と地方企業とのビジネスマッチングや、地元リモートワーカーのワークシェアリングなど、地域のビジネス創出へと発展させていくことを狙っている。

妙高市グリーンツーリズム推進協議会が運営する「妙高Workation」のウェブサイト。“ワーケーション”というと、日中は旅先などで仕事をし、労働時間外は観光や現地の食を楽しむ、というのが一般的なイメージだろう。これに対して妙高市で展開するワーケーションは、企業研修を目的とした森林ツーリズムやSDGsなどをテーマにしたワーケーションツアー、“親子ワーケーション”などのプログラムを用意しているのが特徴

 この5カ年事業の中で整備したのが、MYOKO BASE CAMPである。地方のテレワーク施設というと、元々あったセミナー施設や廃校などを改修したり、テナントの一部を間借りしたりするかたちで提供することも多いが、MYOKO BASE CAMPは約1億5000万円をかけて妙高高原という自然豊かなエリアに新築した。前述の通り「Powered by Zoom」認定も取得し、充実したテレワーク環境を実現している。

 「他と同じことをやるのではなく、我々ならではの優位性を持たなければ意味がない。妙高は空気が美味しく、空が広い。大自然で勝負しようと考えた。国立公園の中にある公共のテレワーク施設は初めてではないか。」(葭原氏)

 オープンから約2カ月間で利用者数は9000人(ワークスペース以外の利用も含む全入館者数)を超え、当初見込んでいた数を遙かに上回っているという。新潟県外からの利用者が半分近くを占めており、東京や千葉、福岡といった遠隔地からの利用者も多い。「MYOKO BASE CAMPという環境のニーズは大きかった」と、葭原氏は手応えを見せる。

ウッドデッキに出れば目の前には森が広がる。また、ワークスペースの利用者だけでなく、観光客も利用できるカフェスペースも営業している

妙高市は「関わりしろ」の宝庫? 「越境人材」がビジネス創出できる余地

 地方では、生産年齢人口の減少といったビジネスの担い手不足はもちろんのこと、ビジネスに対する知見や人脈、ノウハウも不足しているが、そうした課題を解決するために期待されているのが都市部の企業・人材だ。裏を返せば、そうした課題を抱える地方には、都市部の企業・人材が関わることのできる/関わりたくなる余地――「関わりしろ」が存在することを意味する。関係人口を創出・拡大するには、こうした関わりしろをいかにして増やすか、いかにして関わりしろへ「越境人材」を呼び込むのかがポイントとなる。

 越境人材(インタープレナー)とは、地域はもちろん組織や制度という境目を越えて活動する人材のこと。妙高市の5カ年事業では、いくつかの官民連携プロジェクトを展開することで、越境人材が妙高市に関わりやすくなる/関わりたくる枠組を設けた。

 2020~2021年度は、地域課題解決型の官民共創のプラットフォーム「みょうこうミライ会議」を実施。都市部の企業、新潟県内の企業や団体、そして妙高市という3者が地域・行政の課題解決のための具体的な施策を検討し、その成果を市長にプレゼン。市の予算で事業化するのか、民間企業でビジネス化してもらうのか、あるいは官民連携で取り組むのか考えていくというものだ。日本マイクロソフト、ダイハツ工業、スズキ自動車、ワーナーミュージック、カヤックといった企業が参加し、「人の流れの創出」「公共交通」「新たな教育」といったテーマで検討を行った。

妙高市の官民共創プロジェクトなどを紹介する「みょうこう未来図」のウェブサイト

 2022年度は「100DIVEプロジェクト」を実施中。地域資源を活用して関係人口の創出・拡大につなげる“100のローカルビジネス”を、人を起点として実現するのが目的だ。特徴は「行政に施策を提案するだけではなく、参加者が自分たちで事業化まで実現するところにある」(葭原氏)という。

 100DIVEプロジェクトに参加するには1人5万円(30歳以下は3万円)の参加費が必要となるほか、妙高市への旅費も全て参加者の負担となる。高いハードルに思えるが、13人の参加があり、その半数以上が新潟県外からだという。「都市部には、地域の課題解決に貢献したいという方がたくさんいらっしゃるとは聞いていたが、実際にこうやって自分で費用を負担しても一肌脱ぎたいという方が集まっている」(葭原氏)。

妙高市の「関わりしろ」とは? 外からの視点・内からの視点

 今回の取材では、新潟県外の事業者として妙高市のプロジェクトに携わっている徳野創記氏(株式会社NearMe)、それとは逆に、妙高市内において越境人材を呼び込むための環境作りに取り組んでいる竹内義晴氏(特定非営利活動法人しごとのみらい理事長)にもインタビュー。妙高市の関わりしろについて、外からの視点・内からの視点でお話を伺った。

