5分でわかるブロックチェーン講座
「暗号資産銀行」が米国で初めて誕生、日本への追い風は吹くか
中国で着々と進む国家ブロックチェーンプロジェクト
2020年9月23日 10:20
米国で暗号資産銀行が誕生
先週日本でも暗号資産交換業の免許を取得したKrakenグループが、米国初の「暗号資産銀行」としての認可を取得した。ワイオミング州の法律のもと、特別目的委託機関(SPDI:Special Purpose Depository Institution)として暗号資産銀行の業務を開始する。名称は「Kraken Financial」だ。
SPDIとして認可されたことにより、これまで外部の金融機関に依頼していた業務を自社で完結して行うことができるようになる。より一層、法定通貨と暗号資産の距離が近づくことが期待できるだろう。
Kraken Financialでは、通常の銀行業と同じく口座開設からスタートするが、その際に米ドルだけでなく暗号資産も預金することができるという。将来的には、普通預金だけでなく当座預金や電信送金などにも対応する予定だ。
なお、SPDIでは顧客資産を使用した貸付業務は認められていない。従って、目先のビジネスとしては手数料がメインになるとしている。Krakenによると、今回の認可を得るのに27ヶ月以上かかったとのことだ。
中国国家プロジェクトの全貌が明らかに
中国が国家戦略として進めているブロックチェーンプロジェクト「BSN(Blockchain Services Network)」が、24種類のブロックチェーンを採用する方針であることを明らかにした。BSNの詳細はこちらをご覧いただきたい。
一般的にブロックチェーンと呼ばれるものはパブリック型を意味する。パブリック型のブロックチェーンを動かすには、インセンティブとしての暗号資産が欠かせない。
中国では暗号資産の取引を禁止しているため、BSN上で使用される通貨も人民元を使用するという。そのため、BSNでは24種類のブロックチェーンをパブリック型のままではなく、プライベート型に変更した上で提供するという。
BSNは2020年11月後半よりスタートする予定だ。国家戦略に位置付けているだけあって、中国は今や世界で最もブロックチェーンの活用が進んでいる国となっている。
参照ソース
China’s BSN to ‘Localize’ 24 Public Blockchains by Making Them Permissioned
[CoinDesk]
今週の「なぜ」暗号資産銀行はなぜ重要か
今週はKrakenによる暗号資産銀行業のスタートと中国国家プロジェクトBSNに関するトピックを取り上げた。ここからは、Krakenによる暗号資産銀行業がなぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
暗号資産と法定通貨の歩み寄りが重要
暗号資産市場の母数はあまり拡大していない
暗号資産銀行の開始は市場を拡大させる
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
暗号資産から法定通貨への歩み寄り
こちらの記事で紹介した通り、今年の7月後半に米国通貨監督庁(OCC)が、国立銀行と米貯蓄貸付組合に対して暗号資産の取り扱いを許可する方針を公表した。これにより、米国の銀行が暗号資産市場に参入してくることが予想されている。
上記は、法定通貨から暗号資産への歩み寄りの一例であるが、今回のKrakenによる暗号資産銀行業の開始は、暗号資産から法定通貨への歩み寄りの一例だ。
やはり、銀行口座で法定通貨と暗号資産の両方をシームレスに管理できるに越したことはない。krakenに限らず、全ての暗号資産取引者はこのサービスを提供することを目指しているはずだ。
市場の絶対値はあまり拡大していない
暗号資産の元祖ビットコインが誕生して10年が経過したが、ある一定の水準を超えてからは市場における母数の拡大幅が小さくなっている印象を受けている。これには、暗号資産・ブロックチェーンの難しさが1つのハードルになっていると考えて間違いないだろう。
実際、ブロックチェーンを使ったアプリケーション(DApps:Decentralized Applicationsという)のうち、“世界で”最も多くのユーザーを抱えるUniswapでも、MAUは20万にとどまっている。
これは、まず法定通貨を暗号資産に換金する手順を挟む必要があることに起因する。この手順を完了させるには、煩雑な本人確認作業を行ったり平日に振込を行う必要があったりと、想像以上に労を費やさなければならない。
暗号資産銀行の開始は市場を拡大させる
基本的に、暗号資産・ブロックチェーンの市場は取引所によって形成されている。具体名を出すと、CoinbaseやBinance、Huobi、Krakenといったところが黎明期を牽引してきた。暗号資産の取引業で出た利益をベンチャー投資や別領域への染み出しといった再投資に回すことで、純粋なテクノロジー企業も育つ好循環が生まれる。
少なくともこの領域の日本企業は、得た利益を基本的には貯蓄する体質にあるといえる。再投資に回すにしても、新規トークンの上場対応にばかりコストが割かれている印象だ。先述の通り、ただでさえ母数が拡大していない小さな市場の中で、競合戦略にばかりコストをかけていてはアップサイドも限られてきてしまうだろう。
こういった状況下にあるため、今回のKrakenによる暗号資産銀行業のスタートは非常に重要なニュースなのである。Krakenは、時を同じくして日本での取引業もスタートさせている。米国と日本では法規制が異なることは前提であるものの、少しでも外の空気を持ってきてくれることを期待したい。