5分でわかるブロックチェーン講座

Coinbaseがナスダックに上場、米国ではセーフハーバールールが更新

Web3.0ベンチャーが目指すのはプロジェクトの「解散」

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Coinbaseがナスダックに上場

 米最大手暗号資産取引所Coinbaseが、ナスダックへの上場を果たした。時価総額は一時1100億ドルを超え、業界問わず大きく話題となっている。

 今回の上場は、株式公開時に新株を発行せず既存株だけを売りに出すダイレクトリスティング方式を採用しており、上場前にはナスダックのプライベートマーケットに売りに出されていた。

 現在のCoinbaseは、収益の大部分を暗号資産取引の手数料に依存しているものの、将来的にはこの比率を半分にまで落とし、ステーキングやカストディ、Coinbase Earnといった取引事業以外に注力する方針だという。

 Coinbaseの上場がブロックチェーン業界に与える影響は非常に大きいといえる。ウォール街に暗号資産が認められたという点だけでも十分な貢献を果たしているが、Coinbaseは日本の取引所と違い暗号資産事業だけを行なっているわけではない。

 取引所事業で得た収益を、積極的にブロックチェーンベンチャーへの投資に回しているのだ。今回の上場によるCoinbaseの資金調達は発生しないものの、上場企業であるCoinbaseから出資を受けているという点で、ブロックチェーンベンチャーへの副次的な還元が期待できる。

 Coinbaseは数年前から日本にも拠点を設けており、上場後の業績次第では日本市場への本格参入も可能性としては高まってくるだろう。なお、年内の上場が噂されている取引所Krakenは、既に日本での営業活動を行なっている。

参照ソース

セーフハーバールールが更新

 米証券取引委員会(SEC)コミッショナーであるHester Peirce氏(通称:クリプトママ)が、自身が提唱していたブロックチェーン業界のセーフハーバールール(特別規定)を一部更新した。

 米国ではPeirce氏によって、独自トークンを発行したプロジェクトは3年以内であれば証券法の規制対象にはならない、といったセーフハーバールールが提案されている。

 現時点で証券ではないと断言されているのはビットコインとイーサリアムだけであり、それ以外のトークンは証券法に抵触する可能性を払拭することはできていない。最近では、XRPが証券に該当するとして販売および管理を独占的に行なっているリップル社がSECに提訴されていた。

 トークンを発行するのに証券法への登録が必要となると、創業直後のベンチャー企業によるイノベーションを阻害する可能性がある。これに対してPeirce氏は同意を示しており、独自のセーフハーバールールを提案していた。

 今回のアップデートでは、トークン発行プロジェクトに3年間の猶予期間を設け、期間内に十分な分散化を完了させつつその後も半年に1度の頻度でレポートを提出すれば、証券法の登録免除規定が適用されるといった項目が追加された。

 現時点でこのセーフハーバールールが正式に適用されたわけではないものの、SEC内でこのような提案が積極的に進められていることは明るい材料として捉えて良いだろう。日本でも特区の設立など規制緩和を真剣に議論してもらいたい。

参照ソース


    Token Safe Harbor Proposal 2.0
    [SEC]

今週の「なぜ」ブロックチェーンにトークンはなぜ必要か

 今週はCoinbaseの上場と米国のセーフハーバールールに関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

ブロックチェーンプロジェクトはトークンがないと始まらない
Web3.0ベンチャーが目指すのはプロジェクトの「解散」
トークンの過剰な規制はブロックチェーンを殺すことになる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

ブロックチェーンプロジェクトにおけるトークンの必要性

 Coinbaseの上場とセーフハーバールールの適用は、2021年の見通し記事でも重要なトピックとして触れていた。Coinbaseの上場は無事に達成されたものの、セーフハーバールールの適用は年内の達成は難しいだろう。

 先述の通り、SECはこれまでにビットコインとイーサリアムにのみを証券ではないと明確化していた。つまり、それ以外のトークンについてはいつSECから訴訟を受けても不思議ではない状態なのである。

 ブロックチェーン事業を行う場合、ネットワークをパブリック型にするかプライベート型にするか選択することになるが、パブリック型の場合には独自のトークンが欠かせない。パブリック型ではネットワークに特定の管理者を設けないため、不特定多数のコンピュータにインセンティブとしてトークンを配布することでノードになってもらう必要があるのだ。

 そもそもこのインセンティブとして誕生したのがビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)であり、これらのブロックチェーンは暗号資産(トークン)無しには使い物にならない。

暗号資産が証券に該当する際の定義

 金融資産が証券に該当するかどうかを判断する場合、Howeyテストと呼ばれる過去の事例が参考にされている。これは、1946年に起訴されたHowey社のケースを元に、金融資産の収益性や資金調達性を判断するものだ。

 暗号資産の場合、これに加えて当該の資産がどのような状態で管理されているかという点が重視される。暗号資産の管理状態が十分に分散化されている場合には、証券には該当しないとの見解だ。

 しかしながら、何を持って十分に分散化されているのかの定義については明確になっておらず、ビットコインやイーサリアムと同程度という解釈をするしかない状況となっている。

 定義が曖昧のままではプロジェクトも安心してイノベーションに取り組むことができないため、Peirce氏はすぐにでもセーフハーバールールの適用をすべきとの主張を繰り返してきたのだ。

 なお証券に該当するかどうかという論点は、昨今話題のNFTにも当てはまる。現状、NFTは暗号資産として定義されておらず、一意である性質上、証券には該当しないとの見方が強くなっているが、その販売方法によっては証券法に抵触する可能性があると指摘されている。

Web3.0ベンチャーの目指すゴール

 Web3.0ベンチャーのゴールは、一般的なIPOやM&Aではなくプロジェクトの「解散」だ。これには、パブリックなブロックチェーンプロジェクトであれば、ある程度まで特定の管理者が開発を進めることであとはコミュニティによって運営されるべきとの思想が前提にある。

 この時、コミュニティを運営するための参加者を増やすにはインセンティブとしてのトークンが不可欠となる。つまり、暗号資産における証券法の明確化は最重要課題なのだ。

 Peirce氏はここまでの理解が進んでいる人物であるため、3年間という期間を設けることでWeb3.0ベンチャーによるイノベーションの創出を促しているのだろう。確かに3年間あれば、十分に分散化された状態にまでプロジェクトを持っていくことができそうだ。これまでに何度も言及してきたが、日本でもこのような柔軟な規制緩和を求めたい。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami