先週前半は「Firefox 3」公開で大いに盛り上がりました。公開当日にはMozillaのサーバーが非常に重くなり、いらいらした方も多かったかもしれません。挑戦していたギネス記録については、目標を大幅に上回るダウンロード数が報告されています。今週中には結果を知ることができそうです。
そして後半は、急転直下といった勢いで「ダビング10」開始のニュースが入り、驚かされました。AV関係に興味のある方でなければ、まだまだ耳慣れないと思われるこの「ダビング10」について、今週は解説します。
◆「ダビング10」に向け合意、開始日は7月4~5日をめどに
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/19/20004.html
6月19日、「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」第40回会合において「ダビング10」の開始に向けて権利者側が譲歩。7月4~5日をめどに調整していくことで合意が成立した。詳しくは後半で解説します。
◆「知財推進計画2008」が決定、検索サービス合法化など盛り込む
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/19/19994.html
6月18日、政府の知的財産戦略本部は「知的財産推進計画2008」を正式決定し、発表した。国際競争力の強化を目指し、検索サービスのインデクシングや動画配信サービスのキャッシュのような、権利者の利益を不当に害しない一時的蓄積の適法化などの計画を盛り込んでいる。
◆「Firefox 3」公開、ダウンロード数は増加もサイトの混雑が続く
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/18/19973.html
日本時間の6月18日、「Firefox 3」正式版が公開。24時間以内のダウンロード世界記録に挑戦するイベント「Download Day」を行なっていたこともありアクセスが集中し、Mozillaのサイトは混乱した。世界中での24時間以内ダウンロード数は800万以上を達成し、目標の500万を大きく上回った。なお、公開5時間後には早くも脆弱性が報告されている(詳細は未公開、修正パッチ開発中)。
◆「被害を隠すな」サウンドハウス社長が不正アクセス体験語る
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/18/19989.html
6月18日に開催されたSQLインジェクション攻撃に関するセミナーで、4月に大きな被害を受けたサウンドハウスの中島社長が講演。自社の体験について語るとともに、日本のセキュリティ意識の甘さを懸念。サイバーテロ戦争に負けないために、まず意識作りからと私案を発表した。
◆ヤフオクの次点落札者を狙った詐欺対策、IDの一部を非表示に
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/18/19986.html
6月18日、ヤフーは「Yahoo!オークション」の補欠落札者を狙った詐欺の対策として、入札者のIDの一部を非表示にするなどの措置を25日から行なうと発表した。IDを見せないことで、出品者を装って補欠入札者に嘘の取引を持ちかける手口を防ぐ。同時にヤフーでは、連絡に「取引ナビ」を利用するよう呼びかけている。
● 来週末にはスタート!? 「ダビング10」って何だ?
これまで具体的な実施への合意がされず延期となっていた「ダビング10」が、来週末の7月4~5日をめどに実施するという形で合意成立となりました。
現在、地上デジタル放送からHDDレコーダーなどにデジタル録画した番組は、DVDやメモリカードなどにコピーするときは「ムーブ」として扱われ、HDD上のオリジナルが消えてしまいます。つまり録画映像は絶対に1カ所だけにしか保存できないわけです。これを「コピーワンス」と言います。
ダビング10はこれを緩和し、9つのコピーと1つのムーブができるようにするものです。ただし注意が必要なのは、コピーからのコピー(孫コピー)は不可であること。また、ダビング10対応の機器でなければ従来通りのコピーワンスであることです。
ちょうどボーナスシーズンであることに加えて、北京五輪も控えたこの時期、HDDレコーダーの購入を検討中の方も多いと思います。事前の情報調査を念入りにして、ダビング10対応機種を選びましょう(AV Watchの「ダビング10」対応状況リンク集が参考になります)。
ダビング10という制度は、現状の制度であるコピーワンスを見直したものとして、総務省の情報通信委員会で2007年7月に提案されました。
一方、このダビング10に関連して、デジタル録音や録画が可能な機器・媒体に一定の補償金を課す「私的録音録画補償金制度」についての議論が、文化庁の私的録音録画小委員会でも並行して行なわれていましたが、ここでの議論で対立があったため、ダビング10の開始は遅れました。
私的録音録画小委員会での議論では、レコード会社や放送事業者などの権利者はハードディスクなどへの補償金対象の拡大を主張します。一方、機器メーカーなどは、コピーワンスのように複製回数の制限されたコンテンツは著作権者の権利を損なっているとは言えず、補償金の対象にする必要はないと主張していました。
私的録音録画小委員会での議論はまとまらず、ダビング10実施について議論する「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」でも、メーカー側と権利者側の間で意見が対立。当初の予定であった2008年6月2日までに合意に至らず実施は延期となり、いささか泥試合めいた様相を呈してきていました。
とはいえ、前述のようにボーナスシーズンと北京五輪が重なるこの時期は、AV機器の売り時です。そうしたタイミング感を共有しながら19日に開催された「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の第40回会合では、補償金の問題とダビング10実施の議論は分離し、まずはダビング10実施を、という形で合意に達しました。
また、ブルーレイディスクや機器についても補償金の対象に加えることで、文部科学省と経済産業省の間で合意したということが、各省の大臣から発表されています。
ダビング10は、権利者・消費者の双方をとりあえず「痛み分け」にする提案と言えます。権利者側が大幅に(10倍?)譲歩してのダビング10と見ることもできますが、だからといってユーザーの利便性がそれほど考慮されているわけでもありません。
例えば、子供が赤ちゃんのときにテレビに出演したので、それを保存しておきたいという場合を考えてみましょう。ダビング10でも孫コピーは禁止なので、最初に録画したHDDレコーダーが壊れてしまうと、ダビングしたディスクが壊れてしまえば、もう見ることはできなくなってしまいます(従来のアナログ機器でも同様のことは起こり得ますが)。
消費者にダビング10開始が与える影響としては、とりあえず機器選びに注意が必要になりました。録画したテレビ番組を長く残す必要がない、コピーワンスでも構わないという方には、ダビング10非対応機を安く買えるチャンスとなるかもしれません。どちらにせよHDDレコーダーの購入はしばらくのあいだ慎重に、情報をよく収集・検討して行なうべきでしょう。
2008/06/23 12:18
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小林祐一郎 プログラマ、編集者、Webディレクター等を経て、ライター・編集者として活動。興味のあるテーマは「人はどうすればネットで“いい思い”ができるのか」 。ごく普通の人の生活に、IT技術やネットのコミュニケーションツールがどんな影響を与え、どう活用できるのかを研究している。近著「Web2.0超入門講座」(インプレス) |
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