中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2019/11/21~11/28]
ウェブの発明者ティム・バーナーズ=リー氏が「Contract for Web」9原則を発表 ほか
2019年11月29日 18:00
1. ウェブの発明者ティム・バーナーズ=リー氏が「Contract for Web」9原則を発表
インターネット情報の情報流通基盤であるワールドワイドウェブ(WWW)を発明したことで知られるティム・バーナーズ=リー氏が昨今のウェブを取り巻く課題を解決することを目的として「Contract for Web(ウェブのための契約書)」という名前の9原則を発表した(ITmedia)。この9月に草案として発表されていたが、今回はフランスやドイツの政府、そしてグーグル、フェイスブック、マイクロソフトなどの大手IT企業らがエンドースすることで正式版として発表された。ただし、残念ながらエンドースする企業の一覧にはアップルとアマゾンの名前は見えない。
ティム・バーナーズ=リー氏はこれまでもウェブが発明されたとする記念日などに、この問題について何らかの解決策が必要だとということを表明してきた。例えば、2019年3月には「この30年でウェブが『堕落している』」とまで厳しい指摘をしている(INTERNET Watch)。具体的に言うと、「犯罪やハッキング行為などの悪意ある攻撃行為、先導的な見出しなどでクリックを誘って利潤を得るという仕組み、ウェブ上でのゆがめられた言論による悪影響」などを指している。
こうした点を解決するために、一つとして、今回発表した「Contract for Web」という理念を世界で共有しようということ、そしてもう一つは個人情報の管理を事業者からユーザーに取り戻すために設計されたオープンな技術「Solid(ソリッド)」の提案である(ITmedia)。
Contract for Webにうたわれている9原則はいずれも「あたりまえ」とも捉えられるが、地球上に生じているさまざまな格差やインターネット上で行われる経済活動を踏まえると、解決することはなかなか困難な問題とも言えるかもしれない。しかし、こうした課題を人類が共有し、少しずつでも解決に向けて動き出すことこそが重要なことだ。さらに言うなら、こういう課題が人類の将来に影響を及ぼすというほどまでにこのインフラは重要性を増しているということでもある。
ニュースソース
- ティム・バーナーズ=リー氏、Webの“誤用”を阻止する「Contract for Web」発表 Google、Facebookらがサポート[ITmedia]
2. Cookie(クッキー)規制の議論が始まりつつある
ウェブでの閲覧履歴を取得したりするために利用されている「Cookie(クッキー)」に対して、公正取引委員会が規制を検討しているという趣旨の記事が朝日新聞に掲載されたのち、ウェブ広告の企業をはじめとして、さまざまな懸念の声が出てきた。今週は「政府の個人情報保護委員会は個人情報保護法を見直し、企業が個人データを分析する際の新ルールを整える」という記事が日本経済新聞に掲載された(日本経済新聞)。
いまのインターネット経済は広告ビジネスによって成り立っていることから、Cookieのような仕組みがなければ、ユーザーの関心を特定することで広告効果を高めることを期待する広告商品などを実現することが困難になるからである。一方、「リクナビ事件」のように、ユーザーの知らないところでその人の閲覧履歴が取得され、ユーザーが意図していない目的に利用されてしまうという事件も発生している(日経XTECH)。そして、海外に目を転じると、欧州はCookieの利用に対しては厳しい規制が設けられ、ウェブ上でもくどいくらいにCookieを使うことへの同意を求められるようになってきている。
そもそも、グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの大手プラットフォーマーは個人情報を集積することから、莫大な収益を上げるビジネスを展開している。さらには、そうした技術開発から得られた知見などを考えると、即座にそれが悪徳であると決めつけることはできない。これからは、いかにユーザーとのあいだでこうしたことに対する適切なコンセンサス(合意形成)が得られるかということになるだろう。しかし、そのためにはインターネットの仕組みは難しくなりすぎたかもしれない。専門知識がなければ、Cookieという仕組みそのものについても、大手IT企業のビジネスモデルについても理解することは困難になっているからだ。前項でも述べたように、ティム・バーナーズ=リー氏が懸念するような「堕落」(INTERNET Watch)も、そうした合意形成が不足していることから生じる亀裂とも言えるのではないか。ある程度は技術的な要素を覆い隠してしまったとしても、より多くの人が判断可能な市場のルールによって規律を設ける必要性も高まっている時代になったのは致し方ないのかもしれない。
