趣味のインターネット地図ウォッチ

訪日外国人の行動を地図上で可視化・分析できる「inbound insight」

 2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催を控えて、訪日外国人向けサービスが注目されている。これらのサービスを成功させるためには、訪日外国人のニーズを的確に把握することが求められるが、そのために有効なツールとして登場したのが、株式会社ナイトレイが提供開始した訪日外国人観光客の行動データ可視化ツール「inbound insight(インバウンドインサイト)」だ。

 inbound insightは、TwitterなどのSNSで公開されているユーザー投稿情報を分析し、地図などを使ってその状況を可視化できるツールで、無料プランと有料の「PROプラン」の2種類を用意している。行動データの解析対象となるのは、Twitterおよび中国のSNS「新浪微博(Weibo)」で公開されたユーザーの投稿情報で、現在は1カ月あたり約5000人の訪日外国人観光客のデータ解析を行える。対象となる国籍は中国、香港、台湾、韓国、タイの5カ国だ。今回はこのツールについて詳しく紹介するとともに、ナイトレイの代表取締役である石川豊氏に話を聞いたので、その模様をお伝えする。

株式会社ナイトレイ代表取締役の石川豊氏

訪日外国人に人気の店をヒートマップで表示

 inbound insightを利用するにあたっては、まず無料プランへの登録が必要となる。登録フォームで氏名やメールアドレス、所属などを入力し、送られてきた確認メールのURLをクリックすれば登録完了だ。無料プランでログインするとヒートマップ(数や量、アクションなどの大小をサーモグラフィーのように円の大きさや色の変化で表した地図)が表示される。

 このヒートマップは、訪日外国人がSNSに投稿した内容の中から、位置情報を抽出して地図上に可視化したもので、円が大きいスポットほど訪日外国人からの投稿数が多く、注目度が高いエリアであることを示している。なお、ヒートマップの背景地図にはOpenStreetMapを使用している。

 ヒートマップの下には、ヒートマップの作成に使ったSNS投稿のユーザー数と、データ件数(投稿件数)、集計期間などの情報が表示されているほか、人気エリアのランキングも載っている。ランキングは全国の順位を見られるほか、都道府県別の順位に切り替えることも可能だ。このほか、訪日外国人の直近3週間の行動量もグラフで表示される。

登録フォーム
ヒートマップ
訪日外国人に人気のエリアが分かる
人気エリアのランキングと直近3週間の行動量

国籍判定や行動ルートを可視化する「PROプラン」

 PROプランでは無料プランの機能に加えて、地図上での行動ルート表示や国籍判定、性別判定、ポイントデータ表示、クチコミ詳細内容表示、投稿写真表示などの機能を利用できる。無料プランの時はヒートマップの上にあるメニューが選択不可となっているが、PROプランに申し込むことでこれらのメニューが操作可能となる。

 国籍判定では、ヒートマップに表示する国籍を中国、香港、台湾、韓国、タイの中から選択可能となり、これによって人気エリアを国別に調べることが可能となる。また、性別に分けて表示することも可能で、「男性」「女性」「性別未解析」の中から選べる。

 さらに、ヒートマップ表示だけでなく、スポットごとの投稿内容(時間、クチコミ、写真、施設名)を細かく表示する「ポイントデータ表示」も可能となる。これにより、人気のエリアや施設をピンポイントに調べることができる。

 ルート表示では、訪日外国人が日本でどのように移動しているかが可視化される。これを見れば、エリア別にどの都市が人気なのかを簡単に調べることができる。

 このほか、PROプランには、リリース当初にはなかった「人気施設集計」というランキングが最近になって追加された。これは訪日外国人がSNSに投稿する頻度の高い施設を集計したランキングで、都道府県ごとに切り替えて表示できる。例えば千葉県のランキングならば、成田空港や東京ディズニーランドなどが上位に来る。また、大阪だと関西国際空港や心斎橋などの有名なスポットの名称が上位に来る。

 このように、PROプランでは無料プランではできなかった細かい分析が可能となる。ただし、集計対象が直近1カ月のデータというのは無料プランと同じだ。それよりも前にさかのぼって調べたい場合や他のデータと組み合わせて分析したい顧客向けには、「inbound insight」のツールを使うのではなく、要望に応じて解析データをCSV形式で提供する「解析データ購入プラン」も用意している。

国籍を中国に限定してヒートマップを表示
国籍をタイに切り替えた状態
人気施設をピンポイントに調べられるポイントデータ表示
訪日外国人の移動経路が分かるルート表示
人気施設集計

日本語のSNS解析技術を生かして短期間で開発

 inbound insightを提供するナイトレイは、2011年に創業したベンチャー企業で、SNSを解析して位置情報が付いた情報を抽出することでGIS(地理情報システム)のデータとして使える「ナイトレイGISメッシュデータ」や、ロケーションベースドデータ(位置情報に基づくデータ)の分析サービスなどを提供してきた。SNS解析というと、一般的には特定の商品やサービス、ブランド、企業などに関する評判を調べるサービスが多いが、ナイトレイの解析サービスは位置情報に関連した情報を取り出せるという点で他社にはない強みを持っており、ユーザーが外出先から投稿した情報を、位置情報が紐付いた効果的なマーケティングデータとして活用できる。

