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インボイス制度で変わる確定申告 「2割特例」「簡易課税」「一般課税」…どうすればいい?

無料で始められる青色申告ソフトで“初めての消費税申告” 手順を詳しく解説

インボイス制度で変わる確定申告 「2割特例」「簡易課税」「一般課税」…どうすればいい? 無料で始められる青色申告ソフトで“初めての消費税申告” 手順を詳しく解説
クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」を使って、このような消費税の申告書を作成してみたが、思っていたより簡単かも!? その手順を本記事で詳しく解説していくので、“初めての消費税申告”をするという個人事業主の方のトリセツとして、ぜひ参考に。同ソフトは初年度無料キャンペーンを実施中のため、本記事を参照しながら実際に令和5年(2023年)分の申告書を作成するまでの作業を無料で試してみることができるはずだ

 令和5年(2023年)分の確定申告が始まった。所得税の申告期限は2024年3月15日(金)まで。消費税の申告期限は2024年4月1日(月)までだ。まだまだ時間はあるが、インボイス制度で“初めての消費税申告”に不安を感じている人は、少しゆとりを持って臨んでいただきたい。

 この記事では、インボイス制度の「2割特例」や消費税の「簡易課税」といった最低限の知識について確認するとともに、クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」を使って申告書を作成するまでの手順を詳しく解説する。昨年10月1日から始まったインボイス制度で適格事業者=消費税課税事業者となり、今回の確定申告で初めて消費税の申告をする個人事業主を対象としているが、そろそろインボイス制度の登録をしようかと思われている人も来年には同じ状況となるので心構えとして一読いただきたい。

消費税の「免税事業者」「簡易課税」とは

 インボイス制度についておさらいをしておこう。「十分理解している」という人はこの項は読み飛ばしていただきたい。

 まずは「消費税」。日本で消費税が導入されたのは1989年(平成元年)4月1日。パソコンが普及する前で、支払った経費・仕入れから消費税分の3%を算出する作業は小規模事業者には負担が重く、激変緩和措置として「免税事業者」「簡易課税」が用意された。

 「免税事業者」は言葉のとおり消費税の納税が免除される事業者だ。消費税導入当初は売上3000万円以下なら消費税を納めなくてよかった。2004年(平成16年)4月に1000万円以下に引き下げられ、現在に至っている。売上の基準期間は前々期、具体的には個人事業主なら令和3年の売上が1000万円以下なら2年後の令和5年は消費税の免税事業者、令和4年の売上が1000万円を超えると令和6年は課税事業者となる。

免税事業者・課税事業者となる売上の基準期間

 「簡易課税」は一言で言うと“どんぶり勘定”で消費税の納税額を算定する方式だ。1つ1つの消費税を集計する方式は「一般課税(原則課税、本則課税とも)」と呼ばれ、個々の仕入れ、1枚1枚の領収書から消費税分を記帳・集計しなければならない。これに対し、仕入れや経費の消費税は無視して、売上の消費税分だけ集計して、それに事業内容によって“みなし仕入率”を設定して簡易に消費税の納税額を算定する方式が「簡易課税」となる。

 簡易課税を利用できるのは、前々年の基準期間の売上が5000万円以下の事業者。みなし仕入率=各業種の平均的、代表的、多分これくらい的な仕入率で以下のように分類されている(国税庁のタックスアンサー「簡易課税制度の事業区分」より引用)。

事業区分みなし仕入率該当する事業
第1種事業
(卸売業)
90%卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。
第2種事業
(小売業)
80%小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第1種事業以外のもの)、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業)をいいます。
第3種事業
(製造業)
70%農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業および水道業をいい、第1種事業、第2種事業に該当するものおよび加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。
第4種事業
(飲食業)
60%第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。
なお、第3種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第4種事業となります。
第5種事業
(サービス業)
50%運輸通信業、金融・保険業 、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第1種事業から第3種事業までの事業に該当する事業を除きます。
第6種事業
(不動産業)
40%不動産業

 フリーランス・クリエーターなどはサービス業=第5種事業となる。仮に税別の売上が800万円。受け取った消費税が80万円なら、消費税額は以下の計算となる。

売上にかかる消費税額-(売上にかかる消費税額×みなし仕入率 50%)=消費税額
80万円-(80万円×50%)=40万円

 このように「簡易課税」は大幅に事務作業負担を軽減できる。一般課税に対し納税額が増えるか減るかは、実際の仕入率とみなし仕入率を比べて、実際の仕入率が低ければ納税額は減り、高ければ増えることとなる。

