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古いPCにもWi-Fi 7の6GHzとMLOを!! エレコムのUSB Wi-Fi 7アダプター「WDB-BE28TU3-B」でオフィスのWi-Fi問題を低コストで改善

古いPCでもWi-Fi 7化できるエレコムのUSB Wi-Fi 7アダプター「WDB-BE28TU3-B」

 今、法人のネットワーク環境が、複数の課題で苦境に立たされている。

 ビデオ会議などのリアルタイム通信が増える一方で、オフィス回帰による過密な通信でオフィスのネットワーク需要がひっ迫、さらにWindows 10 EOSによるPC買い替えでオフィスにWi-Fiでしか接続できないPCが増加している。

 そんな状況を、低コストで、かつ手軽な方法で改善できるかもしれないのがエレコムから販売されている法人向けWi-Fi 7 USB無線LANアダプター「WDB-BE28TU3-B」だ。果たしてオフィスPCのWi-Fi 7化に、どのようなメリットがあるのか? 電波の混雑状況を見るスペクトラムアナライザーや疑似的な混雑状況を発生させる装置を使って検証した。

対策が求められるオフィスのネットワーク課題

 「オフィスのネットワーク環境を『何とか』したい」。大企業はもちろんのこと、中小規模のオフィスでも、こうした機運が高まりつつある。

 その要因はひとつだけではない。

 社会的な環境変化によって、ビデオ会議を中心とする「リアルタイム通信」が当たり前に使われるようになり、顧客への営業、取引先との打ち合わせ、社内会議など、ビジネスシーンのあらゆるタイミングでネットワークの帯域が大量に消費されるようになった。遅延のない、高品質な通信が業務効率化に直結するのはもちろんのこと、場合によっては顧客に対して組織の品質や信頼を印象付ける要因にもなりつつある。

 このように業務のネットワーク依存度が高まる一方で、単純にネットワークの利用者も増えつつある。その最大の要因は「オフィスへの回帰」だ。ここ数年のリモートワークの経験からオフィスの重要性が再確認され始めており、オフィスに物理的に人が集まるようになったおかげで、同時により多くの機器がネットワークにつながる状況が増えてきている。

コロナ禍以降、ビジネスシーンにおいてリアルタイム通信が必須に。さらにそこにオフィス回帰とEOSにともなうPC買い換えで負荷が増える

 さらに追い打ちをかけるのが「Windows 10のEOS」だ。2025年10月にWindows 10がEOSを迎えることで、PCの買い替え需要が高まっているが、昨今のPCはWi-Fi接続が標準で、有線LANポートなしの構成が少なくない。このため、ただでさえトラフィックがひっ迫しつつあるWi-Fi環境に、さらに接続端末が増える状況となっている。オフィスのWi-Fi設備の増強を検討するか、さらにコストを追加してPCを有線LAN接続に対応させるかの選択を迫られることになる。

 現状でもギリギリ、もしくはすでに遅延や通信断などが課題になっている状況にもかかわらず、今後、リアルタイム通信の頻度も、Wi-Fi接続端末の台数も増える未来が明らかになっており、その対策が急務となっている。

Windows 10のEOSによるPC買い換えでWi-Fi接続端末が増加、さらにWi-Fi環境の負荷が増える

忘れられがちなPCのWi-Fi環境を「USB Wi-Fi 7アダプター」で改善2.4GHz、5GHzに加え、6GHzにも対応

 このような状況の中、エレコムから法人向けに販売が開始されたのが、最大2880Mbpsに対応したUSB接続のWi-Fi 7 無線LANアダプター「WDB-BE28TU3-B」だ。

