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定額減税がスタートしたけど、超分かりにくい! 3人に1人は“給付金”の申請が必要?

複雑ゆえ間違いが発生しやすいので確認しよう

定額減税はシンプルに「1人4万円」。だが、その方法が実に複雑だった

 物価高対策として岸田政権が実施する「定額減税」が6月からスタートした。岸田首相は昨年11月、「増えた税収を分かりやすい形で所得税・住民税で直接国民の皆様にお返しする」と記者会見で述べ、半年が過ぎいよいよ実施となった。当初から(現在も)減税よりも“給付”のほうが早く、分かりやすいと言われたが、岸田首相としては「コロナ禍の10万円定額給付より額が少なく見劣りする」「減税は1998年橋本龍太郎内閣以来で“減税した首相”として歴史に名を残せる」などの理由から減税を選んだのではないかとの憶測もあり、多くの国民が人生の中で滅多に経験しない所得税・住民税の減税が実施される。いざ自治体や企業で定額減税の事務手続きが始まると、個人の所得や扶養家族によって減税の仕方がまちまち、減税+給付の対象になる人が大勢いることになり、「遅い」「少ない」「分かりにくい」という点で、記憶に残る政策となりそうだ。

 今回の減税は、納税者ごとに減税方式が異なる複雑な事務作業をともなうため、自治体から発送される通知書・明細書の発送が遅れたり、企業の事務担当者に重い負担がかかったりしている。そのためミスが発生することも予想されていて、SNSでは「減税多すぎて来月の給与で返金」といったコメントも見られる。ご自身の定額減税が正しく行われているか、確認することをお勧めしたい。

 本記事では「今年生まれた子はどうなる?」「5人家族で減税額20万円、そんなに税金払っていないよ?」「新入社員で住民税はまだ払っていないけど?」など、分かりにくい事例についても説明したい。

基本は1人あたり所得税3万円・住民税1万円、計4万円の減税

 定額減税の基本的なところを説明しよう。定額減税の1人あたりの金額は4万円。内訳は所得税が3万円、住民税が1万円。例えば、妻と子ども2人を扶養している人は、自分を含め4人分、計16万円が減税される。

4人家族は16万円の減税

 夫婦共働きで、それぞれが納税者の場合、夫が子どもを扶養親族に入れていれば2人分で8万円の減税、妻が1人分4万円の減税となる。

共働きの場合、夫婦それぞれ4万円の減税。子どもの分の減税は扶養している側がプラス4万円となる

 ここでカウントされる人数は、サラリーマンであれば、昨年の年末調整で提出した「令和6年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に記入された扶養親族。記入漏れがあると対象外となる。おそらく、企業では定額減税の実施にあたり、今年1月~6月の間に異動がなかったか確認が行われたと思う。扶養親族に異動があった人は、人数分が減税されているか確認しよう。個人事業主は、住民税分は提出済みの確定申告書第二表の扶養親族に抜けがないことをチェック、所得税分は来年の確定申告で漏らさず記入しよう。

年末調整で提出した「扶養控除等申告書」で減税対象の人数が決まる

 定額減税の対象とならない人がいる。所得金額が1805万円(給与のみで年収2000万円)を超える人、海外赴任などで国内に住居のない人などは定額減税の対象外となる。また、“給付”ではなく“減税”なので、税金を払っていない世帯は対象外。よって住民税非課税世帯と住民税の均等割のみ課税世帯も対象外となるが、別途、給付金が支給される。

サラリーマンの所得税と住民税には“時差”がある

 サラリーマンの人は毎月の給与から、所得税と住民税が天引きされていると思う。同じ月に天引きされる2つの税金に“時差”があることをご存じだろうか。

 所得税は毎月の給与から計算され、その月に納税する。住民税は前年の所得から算出し、例年であれば6月から翌年の5月まで12分割して納税する。

所得税と住民税は納税時期に“時差”がある

 昨年2023年(令和5年)の所得税は1月から毎月納税、年末調整で微調整をして納税が完了する。その結果が反映されるのが源泉徴収票だ。医療費控除など確定申告の結果をふまえ、お住まいの自治体が住民税を算出し、例年であれば今年2024年(令和6年)6月から来年の5月まで12分割して住民税を納税する。

 定額減税の対象は、所得税は現在進行中、毎月の給与から算出する税金から減税。一方、住民税は昨年の所得から計算した(=すでに確定している)税金から減税する。対象となる期間が異なるため、今年生まれた子は、所得税の減税対象だが、住民税は(生まれる前なので)減税の対象外となる。所得税の対象期間は今年1月~12月なので、これから年末までに子どもが生まれた場合は減税対象となる。扶養していた親が昨年亡くなった場合は、所得税は減税対象外、住民税は減税対象となる。

