スッキリ分かるWi-Fiルーター(ASUS編)
【Wi-Fi 6×メッシュ】ASUS「ZenWiFi XD6」第1回
Wi-Fi 6のメリットは? どれだけ普及した?
2021年9月22日 10:00
ASUSからWi-Fi 6対応のメッシュWi-Fiルーターの新製品となる「ZenWiFi XD6」が発売された。
メッシュといえば、複数台を連携動作させた中で最も近いルーターと通信をすることで速度を向上させる技術。最新のWi-Fi 6と組み合わせることで、「最強の通信環境」を提供できるのが特徴と言える。
そしてZenWiFi XD6については清水理史氏のレビューが掲載済みなので詳細はそちらに譲るとして、ここではもう少し視点を広げ、「そもそもWi-Fi 6のメッシュWi-Fiルーターがあると何がいいのか」ということを、全4回の連載としてお伝えしよう。初回となる今回は、「そもそもWi-Fi 6って何がいいのか」を紹介していきたい。
【Wi-Fi 6×メッシュ】ASUS「ZenWiFi XD6」 記事一覧
高コスパなメッシュWi-Fi 6ルーター「ZenWiFi XD6」
さて、Wi-Fi 6について紹介する前に、本連載で取り上げるメッシュWi-Fiルーター「ZenWiFi XD6」を紹介しよう。
この製品は、ハイエンドユーザーに人気のASUS製メッシュルーターの中では、ちょうどミドルクラスに位置する。
最大4804Mbpsの5GHz帯と最大574Mbpsの2.4GHz帯を利用できるデュアルバンドに対応している。実売価格は2台セットで4万5000円前後。高性能ながら比較的購入しやすいのが特徴だ。
ちなみに、同社のWi-Fi 6対応のメッシュWi-Fiルーターには、より上位の「ZenWiFi AX(XT8)」と、普及モデルの「ZenWiFi AX Mini(XD4)」がある。いずれもデザインを重視した製品で、アンテナを内蔵し、すっきりとした外観となっている。メッシュは家の中へ複数台を設置する必要があるため、見た目も重要な要素と言えるが、ZenWiFiは、その意味でも導入しやすい。
ZenWiFi AX(XT8) | ZenWiFi XD6 | ZenWiFi AX Mini(XD4) | |
2台セット実売価格 | 6万5000円前後 | 4万5000円前後 | 2万3500円前後 |
CPU | クアッドコア、1.5GHz | トリプルコア、1.5GHz | クアッドコア、1.5GHz |
メモリ | 512MB | 512MB | 256MB |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← | ← |
バンド数 | 3 | 2 | ← |
160MHz幅対応 | ○ | ○ | × |
最大速度(2.4GHz) | 574Mbps | 574Mbps | 574Mbps |
最大速度(5GHz) | 1201Mbps | 4804Mbps | 1201Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 4804Mbps | ― | ― |
チャネル(2.4GHz) | 1-13ch | ← | ← |
チャネル(5GHz) | W52/W53 | W52/W53/W56(144ch非対応) | ← |
チャネル(5GHz-2) | W56(144ch非対応) | ― | ― |
ストリーム数 | 2(5GHz-1)/4(5GHz-2) | 4 | 2 |
アンテナ | 内蔵(6本) | 内蔵(6本) | 内蔵(2本) |
WPA3 | ○ | ○ | ○ |
WAN | 2.5Gbps×1 | 1000Mbps×1 | 1000Mbps×1 |
LAN | 1000Mbps×3 | 1000Mbps×3 | 1000Mbps×1 |
USB | USB 3.1 Gen1×1 | ― | |
動作モード | RT/AP/RP/MB/AiMesh | RT/AP/RP/MB/AiMesh | RT/AP/AiMesh |
本体サイズ(幅×奥行×高さ) | 160×160×75mm | 126.4mm×129.7mm×59mm | 90×90×80mm |
Wi-Fi 6は新型PCはほぼ搭載、PS5も対応済みスマホはiPhoneが対応済み、Androidは上位機種から
さて、Wi-Fi 5からさまざまな部分が強化されたWi-Fi 6なのだが、親機であるルーター側だけでなく、子機と両方が対応しないと真価を発揮できない。つまり、対応機器が増えてこなければ意味がないわけだ。では現在、Wi-Fi 6対応機器の普及は、どの程度進んでいるのだろう。