 この商品の開発を担当したエレコム株式会社 商品開発部 ネットワーク課 課長代理の神田鉄也氏(以下、神田氏)は、この製品の概要を次のように語った。

エレコム株式会社 商品開発部 ネットワーク課 課長代理 神田鉄也氏

 「マーケティング部門による市場調査などから、中小規模のオフィスでもWi-Fi 7への期待が高まっていることが見えてきました。ネットワーク需要がひっ迫する現状のオフィスでは、『切れる』『届かない』といった声が現場で高まっています。本製品は、こうしたオフィス環境で、既存のPC(※)をWi-Fi 7に対応させることができるアダプターとなっています」。

※Windows 11 バージョン24H2以降、Windows 10 バージョン22H2以降に対応

USB 3.0(5Gbps)でPCに接続することで、Wi-Fi 7に対応できるアダプター

 エレコムは、法人向けとなる低価格のWi-Fi 7アクセスポイント製品として「WAB-BE187-M」「WAB-BE72-M」「WAB-BE36-M」「WAB-BE36-S」などの製品をラインアップしている。11530(6GHz)+5765(5GHz)+1376(2.4GHz)Mbpsのトライバンド対応で、10Gbps×1+2.5Gbps×1の有線にも対応する最上位モデル「WAB-BE187-M」でも標準価格が12万5950円と、競合を圧倒する低価格を実現しており、法人向けのWi-Fi 7製品で市場をけん引する存在だ。

エレコムの法人向けWi-Fi 7アクセスポイント。写真左から「WAB-BE187-M」、「WAB-BE72-M」(「WAB-BE36-M」と筐体は共通)、「WAB-BE36-S」。法人向けとしては格安のアクセスポイントとなっている

 しかしながら、Wi-Fi 7による高速かつ低遅延のネットワークは、アクセスポイントの設置だけでは対応できない。忘れられがちだが、PC側もWi-Fi 7に対応させなければ、Wi-Fi 7ならではのメリットを生かせない。

 神田氏によると、「本製品は、Wi-Fi 7(IEEE802.11be)に対応したアダプターで、2.4GHz帯、5GHz帯に加えて、6GHz帯での通信に対応しているのが特徴です。Wi-Fi 7対応アクセスポイントの設置によって、オフィスで6GHz帯が新たに利用可能になった場合に、Wi-Fi 6以前にしか対応していないPCでも、本製品を装着することで、空いている6GHzを使った通信が可能になります」という。

 Wi-Fi 7アクセスポイントの導入に加えて、さらにPCもWi-Fi 7対応モデルに買い替えなければならないとなると、台数によっては数百万円、数千万円のコストがかかってしまう。これに対して、本製品は標準価格が1万9360円と安い。PC自体を買い替えるケースと比べると、単純計算でも10分の1のコストで済むことになる。

 しかしながら、冒頭でも触れたように、オフィスのWi-Fi需要はひっ迫しつつある。こうした状況でWi-Fi 7対応でつながるPCが増えても問題ないのだろうか?

 「PCがWi-Fi 7に対応することで、従来、2.4GHz帯と5GHz帯に集中していたPCの接続を、新たに追加された6GHz帯にも分散させることができます。これにより、より多くの端末を収容できます。また、Wi-Fi 7による高速な通信によって同じ通信でも時間が短くできるため、端末が通信時に電波を占有する時間が短くて済み、結果的により多くの端末が通信権を獲得できるようになって、通信効率が高くなります(神田氏)」という。

 さらに神田氏は、Wi-Fi 7ならではのMLOのメリットについても言及した。「WDB-BE28TU3-Bは、Wi-Fi 7ならではのMLO(Multi-Link Operation)にも対応しており、6GHz+5GHzや5GHz+2.4GHzといった複数の帯域を組み合わせた通信が可能となっています。このため、干渉の発生時や、移動しながら通信する際でも、帯域を瞬時に切り替えて遅延や切断が発生することを防げます。Wi-Fiの安定性も向上することになります。」という。