今年生まれた子は所得税が減税対象、住民税は対象外
年内に生まれれば所得税の減税対象となる
昨年、扶養していた親が亡くなった場合は、住民税は減税対象、所得税は対象外

サラリーマンの所得税は、減税額に達するまで順次減税

 サラリーマンの減税の方法は所得税と住民税で異なる。まずは所得税。1人3万円の減税が、6月以降に支給される給与・賞与(ボーナス)から順次、行われる。

事例1:独身(扶養親族なし)減税額3万円、月収60万円(年俸制・賞与なし)

 高額所得者は毎月の所得税も高額なので、1カ月目に減税が全額行われる。この例では、通常の毎月の所得税は3万1370円。それが定額減税により6月は3万円が減税され、天引きされる所得税は1370円。7月以降は減税が完了しているので、所得税は3万1370円に戻る。

事例2:独身(扶養親族なし)減税額3万円、月収35万円(年俸制・賞与なし)

 毎月の所得税が3万円未満の人は、累積で3万円になるまで翌月以降も減税が行われる。この例では、通常の毎月の所得税は8250円。それが定額減税により6月・7月・8月の所得税は0円。8250円×3カ月=2万4750円が減税済みとなるので、9月は減税額の残り5250円が引き算され、所得税は3000円となる。9月で減税が完了し、10月以降の所得税は8250円となる。仮に6月と7月の給与の間に賞与(ボーナス)が支給されると、賞与からも残額が減税されるので、完了する月は前倒しとなる。

事例3:3人家族、減税額9万円、月収35万円(年俸制・賞与なし)

 3人家族(扶養親族が2人)の場合、所得税の減税額は3万円×3人=9万円。扶養親族が0人から2人になったので、この例では、通常の毎月の所得税は5010円。その5010円全額を毎月減税しても、6月~12月の7カ月では減税額の累計は3万5070円で、9万円に満たない。減税できなかった残高5万4930円は給付を受けることとなる。
※12月分は、年末調整で納税額(=減税できる額)が減ると、残高はさらに増える。

サラリーマンの住民税は、7月から来年5月まで11分割で減税(天引き額が増える人も)

 前年の所得から算出する住民税は税額が確定していて、サラリーマンは通常、6月から翌年5月まで12分割し納税する。今年は定額減税の効果を実感してもらうため(見せかけるため)、6月は0円。その後、1人あたり1万円を減税した額を7月から来年5月まで11分割して納税する。
※通常、12分割の方法は、7月~翌5月は12分割した額を100円未満切り捨て、切り捨てた端数は6月に加えるため、6月の納税額だけ数百円高くなる。

事例4:独身(扶養親族なし)減税額1万円、住民税5万円/年

 通常は5万円の住民税を12分割(=4167円)し、6月から翌年5月まで天引きされる。例年であれば6月は4900円、7月~翌5月は4100円となる。

 定額減税により、今年の6月は0円。見かけ上、天引き額が4900円減る。その後、5万円から減税分1万円を引いた4万円を11分割(=3636円)し、7月は4000円(100円減税)、8月から来年5月は3600円(500円減税)となる。

事例5:独身(扶養親族なし)減税額1万円、住民税15万円/年

 通常は15万円の住民税を12分割(=1万2500円)し、6月から翌年5月まで天引きされる。端数が出ないので、例年であれば6月は1万2500円、7月~翌5月も1万2500円となる。

 定額減税により、今年の6月は0円。見かけ上、6月の天引き額は減税額の1万円より多い1万2500円減ることとなるが、「得した」と勘違いしてはいけない。15万円から減税分1万円を引いた14万円を11分割(=1万2727円)し、天引き額が7月は1万3000円(500円増税)、8月から来年5月は1万2700円(200円増税)となる。6月に1万円以上の減税を行ったかたちになるため、7月以降は通常の年より住民税の天引き額が多くなる。

個人事業主はいつ減税?

 個人事業主の所得税は1月から12月の売上、経費、控除などを計算して翌年の2月~3月に確定申告をする。納税する人は3月に納付、還付を受ける人は3月~4月に税務署から還付金が振り込まれる。よって今年の所得税の減税は来年3月~4月の納税、または還付に反映される。ず~っと先だ。今月6月から減税されるサラリーマンと比べると9カ月ほど遅くなる。岸田首相の昨年11月の「減税を行います」から起算すると16~17カ月後の減税となる。なお、個人事業主で予定納税を行っている人は第1期(7月)から順次減税されるので、早めに減税が行われる。

 個人事業主の住民税は今年2月~3月の確定申告(昨年分)から算出され、5月下旬~6月上旬に通知書が届く。納税は1年分を一括で6月に納税するか、6月・8月・10月・翌年1月に4分割して納税するかを選べる。筆者の手元にある納付書を見ると、4分割の場合の減税分は6月分に反映されるので、一括でも分割でも6月に減税される。住民税の減税は、11分割されるサラリーマンより早く実施される。
※Yahoo!ニュース掲載の本記事に付けられたコメントで、4分割で減額されたという人もいるので、自治体によって異なっている可能性がある。