外からの視点:妙高市が地域の事業者を積極的に仲介、事業推進スピードに大きなメリット

 相乗りによるスマートシャトル事業を手掛ける株式会社NearMeの徳野創記氏は、みょうこうミライ会議がきっかけで妙高市での事業に関わるようになった。同会議では事務局として制度設計から立ち上げまでを担当するとともに、妙高市でスマードシャトルの実証実験を行った。

 妙高高原エリアには多くのスキー場があるが、スキー場同士を行き来する交通網が整備されていないのが大きな課題だったという。そこでNearMeは、予約制の少人数シャトルをスキー場間で運行することで同エリア内をドアツードアで移動できると考えた。現在は商用サービスに向けた検討を進めている。

株式会社NearMeの徳野創記氏(インタビュー取材は、Zoom Roomsを使ってMYOKO BASE CAMPから東京の徳野氏にリモートで実施)

 妙高市での事業展開について徳野氏が強調するのが、市の協力体制だ。この実証実験はスキー場やタクシー会社といった地域の事業者の協力が必要不可欠だが、これらの事業者との交渉は全て妙高市が仲介してくれたという。「他の地域では事業者との交渉は我々に委ねるというところが多いが、妙高市は、関係する事業者が3社・4社と複数に上るときでも調整をしてくれる。県外の事業者にとって、地域のことを理解している自治体が間に入ってくれるのは事業の推進スピードの面で大きなメリットがある」(徳野氏)。

 普段は東京で働く徳野氏は、妙高市での事業はWeb会議によるオンラインが中心。実証実験の繁忙期を除けば妙高市に行くのは月に1、2回程度だが、遠隔地であることは不利には運ばず、円滑に事業を進められたという。「最初にお会いしてきちんと認識や方向性をすり合わせていたため、あとはオンラインでもスムーズに進んだ」。

「みょうこうミライ会議」発のローカルビジネスとして商用サービス化の検討に入ったスマートシャトル事業

 もともとウインタースポーツが好きだった徳野氏は、みょうこうミライ会議のプロジェクトが終了したあともスキーやノーボードを楽しむために妙高市を訪れているという。「スキー場が密集していて、ウインタースポーツが好きな人が飽きないで長時間いられる場所。夏は涼しく過ごせるし、昨今のサウナブームで温泉需要もあり、1年を通して人を集められるポテンシャルのある地域だと思う」。

内からの視点:一度や二度の訪問で終わらない関係性を「仕事」から創出

 特定非営利活動法人しごとのみらい理事長の竹内義晴氏は、妙高市出身。学生時代~社会人になってしばらくは関東圏に住んでいたものの、1998年に妙高市へUターン。現在は組織づくりの企業研修・講演やワーケーションのコーディネートなどを行っている。

特定非営利活動法人しごとのみらい理事長の竹内義晴氏

 これまで新潟県外の人を妙高市に呼び込むイベントを多く手掛けてきた竹内氏だが、関係人口という観点では限界を感じていたという。「イベントは打ち上げ花火みたいなもの。温泉がある、美味しいものがあるというだけでは、一度や二度は来てくれるけれど、継続して来てくれるかは別の話だ」(竹内氏)。

 「関係人口とはどういうものか」ということについて、竹内氏が手掛かりを得るきっかけとなったエピソードがある。実は竹内氏自身、東京のサイボウズ株式会社にも所属するパラレルワーカーであり、越境人材だ。竹内氏にとって「行けば楽しいけれど愛着があったわけではない」のが東京だったが、あるとき、東京の街並みを見てホッとする自分に気が付いたという。一度や二度の観光としてではなく、仕事で何度も訪れるうちに、その地域との強い関係性ができていた――竹内氏はこの経験から、都市部の人たちとの関係性を維持するための関わりしろが「仕事」にあると考えた。

 「いきなり地方に来てコミュニティに入るのは難しいが、仕事という共通言語があれば『打ち合わせしましょう』というだけですぐに話ができる。仕事を通じて徐々に地域と関わっていくことが、関係人口の入り口ではないか」と、仕事から始まる関係性の強さを指摘する。「地域のビジネスは工業や農業、観光が主流で、なかなかマーケティングやウェブサイトというところまで至っていない。そういった経験を積んだ都市部をはじめとした他地域の人材とのビジネスマッチングは重要」という。

