トピック

300万円のPCを使っていたアニメ監督がマウスコンピューターのPCほぼ一台で地上波TVアニメを作ってみた

マウスコンピューター「DAIV」で活用する最新ツールとAIの可能性

 生産性高く仕事するには、ストレスなく動作する高性能なPCが不可欠。実際に職場に導入するPCは、業務内容に見合った性能と価格帯のものを選びたいが、日進月歩の高性能化により同じコストでもできることの幅は広がり続けている。

 では、現代の最新PCは仕事現場においてどこまでそのポテンシャルを発揮できるものなのだろうか。その良い実例となりそうなのが、3DCGアニメーションの大半の実制作をたった1人でこなしている菅原そうた監督だ。

 同氏は、ネットミームにもなった「5億年ボタン」の原作CG漫画の作者であり、それを原案にした1クール12話のTVアニメ「5億年ボタン 菅原そうたのショートショート」をほぼ1人で制作している。2024年9月30日には、その最新エピソードとなる第13話がTOKYO MXで放送されたばかりだが、この第13話の制作にフル活用したのが、マウスコンピューターのクリエイター向けフルタワーPC「DAIV FXシリーズ」だ。

マウスコンピューター「DAIV FXシリーズ

 3DCGアニメーション制作の現場におけるDAIVシリーズの良さはどこにあるのか。そして、DAIVシリーズのような高性能PCによって制作現場はどのように変化し、将来的にどう変わっていきそうなのか、話を伺った。

「5億年ボタン」とは?

「5億年ボタン」は、2002年に菅原そうた氏原作のCG漫画として発表され、2022年には漫画を原案とした3DCGアニメーション作品としてTOKYO MXにて放送・配信された作品。テレビ放送では12話全てにおいて、原作者である菅原氏が監督となり、企画、構成、デザイン、作画、コンテのほか、3DCGのモデリングやモーションなど映像に関わる大部分の制作作業を自ら1人でこなした。そして今回、2024年9月30日には、2年ぶりの新作となる第13話が発表された。現在はネット配信もされている。

アニメ「5億年ボタン」

高性能なPCとAIの活用で3DCGアニメ制作はどう変わったのか

「5億年ボタン」の原作者であり、アニメ化に当たっては監督から映像制作まで務める菅原そうた監督

 13話では、「ストーリーがAIをテーマにしていることから、制作過程にAIを取り入れられないか」という発想からスタートした。背景として、近年はOpenAIのChatGPTや、GoogleのGemini、AnthropicのClaudeといったAIチャットサービスに加え、画像生成AIや音楽生成AIが登場。一般のソフトウェアでもユーザーを補助するためのAI機能を搭載してきており、AI活用は珍しいことではなくなった。実際、AIのみでアニメ制作することは技術的にも、PC性能的にも実現可能ではあるものの、作品としての品質管理の観点からごく一部での利用に留まったそうだが、その部分はもちろん、3DCG全般の制作作業においても、DAIVのポテンシャルを存分に発揮できたという。

第13話「AIのエモくん」より

AIを活用して3DCGアニメを2次元アニメ風に

 AIを最も活用したのは、レンダリングした3DCGを2次元アニメ風に「リライト」する部分。菅原氏は「自分は絵がうまいわけではないけれど、3DCGなら得意。それを2次元アニメっぽくするトゥーンレンダリングのような手法もあって、もちろんチャレンジもしているが、AIを使えば“本当の2次元アニメ”を実現できるのではないか」と考えたのだとか。

3DCGを2次元アニメ風にする「リライト」にAIを活用した、と語る

 そこで、自身が作成したキャラや背景のレンダリング画像を1フレームずつAIに読み込ませ、立体的なイメージからやや2次元的な見栄えの映像に仕立て上げることにした。いわば2D化フィルターのような役割をAIツールのstable diffusionに担わせたわけだ。とはいえ、「AIのエモくん」の動画尺だけでも約4分。仮に全編に渡って秒間30コマだとすれば、実に7200コマもの画像1枚1枚にその処理を適用することになる。

 かなり負荷の大きな、時間のかかる処理となりそうだが、菅原氏が導入したDAIV FXシリーズは、第14世代Intel Core i9-14900KF(24コア32スレッド、最大6GHz)とNVIDIA GeForce RTX 4090、64GBのDDR5メモリという強力なハードウェアを搭載している。たとえばStreamDiffusionなどを使えば、動画再生している内容をキャプチャーし、それをテイストを変えた映像にリアルタイム変換しつつ秒間数フレームで再生できてしまうほどのパワフルさだ。

 これほどのパフォーマンスがあれば、7200コマ、あるいはそれ以上の変換も無理なく行える。もちろん、最終的には各シーンに最適なエフェクトや映像調整が手動で施され、菅原氏の意図に沿った見栄えに仕上げられた。元は立体的で輪郭のくっきりした3DCGらしい映像だったのが、完成版はフラットな2次元的イメージで柔らかさを感じるものになっており、キャラの動きにも不自然さはない。

AIでリライトする前の3DCG
AIでリライトし、各種エフェクトや映像調整を行った最終の仕上がり

 「12話続けてきて、もうこれが自分の上限かな、これ以上は無理だな、とガス欠気味に感じていた」とのことだが、AI活用によってアニメーションとしてのクオリティを引き上げることができ、「AIが新しい燃料になって、まだまだ行ける、まだ僕は生きてていいんだ、っていう希望が生まれた(笑)」とも語る。

 DAIVは作業効率の向上にも大きく貢献している。12話までは1話あたりの制作に1カ月かかっていたところ、AIによるリライト処理が加わったことで「単純にもう1カ月、計2カ月かかるようになった」が、DAIVの性能がなければ「第13話だけでこれまでの4話分、おそらく4カ月はかかっていた」とし、高性能PCの恩恵を実感している。

第13話ではDAIVが登場するシーンも

300万円のPCからの乗り換え、DAIV FXシリーズでどこまでできた?

