「mixi」と「ニコニコ動画」という、2つの人気サービスが先週の大きな話題になりました。規約改定を発表した直後から大騒ぎになりユーザーを混乱させたmixiに対し、ニコニコ動画が発表した新サービスは、おおむね好意的に受け止められ混乱もなく、さらにサービスが盛り上がりそうです。同じコミュニティサービス・CGMサービスである両者が、どうしてここまで正反対の意味での話題となってしまったのかが、今回の解説のテーマです。
それ以外では、IE8ベータ版の公開もありました。Windows XPをお使いの方には「先月にIE7になったばかりなのに、もう8なの!?」と驚かれる方もいるかもしれません。でも実は、IE7日本語版は2006年の11月から公開されています。ちなみに、IE7の最初のベータ版は2005年7月に登場しています。同じくらいのスケジュールだとすると、2009年の夏あたりにIE8正式版が登場するかもしれません。
◆mixiが新利用規約の条文修正を検討、ユーザーに著作権あること明記
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/06/18694.html
3月3日、mixiが4月からの規約変更を発表。「ユーザーが投稿した日記をミクシィが利用できる」「ユーザーは著作者人格権を行使しないものとする」といった内容に対してユーザーが驚き、大混乱になった。3月4日になって各メディアからの取材に対しmixiは釈明のコメントを発表し、5日、条文の修正を検討することを発表した。
◆IE8 Beta 1の英語版、米Microsoftが開発者向けに公開
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/06/18692.html
米国時間の3月5日、米Microsoftの次期ブラウザ「Internet Explorer 8(IE8)」Beta 1が開発者向けに公開されたことが発表された。CSS 2.1やHTML 5など最新のWeb標準規格のサポートを表明している。また、Webサービス連携のための「Activities」、フィッシング詐欺の防止などの新機能がある。
◆「ニコニコ動画(SP1)」公開、専用の動画生成ツールも配布
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/05/18690.html
3月5日、ニワンゴは「ニコニコ動画(SP1)」を公開。発表会では外部プレーヤーへの対応、動画編集ソフト「ニコニコムービーメーカー」、H.264対応などの発表を行なった。
◆IPAが「安全なウェブサイトの作り方」改訂、XSSなど“失敗例”の章を追加
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/06/18696.html
3月6日、情報処理推進機構(IPA)はWebサイト担当者向けのセキュリティ資料「安全なウェブサイトの作り方 改訂第3版」を公開。PDF形式のデータをサイトから無料でダウンロードできる。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)などの危険と対策について、具体的を挙げて解説している。
◆USBメモリ経由で感染する「オートラン」に注意、トレンドマイクロ
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/04/18662.html
3月4日、トレンドマイクロは2月度の「ウイルス感染被害レポート」を発表。日数が少ない2月で1,000件以上も件数が伸びており、今後の動向に注意が必要とした。また、USBメモリを介して感染する「オートラン」ウイルスの被害が多いため、仕事用と家庭用のUSBメモリを使い分ける、不特定多数と共有しない、などの予防策をとるべきとアドバイスした。
● 新たな一歩が大批判のmixiと歓迎されるニコニコ動画。対称的な両サービス
3月3日、mixiは4月からの規約改定を発表。その中に「本サービスを利用してユーザーが日記等の情報を投稿する場合には、ユーザーは弊社に対して、当該日記等の情報を日本の国内外において無償かつ非独占的に使用する権利(複製、上映、公衆送信、展示、頒布、翻訳、改変等を行なうこと)を許諾するものとします」「ユーザーは、弊社に対して著作者人格権を行使しないものとします」といった記述があったことから、「mixiはユーザーの書いた日記を勝手に書籍化しようとしている!」といった批判が起き、大騒ぎとなりました。
その後、mixi側から規約改正の意図の説明があり、記述の改正も発表されて事態はおおむね沈静化しています。が、この一件から、mixiは安心して利用できないと思うようになったユーザーも多かったのではないでしょうか。本件だけが原因ではないものの、運営する株式会社ミクシィはこの1週間で株価を大幅に下げており、投資家からの信頼にも影響があったと見ることができます。
3月5日、ニワンゴは「ニコニコ動画(SP1)」を発表。ニコニコ動画の有料会員も招待した発表会を大々的に行ない、外部のブログサービスなどでも動画が再生できる外部プレーヤーの利用や、新たに配布した「ニコニコムービーメーカー」で作品した作品のアップロードも増えているようです。
同じCGMサービスであるmixiとニコニコ動画が、新たな一歩を発表するにあたって、ここまで対称的な反応を呼び起こしてしまったのはなぜなのでしょう?
まず、成長期にあるニコニコ動画と、集まったユーザーを元にしての収益力強化を考えなけらばならないmixi、という運営フェーズの違いがあります。また、技術的に発展し続ける動画共有サービスと、技術的にはおおむね枯れているSNSという違いもあり、mixiがニコニコ動画ほどに勢いのある発表をするのは難しいでしょう。
それにしてもmixiの件は、ここまで大きなトラブルを起こす必要はなかったはずです。ミクシィが意図したような規約を盛り込んだCGMサービスは少なくありません(ニコニコ動画にも、テキストデータに関して「利用者が書き込みした時点においてその一切が運営会社に譲渡されるものとし~」といった規約があります)。今回のトラブルは2004年頃に数社のブログサービスが起こしたものとほぼ同じものですが、同じCGMサービスの運営者として、ミクシィはなぜこれらの前例に学べなかったのでしょうか。仮に前例を知らなかったとしても、プライベートの日記を書いているようなユーザーが最初の告知にあった文章を読んでどう解釈するのか、という想像力も不足していたようであるのは残念なことです。
過去と同じトラブルに対して、ユーザー側も学ぶことが可能だったはずですが、最初にブログなどで書かれた内容のほとんどは、mixiへの一方的な非難でした。これには、過去にmixiであったコミュニティの出版化におけるトラブルや、「mixi疲れ」と言われるような現象、2007年10月のリニューアル後、ユーザーからの意見や批判がほぼ黙殺されたことなど、満足度・信頼度が低下するような複数のことが伏線となっていて、今回のトラブルでも悪い方向への推測が広がってしまったと考えられます。
一方でニコニコ動画は、これまでにもいくつかトラブルがありつつも、基本的にはユーザーの期待に応える形で進化してきました。今回のイベントにも有料ユーザーを招待するなど、CGMサービスに重要な「ユーザーと共にある」というスタンスがわかりやすい形で伝わります。また、独特の言動で知られファンも多いニワンゴ取締役の「ひろゆき」こと西村博之氏が広告塔となり、今回の発表会でも「“あさって”への進化」と述べるなど、予測のつきにくいサービス展開で安易な批判の価値を無くしてしまっている点も、mixiとの違いでしょう。
それにしても、2004年~2005年頃には、mixiは「性善説的なコンセプトで運営される居心地の良い空間」の代表であり、ひろゆき氏の2ちゃんねるは、対極的な「怖い場所」の代表と見られていました。
それが現在では立場が入れ替わったような状態で、mixiは非難を受け、ニコニコ動画は期待を込めて見られています。これはなかなか興味深い現象です。CGM・コミュニティサービスの運営者がこれらから学べることは多いでしょう。
2008/03/10 11:40
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小林祐一郎 プログラマ、編集者、Webディレクター等を経て、ライター・編集者として活動。興味のあるテーマは「人はどうすればネットで“いい思い”ができるのか」 。ごく普通の人の生活に、IT技術やネットのコミュニケーションツールがどんな影響を与え、どう活用できるのかを研究している。近著「Web2.0超入門講座」(インプレス) |
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