「ホロス2050未来会議」キャッチアップ便り

〈インターネット〉の次に来るもの――「第9章 VRとウェアラブル/INTERACTING」

VRはモバイルの次に破壊的変化をもたらすプラットフォームである

 2018年2月15日お茶の水デジタリハリウッド大学で第9回ホロス2050未来会議「第9章 VRとウェアラブル/INTERACTING(インタラクションしていく)」が開催された。

 ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』の各章のキーワードから未来を読み解く同会議も、今回で9回目となった。今回のキーワードは「INTERACTING」。ケリーは同書で「モバイルの次に破壊的変化をもたらすプラットフォームがVRで、まさに今訪れようとしている」と断言するとともに、同書のダイジェスト版『これからインターネットに起きる「不可避な12の出来事」』(インプレスR&D〔NextPublishing〕刊)では、VRの時代が「まさに今訪れようとしている」代表例として「ポケモンGO」を挙げている。会議では、その「ポケモンGO」を大ヒットさせたNiantic Inc. アジア統括本部長兼エグゼクティブプロデューサーの川島優志氏と、「VR」という言葉が生まれる前から、今日「VR」と呼ばれている世界を探求してきた、日本を代表する世界的なCGアーティストの河口洋一郎氏、そして、1980年代、MITメディアラボ在籍中に河口氏と一緒に仕事をし、VRに対する造詣の深さでも群を抜くデジタルハリウッド大学学長の杉山知之氏がスペシャルゲストとして登壇し、「VRが破壊的変化をもたらす」とはどういうことなのか、世界的にみても「これ以上先進的な議論はない」と言えるくらい最先端の議論を交わした。

川島優志氏。Niantic, Inc. アジア統括本部長兼エグゼクティブプロデューサー。2007年、ウェブマスターとしてGoogle入社。2013年、当時Googleの社内スタートアップであったNiantic LabsにUX/Visual Designerとして参画。「ポケモンGO」開発プロジェクトの立ち上げを担当
河口洋一郎氏。CGアーティスト。1975年より自己組織化する「グロース・モデル」に始まり、8K超高精細CG映像制作、深海宇宙の進化生命体の大型モニュメント、ロボティックに反応する情感的立体造形の創出に尽力。1998年より東京大学大学院教授

Nianticの考えるARとVRの違い、インタラクションの意味

 川島優志氏は「Nianticのミッションは“Adventure on foot”(歩いて冒険)ですが、背景にはそれなりの理由がありました」と語る。Nianticの創業者ジョン・ハンケは、もともとGoogle Maps、Street View、Google Earthの担当者で、机の前に座って世界中を旅しなくても眺められる世界を作ってきた。

 「しかし、やはり現地に行かなければダメだ、そこで得られる深い体験が大事だ、という結論に達したのです。毎年570万人くらいが運動不足で死んでいますが、これは喫煙者とほぼ同じくらいの数字です。もっと人々が運動をしたり、他人と交流することにテクノロジーを使わなければならないと考え、彼はNianticを作りました。」

 「我々は、VRが現実と仮想を入れ替えるのに対して、AR(Augmented reality:拡張現実)は現実を高めるものと考えています。収益予測でいうと、2020年くらいにARは14兆円、VRは3兆円くらいと言われています。ヘッドセットを被ってVRを体験しても、それはその人だけの体験にとどまってしまう。これに対してポケモンGOが示したARの素晴らしさは、それを通して世界の人々を動かせるところです。糖尿病で歩けなかったおばあさんが、息子の勧めでポケモンGOを始めたところ1日3kmも歩けるようになり、合計1500km、日本の半分くらい歩いてしまった。そして、今は地域の様々な年代の人をつなげる活動をしている。そういう世界を目指すのがNianticのミッションであり、我々の考えるインタラクションです。」

5億年後の生命地球脱出に備え、5億年前のカンブリア紀からの生命進化を研究している

 河口洋一郎氏は「自分は種子島生まれで、小さいころからロケットの打ち上げを見ていたので、青い海と宇宙が自分のテーマでした」と、生い立ちの話から切り出した。

 「5億年したら、太陽がどんどん熱くなって地球は危なくなる。その前に、生命は地球を脱出しなければならなくなると考え、東大で5億年前のカンブリア紀からの生命進化を研究していきました。1億年単位で9割以上の生命は死滅しています。そういうときにどうやって生き延びるか? レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロがやったように、理性の論理の世界とイマジネーションを飛躍させる芸術の世界をどう結びつけるか、それが大事だと思っています」と熱弁した。

パネルディスカッション:VRがモバイルの次のプラットフォームになるとはどういうことか?

