「ホロス2050未来会議」キャッチアップ便り
〈インターネット〉の次に来るもの――「第12章 ホロス2050のまとめ/BEGNNING」
われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ
2018年6月29日 06:20
2018年6月14日お茶の水デジタリハリウッド大学で第12回ホロス2050未来会議「第12章 ホロス2050のまとめ/BEGINNING(始まっていく)」が開催された。
ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』の各章のキーワードから未来を読み解く同会議も、いよいよ最終回を迎えた。今回のキーワードは「BEGINNING」。スペシャルゲストとして、NHK出版在籍時に同著の編集を担当し、この6月から『WIRED日本版』編集長となった松島倫明氏を迎え、ホロス2050未来会議の発起人3名(服部桂氏、橋本大也氏、高木利弘氏)も勢揃い。過去11回のホロス2050未来会議を振り返りながら、ケヴィン・ケリーの云う「われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ」とはどのようなことなのかをディスカッションした。
『不可避』な基本法則を知り、それと対峙し、未来を発明していこう
服部桂氏:
この本の原題は“INEVITABLE”、日本語で言うと「不可避」だ。
例えば、地球が太陽のまわりを回っているとか、春夏秋冬が必ず来るというような意味で、デジタルの世界で起きている基本的で不可避な法則を指す言葉だ。しかし、このまま本のタイトルにしても、日本の読者にはかなり分かりにくい。そこで私は、我々が今暮らしているデジタルの世界を、山カギカッコを付けた<インターネット>というもので代表させ、これからほぼ30年経った2050年くらいをイメージし、『<インターネット>の次に来るもの』という日本語タイトルを付けた。
この著作の要旨は、テクノロジーはあくまでも手段であり、未来は誰かが予測したものを真似するのではなく、自分で「不可避」な基本法則を見極め、それと対峙して未来を発明して欲しい、という読者への呼びかけである。
ケヴィン・ケリーは『ホールアースカタログ』の編集部で働いていた時期があるが、その最終号の背表紙には「STAY HUNGRY STAY FOOLISH」という一文が掲示されている。2005年、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学卒業祝賀スピーチで引用した言葉だ。この精神で、最終回のディスカッションをすすめていきたいと思う。
パネルディスカッション:QUESTIONINGこそが、ケヴィン・ケリーが皆さんに求めているもの
松島倫明氏:
『The Inevitable』との出会いに運命的なものを感じ、すぐに翻訳出版を決意した。デジタルが社会を大きく変えていく状況に関連して、いろいろな翻訳を手がけてきたが、ケヴィン・ケリーの12のキーワードは目先の事象ではなく、今後30年にわたって僕らの社会を変えていく力とは何かを示している。自分の中でも重要な書籍の編集をやりきった感がある。
橋本大也氏:
第11回までのホロス2050未来会議を振り返ると、登壇した20人以上のスペシャルゲストは大きく2種類に分けられる。ひとつは、オールタナティブマインドな人で、もうひとつはストレートマインドな人だ。オールタナティブマインドな人はメディア系の人に多く、どちらかというと天邪鬼。ストレートマインドな人は事業家に多かった。よく考えると天邪鬼の親玉はケヴィン・ケリーとも言える。『12の力のインタラクションだ』などと言っているが、つまりどうなのかということは言っていない。時代が今、セントラルドグマの消失ということで、どちらかというとすべてを相対化していくのが12の章だったのではないか。オールタナティブマインドな人は高尚な理想や社会革命を目指す。ストレートマインドな人はマネー、事業家を目指す。しかし両方を持っていないと、もはや何も大きなことはできないのではないか。日本は両方を持っている人がいないという点が、弱みとなっている。
服部桂氏:
ケヴィン・ケリーが皆さんに求めているものこそがQUESTIONINGで、この本を読んで疑問に思うというのは人間にしかできないことだ。ケヴィン・ケリーは自分もいろいろと頑張って、いろいろと30年失敗して、この本を書いた。それを皆でシェアして『だからどうする?』と考えてほしいと言っているのだと思う。
「ホロス2050未来宣言」を発表、「IT25・50」プロジェクトへの参加を呼びかけた
パネルディスカッションの最後に、高木利弘氏から「ホロス2050未来宣言~MEMEXing(メメックスする/記憶を拡張する)が発表された。