3人に1人、減税額が納税額より多い人は「調整給付金」が支給される

 サラリーマンの所得税の事例3のように、減税額が納税額より多い人は「調整給付金」が支給される。一般的に納税額が少なめな人は、毎月天引きされる所得税より住民税が高額となる。ところが、1人あたりの減税額が所得税3万円、住民税1万円なので、所得税の減税額が納税額を超え、給付の対象となる人がかなりいるようだ。

 減税+給付になる人は、政府の推計で2300万人。これは減税対象の納税者6000万人の約38%で、3人に1人は調整給付の申請を行うことになりそうだ。内閣官房の資料によると、目安となる年収は単身世帯は約210万円以下、夫婦と子ども2人の世帯で約535万円以下となっている。

 所得税は国税。その国税の減税しきれなかった分の給付は、税務署や国税庁ではなく地方自治体が行う。「面倒くさい給付作業は地方自治体に丸投げ」と揶揄されている。

 住民税の1人1万円の減税額が、納税額を超え、給付になる人もいる。人数的には少ないと思われるが、住民税は税額が確定しているので、6月時点で給付対象の人は確定している。調整給付のメインとなる所得税の納税額が確定するのは年末調整の後=年末だ。いくつかの自治体のサイトを見ると「詳細が決まり次第、本ホームページでお知らせします」と、未定の自治体が多い。

調整給付金について(川崎市)
名古屋市は調整給付金を8月ごろとしている。推計で給付金を支払い、不足した場合は令和7年に給付

 申請や給付方法の詳細は未定で、おそらくお住まいの自治体から「調整給付のお知らせ」が届き、自治体によってマイナンバーカードに紐付けた銀行口座に振り込まれるか、口座を記入した書類を返送するなどの手続きが行われるだろう。かなり面倒な事務作業が自治体に課せられる感じだ。

 調整給付の金額は1万円未満切り上げとなる。例えば事例3で、家族3人=9万円の所得税の減税に対し、納税額が3万5070円のケースでは、減税しきれなかった額は5万4930円となる。この場合、1万円未満を切り上げた6万円が調整給付となる。約5000円お得だ。運よく端数が1円となった人は9999円お得となるので、調整給付金の対象となる人は楽しみに待とう。

国税庁、総務省、内閣官房がQ&Aを公開中

 分かりにくい定額減税。該当しそうな事例を説明しておこう。

新入社員で住民税はまだ払っていない

 今回の定額減税の分かりにくい理由の1つは、所得税と住民税の対象所得の時期がズレていること。例えば、新入社員は前年2023年に学生で所得がない場合、2024年は住民税が課税されない。そのため、新入社員は所得税の3万円の減税は受けられるが、住民税の1万円の減税は対象外となる。

 その1万円はどこへいくのか。2023年は親の扶養親族なので、住民税の減税は親の住民税から減税される。親が受け取った1万円の減税分をどうするかは、親子で相談しよう。

7月以降に生まれた子の減税は年末調整で行う

 前述のとおり、今年生まれた子は所得税が減税対象、住民税は減税対象外。6月以前に生まれた子は、6月から順次行う給与の減税に人数が反映される。減税開始後に生まれた子は、毎月の減税額は変更せず、年末調整で減税する。

国税庁「令和6年分所得税の定額減税Q&A」より抜粋

 “減税”ではなく、コロナ禍のときと同じ“給付”にすれば、昨年の秋にはまとめて4万円の給付が受けられたし、マイナンバーカードと公金受取口座を紐付けた人は、その効果を実感することができたはずだ。大人の事情(首相の事情?)で複雑な減税となったため、手続き上の疑問が噴出。国税庁、総務省、内閣官房がQ&Aを公開し、都度、改訂版を出している。疑問に思うことがあれば参照していただきたい。

最後に

 昨今、日本は生産性を向上させなければならない、という論調を耳にすることが増えた。先日、自民党の幹事長が無人多店舗展開をするフィットネスジムを訪問し、「生産性を上げることが、今後の日本経済にとって重要」と述べた。

 オイオイ、昨年からスタートしたインボイス制度、今回の定額減税は企業に1円の特にもならない負担を強いて、日本中の生産性を落としているのは誰だよ。実務を知らなくて、企業に負担がかかることが理解できないのか、負担がかかることは承知していて、政府・省庁さえメリットがあれば、民間の負担はお構いなしなのかは不明だが、企業の足を引っ張る政策は、これ以上は勘弁してもらいたい。

「INTERNET Watch」ではこのほかにも、サラリーマンと個人事業主がぜひ読んでおきたい税金に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『サラリーマンと個人事業主の税金の話』よりご参照ください。