 パネルディスカッションでは、司会の高木利弘氏が「Nianticが革命的だったのは、人を運動させることにテクノロジーを使おうと発想の転換をしたところにあると思うが、何故そこに至ったのか?」と問いかけた。

 川島優志氏は「ジョン・ハンケは禅とか仏教が大好きで、落ち込んだときとか京都に行って、枯山水とかを見てパワーを感じたらしい。「これは何なんだろう?」「これはきっと目に見えないエネルギーがあるに違いない」という発想が、IngressやポケモンGOに反映されている。仏教とか禅とかのテーマのひとつでもある「身体性への回帰」というのが、このVRとかARの議論の中に結構あるのではないか。歩いたり、うろうろしていると、創造的な気分になる。足を動かす刺激で、脳内にちゃんとドーパミンとか科学物質が出て、気分がハイになったり、創造的になったりする。スティーブ・ジョブズも裸足でキャンバスを歩いていたりした。そういうことをNianticはやりたいと考えている。実は今、世の中全体の風潮としてマトリックスの世界のような理性が完全に支配している世界に向かっているようなところがある。Nianticがやろうとしているのは、そういうものに対するレジスタンスというか、もうちょっと体のことを考えてみようよ、みたいなところがある」と答えた。

 さらに「メディア芸術祭を立ち上げられた河口さんには感謝している。Ingressはメディア芸術祭の大賞をいただき、ポケモンGOは優秀賞をいただくことができた。これからも異端であり続けたいと考えている。年末くらいには次回作としてハリーポッターを出す予定だが、世界中を遊び場にしていきたい」と述べた。

 河口洋一郎氏は「メディア芸術祭の審査員として、全体の流れの中で異端を選んできた。面白いのは今の主流ではなく、そうでない1割弱のほう。その中から新しい芽が出てくる。過去5億年見たらそうなので、それが進化とういものだ」と答えた。

 杉山知之氏は「VRの再現性が高まれば高まるほど、自分の感覚というものに向き合うようになる。そこが、VRの新しい面白さだと思う」と発言し、最後に主催者のひとり、服部桂氏は「インターネット自体が巨大な無意識であり、70億人が繋がった超生命体みたいなものである。私が「いい言葉だなぁ」と思ったのは、VRの最初の発明者、VPL社のジャロン・ラニアーに、私が「何がリアルなのか?」と問いかけたとき、ラニアーが答えた「スイッチを切った時」という言葉である。皆さんも、スマホのスイッチを切り、今日の話も全部忘れて、改めて「人間とは何か?」を考えみていただきたい」と結んだ。

次回の「ホロス2050未来会議」開催予定

第10回 ホロス2050未来会議「第10章 監視社会とプライバシー/TRACKING」
進化論的に言えば、「共監視」はわれわれにとっての自然状態なのだ

  • 日時:2018年3月8日(木)19:00~
  • 会場:御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3F
  • ゲスト:
    伊東寛氏
    元陸上自衛隊システム防護隊初代隊長、工学博士。1980年陸上自衛隊入隊。以後、技術、情報及びシステム関係の部隊指揮官・幕僚等を歴任。陸自初のサイバー戦部隊であるシステム防護隊の初代隊長。2007年に退官し株式会社シマンテック総合研究所主席アナリスト。2010年6月より株式会社ラック特別研究員。2014年4月より株式会社ラック常務理事ナショナルセキュリティ研究所所長。2016年5月より経済産業省大臣官房サイバーセキュリティ・情報化審議官。著書に『第5の戦場 サイバー戦の脅威』『サイバー・インテリジェンス』『サイバー戦争論』など。
    山本一郎氏
    個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。『ネットビジネスの終わり』(Voice select)、『情報革命バブルの崩壊 』(文春新書)など著書多数。介護を手掛けながら、夫婦で子供三人と猫二匹、金魚二匹を育てる。やまもといちろうオフィシャルブログ

詳細は公式サイトを参照。チケット購入はPeatix