「ホロス2050未来会議」キャッチアップ便り

〈インターネット〉の次に来るもの――「第11章 21世紀の知の行方/QUESTIONING」

質問していくことは単純に言って、答えることよりも力強いのだ

 2018年5月31日お茶の水デジタリハリウッド大学で第11回ホロス2050未来会議「第11章 21世紀の知の行方/QUESTIONING(質問していく)」が開催された。

 ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』の各章のキーワードから未来を読み解く同会議も、今回で11回目。残すところ6月14日開催予定の第12回のみとなった。今回のキーワードは「QUESTIONING」。スペシャルゲストは、連想をベースにした独創的なサーチエンジンを開発している国立情報学研究所教授の高野明彦氏と、人気のスマートフォン日記アプリ「瞬間日記」をはじめ、深層学習・敵対生成ネットワーク(GANs)を応用した最先端の各種AI(機械学習)サービスを提供しているウタゴエ株式会社代表取締役社長の園田智也氏。

高野明彦氏。国立情報学研究所コンテンツ科学研究系教授。連想計算エンジン「GETAssoc」を活用して「WebcatPlus」「新書マップ」「想・IMAGINE Book Search」「文化遺産オンライン」などの公開サービスを展開している
園田智也氏。ウタゴエ株式会社代表取締役社長。主力事業のスマートフォンアプリ「瞬間日記」は、世界200カ国以上で累計3000万ダウンロードを突破。深層学習・敵対生成ネットワーク(GANs)を応用した最先端の各種AI(機械学習)サービスを提供している

検索結果を羅列するGoogleと違い、連想をベースにしたサーチエンジンを独自開発

 高野明彦氏は、ソラシティ地下1階にある案内施設「お茶ナビゲート」や「想(イマジン)」など、ライフワークとして長年取り組んできている連想をベースにしたサーチエンジンの研究開発について紹介。「Googleが膨大な検索結果をフラットに羅列する方式であるのに対し、自分が選んだ情報を種として、そこから連想される関連情報を見ることができるのが特徴だ」と語った。

シリコンバレー資金調達法、主力サービス「瞬間日記」の成功、そして人工知能のカンブリア大爆発

 園田智也氏は、投資家と同じエレベータに乗り、20秒のプレゼンで投資を獲得する「Elevator Pitch!」などシリコンバレーで自らが体験した資金調達の極意を披露。Webベースの歌声検索サービスからスタートし、スマートフォン日記サービス「瞬間日記」にビジネスモデルをチェンジ、『君の名は』封切りで1日3万ダウンロードを記録するなど、「瞬間日記」が世界200カ国以上で累計3000万ダウンロードを突破する人気サービスに成長するまでの経緯を語った。同氏は、「2012年のAlexNetがDeep Learningのターニングポイントとなり、以来、カンブリア大爆発のごとく、人工知能は目覚ましいスピードで進化している」と述べた。

パネルディスカッション:再び直面する「1984」問題解決の鍵は、問う力の向上にある

 パネルディスカッションには、デジタルテクノロジーを活用した教育イノベーションに造詣の深い佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院 教授も加わった。冒頭、同氏は、ケリーが述べている「価値を生み出す原動力は、答えの確かさから質問の不確かさへと移行している」「質問を生み出すことを助けるテクノロジーは、もっと価値のあるものになる」との一文に関連し、「本日、EduTech推進議員連盟が立ち上がった。これからの教育はインプット型から、自ら問いを立ててチェンジメイクしていくアウトプット型教育へと変わっていく」と発言した。

 続けて司会の高木利弘氏が「新井紀子氏が『AI vs 教科書の読めない子どもたち』で指摘したように、人工知能がどんどん発達していくのは良いが、ロジカルシンキングができない子供たち、大人たちの問題を解決しないと大変なことになるのではないか。昨今ヘイトやフェイクが蔓延し、議論が噛み合わない、言葉が通じないといった問題が噴出している背景にはそういった問題があるのではないか」と問いかけた。高野明彦氏は「新井氏の考えは、今流行りのアクティブラーニング礼賛ではない。新しいテクノロジーについていけない人たちには、まずみんなに共通した理解のモデルを与える必要があるのではないか」と回答。

 また、佐藤昌宏氏は「実は今、中国がものすごく進んでいる。アリババがやっているセサミクレジットでは、自分の健康状態や負債情報、学歴などをグラフにして、そのスコアが高ければ高いほど信用も高いという仕組みになっている。例えば、レンタルバイクをデポジットなしで借りられたり、家を買うときにローンの金利が安くなったり、外国に行くときにビザがいらなくなったり、そういったインセンティブをもらえるようになっている」と発言。

 さらに高木利弘氏が「今、我々は再び『1984』問題に直面しているのではないか。今のインターネットは政府やプラットフォーマーに有利で、Macintoshが登場する以前のメインフレーム全盛期に近いのかもしれない。今求められているのは個人のためのインターネット、パーソナルインターネットの登場ではないか」と問いかけると、高野明彦氏は「今回、EUが個人情報の保護を大幅に強化したように、個人の話の前に、国レベルでそこが戦場になっている。今までのインターネットの仕組みにただ乗っかっていれば良いというのとは、随分違う状況になってきた」と応じた。園田智也氏は「先日中国から帰ってきた友人の話によれば、中国はG20のときに映画『マイノリティーレポート』の世界のように徹底的に監視して、2週間前くらいに20人ほどの要注意人物を押さえて、事件を未然に防いだ。街中にたくさんカメラがあり、盗難や事故がものすごく減ったという。監視社会化には、良い面と悪い面があるのではないか」と答えた。

 この「第11回ホロス2050未来会議」の概要については、以下にサマリー映像が公開されている。

次回の「ホロス2050未来会議」開催予定

第12回 ホロス2050未来会議「ホロス2050のまとめ/BEGINNING(最終回)」
われわれは<始まっていく>そのとば口にいるのだ

  • 日時:2018年6月14日(木)19:30~
  • 会場:御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3F
  • ゲスト:
    松島倫明氏
    『WIRED日本版』編集長。1996年NHK出版入社。書籍編集者として主に翻訳書の版権取得・編集・プロモーションなどを幅広く行う。手がけたタイトルに『FREE』『SHARE』『MAKERS』『シンギュラリティは近い』のほか、2015年ビジネス書大賞受賞の『ZERO to ONE』や『限界費用ゼロ社会』、Amazon.com年間ベストブック『〈インターネット〉の次に来るもの』、世界的ベストセラー『BORN TO RUN 走るために生まれた』の邦訳版や『脳を鍛えるには運動しかない!』『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』『マインドフル・ワーク』など、新しいライフスタイルとウェルビーイングの可能性を提示している。2018年6月より現職。
    杉山知之氏
    デジタルハリウッド大学学長。日本大学理工学部建築学科卒業、大学院理工学研究科修了後、日本大学理工学部助手となり、コンピューターシミュレーションによる建築音響設計を手がける。代表作にBunkamuraオーチャードホール・コクーンホール、名古屋総合体育館、京都府民ホールなど多数。その後、MITメディア・ラボ客員研究員、国際メディア研究財団準備事務所・主任研究員、日本大学短期大学専任講師を経てデジタルハリウッドを設立。著書『クール・ジャパン世界が買いたがる日本』(祥伝社)など多数。

    詳細は公式サイトを参照。チケット購入はPeatix