中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/11/14~11/21]

ヤフーとLINE、経営統合のまとめと各誌の反応 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. ヤフーとLINE、経営統合のまとめと各誌の反応

 11月18日、ヤフーの親会社であるZホールディングスとLINEが経営統合を発表したことは既報のとおりである。「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ」(INTERNET Watch)という記事の見出しにもあるように、米国や中国のグローバルテックジャイアントの存在への危機感と、それに対して対抗できる勢力となることが趣旨である。ただし、両社が提供しているサービスや子会社の統合、すみ分けなどについては、正式統合後に決定するとし、言及を避けている。

 この日本のIT業界にとってのビッグニュースは各誌が伝えているが、それに対する論評をニュースソースとしてまとめておく。

 両社とも日本におけるデジタルコンテンツやサービスにおける大きなオーディエンスを持ち、技術の研究開発にも積極的に取り組んでいる。しかし、米国のGAFA、中国のBATと呼ばれている国際企業の躍進と事業拡大は単なる業界内の市場シェア、事業規模、時価総額などにとどまらず、将来にわたる優秀な人材確保という企業にとっての存続に関わる問題、国のレベルで言うなら人材の海外流出という問題も生じ得る。両社のシナジーの消費者にとって分かりやすい具体的な姿はこれからとしても、まずはそうした部分から手をつけていかなければ研究開発や顧客獲得のコストは重荷になり続けるという見方からだろう。もちろん、この提携だけで、すぐにGAFAやBATをしのぐことができるとは言わないまでも、少なくとも国際的に影響を持ち、そして先進的な技術開発を進められるという環境づくりとしては意味がありそうだ。

ニュースソース

  • Yahoo!親会社のZホールディングス、ZOZO株式の50.1%取得完了[ケータイWatch
  • ヤフーとLINE、経営統合の発表会見~「日本・アジアから世界をリードするAIテックカンパニーへ」[INTERNET Watch
  • ヤフーとLINE、経営統合へ 記者会見の一問一答まとめ[ITmedia
  • 「ヤフーとLINE首脳の真意は?」衝撃の経営統合会見で語られた5つの重大要素[BUSINESS INSIDER
  • 「孫さんの関与は1回だけというのが真実」とヤフー川邊氏。ヤフー・LINE経営統合会見で経緯を語る[BUSINESS INSIDER
  • Yahoo!×LINE経営統合――質疑で何が語られた? 川邊氏と出澤氏2人のトップの想いとは[ケータイWatch
  • きっかけは米中IT巨人への危機感。ヤフーのラブコールから統合実現[Engadget日本版
  • なぜLINEは“失敗”したか。ヤフーの力を借りて「スーパーアプリ構想」は実現するのか[BUSINESS INSIDER
  • ヤフー・LINE統合合意も残るシナジーへの不安[日経ビジネス
  • ヤフーLINE統合がはらむ課題[ASCII.jp
  • ヤフーとLINEが統合すると? 両社の事業規模まとめ[ITmedia
  • ヤフーとLINEの成り立ちを振り返り、統合の意味と可能性を考える 協議中の「経営統合」で何を目指すのか?[INTERNET Watch
  • ヤフーとLINE統合に見る、GAFAと中国BATへの危機感[ASCII.jp
  • ヤフー川邊社長とLINE出澤社長が“固い”握手--個々だけでは「もう間に合わない」[CNET Japan
  • 仰天統合!孫正義とヤフーがLINEを欲しがるたった1つの理由[現代ビジネス
  • 世界で戦えるAIテックカンパニーを目指す、ヤフーとLINEの経営統合の理由[TechCrunch日本版
  • 米中巨大ITへの「危機感」が背景に、ヤフー・LINEの社長が明かす経営統合の狙い[日経XTECH

2. 9月のフィッシング被害総額4億円超、被害件数は約4倍に

 メールやショートメッセージ(SMS等)を用いたフィッシング(詐欺)が増加していることはここで指摘するまでもないここのところの傾向ではあるが、警察庁が発表したこの9月の不正送金事犯発生状況による急増傾向は看過できない状況である。「インターネットバンキングにおけるフィッシングによる不正送金被害は、9月に入って急増した。月間の被害総額は4億2600万円にも上り、被害件数は436件と報告されている。被害額は前月比約6倍、被害件数は約4倍の増加」(仮想通貨Watch)であり、これに対して金融庁が注意を促す事態となっている。

 昨今のフィッシングの手口は巧妙化していて、それなりにITリテラシーがあると思われる人でも、メールやSMSで届いたメールを何気なくクリックしてしまいがちである。むしろ、そうした人の方が条件反射としてクリックしてしまうのかもしれない。まさに、人間の意識のスキを突いてくるこの手法に対しては、いま一度、認識を新たにし、とりわけ最近の手口についての情報を得ておくことも必要だろう。