高木利弘氏:
「2050年の未来社会はどうなっているだろうか」「未来社会はディストピアかユートピアか」というテーマを掲げ、12回シリーズで「ホロス2050未来会議」を開催してきたが、その結論を『〈インターネット〉の次に来るもの』の12のキーワードになぞらえて言うと、「MEMEXing(メメックスする/記憶を拡張する)」ということになるのではないか。「MEMEX」とは、1945年にヴァネヴァー・ブッシュが提唱した「MEMory EXtender(記憶拡張装置)」のことで、このアイデアが今日のパーソナルコンピュータ、およびインターネットのルーツとなっている。パーソナルコンピュータもインターネットも、本来は我々ひとりひとりの「記憶」を拡張するための装置として誕生し、進化してきた。ところが今、我々は自分たちひとりひとりの「記憶」を拡張するか、縮小するか、その分岐点に立っている。もっと言えば、ひとりひとりの「記憶」を消去し、入れ替えようという大きな“力”が台頭し、地球全体を覆い尽くすかもしれない事態に直面している。
「MEMEXing(記憶を拡張する)」の具体的なアクションとして、ITの25年・50年の歴史(+政治・経済・文化の歴史)をみんなで記録し、ディスカッションする「IT25・50」プロジェクトを提案したい。2018年は1993年にマーク・アンドリーセンがMosaicを開発し、Webブラウザをベースにした商用インターネットが始まってから25年目にあたる。そして、1968年12月9日(米国時間)、ダグラス・エンゲルバートがマウスを使ってコンピュータと対話した、有名な「The Mother of All Demos/The Demo」を行ってから50年目にあたる。これらの歴史を振り返る中で、我々ひとりひとりの「記憶」を拡張し、人々がみんなで“力”を合わせて未来社会を創造してゆくには、一体どうしたら良いのかを考えていくことが重要ではないか。現在のインターネットは、まだまだ始まったばかりの「カッコ付きインターネット」に過ぎず、その次に来るものとは、現在とは比べものにならないくらい桁違いに優れた本物のインターネットであり、その桁違いに優れた本物のインターネットの時代は、『〈インターネット〉の次に来るもの』最終章のタイトル「BEGINNING」にあるように、まさに今、始まろうとしている。
「本読まない」「テレビ見ない」「ゲーム大好き」世代向けの知の冒険カードゲーム「ColleCard」を発表
高木氏は、ホロス2050未来会議の成果をさらに発展させるために、「本読まない」「テレビ見ない」「ゲーム大好き」世代向けの知の冒険カードゲーム「ColleCard」を発表した。この企画の発端は、2016年7月にケヴィン・ケリーが来日して『〈インターネット〉の次に来るもの』発刊記念講演を行った際の発言に遡る。「私はもう本を書かない。自分の息子が俺の本を読もうとしないからだ」と彼は述べた。これからの若い人たちは、どんどん本やテレビを見なくなる。しかし、それらに代わって知識や知恵を継承するメディアがまだ確立していない。
ColleCardは、トランプと百人一首を組み合わせたようなカードゲームだ。リアルカードゲームであると同時に、スマホやPCなどに対応したWeb上の拡張も視野に入れている。ColleCardのサンプル・コンテンツとして最初に選んだテーマが「IT」だ。スペードが「PCの歴史」、ハートが「インターネットの歴史」、ダイヤが「ゲーム・VRの歴史」、そしてクローバーが「コンピュータ・AIの歴史」となっている。4つのテーマにまつわる13の重要なキーワードと人物が、トランプと同じように52枚(4テーマ×13枚)の取り札になる。どんな学科、どんなテーマの課題でも、授業中に堂々とトランプをやりながら効率的に学習できる。ゲーミフィケーション、エデュテインメントのキラーコンテンツやキラーサービスが追求できる、という企画趣旨である。
今後は慶應大学SFCをはじめ各大学で実証実験を行うとともに、クラウドファンディングで賛同者を募り、普及啓発していく計画だ。量産に入った場合は、2000円(税込)くらいの市販価格を想定している。
12回シリーズで開催してきたホロス2050未来会議は今回をもって終了する。「ホロス2050未来宣言」アクションの第一弾として2018年7月2日(月)19:00より、デジタルハリウッド大学において「ホロス2050未来宣言~IT25・50キックオフ会」を開催する予定だ。高木利弘氏は最後に、「関心のある方は、ぜひこの機会にご参集いただきたい」と結んだ。
「ホロス2050未来宣言~IT25・50キックオフ会」開催予定
第1回 ホロス2050未来宣言~IT25・50キックオフ会
われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