 一方で、スキルだけのマッチングでは「仕事だけの間柄になってしまって、その後の関係性には至らない」とも。「本当に大事なのは『○○さんって、いい人だな。一緒に仕事をしたいな』という“人となり”の部分。ビジネスマッチングというよりお見合いに近い。そういうマッチングができるような施策を今準備している」とした。

 “親子ワーケーション”も、これまでの中で手応えを感じた取り組みだ。都市部で働く家族を妙高市に迎え、日中に親が仕事をしている間、子どもたちには地域の自然体験の時間を設けるというもので、親は仕事に集中できる。「夏休み中、子どもがずっと家にいて仕事ができないと困っていた親御さんたちにとても喜んでもらえた」。

2022年8月に開催された“親子ワーケーション”のときの様子。首都圏在住の親子など17人が参加した

 さらに「親子ワーケーションの参加者同士で人と人とのつながりが生まれ、その後も妙高市に興味を持ってくれている」との手応えも感じているという。「親子ワーケーションで仲良くなった子どもたちが『そのときのことを思い出すと泣いてしまう』と言われたのはとてもうれしかった。これこそ関係性だと思う。これをきっかけにまた妙高市に来たい、今度は会社として来たいと思ってもらえるようにしたい」と竹内氏。今後も親子ワーケーションは継続して実施していくとしている。

越境人材がリアル/リモートで集える拠点に。Zoomとmiroで参加できるセミナーも開催

 充実したテレワーク施設というハード面、官民連携による地域のビジネス創出というソフト面の次に妙高市が注力するのは、MYOKO BASE CAMPを起点としたコンテンツ面の強化だ。具体的には、MYOKO BASE CAMPを利用する人々の“化学反応”による新たなイノベーションを生み出したいと考えており、そのための施策として異業種交流会といったビジネスマッチングやアクセラレータープログラムなどの準備を進めている。

 ここで期待するのも、やはり民間の力。「行政が考えられることには限界がある。我々が想像し得ないところにビジネスの可能性はあると考えている。行政は、新たな化学反応が生まれるための場作りに徹する」(葭原氏)。とはいえ、「ただ場所を用意するだけでは関係人口は生まれない。利用者同士がつながって新たなコミュニティが生まれなければ関係人口にはつながらない」とし、コミュニティの醸成にも取り組む。MYOKO BASE CAMPでも今後、コミュニティマネージャーの登用などコミュニティ運営のための施策に取り組んでいくという。

妙高市企画政策課課長兼SDGs推進部長の葭原利昌氏

 また、直近では10月下旬より、MYOKO BASE CAMP×Zoomによる協業セミナー「妙高ブレスト!」を開催する。「国立公園を中心とした持続可能な環境をつくる」とのテーマのもと、妙高市で活動する地域のプレーヤーたちが現在の課題を提示し、一般から募集する参加者らとともに課題解決へ向けた“仮説”を組み立てていくというワークショップだ。

 来年1月末までの期間に計4回を予定しており、第1回は10月25日に開催。市内にある「国際自然環境アウトドア専門学校(i-nac)」野外教育・アウトドアスポーツ学科の講師で、博士(地球環境科学)/山岳ロードマラソン「MURA18」のプロデューサーでもある田辺慎一氏とともに、都市と里山が融合する社会のあり方について考える。自然環境の保全や生物多様性について知見のある人、地域の課題解決や地域活性化に貢献したい人、妙高市の関わりしろに興味がある人など、妙高市外から広く参加者を募集中だ。

 セミナーはZoom meetingで実施するため、妙高市に行かずとも参加できる。ワークショップのホストとなる地域のプレーヤーたちはMYOKO BASE CAMPに集まり、同施設のZoom Roomsを使ってワークショップを進行。さらにオンラインホワイトボード「miro」も導入し、リモートでも質の高いコラボレーションを実現するとしている。なお、各回ともファシリテーターを上村遥子氏(SUNDRED株式会社チーフエバンジェリスト)が務めるが、上村氏自身もリモートによる参加となっている。

10月25日開催の「妙高ブレスト!」第1回の開催概要・参加者受付ページ(MYOKO BASE CAMP)。参加費は無料、開催時間は19時~20時30分

 リモートでも参加できる関わりしろとなる機会を設けることで、そこから関係性が深まり、いずれ関係人口となってくれれば――。妙高市はMYOKO BASE CAMPについて、単なるテレワーク施設ではなく、潜在的・顕在的な越境人材たちが、リアルでも、リモートでも集える拠点にしていきたい考えだ。

(協力:新潟県妙高市)