中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2019/12/5~12/12]

GAFAやBATに並ぶ第三軸を目指す――「Beyond AI 研究所」設立 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. 改めて問われる情報管理体制

 公的機関の情報管理の事件が続いている。1つは神奈川県庁の使用済みハードディスクの物理的な破壊による情報廃棄が行われずに転売された事件。もう1つは自治体向けIaaS「Jip-Base」での障害による一部地域におけるシステムダウンだ。いずれの場合も、住民の生活に直結するものであり、さまざまな意味で今後の懸念点である。

 いずれの事件も、詳細はこれからさらに明らかになると思われるが、前者に関しては、専門の情報廃棄業者へ廃棄を委託したにもかかわらず、その社員がハードディスクを持ち出したというずさんな管理体制が指摘されている。もちろん、その責任の多くは情報廃棄事業者にあるが、監督責任は丸投げ体質の発注者側にもあるといえよう。今後は、ハードディスクを破壊するための機器をシュレッダーのように役所内部に持つということも選択肢として考えるべきなのか。

 また、自治体向けIaaSの障害により、一部ではデータが消失したのではないかとの指摘もあったが、それは事業者であるNTTデータ傘下の日本電子計算によって否定されていて、現在も全面復旧に向けた作業が行われているとしている。いずにしても、まずは情報が消失していないのであれば不幸中の幸か。コンピューターシステムに障害はつきものであり、それを完全になくすことに全力を注ぐよりも、こうしたときに速やかな復旧ができる体制とはどうあるべきかということが今後の課題か。

ニュースソース

  • 個人情報が保存された神奈川県庁のHDD計54TB、転売される 処理会社の従業員が横領[ITmedia
  • 自治体IaaSの障害、全面復旧は週明けに 「データ全消失」のうわさは否定[ITmedia

2. GAFAやBATに並ぶ第三軸を目指す――「Beyond AI 研究所」設立

 ソフトバンクと東京大学は、AIに関する研究所「Beyond AI 研究所」を設立し、そこでの研究成果の事業化に向けた取り組みをすること関する協定を締結した。ソフトバンクによれば、今後10年間で200億円の投資を行い、研究を事業化することで収益を生み、新たな研究や事業にリターンするエコシステムの構築を目指すとしている(ケータイWatch)。

 これにあわせて、ソフトバンクグループの孫正義社長と中国アリババの創業者のジャック・マー氏が登壇するイベントが開かれたことが各メディアで大きく取り上げられている。その場に置いて、ジャック・マー氏は「人工知能(AI)の発展が人の生活を劇的に変える」(日本経済新聞)と指摘し、孫正義氏は「日本企業は『(物体としての)モノを作らないと立派な企業ではない』という思い込みによって情報革命に後ろ向きになり、AI開発競争でも蚊帳の外になった」(ITmedia)と述べた。そして、孫正義氏は「向こう10年間で引き続きもっともっとこの(AI)分野に投資していく」と意欲を示している(ロイター)。

 急速に進歩しつつある情報通信技術の分野において、米国のGAFAや中国のBATなどと呼ばれる国際的な大企業群と対抗でき第三軸となる事業を生み出すことが目標といえよう。

ニュースソース

  • ソフトバンクと東大、「Beyond AI 研究所」設立へ向けて協定締結[ケータイWatch
  • 日本がAI後進国なのは“モノづくり至上主義”のせい――SBG孫社長が指摘 東大とタッグで挽回目指す[ITmedia
  • 「AIで週3日、3時間働く社会に」 ジャック・マー氏[日本経済新聞
  • AI分野に引き続き投資、世界は継続的革命を必要=孫ソフトバンクG社長[ロイター
  • 孫正義氏とアリババ馬氏、CEOのあるべき姿を議論[日経XTECH
  • 孫正義社長 アリババ創業者と対談「若い起業家を支援」[NHK
  • 「投資先を日本につくる」、ソフトバンクが東大とAI研究で組んだ理由[日経XTECH

3. 「デジタルニューディール」に向けた2019年度補正予算

 産経新聞が報じたところによれば、政府は令和元年度補正予算案として「人工知能(AI)や次世代通信規格「5G」の導入を進め、経済成長を目指す『デジタル・ニューディール』の関連予算として9550億円超を計上する方針を固めた」とのことだ(産経新聞)。その内訳は、学校のICT(情報通信技術)化に2318億円、中小企業のIT化支援などに3090億円、若手研究者に対する支援として500億円、ポスト「5G」を見据えた情報通信基盤強化に1100億円、スーパーコンピューター「富岳」の開発に150億円、量子研究拠点の整備に125億円としている。

 これまでも報通信技術分野では、米国や中国に後れをとっていると指摘されてきたところだが、国によるこうした予算措置のほか、ソフトバンクグループの投資ファンドによる積極投資などを背景として、この分野の研究や産業を一気に成長軌道に乗せ、国際的なリーダーシップを握れる人や企業が出てきてほしいところだ。

ニュースソース

  • AI・5G促進に補正予算1兆円計上へ 「デジタル・ニューディール」でICT化や技術開発を強化[産経新聞

4. 鉄道の改札システム技術が次のフェーズへ

 首都圏での電車の改札といえば、非接触型ICカードが当たり前かと感じていたが、新たなフェーズを迎えそうだ。

 1つは顔認証による改札機だ(ITmedia)。改札で、乗客がスマートフォンやカードなどを取り出す手間がなくなるという反面、別のテレビニュースでの映像を見る限り、マスクやメガネなどがあると精度が落ちるようでもある。実証実験なので、これからの改良も視野にはあるはずなので、いずれはこうした問題も解決されるに違いない。

 また、QRコードを使う改札システムも進んでいるようだ。すでに非接触型ICカードが普及したなかで、新たにQRコードを使う意味は「磁気切符の代替」ということのようだ(Impress Watch)。つまり、いまでも磁気切符は利用されていて、さまざまな理由から100%の撤廃は困難だということだ。そこで、磁気切符をQRコードが印刷されている切符へと移行することで、改札機器(ハードウェア)を単純化でき、そのメンテナンスコストも削減できるというメリットがあるというわけだ。こういう点は非接触ICカードに慣れている一般利用者からは見逃されがちなポイントで、現実の課題を知れば決して後退ではない。

ニュースソース

  • 顔パスできる改札機公開 大阪メトロ[ITmedia
  • JR東日本がQRコード改札を検討する理由。QR採用は退化じゃない[Impress Watch

5. 2019年から2020年へ

 本日がこのコラムの年内最後の更新となる。次回は1月6日(月)に年内の残りのニュースのまとめ、10日(金)から新年おニュースの更新を予定している。

 なお、年始の2020年1月6日からは米国ラスベガスで「CES 2020」が開催される予定になっている。年始から新たなデジタルテクノロジーの動きが見られると思われる。一方、毎年、CESに続いて行われていたデトロイトの北米国際自動車ショー(NAIASオフィシャルページ)は6月開催に変更されている。自動車のIT化とともに、メーカーがCESへ出典するケースが増えていることから、開催時期をずらしたとされている。こうしたことも最近の産業動向を象徴している。

ニュースソース

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。