 筆者の場合、INTERNET Watchでは主に税金に関する記事を執筆している。この仕事は仕入れはもちろん、経費もそれほどかからないので、実際の仕入率は低く(=支払った消費税は少ない)、簡易課税が有利となる。Car Watchでは主にレースフォトグラファーの仕事をしていて、カメラ機材(ボディ3台、数十万円の望遠レンズなど)はもちろん、クルマを持っていないと仕事にならないので経費負担は大きい。専業のフォトグラファーになると実際の仕入率が高く(=支払った消費税が多い)、簡易課税より一般課税が有利となる人もいるだろう。

 簡易課税は届出が必要だ。本来は適用を受ける課税期間の開始の日の前日までに税務署に「消費税簡易課税制度選択届出」を提出する。例えば令和4年の売上が1000万円以下、令和5年の売上が1200万円の場合、令和6年は消費税の免税事業者、令和7年から消費税の課税事業者となる。簡易課税を選択する場合は、令和6年中に届出をすれば令和7年は簡易課税となる。

簡易課税を選択する際の届出のタイミング

 インボイス制度の登録をして適格事業者=課税事業者になった人は、簡易課税の届出書を提出しないと一般課税となる。後述する2割特例の適用を受けた人は「適用を受ける課税期間の開始の日の前日までに」の制限がなくなり、「提出した日の属する課税期間から簡易課税制度を適用することができる」。具体的には2022年(令和4年)の売上が1000万円を超え、今年2024年(令和6年)分は2割特例が受けられない人は、2024年末までに届出を出せば2024年分から簡易課税の適用が受けられる。

インボイス制度で「免税事業者」はどう変わる?

 インボイス制度の導入で、34年続いてきた「免税事業者」という仕組みが大きく変化することとなった。消費税の納付の仕組みは、受け取った消費税から支払った消費税を引いた差額を納付するのが基本。図の中央の販売店を例にすると、右側の消費者から900円の消費税を受け取り、左側のメーカーに700円の消費税を支払い、差額の200円が納付額となる。

仕入税額控除による消費税納付の流れ

 実際の事業はもっと複雑で、企業は交通費、水道光熱費、通信費……と、経費支出でも消費税を支払っている。よって会社全体で受け取った消費税から、仕入れ・経費など全ての支払った消費税を差し引いたものが納税額となる。このように支払った消費税分を差し引く仕組みを「仕入税額控除」という。

 従来、支払先が消費税の課税事業者でも免税事業者でも気にする必要はなかった。出版社を例にすると、ライター、フォトグラファー、デザイナー、イラストレーターなどの、フリーランス・クリエーター系の個人事業主の多くは免税事業者で、受け取った消費税の納税が免除されていた。

売り手が免税事業者の場合の消費税納付の流れ

 もちろん、免税事業者もPCなどの購入、交通費、通信費などさまざまな経費で消費税を支払っているので、仕入税額控除の手続きはしないが、受け取った消費税が丸々手元に残るわけではない。

 インボイス制度の導入で、出版社は支払先のフリーランス・クリエーターが免税事業者であると、仕入税額控除ができなくなる(経過措置あり)。免税事業者の納税不要の消費税分を、出版社が肩代わりして納付する仕組みとなり、消費税の負担が重くなる。

インボイス制度により、免税事業者との取引で仕入税額控除ができなくなる場合の消費税納付の流れ

 出版社側からすれば、同じ仕事を発注するなら免税事業者より課税事業者(正しくはインボイス制度に登録した適格事業者)に発注することで税負担を減らす=コストダウンが可能となる。免税事業者側は、適格事業者にならないと仕事を失うリスクが高まったということだ。

 免税事業者だった事業者はインボイス制度に登録し、適格事業者=消費税の課税事業者になることで、仕事を失うリスクを回避できる。一方で消費税の納税義務が発生し、納付した消費税分だけ手取りが減ることとなる。基準期間(=前々期)の売上が1000万円以下であれば免税事業者という仕組みは、形的には継続されるが実質的には崩れ始めたと言えよう。付け加えると、もともと課税事業者であっても、インボイス制度に登録せず適格事業者でないと、課税事業者であっても発注側は仕入税額控除ができない。