 今回のinbound insightのプロジェクトが立ち上がったのは2015年4月のこと。同社代表取締役の石川豊氏は、プロジェクトを立ち上げた理由について、「『訪日外国人の行動を解析してほしい』という依頼が2014年ごろから増えてきたからです」と語る。

 「お客様からは、『訪日外国人のデータ量は日本人に比べて数は少ないだろうけど、少なくても構わないからぜひ欲しい』と言われました。とにかく訪日外国人については言葉が通じないし、どのようなニーズを持っているのかが全く分からないので、少なくてもいいから何か手がかりになる情報が欲しいとのことでした。もし当社が持つ技術やノウハウが訪日外国人の解析に適用できるのであれば早期に実現できる可能性が高く、マーケティングデータとしての価値やニーズも十分にあると考え、それならばやってみようということでプロジェクトを立ち上げたのです。」

 プロジェクトが発足し、基礎調査や開発が始まったのが4月で、サービスを開始したのは7月。開発期間はわずか3カ月足らずということになるが、このような短期間で開発できたのは、これまで培ってきたSNS分析のノウハウを生かしたことにほかならない。

 「これまでに当社が培ってきた、日本人による日本語の投稿を解析するロジックを、inbound insightにもかなり流用しています。位置情報を扱ってきたノウハウもフル活用しましたし、SNSとして公開されている情報に対してどのようにアプローチし、投稿内容をどのように解釈したら扱いやすい情報となるのか、どういうビジュアライズをすることができるのかというノウハウも反映されています。」

「ナイトレイGISメッシュデータ」には体験版も用意されている

顧客からのフィードバックで「PROプラン」を機能強化

 開発するにあたって苦労した点についても聞いてみた。

 「国籍の判定というのは今まで行ったことがなく、新しいノウハウということで苦労したのですが、それ以前の問題として、訪日している人たちをいかに捕捉するかという点も難しかったです。訪日していない外国語の投稿は膨大にあるので、その中から確実に日本を訪れたことがあって、かつ日本人ではないという人たちを中心に捕捉しなければなりません。データをすべて取るというのは物理的に不可能なので、ある程度、投稿を絞り、その中から必要な投稿だけを集めてくるという作業は、とても大変でした。」

 そのような新しいロジックを作る上で最も重要なのは、「外国人の行動パターンを想像すること」だという。

 「外国人はどこから入国して、入国した後にどこに行く可能性が高いのかということを想像することで、その人が実際に日本に来たことがあるのかどうかを判定するわけです。例えば外国人が日本を訪れる際の入り口となる“空港”は、解析する上で重要なポイントとなります。外国人の行動を想像することで、そのような要素を少しずつ積み上げていくことで開発を進めました。」

 解析の対象となっている中国、香港、台湾、韓国、タイは中国語や韓国語、タイ語など使用言語が異なるが、解析にあたっては日本語に翻訳するといった複雑な処理は行わず、使用している言語や過去の投稿内容、投稿した場所などの情報を参考にしながら、あくまでも機械的に解析を行なっているという。

 同社では、このようなプロセスで解析を行った結果が、本当に実状に即しているかどうかの検証も行っている。都内を中心に、実際に店に赴いて状況を確認したり、地方在住の人にデータを見てもらって、実感に近いかどうかヒアリングを行ったりしている。

 「ヒートマップを見ていただいてヒアリングした結果、『実状に近い』と言われることも多く、人の手を介して修正などを行わなくても、機械的な処理だけで、ある程度、確度の高いデータを作れるという手応えを感じています。」

 今後の抱負については、PROプランのさらなる機能強化を目指すとのこと。

 「現在、無料プランに申し込んでいる方が約600企業で、当初予想の倍くらいの多さで推移しています。無料プランの中で、PROプランの利用を検討している企業に話を聞くと、『この機能があれば利用するよ』といった要望を数多くいただきます。例えば今は時間帯や曜日を指定して解析することができないので、そのような機能があれば、どの時間帯にどのようなニーズがあるのかも分かるし、潜在的にニーズの高い場所や売れる商品を推測することもできます。また、ルート表示でも、特定の人を選んで移動軌跡を確認できます。PROプランには、このようなお客様からのフィードバックを随時、反映していきたいと思います。」

 顧客からのフィードバックにより、今後どのような機能が追加されるのか実に楽しみだ。なお、ナイトレイでは現在、PROプランを試用できるキャンペーンを実施中(8月14日23時59分まで)となっており、これに申し込むことで1週間の試用が可能となる。興味のある方はこのキャンペーンでPROプランを試してみてはいかがだろうか?

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。