MLOを利用することで、複数帯域で待機しておき、通信時に良好な帯域に瞬時に切り替えて通信できる

 現状のWi-Fi環境で特に不具合を感じていない法人でも、最近増えてきた10Gbpsの回線環境を活用するために、回線と一緒に高速なWi-Fi 7の導入を検討するケースも増えているというが、本製品は6GHzの320MHz通信には対応しておらず、最大速度は2880Mbpsとなる。どちらかというと、Wi-Fiの収容能力の向上、通信の安定性や信頼性の向上といった点にフォーカスした製品と言えそうだ。

 なお、対応するポートはUSB Type-A(5Gbps、USB3.0)となっている。今の時代であれば、USB Type-C対応でもよさそうだが、神田氏によると「本製品は、オフィスで今使っている既存のPC向けの製品となります。このため、少し前の世代のPCでも一般的なUSB Type-Aのコネクタを採用しました」ということだ。

この製品の利用状況を想定して、コネクタは従来のPCから多く採用されているUSB Type-Aとした

ついに登場!! 待望のWi-Fi 7アダプターを実現した技術力

 今回登場したWDB-BE28TU3-Bは、同一ハードウェアを採用したコンシューマ向けの「WDC-BE28TU3-B」と共に、国内市場ではこれまで長らく登場しなかった、待望とも言えるWi-Fi 7対応 USBアダプターの1つとなっている。

 本製品の開発に技術的な部分で携わったエレコム株式会社 商品開発部 ネットワーク課 コーポレートNWチーム スーパーバイザーの蟹江康誠氏(以下、蟹江氏)によると、開発には苦労もあったようだ。

エレコム株式会社 商品開発部 ネットワーク課 コーポレートNWチーム スーパーバイザー 蟹江康誠氏

 「本製品で苦労したのはドライバー関連の開発になります。Wi-Fi 7のMLOはOS側の対応(Windows 11 24H2)も必要となるため、以前とはドライバーの仕様が変更されていました。法人向けの本製品では、EAP認証などに対応する必要があり、ドライバーの仕様を確認しながら試行錯誤してドライバーを開発する必要がありました」という。

 また、アンテナについても、本製品は内蔵タイプを採用している。外付けアンテナにすると、アンテナまでの配線で信号が減衰する可能性もあり、安定性を重視するために内蔵タイプを採用しているとのことだ。見た目もスッキリして好印象だが、性能面でもメリットもあることになる。

オフィス環境で検証、「6GHz+5GHzのMLO」干渉が起きてもしっかり回避

 実際の実力も高いと言える。同社のオフィスで、実際にWi-Fi 7接続の実力を見せてもらったが、特にMLOの効果が大きいことが分かった。

 検証は、同社製のWi-Fi 7ルーター(検証環境のためコンシューマ向けの「WRC-BE94XS-B」)と、WDB-BE28TU3-Bを装着したPCの組み合わせで実施した。まずは、MLOではなく単独の6GHzでの接続でiPerf3による速度を計測した結果、実効速度で300Mbpsほどを確認できた。

iPerf3を使って通信速度を計測した
スペクトラムアナライザーで電波の混雑状況を可視化

 2.4GHzや5GHzで通信している端末が多く存在するオフィス環境でも空いている6GHz帯を利用すれば、安定した通信が可能だろう。

6GHz帯の混雑状況。現在はまだまだ空いているため干渉を受けずに通信できる

混雑すると速度が落ちる「MLOなし」

 続いて5GHz帯が混雑して、干渉が発生したときの通信状況の変化を検証する。

 そこで今度は、WDB-BE28TU3-Bを接続したPCを5GHz帯で接続。するとiPerf3による速度は6GHz帯での接続時と同様に300Mbps前後となった。

5GHz帯で通信中の電波混雑状況。6GHz帯と比べると混雑しているのが分かる

 この状態で、上記の検証環境とは別のアクセスポイントを用意。合計5台のタブレット端末を5GHz帯(同一チャネル)で接続し、一斉に通信を発生させた。同じ5GHz帯を使った通信が近隣で発生した場合を想定した「干渉」を疑似的に発生させたことになる。