PCは、ここ1年ほどでWi-Fi 6にほぼ置き換わった印象だ。安価な一部製品や、モデルチェンジされていない製品ではWi-Fi 5のままということもあるが、この1年に新発売されたノートPCには、おおむねWi-Fi 6が搭載されている。特に、2402Mbpsで通信できるものが多いので大幅な通信速度の向上が見込める。
スマートフォンでは、iPhone 11以降のモデルが対応している一方、Androidはハイエンドを中心に対応が進んでいて、安価なモデルはまだほとんどがWi-Fi 5に留まる。高速な通信を処理するには高性能な端末が必要なのも確かで、いわば適材適所といった状況だ。高性能な端末はゲームで利用されることも多く、通信速度と通信遅延の両方で改善が見込めるWi-Fi 6には大きなアドバンテージがあるだろう。
そのほかの機器では、プレイステーション 5が家庭用ゲーム機としては初めてWi-Fi 6に対応して話題になった。1000BASE-Tの有線LAN接続も利用できるので必須ではないが、Wi-Fi接続を利用すればLANケーブルが不要になる分、設置場所の融通が利くなどの利点がある。
そのほかのスマートデバイスやIoT機器では、まだそれほどWi-Fi 6が普及している印象はない。ただ、PCやスマートフォンの状況を見るに、今後はWi-Fi 6へシフトしていくのは間違いない。低価格なスマートフォンにもWi-Fi 6が搭載され始めれば、そのほかの製品にも一気に広がるだろうと予想している。
親機のWi-Fi 6対応に関しては、「ZenWiFi」シリーズだけでも3モデルがラインアップされているように、新製品はほぼWi-Fi 6に対応している。価格も数千円の製品が登場するなど、Wi-Fi 5ルーターとの差もかなり縮まってきた。
Wi-Fi 5は5GHz帯のみのサポートとなるため、それまで2.4GHz帯のWi-Fiを使っていたユーザーから、「新製品なのに電波の飛びが悪くなった」という声もよく聞かれた。Wi-Fi 6は5GHz帯と2.4GHz帯に対応するので、Wi-Fi 5と違って電波の飛びが悪化する要素もない。さらに、Wi-Fiルーターはここ数年で高性能化していて、電波の飛びが改善している製品も多い。
つまり、Wi-Fi 5からWi-Fi 6へ乗り換えても、使用感は変わらないし、ましてや悪化するということは考えにくいわけだ。Wi-Fi 6という規格自体も、この先主流となっていくことは間違いないだろう。通信環境の改善を望むなら、安心してWi-Fi 6環境を整えていただきたい。
Wi-Fi 6で何がよくなった?
では「Wi-Fi 6」の中身を詳しく見ていこう。規格としては「IEEE 802.11ax」という名前で、現時点では最新かつ最も高性能なWi-Fi規格となる。
Wi-Fi 6対応機器を使用するにあたって、親機であるルーターと、子機となるPCやスマートフォンのどちらかがWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)など旧世代の規格であれば、その旧世代側の規格で通信することになる。
Wi-Fi 6に対応する製品は、ほぼ間違いなくWi-Fi 5やそれ以前の規格にも対応しているので、対応規格が違うから通信ができないということは起こらない。買っても使えないということはないので安心していただきたい。
では、Wi-Fi 6はWi-Fi 5から何がよくなったのか、主な変更点を説明しよう。
最大通信速度は約1.4倍、環境次第では2.8倍までに向上
最も大きな違いは通信速度の向上だ。Wi-Fi 5では、5GHz帯で80MHz幅、2×2 MIMOの接続で、通信速度は最大866Mbpsとなる。Wi-Fi 6では、5GHz帯で80MHz幅、2×2 MIMOという同じ条件で最大1201Mbpsと、およそ1.4倍になる。
さらにWi-Fi 6では、PCなどを中心に160MHz幅での通信が可能な製品も多い。この場合は通信速度がさらに倍となり、最大2402Mbpsだ。これはWi-Fi 5と比較して約2.8倍に達する。厳密には、Wi-Fi 5でも160MHz幅の通信が利用できるものはあったが、対応するのはごく一部の製品に限られていた。
なお、Wi-Fiによる通信は、いくら条件がよくても実際には最大速度の6~7割程度。Wi-Fi 6の最大1201Mbpsという数字も、実測では1000Mbpsを下回る値になるが、それでも有線接続の1000BASE-T(1000Mbps)に近い速度が出せるようになった。160MHz幅であれば1000Mbpsを優に超えるため、有線LAN接続の高速化が急がれる側面も見られ始めている。