 参考程度に世の中の免税事業者はどうしているかを見てみよう。インボイス制度導入後の昨年10月~11月に行われたフリーランス協会の実態調査で「あなたの現在の状況に当てはまるものをお答えください」の質問に

 「インボイス登録申請した」が41.5%
 「登録するつもりはない(免税事業者を継続する)」が34.9%

となっている。予想どおり?一定数の人はインボイス制度の登録はせず、しばらくは免税事業者を継続しそうだ。

フリーランスにおけるインボイス登録状況について、フリーランス協会が調査した結果のグラフ
左は2021年秋、右が2023年秋の回答(フリーランス協会「【調査集計速報】インボイス制度によるフリーランスへの影響」より)

インボイス制度の代表的な特例・経過措置を確認しよう

 インボイス制度の導入に際し、いくつかの特例・経過措置がある。3つ代表的なものを紹介しよう。

少額特例:一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置

 税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも一定の事項を記載した帳簿の保存のみで仕入税額控除ができる。取引先が免税事業者であっても1万円未満の仕入れ・経費は仕入税額控除が可能だ。

  • 対象期間:2023年(令和5年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日
  • 適用対象:基準期間(前々期)の課税売上高が1億円以下の事業者
  • 国税庁の詳細情報はこちら

免税事業者等からの仕入れに係る経過措置

 インボイス制度の開始から6年間は、免税事業者からの仕入れであっても部分的に仕入税額控除が受けられる。

  • 対象期間:
    - 2023年(令和5年)10月1日~2026年(令和8年)9月30日:仕入税額相当額の80%控除
    - 2026年(令和8年)10月1日~2029年(令和11年)9月30日:仕入税額相当額の50%控除
  • 適用対象:全ての事業者
  • 国税庁の詳細情報はこちら

2割特例:小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置

 免税事業者が、2023年(令和5年)10月1日から2026年(令和8年)9月30日の日の属する課税期間に適格請求書発行事業者となった場合、納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割とすることができる。

  • 対象期間:2023年(令和5年)10月1日から2026年(令和8年)9月30日までの日の属する各課税期間
  • 適用対象:インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった人
  • 国税庁の詳細情報はこちら

 いずれも納税者にメリットのある特例・経過措置なので認識しておきたい。これらの特例・経過措置を時間軸で並べると以下となる。インボイス制度の導入から3年目・6年目が節目となり、徐々にメリットが失われていく。免税事業者のままの人は、節目が近付いたらインボイス制度への登録を再検討したい。

インボイス制度開始に伴う少額特例、免税事業者等からの仕入れに係る経過措置、2割特例の適用期間

 この中で目の前の確定申告に影響の大きい「2割特例」だけ補足しよう。適用対象はインボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった人。よって、もともと売上が1000万円以上で課税事業者だった人は対象外。付け加えると、現在は免税事業者でこれからインボイス制度の登録をして、課税事業者になる人も対象となる。ただし期間の延長はない。

 対象期間が終了するのが「2026年(令和8年)9月30日の属する課税期間」ということは、個人事業主は令和8年12月末まで2割特例を利用できる。2023年(令和5年)分の確定申告(=今回)から2026年(令和8年)年分まで4期の確定申告となる。

 注意点は、基準期間の売上が1000万円を超えると2割特例の対象外となることだ。例えば2022年(令和4年)の売上だけ1000万円を超えた人は、2023年(令和5年)は2割特例が利用できるが、2024年(令和6年)は利用できないため、簡易課税か一般課税で申告することになる。2023年(令和5年)の売上が1000万円以下になると2025年(令和7年)は2割特例が利用できる。

インボイス制度の2割特例の適用期間についての注意点

 2割特例は事前の届出は不要。消費税の申告書に追加された「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」の欄に○印を付けるだけだ。

消費税の申告書に追加された「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」の欄

適格事業者となった個人事業主の「確定申告の3つの選択肢」とは

 インボイス制度の導入により、多くの免税事業者は選択を迫られた。最初の選択肢は「免税事業者のまま」か「適格事業者=課税事業者」。次の選択肢は確定申告。「免税事業者のまま」を選択した人の申告は従来どおりだが、「適格事業者」を選択した人は確定申告(消費税申告)の選択肢が3つある。基本となるのは「簡易課税」と「一般課税」。これに加え2026年までは期間限定の「2割特例」が選択できる。