ニュースソース

  • ネット銀行で不正送金事案が急増。金融庁が注意喚起 ~9月のフィッシング被害総額4億円超、被害件数は約4倍に[仮想通貨Watch

3. 見えてきた自動運転タクシー

 2022年ごろには自動運転タクシーがお目見えするかもしれない。「KDDI、JapanTaxiなど5社が、自動運転タクシーの実用化に向けて協業すると11月14日に発表した。2020年夏をめどに都内で実証実験を行い、22年度以降の事業化を目指す。タクシーのドライバー不足などを解決する狙い」だという(ITmedia)。

 運転アシストの機能はかなりのレベルにまで到達したが、その先の段階である無人での完全自動化のハードルはまだまだ高いという認識が一般的ではないかと思われるが、まずは東京都内に限定はされるものの、各分野の大手企業がマイルストーンを表明した上での計画が発表されたことからにわかに期待も高まる。

 11月8日にキックオフの会合が行われた東京都の「TOKYO Data Highway 」構想(東京都)も、まさにこうした5Gのインフラ整備のために都の資産の開放を推進するもので、実現する上でのプラスになるだろう。

ニュースソース

  • 自動運転タクシーの実用化に向け協業、KDDIら5社 20年夏に都内で実証実験[ITmedia
  • TOKYO Data Highway基本戦略[東京都

4. 講談社が「はるか夢の址」に勝訴――運営者に約1億6000万円の支払い命令

 11月18日、講談社は海賊版リーチサイト「はるか夢の址」の運営者に対し損害賠償を求めて提起していた裁判において勝訴したと発表した。大阪地裁は同社の主張を認めて、運営者ら3人に対し総額約1億6000万円の支払いを命じた(ITmedia)。

 はるか夢の趾は不正アップロードされた漫画の海賊版ファイルへのリンクを掲載したサイトで、2016年から2017年ごろに人気作品68点が読めるような状態になっていた。

 なお、刑事裁判としては、今年1月17日に大阪地裁が主犯格の男3人に対してそれぞれ、懲役2年4月~3年6月の実刑判決を出している(ITmedia)。

 当局による取り締まりや業界団体による活動、そしてサイトブロッキングなどの法制化の検討が大きく報じられたこともあり、すでに「大手」と呼ばれるようなリーチサイトや海賊版サイトは見当たらなくなり、その結果、出版各社の業績も回復の傾向にある。それに加え、今回の判決により、さらに抑止効果は高まったと考えられる。しかし、今後も何らかの想定されない手法でこうした違法・脱法行為が行われる可能性が否定できない。継続した多方面からの検討と対策は必要だ。

ニュースソース

  • 講談社が「はるか夢の址」に勝訴 大阪地裁、運営者に約1億6000万円の支払い命じる[ITmedia

5. 次の論点はデジタルヘルスとプライバシー

 米国ではデジタルヘルスケアがブームであると報じられている。東洋経済オンラインの記事によれば「公的皆保険制度をもたなかったアメリカでは、医療における技術革新には力を入れてきた。デジタルヘルスは、スマートフォン、インターネット、AIの技術を利用し、結果的に、消費者の健康意識や健康にまつわる行動を改善することによって健康を増進し、患者がよりよい医療サービスを受けられるようにするものである」(東洋経済オンライン)という。

 そのようななか、グーグルが大手総合病院と提携をし、膨大な医療データへのアクセスを行うという(WIRED日本版)。この提携から新たな医学的な知見が生み出される可能性もあるが、プライバシーに対する懸念も指摘される。もちろん、建前上では医療データは匿名化され、グーグルのサービスのデータと紐付けたりすることは禁じられてはいるものの不安に思う人も皆無ではないだろう。

 また、グーグルはウェラブルデバイスであるアクティビティトラッカー「Fitbit」を発売するフィットビットを買収することも発表されている。これもグーグルがユーザーの生体情報を収集するという意味において懸念が呈されている(WIRED日本版)。

 論点としては、データから新たな知見が生まれ、健康な生活が営めることは望ましいことだが、そうして収集されたデータがグーグルという巨大企業により、ビジネス化されるという点での社会的な納得が得られるかどうかという点だろう。

ニュースソース

  • グーグルと大手総合病院の提携がもたらすのは、医療の進歩かプライヴァシーの破綻か[WIRED日本版
  • グーグルによるFitbit買収が、「ウェアラブルの未来」を左右する[WIRED日本版
  • 米国がデジタルヘルスブームでも直面する課題[東洋経済オンライン

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。