5台のタブレットを5GHz帯で別のアクセスポイントに接続し、干渉波を発生
干渉によって5GHz帯の一部の帯域が使えなくなってしまった状態

 この結果、WDB-BE28TU3-Bを装着したPCの通信速度は3Mbps前後まで低下してしまった。環境によっては瞬間的に通信品質が低下したり、アプリの動作が止まったりするケースが考えられる。

「MLOあり」なら、混雑を自動で回避し、通信を維持

 続いて、同じ環境でMLOを有効にした場合の効果を検証する。

 使用するアダプタは同じWDB-BE28TU3-Bで、アクセスポイントとして利用したWRC-BE94XS-Bの詳細設定画面でMLOを有効にした。組み合わせは5GHz+2.4GHzで、WDB-BE28TU3-Bが接続されたPCも自動的に5GHz+2.4GHzのMLOで接続された。

5GHz+2.4GHzのMLOで通信させている状態に干渉波をぶつけてみる検証を実施

 「WDC-BE28TU3-Bは、MLOのうち、EMLSR(Enhanced Multi-Link Single Radio)に対応しているため、5GHzと2.4GHzの両方で待機しておき、実際の通信時はいずれかの帯域を使います。現状は5GHzで通信している状況です(蟹江氏)」ということだ。

 この状態で、先ほどと同様に300Mbps前後で通信できていることを確認後、5台のタブレットで5GHz帯の干渉を発生させた。

 すると、iPerf3で流れていく想定結果の値が、若干、下がったものの、何事もなかったかのようにiPerf3の測定結果が表示され続けた。

MLOなしでは干渉によって速度が極端に低下したり途切れたりするだけだったが、MLOありでは2.4GHz帯に切り替えて安定した通信を継続できる

 蟹江氏によると「MLOの切り替えは、一瞬で行われるため、その切り替えを意識することはほとんどありません。今回は、5GHz→2.4GHzに切り替わったため、5GHz接続時よりも速度は低下しましたが、この切り替えをビデオ会議などの一般的なアプリで意識するようなことはありません。切り替えは一瞬なので、まったく分からないと言えます」ということだ。

 端末を持ったまま移動するようなシーンでも、MLOの効果は体感できる。例えば、5GHz帯の電波が届く範囲から、範囲外に移動した場合でも、2.4GHz帯に瞬時に切り替えられるため、切り替わりを意識しなくて済むことになる。

 MLOというと、メッシュ構成などで帯域を合計する「MLMR(Multi-Link Multi-Radio)」に注目されがちで、もちろんオフィスでも複数アクセスポイントを設置したケースでMLMRのメリットが生きてくるが、PC接続においてはEMLSRによる帯域の自動切換えが、通信の安定性に大きく貢献すると言えそうだ。

法人向けの認証機能や保証が充実

 以上、エレコムが新たに販売を開始したUSB Wi-Fi 7アダプター「WDB-BE28TU3-B」について同社に話を聞き、実際のWi-Fi 7のメリットも体験した。

 法人用途でWi-Fi 7を利用するメリットは、空いている6GHz帯やMLOを活用することによる安定性向上の意味合いが大きいと言える。Wi-Fi 6までにしか対応しない既存のPCでも、低コストで、Wi-Fi 7に対応できることは、組織にとって大きなメリットと言えるだろう。

 なお、本製品は法人向けならではの機能として、WPA3 Enterpriseによる接続がサポートされる。RADIUSサーバーやアクセスポイントと組み合わせることでアクセスを許可されたユーザーのみがネットワークに接続できるEAP認証も実現可能だ。

 また、保証期間は3年(センドバック保守)で、有償でデリバリー保守(1年/3年/5年)やセンドバック保守の延長(1年/2年)にも対応できる。企業ユースでのセキュリティ対策も可能なうえ、長期間安心して利用することができるのもメリットだ。

 現状のWi-Fiの通信環境を改善したい、将来を見据えて最新のWi-Fi 7を活用したいというケースで利用を検討してみるといいだろう。