 選択肢としては3つだが、実務的には簡易課税か一般課税を選択し、売上・仕入れ・経費などを記帳し、最後に2割特例を適用するか否かを選ぶこととなる。簡易課税の人も一般課税の人も2割特例が選べるということだ。おそらく仕入れなどのないフリーランスの人は支払った消費税額が少ないので、多くの人が2割特例が最も納税額を減らすことになると思われるが、それぞれの事情があると思うので、自分に最適と思われる方法を選択しよう。

 免税事業者が確定申告にいたる選択を図にしてみた。ちなみに筆者は[免税事業者]→[適格事業者]→[簡易課税]→[2割特例]を選択した。おそらく適格事業者になった多くの個人事業主の王道の選択だと思う。

免税事業者およびインボイス制度開始に伴い課税事業者に転換した事業者が利用できる消費税の課税制度・特例の選択フロー

無料で始められる「青色申告ソフト」を使ってみよう

 では実際に申告ソフトを使用して、確定申告および消費税申告を行ってみよう。まずは簡易課税&2割特例だが、その前に、免税事業者のまま[従来どおり]の人(消費税は申告しない人)向けの記事を別に掲載しているのでお知らせしておきたい。

 免税事業者向けの申告手順を前編・後編2本の記事にまとめている。これらの記事は昨年掲載した記事に加筆修正をしたもので、確定申告の流れに沿って事前準備、初期設定、クラウドからの取引履歴の取り込み、固定資産、按分、決算書、確定申告書、e-Taxの送信までをトリセツ的に紹介している。

確定申告の9つのステップ

 一方、これから紹介する課税事業者向けの手順は、初期設定や消費税申告の部分は異なるが、9割以上の作業は従来と同じなので、異なる部分を差分値として説明していく。確定申告そのものが初めてという人は、免税事業者向けの記事もあわせてお読みいただくと理解が深まるだろう。

 今回、確定申告・消費税申告で使用する青色申告ソフトは、免税事業者向けの申告手順の記事と同じ、弥生株式会社が提供する「やよいの青色申告 オンライン」だ。MM総研の「クラウド会計ソフトの利用状況調査」で事業者別シェアトップ。初年度無料キャンペーンを実施中で、「セルフプラン」「ベーシックプラン」は全ての機能が使えて1年間無料のため、クラウドからのデータ取り込み、申告書作成、e-Taxでの送信まで無料で試すことができ、そのまま令和5年分の確定申告を完了させることが可能だ。1年後に継続使用する場合もセルフプランなら年額8800円(税別)と、主要クラウド会計ソフトの中で最安値だ。

「やよいの青色申告 オンライン」のウェブサイトで[申し込む]をクリックするとプラン選択に進むことができる。1年後、そのままデータを引き継いで継続使用が可能なため、名前・メールアドレス・支払い方法などの登録が必要となる(無料期間が終わる少し前にメールが届き、有料で契約を継続するか停止するかが選択できる)
プラン選択ページ。ちなみに「セルフプラン」と「ベーシックプラン」の違いは“サポート”だ。ベーシックプランでは、電話、メール、チャットなので、操作に関する質問ができる(念のために付け加えると、“操作”の質問はできるが、「これは経費になりますか」など税務の質問は対象外だ)

申告ソフトで実際に確定申告・消費税申告を行ってみた【簡易課税編】

初期設定

 簡易課税の初期設定から紹介しよう。ホーム画面の[設定]を開くと、①消費税、②口座、③固定資産、④残高の設定が選択できる。①消費税の[全体の設定]をクリックしよう。

やよいの青色申告 オンラインの初期設定画面
ホーム画面の[設定]を開く
やよいの青色申告 オンラインの初期設定画面
①消費税の[全体の設定]をクリック

 3番目の「消費税の設定」を開くと、初期設定は「消費税の申告義務」が「なし(免税事業者)」となっている。これを「あり(課税事業者)」に変更し、課税方式で「簡易」を選択すると下段の選択画面が表示される。上から順番に見ていこう。

