中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2020/7/16~7/30]

CBDCに向け日銀が本格的な動きを開始 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. CBDCに向け日銀が本格的な動きを開始

 中央銀行が発行するデジタル通貨(CBDC)、いわゆる法定デジタル通貨の実証実験が日本でも始まる。

 フェイスブックが主導するリブラ構想の発表や中国の積極的な取り組みについてはこれまでも報じられてきたところだが、各国の金融担当大臣や中央銀行は慎重な姿勢を示してきた。しかし、ここにきて日本銀行が「デジタル円」の研究を深める計画だと報じられている(朝日新聞デジタル)。記事によれば、具体的な発行計画は示していないものの、決済機構局内に約10人で構成されるデジタル通貨グループを設けて「準備のステージから一段レベルを引き上げて検討を進める」(木村武決済機構局長)と述べている。

 また、7月22日にはオンラインシンポジウム「デジタル通貨と決済システムの未来」が開催された(coindesk)。日銀担当者や研究者らがパネルディスカッションにおいて「デジタル通貨発行を考えたときの課題、問題点、そもそもの必要性などについて」さまざまな観点からの議論がなされたことが報じられている。

 さまざまな場面で議論が進んだこともあり、国際的なCBDCに対する理解も深まり、さらには取り組みに対する各国での合意もとれつつあるなか、新型コロナウイルスの感染拡大などの社会的な背景も重なり、さまざまな動きが従来とは変わらざるを得ない状況下において、いよいよ具体的なデジタル通貨への取り組みが始まったといえよう。

ニュースソース

  • 日銀・金融庁関係者らが「デジタル通貨と決済システムの未来」を議論[coindesk
  • 中央銀行デジタル通貨、日本銀行が実証実験本格開始へ[朝日新聞デジタル

2. リツイートによる写真のトリミングは著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害

 7月21日、最高裁判所第三小法廷はリツイート機能での著作物の扱いについての裁判で、Twitter社の上告を棄却したことから「著作物の無断投稿をTwitterの現行仕様のままリツイートすると、リツイートしたユーザーも著作者人格権を侵害してしまう可能性が出てきた」(CNET Japan)と報じられている。記事によれば、オリジナルの著作物(写真)に記載されている「転載厳禁」という表記と写真家の著作権表記がTwitterの仕様によりトリミングされ、結果的にこれらの情報が切り落とされた状態でタイムラインに表示された。さらにそれを別の人がリツイートした場合にでも同じ状態で拡散されてしまうことが著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するかどうかが争点の1つだったとされている。

 こうした問題を回避するためには、ユーザーはツイートやリツイートしようとしているオリジナル画像の著作者の同意確認について留意することはもちろんのこと、Twitter社でも画像の扱いに関する仕様を変更してトリミングされないように(同一性が保持されるように)する対応も必要になると思われる。なお、Twitter Japan社では「コメントを差し控える」と回答しているとしていると報じられている。

ニュースソース

  • 無断投稿をリツイートすると著作者人格権の侵害に--最高裁、Twitterの上告を棄却[CNET Japan

3. 新型コロナウイルス対策:接触確認アプリとテレワークの動向

 新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)のダウンロード数は7月28日17時時点で888万人になった(ケータイWatch)。陽性報告は8件増えて63件となった。また、千葉県で7月29日に新たに感染が確認された49人のうちの1人が接触確認アプリで陽性者と接触していたと分かり、検査を受けた結果、感染が確認されたと報じられている(テレ朝news)。まだまだ目標のインストール数には達していないが、こうした事例が広く知られることで、接触確認アプリの利用者の増加に結び付いてもらいたい。

 そして、7月26日には西村康稔経済再生担当大臣は経済界に対し「テレワーク70%・時差通勤」「接触確認アプリの導入促進」などをあらためて要請した。テレワークについては「(コロナ禍前に)後戻りすることなく、時差出勤と合わせて多様な働き方を維持、推進してほしい」と呼び掛けた(ITmedia)。

 ウィズコロナ時代に陽性者の抑制と経済活動の継続をいかに両立させるかという課題に対しては、緊急事態宣言以前(コロナ以前)に戻るのではなく、これまでも行ってきたさまざまな工夫や対策を今後も積み上げていくことが重要だろう。