 菅原氏がこれまで制作に使用してきたのは、当時としては最新かつハイエンドなパーツを惜しげもなく投入したPCで、費用はトータル300万円ほど。対して、今回導入したDAIVはFXシリーズのなかでもフルスペックに近い装備でありながら70万円弱という価格だ。

 コストは4分の1以下、しかし実作業における性能は以前のPCと比べても遜色ないという。当初は画像をAIでリライトする部分などで限定的に使用することを想定していたのが、3Dモデリングやレンダリング、動画編集など、結果的にはほとんど全ての制作作業をDAIVでまかなう形にしてしまったのだとか。

結果的にほぼ全作業をDAIV上でまかなうことになったと笑う菅原そうた監督

 「メモリは64GBで、同時に複数アプリを立ち上げる使い方でもこれで十分。CPUもそうですが、GPUの進化は特に著しく、かつて100万円以上したような業務用製品よりずっと高性能です。予算的にも、性能的にも、これより上だと持て余してしまうし、DAIVはクリエイター向けとしてちょうどいいバランスだと思います」と菅原氏。70万円弱は予算的に難しい場合でも、30万円程度のミドルスペックのDAIVであれば、3DCG制作で不満に感じることはまずないはず、と太鼓判を押す。

PCの進化とソフトの最適化で個人レベルでも3DCGアニメ制作の可能性が広がる

 ただ、3DCGアニメーションの制作を効率よく進められるようになった要因としては、こうしたGPUをはじめとするPCの進化だけでなく、3DCG制作に用いる各種ソフトウェアがGPUによる高速処理に対応し、それを安価に利用できる環境が整ってきたことも挙げられる。

 たとえば本格的な3DCG制作の現場で使われるソフトウェアとしては、AUTODESKのMayaや3ds Maxが有名だ。しかしいずれも年間数十万円と高額で、菅原氏のような個人スタジオにとっては導入のハードルが高い。

 そのため、菅原氏は3DCG制作用のソフトとして、キャラに動きを容易に付加できる「iClone」や、3Dゲームの開発プラットフォームとして使われることの多い「Unreal Engine」を主に使用している。いずれもGPUによる高品位なリアルタイムレンダリングに対応するが、iCloneは数万円の買い切り型で、Unreal Engineは個人レベルならほぼ無料だ。

Unreal Engineであればリアルタイムレンダリングで3DCGをプレビューできる

 それでいてCGクオリティが劣るわけではなく、商用利用可能なモーションのプリセットや3Dオブジェクトなど多くのアセットも用意されていて、省力化まで可能。DAIVが持つ性能のおかげで3DCGは試行錯誤段階でも本来のクオリティのままプレビューでき、しかもアセット活用で手間が最小限になったわけだ。

 「これまでは頑張っても映画のワンシーンとかオープニングだけで、本編全体を3DCGにするのは個人レベルでは困難でした。それがGPUの進化で可能になった。僕と同じようにGPUによるリアルタイムレンダリングを活用してアニメーション制作する人は、これからどんどん増えるのでは」と菅原氏は見ている。

PCの性能は個人の実力、積極的に頼るべき

 このようにしてDAIVの力を借りて制作した「5億年ボタン」の第13話は、すでにTOKYO MXでのテレビ放送は終わっているものの、動画配信サービスなどで1~12話と合わせて配信中。「1~12話は哲学や思想みたいなところが入っているので気を引き締めて見る必要がありますが、今回の第13話はただただ楽しんで見てもらえれば」と菅原氏。すでに第14話の制作も進めているところだ。

 それと並行して、新たなチャレンジも計画している。菅原氏によると、DAIV上でテスト的にいくつかの生成AIを試してみたところでは、以前のPCより断然高速かつ安定して動作したのだとか。「アプリの動きは常に軽快で、万能感が手に入った感じ。これを駆使して、今後AIの実験的なアニメーションも、5億年ボタンとは別に新たなチャレンジとして挑んでみたい」と、DAIVとの出会いをきっかけに今後の活動のモチベーションが高まっている。

DAIVでフルAIアニメーション制作にもチャレンジすると宣言

 菅原氏は、仕事を始めた20歳頃からデジタルの力に頼ってきた。そうした背景もあって「PCが強力であるほど自分の実力が高まることになる。どんな仕事でも、新しいPCを導入することで個人の能力を高められるのなら、それに頼った方がいい」との考えでPCと付き合ってきた。

 「近頃はスマホで全部できると思われがち。でもPCの方がスマホよりできることはまだ圧倒的に多く、クリエイティブな作業はなおのこと有利です。家庭でも、将来を考えるなら子供には数万円の安価なノートPCでもいいので、ぜひ買い与えてあげてほしい」と訴える。業務の生産性アップはもちろんのこと、子供がリテラシーを身に付ける用途においても、マウスコンピューターのDAIVは大きく貢献してくれそうだ。