複数台からの同時通信の際の無駄を減らす「OFDMA」
Wi-Fi 6では新たに、「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」と呼ばれる技術が導入された。通信で使用する周波数帯を細かく分け、必要に応じて複数の端末に割り当てるものだ。
Wi-Fi 5で使われている「OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)」は、特定の周波数帯を特定の端末に対し、一定時間割り当てるという仕様だった。この場合、ごく少ない通信でも、一定の周波数帯を占有してしまう。
そもそもWi-Fiは、限られた通信帯域を分け合って通信する仕組みなので、複数のWi-Fi子機が通信する状況では1台ごとの通信効率が落ちる。一部の通信が周波数帯を占有する時間があれば、そのほかの通信は利用できる周波数帯が空くまで待たされてしまい、混雑に拍車がかかってしまう。
そこでOFDMAでは、周波数帯をより細かく区切り、Wi-Fi子機ごとに通信帯域を割り当てられるようになった。これにより周波数帯の無駄な占有が減り、データを効率的に運べることで、全体の通信速度が向上する。さらにバンドの空きを待つ状況が減る分、通信の遅延時間の短縮につながる。
昨今はテレワークやリモート授業などで、家庭内で同時にWi-Fiの通信を使う場面が増えている。さらにスマートフォンやゲーム機、IoT機器など家庭内の通信機器も増え、利用者が触れていないタイミングにバックグラウンドで通信することもある。このように、複数のWi-Fi子機から不定期に通信される状況でも、Wi-Fi 6では速度低下や通信遅延を起こしにくいというメリットがある。
より多くの子機との同時通信も改善、上りの通信にも対応した「MU-MIMO」
Wi-Fi 6では、Wi-Fi 5で実装された「MU-MIMO(Multi User Multiple Input Multiple Output)」が強化された。
これは、複数のWi-Fi子機に対して同時にデータを送信できるもので、Wi-Fi 5以前のWi-Fi 4などでは、複数のWi-Fi子機と同時にデータのやり取りはできず、1台ずつ切り替えながら順番に通信をしていた。
MU-MIMOでの同時通信台数が、Wi-Fi 5の最大4台から、Wi-Fi 6では最大8台へ増えている。Wi-Fi 5に比べ、より多くの端末が同時に通信している際の通信効率が向上している。
さらに、Wi-Fi 5のMU-MIMOは、親機から子機への送信のみ(子機から見ればダウンロード)に対応していたが、Wi-Fi 6では子機から親機への送信(同アップロード)も対応。ビデオ会議や資料のアップロードなどの通信が、複数のWi-Fi子機で同時に重なっても、Wi-Fi 5よりスムーズに処理できる。
通信での消費電力を少しだけ改善する「TWT」
Wi-Fi子機には、通信をしていない時間、いわゆる待機時間がある。待機中のWi-Fi機器は無駄に電力を消費しないようスリープ状態に入るが、親機からのビーコンに呼応してスリープを解除するようになっている。
Wi-Fi 5まで、このビーコンは接続される全てのWi-Fi子機に向けられ、いっせいに目覚める仕掛けだったが、Wi-Fi 6では「TWT(Target Wake Time)」が導入され、Wi-Fi子機ごとに目覚めるタイミングを設定可能になった。Wi-Fi子機は不要に復帰せずに済み、スリープの時間をより長く取れるようになり、消費電力を抑えられるわけだ。
ただ、Wi-Fiの通信による消費電力はそもそもわずかなので、TWTの効果によって電気代が劇的に下がるようなことはない。ただ、スマートフォンやゲーム機など、低消費電力でバッテリー駆動するWi-Fi子機では、バッテリーの持ちを改善する要素にはなる。
Wi-Fi 6は速度向上に加え、同時通信に強くなった!
Wi-Fi 6のメリットとして、製品パッケージなどから分かるのは、速度の向上だけだろう。しかし、実際には、複数のWi-Fi子機での同時通信をよりスムーズにする仕掛けに、かなり力が入っている。
家族みんながWi-Fiを利用していて、ビデオ会議の映像が途切れがちになったり、オンラインゲームの通信が不安定になったりといったトラブルを経験した方もいるだろう。原因はインターネット回線の混雑や、各々の端末の動作不良なども考えられるので一概には言えないが、通信環境をWi-Fi 6にすることで、こうした状況が改善する可能性がある、ということは、覚えておいて損はない。
(協力:ASUS JAPAN株式会社)