3. 実用化が進む画像認識技術
画像認識技術の発展はめざましいものがある。すでに空港における国際線の入出国手続きにおいては顔認証による本人確認が行われている。そして、そうしたこうした技術はウェブサービスとして、広く利用できるようなかたちで提供され始めている(家電Watch)。
そして、今度は大阪メトロで顔認証による自動改札機の試験設置が始まった(Engadget日本版)。また、ソフトバンク子会社である日本コンピュータビジョンは顔認証技術を活用したオフィスビルの入退室システム「JCV Total Building Access Solution」の提供を始めた(ITmedia)と報じられている。首都圏の鉄道の改札では、朝晩の通勤時間の混雑緩和に有効と思われるし、大規模オフィスビルの出社時の入館ラッシュの行列の緩和も期待されるところだろう。さらに、画像から不振行動をする人を検出したり(クラウドWatch)できるようになったり、音声や画像から「オレオレ詐欺」を検出するという技術(ITmedia)も報じられていて、こちらもかなり実用的なレベルになってきたようだ。
米国では顔認識技術とプライバシーの問題が指摘され、規制なども行われ始めているが、それらを先行事例としながら、同時に社会的なルール作りも急ぐべきだろう。
ニュースソース
- パナソニック、空港の出入国審査でも使われる「顔認証技術」を、完全従量制のAPI提供へ[家電Watch]
- 顔パスの自動改札機、大阪メトロが試験設置[Engadget日本版]
- 顔認証でビルに“顔パス入館” 精度99%超 「SNOW」のSenseTimeが技術協力[ITmedia]
- 富士通研究所、不審行動など人のさまざまなな行動を映像から認識するAI技術を開発[クラウドWatch]
- AIがオレオレ詐欺を防ぐ 音声と画像を分析して判定[ITmedia]
4. オタク市場規模は堅調に拡大、背景には動画配信サービスの拡大
今年も矢野経済研究所は「2019 クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究」の調査結果を発表した。これはアニメやフィギュアをはじめとするいわゆる「オタク」市場について調査を実施し、各分野別の市場規模などを算出したもので、他には類を見ないユニークな調査と言える。
それによると、オタク市場のうち、「アニメ市場とアイドル市場は好調に推移している」とし、さらに2019年度も成長を続ける見込みだという。一方、コスプレ市場やフィギュア市場は縮小傾向にあるとしている。これについて同社の分析では、調査結果のなかで、アニメ市場が伸びた背景としては、ネットフリックスの動画配信サービスにおけるオリジナルアニメ配信の本格進出や国内外での映像配信事業が誇張に推移し、拡大傾向にあるということを指摘(矢野経済研究所)している。
5. インターネット上の記録や記憶はどう保持するのか
Twitter社が休眠アカウントを削除する方針を示した(ITmedia)。休眠アカウント、つまり長期間ログインの形跡がないアカウントは自動的に削除をするというわけだ。そこで問題となるのが「故人アカウント」である(ITmedia)。さらには、過去のアニメ作品などの公式アカウントがどうなるのかなどと、その影響が及ぶ範囲を懸念する声が広がった。決して更新が途絶えたからその価値が消滅したということではなく、記録や記憶としての価値をどう考えるのかということが大きな議論となった。
そうした反響を踏まえ、Twitter社では、当面、休眠アカウントの削除は行わないとする発表(CNET)をしたが、今後、他のサービスも含め、こうした「休眠アカウント」の扱いをどうするのか、さらにはやむを得ず事業から撤退するような事態になったきサービスの場合、そこにあるアカウントの保持はどうするのかなども未解決の課題であり、今後も折に触れて議論は継続すべきだろう。