地図と位置情報

Google、機械学習で「ストリートビュー」映像から店名・街路名など抽出→地図に反映、駐車場の混雑予想も

 いまやさまざまな分野で“機械学習”の技術が取り入れられつつあるが、Googleが進めているプロジェクトの1つとして、機械学習の地図サービスへの活用がある。同社は3月9日、報道関係者を対象に「現場で役立つ機械学習」と題したセミナーを開催。米国本社よりマップ・ソフトウェア・エンジニアのアンドリュー・ルッキングビル氏がビデオ会議にて登場し、Googleの取り組みについて解説した。

アンドリュー・ルッキングビル氏

映像から街路名や会社名・店名などを抽出する精度を機械学習で向上

 ルッキングビル氏は、AIの技術が「Google マップ」に反映されている例として、ディープラーニング(深層学習)の技術を活用し、「ストリートビュー」の映像から地図に新しい情報を追加する取り組みについて紹介した。

 同氏は、街路の映像から街路ナンバーや街路名、住所、会社名・店名などを抽出するのは大変困難であり、機械にいかに学習させてテキストを抽出するかが課題であると語った。特に、建物に書かれている文字がたとえ読めたとしても、どれが会社名・店名なのかを判別するのは容易ではない。そこで、精度を向上させるための方法として、1つのオブジェクトに対して複数の角度から写した映像を組み合わせて「再帰型ニューラルネットワーク(RNN)」や「正規化(標準化)」といった手法を使うことで精度を向上させていったという。

 このほか、深層学習の「アテンションメカニズム」という技術を使って画像のどの部分が重要かを教え込むことにより、その周辺の情報は会社名ではなく「無視していい」と指示することにより、会社の名前を抽出する精度が向上した。

 ルッキングビル氏は、このようにストリートビューの映像から情報を抽出する取り組みを進めることによって、地図の整備が遅れている国の地図の精度が大幅に向上すると語った。その一例として、2017年にナイジェリアのラゴスで実証実験を行い、街路や住所表記、施設名称などの品質が向上したことを紹介した。手書きの住所表記など、車で通っただけでは認識が難しい要素についてもアルゴリズムで認識させることができたという。

 その結果、ラゴスだけでもストリート名や地名の情報を2万個、住所表記を5万個、会社名・店舗名を10万個増やすことに成功した。実際にデータが追加されたことにより、住所検索で位置を探すことが容易となるなど、地図の整備が遅れている国にとっては非常に重要な技術であると語った。

「ストリートビュー」の映像から住所を抽出
看板から店名や会社名を抽出するのは困難
複数の映像を組み合わせて解析
画面の中でどの部分が重要かを指示することで精度を向上

ユーザーからの声の調査結果をもとに駐車場の混雑度を予測

 ルッキングビル氏はもう1つの取り組みとして、機械学習を活用して駐車スペースの空き具合を予測する技術について紹介した。同氏は、駐車スペースの予測を困難にする要素として「駐車スペースの需要と供給は常に流動的で、空き状況が大きく変動する」「スマートメーターやパーキングメーターのデータに含まれない、違法駐車や特別な許可をもらって駐車している車などの例外が存在する」「駐車場は多層構造などレイアウトが複雑な場合がある」といった点を挙げた。

 これらの課題を踏まえて、ユーザーに対して「駐車場を見つけるのにどれくらい時間がかかったか」とアンケートを行うことで現場の声をフィードバックした上で、機械学習のトレーニングに必要な要素を決定。約20種類の異なる要素をもとにアルゴリズムを構築した。

 例えばユーザーが目的地まで直接運転した場合と、実際にかかった時間を統計処理することで、多数のユーザーが目的地に到着するまでに長い時間をかけている場合は「駐車スペースの確保が困難である」と判断できる。これらの要素をもとに、機械学習モデルとして標準的なロジスティック回帰モデルを採用し、駐車場の混雑状況を予測する。

 この技術を使ってサンフランシスコのデータを使って駐車場の空き具合を予測したところ、1日のうちで駐車場を見つけやすい時間帯と、ほぼ不可能な時間帯が分かった。また、1週間の中でどの曜日が混雑するかもわかった。これにより、ナビゲーションで検索した際に、目的地に到着したあとに駐車場を見つけるのがどれくらい困難かを伝えられるようになったという。同機能は、Google マップのAndroid/iOSアプリ上で2017年に提供開始され、米国25都市をはじめ欧州や南米、アジアなど世界30都市で利用できる。

目的地まで実際にかかった時間を解析して駐車場の混雑度を予測
サンフランシスコのデータ
「Google マップ」アプリで混雑度を表示

本連載「地図と位置情報」では、INTERNET Watchの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、「地図と位置情報」をテーマにした記事を不定期掲載でお届けしています。

片岡 義明

フリーランスライター。ITの中でも特に地図や位置情報に関することを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから測位システム、ナビゲーションデバイス、法人向け地図ソリューション、紙地図、オープンデータなど幅広い地図・位置情報関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「こんなにスゴイ!地図作りの現場」、共著書「位置情報ビッグデータ」「アイデアソンとハッカソンで未来をつくろう」が発売。