ニュースソース

  • 新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」、DL数は18万人増の888万人/陽性登録は63件[ケータイWatch
  • 接触確認アプリ「COCOA」を通じて感染確認[テレ朝news
  • 「テレワーク7割の推進を」西村大臣が経済界に再要請 時差通勤や接触確認アプリの活用も[ITmedia

4. 新型コロナウイルスによる外出自粛とコンテンツ市場

 新型コロナウイルスの感染拡大により、各国がロックダウンや外出自粛を行ってきた。その影響はデジタルコンテンツの消費動向にはっきりと現れて始めている。

 動画配信の米ネットフリックス社の2020年第2四半期(4月~6月)の決算では、売上高が前年同期比25%増の61億4828万ドル(約6600億円)、純利益は約2.7倍の7億2019万ドルと、売上高と純利益ともに過去最高を記録した。また、有料会員数は6%増の1億9295万人になった(ITmedia)。

 音楽配信のスポティファイ社の2020年度第2四半期(4月~6月)決算では、売上高は13%増の18億8900ユーロだった一方、損失は3億5600万ユーロとなった。また、有料会員数が27%増加して1億3800万人に達したと報じられている(CNET Japan)。

 電子出版では米国出版社協会(AAP)が2020年5月の統計を発表した。それによれば、電子書籍の売上は前年同月比39.2%の増加となり、1月から5月までの累計でも対前年同期比で7.3%の増加となったとしている。さらに、オーディオブックのダウンロードによる売上は対前年同月比22%の増加となり、1月から5月までの累積でも対前年度期比で15.8%の増加となったとしている(カレントアウェアネス)。

 こうした動きは日本でも現れている。出版科学研究所の発表によれば、2020年上半期の国内出版物の売上は電子出版が対前年比で28.4%上回る大幅な伸びとなったという。また、プリント版の売上も伸びているという(NHK)。この期間にヒット作があったことに加え、在宅時間の増加が要因と分析をしている。「新しい日常」におけるコンテンツ消費スタイルを考えると音楽や動画の成長はある意味で想定内ともいえるが、加えて、日本の出版業界が縮小傾向から脱する契機となることも期待したいところだ。

ニュースソース

  • Netflix決算は過去最高の増収増益だが有料会員数増加率は鈍化[ITmedia
  • Spotify、有料会員数は1億3800万人に--総会員数は3億人に迫る[CNET Japan
  • 上半期の出版物売り上げ 電子出版28%増 在宅時間増えたことも[NHK
  • 米国出版協会(AAP)、2020年5月期の参加出版社の収益を公表:出版業界全体としては前年同期比12.1%減の約10億ドル、電子書籍・オーディオブックの収益は増加[カレントアウェアネス

5. 国内の消費者向け電子商取引市場規模は19.4兆円(前年比7.65%増)、EC化率は6.76%(前年比0.54ポイント増)

 7月22日、経済産業省は令和元年の日本国内の消費者向け電子商取引市場規模が19.4兆円と対前年比7.65%増になったと発表した。また、全ての消費者向け物販系商取引金額(商取引市場規模)に対する、消費者向け物販系電子商取引市場規模(EC化率)は6.76%で(対前年比0.54ポイント増)であることもあわせて発表している(経済産業省)。

 この消費者向け電子商取引の内訳では、物販系分野が10兆515億円、旅行、飲食、チケット販売などのサービス系分野が7兆1672億円、電子出版、音楽や動画の配信、オンラインゲームなどのデジタル系分野が2兆1422億円となっていて、それぞれの分野で伸びている。

 注目点はEC化率で、2010年には2.84%だったが、この9年間で6.76%にまで順調に拡大をした。EC化率が高い分野や事務用品(41.75%)、文房具、書籍、映像・音楽ソフト(34.18%)、生活家電、AV機器、PC・周辺機器(32.75%)となっている。一方、EC化率の低いジャンルは今後の「伸びしろ」として、各社が新たに狙っている分野ともいえよう。

 本年度は新型コロナウイルス対策のための外出自粛が求められたことなどもあり、さらに電子商取引の市場規模とEC化率の増加が見込まれる。とりわけ食品や飲料やデジタル系分野(電子出版や音楽・動画配信、ゲーム)などが大きく成長に貢献しそうだ。

ニュースソース

  • 電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました[経済産業省

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。