インターネットに、よく言えば「自由な場所」、悪く言えば「無法地帯」という印象をお持ちの方も多いかと思いますが、先週はこうした状態にブレーキをかけることになりそうなニュースが2つありました。1つは、ネット上の犯行予告の検挙事例の発表です。これまで、ネットの掲示板などでの「死ね」とか「殺す」といった発言はマナーの問題レベルで語られることが多かったのですが、犯行予告として警察が動く「事件」となり、また、「ネットで書いても誰だか分からないだろう」という思いこみからの書き込み者が特定され検挙されることで、こうした物騒な発言の抑止効果があるのではないかと思います。
もう1つは「ニコニコ動画」の著作権侵害動画の削除対策発表と「ニコニ・コモンズ」の発表です。著作権者とMAD動画クリエイターとの関係が変わってくることで、ニコニコ動画が著作権に関する新しい形のモデルケースとなるかもしれません。
◆ネット上の犯行予告で30人を検挙・補導、警察庁
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/06/30/20100.html
6月30日、警察庁は、6月8日から29日の間にインターネット上の犯行予告書き込みで全国の30人を検挙・補導したことを公表。秋葉原事件を受けてのもので、具体的な事例は事例集を参照のこと。最年少は11歳の小学生男児からおり、学生・無職が目立つ。
◆Flashをサポートした「Adobe Reader 9」配布開始
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/07/02/20121.html
7月2日、アドビシステムズは「Adobe Reader 9」日本語版を公開した。「Adobe Acrobat 9」の新機能である、さまざまな形式のファイルをまとめた「PDFポートフォリオ」やFlashの対応が加わっている。また、同社によると従来よりも2倍高速になっているという。
◆「ニコニコ動画(夏)」を5日18時公開、コミュニティ機能追加
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/07/04/20158.html
7月4日、ニワンゴは「ニコニコ動画」の新バージョン「ニコニコ動画(夏)」を発表。5日より公開した。コミュニティ機能「ニコニコミュニティ」、ニコスクリプトを強化した「夏ニコス(サマーニコス)」などの新・追加機能がある。詳しくは後半で解説します。
◆「GyaO」刷新、トップページにMS「Silverlight」採用
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/07/01/20116.html
7月1日、USENは動画配信サイト「GyaO」をリニューアルした。トップページに「Silverlight」を採用し、チャンネルを13の「ステーション」として再構成。また、視聴動画を3つのサイズから選べるようになった。
◆SNSがスピア型攻撃に悪用されることも、F-Secureが指摘
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/07/03/20146.html
7月3日、F-Secureは6月末に発表した「2008年上半期データセキュリティ総括」の補足説明を行った。この中で、ユーザーがSNSに書いた職業などの情報に基づき、つい開いてしまうような信憑性を持たせた悪意のメールを送る「スピア型攻撃」の脅威を指摘。また、iPhoneを改造する「ジェイルブレイク」の危険性も訴えた。
● 「ニコニコ動画(夏)」が登場。新機能と今後の展開は?
7月4日に、ニワンゴは「ニコニコ大会議」というイベントを、ユーザー2000人を招待して大々的に開催。その場で新バージョン「ニコニコ動画(夏)」の発表を行いました。
多数の新機能・追加機能がある中で、さっそく開始になった新機能の目玉は、コミュニティ機能「ニコニコミュニティ」です。コミュニティを作成すると、そのメンバー内でのみで共有される動画の投稿やコメントの書き込みができるようになり、小さなグループだけでニコニコ動画のシステムを使って楽しめるようになります。
ニコニコ動画の機能には魅力を感じるけど雰囲気になじめなくて……という人も、特定のニコニコミュニティに属することによって、仲間内だけの場で楽しめるようになります。こうして、今後はニコニコ動画をインフラとした多様なコミュニティが生まれるかもしれません。
ニコニコミュニティを開設できるのはプレミアム会員のみです。また、メンバーにプレミアム会員が多いほど、メンバー数や投稿可能な動画数の上限が上がるシステムになっており、プレミアム会員の価値が高まる仕組みになっています。
もう1つの新機能「ニコニ・コモンズ」の開始は8月中旬からの予定となっていますが、こちらのインパクトはさらに大きいものとなりそうです。
ニコニ・コモンズは、作品の再加工を促したい権利者と再加工を行いたいクリエイターを仲介するシステムです。まず権利者がニコニ・コモンズのサイトに自分の作品を登録します。そして、クリエイターがニコニ・コモンズのサイトから素材としたい作品をダウンロードし、加工した作品をニコニ・コモンズ対応のサイト(「SMILEVIDEO」のほかイラスト特化型SNS「pixiv」での対応が発表されています)に公開します。こうすることで、元の権利者はどのような派生作品が生まれたかを把握できるようになります。
先立ってニコニコ動画では、テレビ映像やアニメなどを再加工して楽しむ、いわゆるMAD動画を著作権侵害動画として削除する対策を発表しています。関連して、削除動画の権利者名を表示する機能の搭載も行われました。
MAD動画については、パロディが新たなファン層を開拓し、宣伝・販促となる効果も指摘されています。今後のニコニコ動画では、MAD動画のこうした販促効果を認める権利者はニコニ・コモンズに積極的に作品を登録していくでしょう。一方、認めない権利者の作品はより厳格に監視され、削除されるようになります。
実際にニコニコ動画の販促効果をどう捉えるかは、作品の内容とニコニコ動画のユーザー属性との関連から検討されることになるでしょう。しかし、これまでネットのMAD動画的なものの販促効果を認める人たちの論調は、「権利者は黙認してほしい」といった結論に留まらざるを得なかったものが、「ニコニ・コモンズで我々の力を使ってほしい」といった形で、権利者側の主体的な行動を促す形になるのは興味深い点です。権利者には「ニコニ・コモンズに作品を登録する」というはっきりとした形のコミットメントを求められるわけですから、MAD作者との関係もおのずと変わっていく部分があるでしょう。
今回のニコニコ大会議には、元NTTドコモの執行役員である夏野剛氏が、ドワンゴ顧問として参加しました。夏野氏のミッションは「ニコニコ動画の黒字化」。iモード大成功の立役者として知られる同氏がニコニコ動画の運営に参画することは、広くビジネスパーソンの注目を集めることになるでしょう。ニコニコ動画の見られ方も、「ネットジャンキーの遊び場」のようなものから、少し違ったものになっていくかもしれません。
2008/07/07 11:34
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小林祐一郎 プログラマ、編集者、Webディレクター等を経て、ライター・編集者として活動。興味のあるテーマは「人はどうすればネットで“いい思い”ができるのか」 。ごく普通の人の生活に、IT技術やネットのコミュニケーションツールがどんな影響を与え、どう活用できるのかを研究している。近著「Web2.0超入門講座」(インプレス) |
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