  • 設定する年度:2023(令和5)
  • 消費税の申告義務:あり(課税事業者)
  • 2023(令和5)年度の途中から課税事業者になりましたか?:はい
  • 課税開始日:2023/10/01(←ご自身が適格事業者になった日付)
  • 課税方式:簡易
  • 簡易課税事業区分:第五種 サービス業など(←ご自身の事業区分を選択)
  • 経理方式:税込
  • 消費税端数処理:切り捨て
やよいの青色申告 オンラインの消費税の設定画面

 最下段の[登録(一度ログアウトします)]をクリックし、再度ログインをすると簡易課税の初期設定が完了する。

やよいの青色申告 オンラインのログアウト画面

 免税事業者だった人が簡易課税に切り替えて、違いのある操作はこの初期設定程度だ。正直「えっ、これだけ?」という印象だ。筆者は昨年「インボイス制度で10月=期の途中から課税事業者になると、どうやって会計処理をするんだろう」と思っていたが、当たり前だが申告ソフト側が全て対応してくれたので、実際に操作してみると拍子抜けするくらい簡単だった。強いて言えば「2割特例は初期設定で選べないの?」と思ったが、最後まで申告作業を進めると終盤に「2割特例」を選択する画面が出てきてホッとした。

取引の記帳

 ここから先は従来どおりの作業で、免税事業者も課税事業者(簡易課税)も同じとなる。黙々と記帳作業を行っていただきたい。消費税設定以外で不明な操作がある人は別掲載のトリセツ記事を参照いただきたい。以下は各項目へのリンクとなる。

 記帳作業は同じだが、所々に“インボイス制度でここが変わった”と気付く点があるのでお知らせしよう。クラウドから取り込んだ経費の取引を見ると、10月1日以降(課税事業者になった後)は、税率の欄に10%と自動的に記帳された。

やよいの青色申告 オンラインの記帳画面に表示される税率
10月以降の通信費の支払いに税率が自動的に記帳された

 「かんたん取引入力」で経費の記帳をすると、9月30日にはなかった消費税率の欄が10月1日以降は表示される。筆者の場合は食品など軽減税率8%のものを経費にすることはないので、税率を変更することはなく作業は従来と同じとなった。

かんたん取引入力の支出の入力画面
9月30日の入力画面に消費税率の欄はない
かんたん取引入力の支出の入力画面
10月1日以降の入力画面には消費税率の選択欄が表示される

 売上の記帳も同様だ。9月末請求分の入力画面には消費税率の欄はないが、10月末分の画面には消費税率の欄が表示される。一覧で売上を見ると10月以降は税率が記帳されている。

かんたん取引入力の収入の入力画面
9月末請求分の入力画面にはない消費税率の欄が10月末分の画面には表示される
やよいの青色申告 オンラインの記帳画面に表示される税率
売上も一覧で表示すると税率が記帳された

 このように、簡易課税の申告になっても意識することなく記帳作業を行えば、「やよいの青色申告 オンライン」が自動的に10月1日以降の売上分の消費税を記帳・計算してくれる。記帳が完了したら確定申告の作業に移ろう。

確定申告

 いよいよ確定申告の作業。青色申告決算書、確定申告書、消費税申告書の作成だ。流れは従来と変わりなく、「減価償却の計算」「青色申告決算書の作成」「確定申告書の作成」「電子申告(e-Tax)」という手順だ。この中に「2割特例」の設定が登場する。

やよいの青色申告 オンラインでの確定申告作業の4つのステップ

 Step1「減価償却の計算」は従来どおり。Step2「青色申告決算書の作成」も途中までは住所などの基本情報、家事按分などを変わりなく進めていただき、「⑥消費税」だけが免税事業者と課税事業者で異なっている。

  • 申告方法を選択してください:簡易課税 or 2割特例

 画面の事例では簡易課税を選択すると、消費税および地方消費税の合計納付税額が9万3300円。2割特例を選択すると消費税および地方消費税の合計納付税額が3万7300円となった。簡易課税と2割特例は10~12月の売上の消費税分の5割(事業区分:第五種の場合)と2割なので、2割特例は圧倒的に納付額が少なくなった。

令和5年分所得税青色申告決算書の作成画面
「簡易課税」を選択すると消費税の納付税額は9万3300円
令和5年分所得税青色申告決算書の作成画面
「2割特例」を選択すると消費税の納付税額は3万7300円

 消費税申告の作業はこの画面だけ。2割特例を選んで先に進もう。ここも拍子抜けするほど簡単に作業は完了した。Step2「青色申告決算書の作成」が完了したら、Step3「確定申告書の作成」で社会保険料控除・生命保険料控除などを従来どおりに記入すると申告書が完成する。

