特別企画
3月特有のデータ復旧依頼? 決算期に陥りがちな重要データの取り扱いミス
データ復旧業者「日本データテクノロジー」に聞く
(2013/2/27 11:45)
3月が決算期となる企業が多くなるのではないだろうか。決算書類の作成や準備を始める企業も多いはず。そのような中で、万一決算期特有の重要なデータが全て消失した上、資料作成の元データも無くなったとしたら、企業がどれほどの損失を被るかは想像もつかない。そこで、決算期である3月に起こりやすいデータ障害の傾向について、データ復旧サービスを手がける「日本データテクノロジー」(サイト名は「データ復旧.com」)のエンジニア、西原世栄氏に話を聞いた。
期末には切羽詰った復旧依頼が増える
これから3月となり、多くの企業が年度末を迎える。西原氏は、「この時期には、切羽詰った依頼が多いですね」と語る。決算期なので急ぎで復旧してほしいという依頼が増えるほか、昨年のうちに障害が起きたままになっていたハードディスクを年度末になって慌てて復旧依頼するケースや、焦って自分で修復しようとして傷を大きくしてしまうケースも多いという。
このときに注意したいのが、調子のよくないディスクにchkdsk(ディスクのエラーチェック)や、fsck(ファイルシステムチェック)をかけてしまうことだ。コンピュータの経験が長い人であれば、chkdskは「副作用の大きい劇薬」のようなものだと認識しているだろう。例えば、ファイルシステムの管理では矛盾のある“浮いた”ファイルが、普通に使うぶんには読めているということもよくある。こうしたファイルが、chkdskをかけることにより、エラーとして消えてしまう。さらに、サーバー管理者であれば、サーバーの調子が悪いと、Linux上でfsckをかけてしまうケースが非常に多い。
しかし、画面上で簡単に実行できるだけに、調子が悪くなったときについ実行してしまうということもある。「1つのPCを再インストールなどせずに10年ぐらい長く使い続けていれば、少しぐらいの論理障害はあります。そこで消えてしまったファイルは、そのまま依頼していただければ復旧できるのが、chkdskやfsckをかけたことにより復旧が難しくなってしまうことがあります」と西原氏は説明する。「そもそも、chkdskやfsckは論理障害にしか効きません。ヘッドの障害などの物理障害の場合は直りませんし、直らずに負荷だけがかかってバッドセクターを増やすだけになることもあります」。
このように期末で、特に企業から要求を受けるものとして、スピードと復旧精度(使えないデータが復旧されても復旧成功とするのではなく、あくまで必要なデータが使える形で復旧されること)、コミットメントを守ることの3つが重視されると西原氏は説明する。「また、期末で急いで復旧したいデータがあるときには、先に取り出したいファイルを指定する必要があるでしょう。そうした要求には、ある程度大きな規模でやっている業者でないと対応できないことがあります」(西原氏)。
業者を選ぶ基準としてはこのほか、西原氏は「業者の実績」を挙げる。「過去の復旧件数や復旧率だけでなく、具体的な復旧事例を公開していれば、公開されている事例の企業から信頼されているという目安になります。データ復旧業者の対応や復旧内容に満足しなければ、社名を出しての復旧事例公開を承認はしないでしょうから。」。特にサーバーのデータ復旧の場合、市場流通量の多いコンシューマー向けNASだけでなく、ラックマウント型サーバーなど大型サーバーでの事例を確認したほうがいいだろうという。
「また、何をもって成功とするかの成功定義がはっきりしていることは非常に重要です。言った、言わないの争いになるといけないので、依頼するときには書類を交わしておくのが望ましいでしょう。先程申し上げた通り、例えばデータリストは復旧できたとしても、実際そのファイルを開こうとしたら文字化けしていたり、写真が虫食いになってしまっていたら、お客様側からしたら『復旧失敗』になるはずです。それにも関わらず、業者側は『リストは復旧できたらから復旧成功だ』とされてしまったら、そこでトラブルになります。さらに、復旧できると言うときに、具体的な根拠があることも重要です。例えば、復旧事例を見せてくれたり、どういう工程で復旧作業を行うのか、の説明があるかなど。『がんばります』とだけ言うようでは困ります。」(西原氏)
大容量化によりヘッドの障害が増える
西原氏が近年のデータ復旧事例の傾向として挙げるのは、「複雑化」と「大容量化」だ。
「複雑化」とは、RAID 6や暗号化RAID、Beyond RAID(Drobo社)などの、比較的新しく複雑なRAIDの修復依頼の増加だ。「こうした新しいRAIDを使った機器が普及し、故障が起きるタイミングになってきました」と西原氏は説明する。
RAID 6や暗号化RAIDについて、同社では復旧に対応している。RAID 6については、西原氏によると「対応している復旧業者が限られ、ツールでしか復旧作業を行っていない業者は対応できていない」という。また、暗号化RAIDは、同社でも復旧に通常のRAIDの2〜3倍の時間が必要だとのことで、「NASでも暗号化RAIDに対応した機種が増えてきました。デフォルトで暗号化に設定されていて、データ障害が起きるまでユーザーさんが暗号化されていることに気付いていないということもあります」(西原氏)。
