「ホロス2050未来会議」キャッチアップ便り

〈インターネット〉の次に来るもの――「第8章 さようならシリコンバレー新ビジネス/REMIXING」

成長はリミックスから生まれる

 2018年1月11日お茶の水デジタリハリウッド大学で第8回ホロス2050未来会議「第8章 さようならシリコンバレー新ビジネス/REMIXING(成長はリミックスから生まれる)」が開催された

 ケヴィン・ケリーの著作『〈インターネット〉の次に来るもの』の各章のキーワードから未来を読み解く同会議も、2018年初開催の今回で8回目となった。今回のキーワードは「REMIXING」。ケリーは同書で経済学者ポール・ローマーの「本当の持続的な経済成長は新しい資源から生まれるのではなく、既に存在する資源を再編集することでその価値が上がり、それで達成される」との言葉を牽き、現在が生産的なリミックスの時代であると述べている。金融や自動車、そしてシリコンバレーまで、従来の産業は成長の暗礁に乗り上げ、すべては要素に分解され、再合成(REMIXING)される。それが、新しい価値の創出につながっていく。

藤元健太郎氏。D4DR株式会社代表取締役。日本初のeビジネス共同実験サイト「サイバービジネスパーク」を立ち上げ、インターネット・ビジネス・コンサルタントとして数多くの実績を重ねている
山崎亮氏。studio-L代表・コミュニティデザイナー。「人と人とがつながる仕組みをデザインする」をコンセプトに、日本各地で空間デザイン、地域コミュニティデザインを手がけている

REMIXINGによるバリューチェーンシフト

 藤元健太郎氏は、「REMIXINGはバリューチェーンの再設計としてとらえなくてはならない」と指摘。例えば音楽は中世にはサービスとして存在したが、その後レコード、CDと工業製品化し、さらにAKBなどの登場で価値・質的変化を起こした。コンテンツの価値は減少し、バリューはクリエイターやコンテキストに移動している。

 多くのパッケージングされた工業製品が細分化と再合成の波にさらされているバリューチェーンシフトの例として、コーヒーメーカーからハンドドリップに体験価値が移行し、従来の2万円台の家電から10万円の焙煎機と、月2回年間4万5千円の特別なコーヒー豆の配布という新しいビジネス形態を挙げた。こうした新産業は、付加価値を創出するフレームワークによってビジネスチャンスを創造する。また、農業のRIMIXINGの例としてコミュニティで農作物をリレー栽培する協働体験プラットフォームを挙げ、REMIXINGに関して「食」は1次~3次まで全部つながるため可能性が広がり面白いと語った。

「コミュニティの力で作る」をサポートする

 山崎亮氏は、「クライアントに文句を言われるデザイナー」という職種からの脱却を図り、すべてを設計するデザイナーから市民などのコミュニティが自分たちで作り上げていくサポートをするコミュニティデザイナーに転身。通常の建築物はもちろん、地域の参加者と話し合い公園や寺社などをで自力で作っていくコーディネートをする立場に移行した。

 2007年に始まった大阪、泉佐野丘陵緑地の公園建設では、通常は2年で作れるものを10年かけてコミュニティ参加で作る方法をとった。初期投資のパーセンテージを下げ、維持費に代わる形で毎年の建設費は上昇するが、コミュニティ参加により全体のコストは大幅に圧縮される構造にした。山崎氏が設計するのは2割で、後はワークショップで決めるためパークレンジャー養成講座を年30人限定で募集。65~75歳の男性を中心にすでに250人が講座を経験、彼らは現在も公園づくりに熱く関わっている。

 山崎氏は「行政に要望・陳情するというかつてのモデルは人口増の中でしか有効ではなく、税収が減少する現在は自治体運営と住民参加で達成するしかないが、面白みがないとモチベーションが上がらない。主体的な住民参加のためにはわくわく感を創り出す必要がある」と述べた。

パネルディスカッション:REMIXINGが生み出すもの

 高木利弘氏の司会で行われたパネルディスカッションでは、主催者の1人、服部桂氏が「工業化社会はコミュニティをプロに還元することでコミュニケーションコストを最低限に抑えて進んできたが、今はアマチュアがインターネットを利用してコミュニティでREMIXできる時代。19世紀のアールヌーボーに似ている」と指摘し、藤元、山崎両氏に「シリコンバレーも肥大化しREMIXINGの流れに取り残されようとしている。何をREMIXすれば儲かるか教えてほしい」と問いかけた。

 藤元氏は「REMIXの本質は儲かるという構造の破壊。マネタイズからバリュタイズに移行しなくてはならない」と答え、山崎氏は「お金を儲けるより、友達や経験を設けるほうが大切。コミュニケーションによってコミュニティ内に価値を生みだし、感謝の言葉やもてなしを受けられる方が面白い」と語った。

 また、山崎氏は「インターネットによって地域が別のローカルにつながることで、隣町では発見できなかった地域課題の解決策のヒントが地球の裏側にある別のローカルで見つけられるというインターローカルな結びつきが面白い」と語り、インターネットがREMIXINGのキーとなると説明した。

次回の「ホロス2050未来会議」開催予定

第9回 ホロス2050未来会議「第9章 VRとウェアラブル/INTERACTING」
モバイルの次に破壊的変化をもたらすプラットフォームがVRで、まさに今訪れようとしている

  • 日時:2018年2月15日(木)19:00~
  • 会場:御茶ノ水デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス3F
  • ゲスト:
    川島優志氏
    Niantic, Inc. アジア統括本部長 兼 エグゼクティブプロデューサー。2007年Googleに入社。2013年、当時Googleの社内スタートアップであったNiantic LabsにUX/Visual Designerとして参画、Ingressのビジュアル及びUXデザインを担当。2015年10月のNiantic, Inc.設立と同時にアジア統括本部長に就任、現在はエグゼクティブプロデューサーも兼任。『ポケモン GO』では開発プロジェクトの立ち上げを担当。
    河口洋一郎氏
    種子島生まれ。1998年より東京大学大学院教授。1975年より自己組織化する「グロース・モデル」に始まり、8K超高精細CG映像制作などに尽力。文化庁メディア芸術祭/ファウンダー、初代総合審査委員長。2010年ACM SIGGRAPH国際大会ディスティングイッシュト・アーティスト・アワードを受章。2013年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。同年紫綬褒章受章。
    杉山知之氏
    デジタルハリウッド大学学長。日本大学理工学部建築学科卒業。コンピューターシミュレーションによる建築音響設計を手がける。代表作にBunkamuraオーチャードホール・コクーンホール、名古屋総合体育館など多数。その後、MITメディア・ラボ客員研究員、国際メディア研究財団準備事務所・主任研究員などを経てデジタルハリウッドを設立。著書『クール・ジャパン世界が買いたがる日本』(祥伝社)など多数。

詳細は公式サイトを参照。チケット購入はhttps://holos2050-1709.peatix.com/view