 控えとして印刷した2割特例の消費税申告書を見ると、右側44番の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」の欄に○印が付いている。左側の最下段、60番の3万7300円が納付額だ。

インボイス制度の2割特例を利用した場合の消費税申告書の作成例
完成した「2割特例」での消費税申告書

 簡易課税を選択した場合の消費税申告書も掲載しておこう。

簡易課税制度を利用した場合の消費税申告書の作成例
こちらは「簡易課税」での消費税申告書

 今回は10月~12月の3カ月分の納税額となるが、2024年(令和6年)が同じような売上であれば4倍、2割特例であれば15万円ほど納税することになる。これはあくまで事例だが、月1万円以上、iPhoneが買える、PCが買える……と考えると、やはりインボイス制度により課税事業者になると税負担は痛い。2割特例が終わった後は簡易課税でもかなり痛い。

 確定申告の手順も別掲載のトリセツ記事を参照いただきたい。

申告ソフトで実際に確定申告・消費税申告を行ってみた【一般課税編】

初期設定

 一般課税も初期設定から紹介しよう。ホーム画面の[設定]を開くと、①消費税、②口座、③固定資産、④残高の設定が選択できる。①消費税の[全体の設定]をクリックしよう。

やよいの青色申告 オンラインの設定画面
ホーム画面の[設定]を開く
やよいの青色申告 オンラインの設定画面
①消費税の[全体の設定]をクリック

 3番目の「消費税の設定」を開くと、初期設定は「消費税の申告義務」が「なし(免税事業者)」となっている。これを「あり(課税事業者)」に変更し、課税方式で「一般(本則・原則)」を選ぶと下段の選択画面が表示される。上から順番に見ていこう。

  • 設定する年度:2023(令和5)
  • 消費税の申告義務:あり(課税事業者)
  • 2023(令和5)年度の途中から課税事業者になりましたか?:はい
  • 課税開始日:2023/10/01(←ご自身が適格事業者になった日付)
  • 課税方式:一般(本則・原則)
  • 仕入税額控除方式:比例配分
  • 以下のいずれかに当てはまりますか?:はい
  • 経理方式:税込
  • 消費税端数処理:切り捨て
やよいの青色申告 オンラインの消費税の設定画面

 設問の意味が分からないときは[?]をクリックすると説明がプルダウン表示される。ほとんどの人はデフォルトのままでよいはずだ。

やよいの青色申告 オンラインの消費税の設定画面

 設定が終わったら最下段の[登録(一度ログアウトします)]をクリックし、再度ログインをすると一般課税の設定が完了する。

 一般課税は仕入れ先・取引先が免税事業者か適格事業者かで受け取った消費税の仕入税額控除が異なるので、取引先の設定も必要だ。左側の下段にある[設定メニュー]を開き[取引先の設定]をクリックしよう。[追加]をクリックして取引先名を記入していく。右端の「請求書区分」を見ると未設定になっている。

やよいの青色申告 オンラインの取引先の設定画面
[取引先の設定][追加]をクリックして取引先名を記入
やよいの青色申告 オンラインの取引先の設定画面
「請求書区分」は未設定

 プルダウンの選択肢は「対象外」「適格」「区分記載」。上段に説明が記載されている。

  • 適格:取引先が適格請求書(インボイス)発行事業者
  • 区分記載:取引先が適格請求書(インボイス)発行事業者ではない
  • 対象外:売上のみの取引先

 売り買いがあり適格事業者の取引先は「適格」。仕入れがなく売上のみの取引先は「対象外」。免税事業者に仕事などを発注している場合は「区分記載」を選択しよう。

やよいの青色申告 オンラインの取引先の設定画面
プルダウンの選択肢は「対象外」「適格」「区分記載」
やよいの青色申告 オンラインの取引先の設定画面
取引状態に合わせて選択しよう

