5分でわかるブロックチェーン講座
バイデン政権の人事が明らかに、暗号資産業界にとっては明るい材料か
楽天トラベルでWeb3.0を象徴する分散型ID(DID)を導入
2020年11月17日 09:33
バイデン新政権下の人事
今週も米大統領選に関するトピックをお届けする。先週紹介した通り、バイデン新政権下で注目されていた一つの人事が明らかとなった。金融政策責任者として、CFTC(米先物取引委員会)の元会長であるゲンスラー氏が起用されることが明らかとなっている。
ゲンスラー氏は、暗号資産・ブロックチェーン推進派として知られる人物だ。2009年から2014年までCFTCの会長を務め、バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権下では、デリバティブ規制を改正し市場の健全性に大きく貢献した。その後のクリントン政権では、財務省の国内財務次官を務めている。
CFTC退任後には、MITでビットコインとブロックチェーンに関する教鞭を執っていた。ゲンスラー氏は、ウォール街との繋がりが最も強い人物として認識されており、今後の暗号資産・ブロックチェーン業界には前向きな影響を与えそうだ。
なお、新政権下の金融政策部門におけるその他の人事として、暗号資産・ブロックチェーンに明るい面々の参画が明らかとなっている。具体的には、FacebookのLibraで公聴会を担当したブルマー氏や、世界最大手メディアCoinDeskで顧問を務めたジョンソン氏、デジタルドルの概念を提唱したメナード氏などがあげられる。
トランプ前政権下では、業界の識者に積極的な介入を認めておらず、法整備などはあまり進んでいなかった。一方で、バイデン政権下では先述のような人事が想定されるため、新たな取り組みに期待できそうだ。
楽天トラベルがDIDを導入
楽天トラベルのグローバル版であるRakuten Travel Xchangeが、ブロックチェーンを使った分散型デジタルID(DID)プラットフォームを運営するShareRingとの提携を発表した。Rakuten Travel Xchangeのユーザーは、ShareRingの提供する自己主権型IDを使って60万以上のホテル予約が可能となる。
ShareRingは、DIDの導入を目指すプラットフォームだ。ShareRingの提携先企業やパートナーは、ShareRing IDとShareRing Ledgerを使って、ユーザーに自身の情報を管理させた状態でID認証が可能となる。
Rakuten Travel Xchangeでも、ユーザーのID情報を預からない形でShareRingユーザーがサービスを利用することができるようになった。具体的には、パスポートや旅行書類、銀行カード、宿泊施設、フライトなどの情報を、ユーザー自身のみがアクセス可能な状態でShareRing IDに保管される。
ShareRingは、DIDの領域で主に4つのサービスを提供している。最初の一回だけ個人情報を登録しておけば複数のサービスに共通でログイン可能な「One Login」や、旅行時に必要なフライトやレンタカーなどを予約可能な「One App」、予約だけでなくアプリ内で決済までを一貫して行うことができる「One Payment」などだ。
そして4つ目が、自身のIDを自己主権型の状態で管理可能な「ShareRing ID」である。ShareRing IDでは、ユーザーは自身のIDに紐づく情報をどこまで公開するか設定することができる。また、ShareRingは暗号資産ウォレットとしての役割も果たすため、Rakuten Travel Xchangeにおける支払いを暗号資産で行うことも可能だという。
なおShareRingは、最近注目を集める中国の国家ブロックチェーンプロジェクトBSN(Blockchain Service Network)への参画も報じられている。
今週の「なぜ」分散型ID(DID)はなぜ重要か
今週はバイデン政権下の人事動向やデジタルIDにおけるブロックチェーン活用に関するトピックを取り上げた。ここからは、分散型ID(DID)がなぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
【まとめ】
Web2.0は個人のデータが売買されていた
Web3.0の世界では個人のデータも分散管理される
DIDのメリットと今後の課題
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
Web3.0におけるID
Web3.0という言葉が誕生して久しいが、この象徴となるのが分散型ID(DID)だと考えている。様々なアプリケーションが分散型の状態で運営されているのであれば、そこにアクセスするデジタルIDも分散型で然るべきだ。
現在のWeb2.0の世界では、GAFAを中心とするTech Giantに個人のデータは全て集約されている。典型的な例がFacebookログインだ。Facebookアカウントを保有していれば、Facebookログインを導入しているサービス群をボタン一つで利用することができる。
これは手前のユーザー体験としては非常に優れているが、一方で犠牲にしている「個人データ」の価値は計り知れない。
Web2.0の個人データ
GAFAの中でもFacebookとGoogleは特に、ユーザーのデータを収集してアドネットワークの精度を高め、それを利益に変えている。個人のデータは本来個人のものであり、特定の第三者によって搾取されたり管理されていいものではない。
この中央集権型のデータ管理体制では、情報漏洩の危険性が常に存在する。ケンブリッジ・アナリティカ事件のように、我々の個人データが多額で売買されている現状も許し難い。
DIDが起点となってWeb3.0の概念が誕生したわけではないが、Web3.0の未来が絶対的なものとなった今、DIDの普及は間違いのないものといえるだろう。
DIDのメリットと今後の課題
DIDのメリットは、ブロックチェーン基盤のデジタルIDに自身のみが管理する個人データを格納できる点にある。これにより、必要最小限のデータを利用する当該サービスにのみ提供することが可能だ。個人情報流出の懸念は無くなるだろう。
DIDの普及は、サービス提供者にとっても多分にメリットをもたらす。これまでは、何かサービスを提供する際に複数のログイン方法を実装しなければならなかった。例えば、メールアドレスログインや先述のFacebookログイン、電話番号でのログインもあげられるだろう。
これがDIDに統一されれば、余計な開発コストを割かなくて済むようになる。また、ユーザーの個人情報を管理する必要もなくなるため、個人情報が流出する心配も無くなる。
現在、世界中でDIDの開発が進められており、日本でも経済産業省が調査事業を行なっている。懸念は、各々が独自にDIDの規格を作ってしまいそれらに互換性が存在しなくなってしまった場合だ。例えば、全てのDIDがイーサリアム上で発行されるといった状況が好ましいものの、中にはビットコインを使ったDIDやハイパーレジャーを使ったDIDも開発されている。これらに対してどのように互換性を持たせていくか、DIDにおける今後の課題になっていくだろう。