Beyond RAIDは、容量の異なるディスクを組み合わせてRAID相当にする技術だ。「月に1〜2度は依頼が来るのですが、アルゴリズムが公開されていないので、まだ研究中です。世界を見てもまだ修復できるところはないようですが、当社にて対応できるようになる予定です。」(西原氏)。
「大容量化」は言うまでもなく、ディスク容量の増加だ。ハードディスク単体の容量と同時に、RAIDを組む際に使用するハードディスクの本数も増加している。「2012年では、1本あたり1TB以上のディスクの依頼件数が約1.5倍に増えました。また、2011年まではハードディスク4本以下のRAIDが多かったのですが、2012年は5本以上の構成が増え、前年比で約1.4倍になっています」(西原氏)。
RAIDを構成するディスクの本数が増えると、復旧もその分難しくなる。ディスクの順番やアルゴリズムなどの分析時間が格段に増えるためだ。西原氏は「そこは経験がものをいう部分です。経験の少ない業者では診断に2〜3日かかるケースもありますが、弊社ではレアケースでも2〜3時間で診断します」と説明する。
なお、西原氏は個人的な感想と断ったうえで「昔と違ってディスク1本あたりの容量が増えて安価になってきているので、1TBのディスク4本でRAID 5を組む必然性がなくなってきて、安全性でも3TBのディスク2本でRAID 1にしたほうがいいと思っています」と語る。
同じサイズでこのようにハードディスクの大容量化が進むことにより、どんどんハードディスク内部が精密になっていく。「特に、容量が増えて負荷がかかっているのがヘッドですね。現在、弊社への依頼のうち、4割がヘッド障害で、件数は右肩上がりでずっと増え続けています」と西原氏。
記録密度が高くなれば、ヘッドの制御もより精密さを求められ、制御システムや部品も精緻なものになってくる。容量を増やすためにプラッタ(ハードディスク内の円盤で、データの記録場所)の枚数を増やせば、ヘッド自体が精密になると同時に、ヘッドの数が増える。もともとヘッドは壊れやすいため、本数が増えればその分、故障確率も高くなる。「最近では、ヘッドの支点だけでなく、先端(スライダ)も制御することで、より細かい制御をする技術も研究されていると聞きます。ますます、ヘッド障害の復旧に高度な技術が必要になってくるでしょう」(西原氏)。
タイ洪水の直後に出荷されたディスクに注意
複雑化や大容量化とは違う、イレギュラーなトレンドとして西原氏が指摘したのが、2011年のタイ洪水の影響だ。ハードディスクの生産が大きく落ち込み、価格が急上昇したことはまだ記憶に新しい。西原氏によると、「そのときの供給不足により、いつもなら検査で落とされるクオリティのパーツを使ったハードディスクも市場に出荷されました。その頃に作られた製品が、そろそろ壊れ始める頃ではないかと考えています」という。
通常、ハードディスクは出荷前に、決められた温度の範囲で一定時間動作させて問題がないかどうか(モーターのぶれがないか、ヘッドの動作でエラーが決められた範囲におさまっているかどうかなど)を検査したうえで出荷する。「いちばん検査の甘いのがバルクのハードディスク。そこから、外付けハードディスク用、メーカーPC用、サーバ用の順で検査が厳しくなります」(西原氏)。
「価格が急上昇したこともあり、洪水の直後は皆がハードディスクを買い急いだため、在庫が早いうちになくなったはずです」と西原氏。現在は落ちついているが、洪水から数カ月の間に生産されたハードディスクはクオリティのチェックが甘くなっているという。「PCメーカーでは、それがわかっていて、ハードディスクを全件検査していたと聞きます」(西原氏)。
データを守るにはバックアップしかない
最後に西原氏に障害を起こさないためにどうしたらいいか聞いてみたところ、「ホント、いつも同じことばかり言ってるんですが、結局はバックアップしかないんですよね」との答えだった。「特に、夜中などに自動的にバックアップをとる仕組みを使うことですね。手動でバックアップしようとしても、面倒になってやらなくなってしまう。無理ですよ」。いかに自分の手をわずらわせないかが重要、という指摘だった。
また、「個人の場合でも、本当に大事なデータはバックアップディスクだけでなく、たとえばBlu-rayに記録してトランクルームや親戚の家に置いてもらうなど、分散したほうが安全ですね」ともいう。バックアップした媒体が同じ家にあった場合、火事などの災害では両方とも失われてしまう。
実際に、火事に遭ったディスクが持ち込まれることがあるという。「外が焦げても中のプラッタが無事なことも多く、その場合は復旧できます。一方、熱の加わりかたによるのでしょうが、プラッタまで焦げてしまうと復旧できません。やはり大事なデータはバックアップをしたり、別媒体に記録して別の場所で保管するのがよいと思います」。