 実際に記帳画面を見てみよう。適格事業者の場合は9月にはなかった「請求書区分」「仕入税額控除」の欄が10月から加わり、それぞれ「適格」「100%」となっている。

かんたん取引入力の支出の入力画面
9月の取引画面
かんたん取引入力の支出の入力画面
10月になると「請求書区分」「仕入税額控除」の欄が表示された

 取引先が免税事業者の場合は、9月末までの取引にはない「請求書区分」「仕入税額控除」「消費税率」の欄が10月以降は表示される。2029年9月末までは取引金額が税込1万円未満の仕入れ、経費は「少額特例」で全額(=100%)仕入税額控除ができるが、1万円以上の取引は2023年10月1日から3年間は80%控除、その先3年間は50%控除、その後の2029年10月以降は控除不可となる。

かんたん取引入力の支出の入力画面
9月の取引画面
かんたん取引入力の支出の入力画面
10月以降は1万円以上の取引の仕入税額控除は80%と自動判別されている

 日付を10月にして、取引金額を1万2000円にすると、自動的に仕入税額控除の欄は「80%経過措置」となった。同じ日付で金額を9000円にすると少額特例の対象となり、自動的に「100%」(全額仕入税額控除)となった。

かんたん取引入力の支出の入力画面
金額を9000円にすると仕入税額控除は「100%」となる。プルダウンを見ると、2029年10月以降の「控除不可」にも対応している

 仕入税額控除のプルダウンを見ると、「100%」「80%経過措置」「50%経過措置」「控除不可」となっていて、すでに6年後まで「免税事業者等からの仕入れに係る経過措置」に対応していることが分かる。

 免税事業者との取引で、日付と金額から仕入税額控除を自動判別する機能は、クラウドから取引履歴を取り込む際も有効だ。例えば、少額特例の対象となる売上1億円以下の出版社が、クリエーターのAさんは適格事業者、Bさんは免税事業者(区分記載)と設定をしておけば、日付と金額に応じて仕入税額控除を自動的に記帳してくれる。

 一般課税は経費・仕入れの消費税額によって納税額が変わってくる。そのため記帳の際も注意が必要だ。通常の取引は消費税が発生するが、例えばネットオークションで個人からガジェットなどを購入した場合は、消費税を支払っていないので仕入税額控除はできない。こうした非課税・不課税の支払いに注意しよう。

 それ以外の記帳は免税事業者、簡易課税と作業的には差はない。記帳された取引を見ると、項目に「請求書区分」「仕入税額控除」が追加されている。10月以降の取引に税率が記入されているのは簡易課税と同じだ。

かんたん取引入力の支出の記帳画面

 記帳作業を終えたら確定申告の手順に移ろう。

確定申告

 いよいよ最後、確定申告の作業だ。青色申告決算書、確定申告書、消費税申告書を作成しよう。流れはこれまでと変わりなく、「減価償却の計算」「青色申告決算書の作成」「確定申告書の作成」「電子申告(e-Tax)」という手順だ。

 Step2「青色申告決算書の作成」の途中までは変わりなく進めていただき、「⑥消費税」で一般課税に関する入力をしよう。申告方式の選択が、簡易課税の場合にはは「簡易課税」と「2割特例」だったところが、「一般課税」と「2割特例」になっている。

  • 申告方法を選択してください:一般課税 or 2割特例

 画面の事例では一般課税を選択すると、消費税および地方消費税の合計納付税額が11万7800円。2割特例を選択すると消費税および地方消費税の合計納付税額が3万3900円となった。念のために付け加えると、前述の簡易課税の事例とは売上・経費が異なっている。NURO光のように同じデータの部分もあるが、売上などが異なっているので2割特例の納税額は異なっている。

一般課税を選択すると消費税の納付税額は11万7800円
2割特例を選択すると消費税の納付税額は3万3900円

 一般課税の消費税申告書も控えとして印刷したので掲載しておこう。

一般課税の場合の消費税申告書の作成例

 以上で「簡易課税」「一般課税」「2割特例」による消費税申告手順は完了だ。一般課税では、領収書のTで始まる登録番号の確認が必要で、非課税・不課税にも注意が必要だが、操作した印象は繰り返しとなるが拍子抜けするほど簡単だった。インボイス制度の導入で適格事業者となり、消費税申告に不安を感じている人の参考になれば幸いだ。読者の健闘を祈る。

「やよいの青色申告 オンライン」は初年度無償キャンペーンを実施中。「セルフプラン」に加え、「ベーシックプラン」も全ての機能が使えて1年間無料となった。クラウドからのデータ取り込み、申告書作成、e-Taxでの送信まで無料で試すことができ、そのまま令和5年分の確定申告を完了させることが可能だ