中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2023/3/16~3/22]

いよいよ対話型AIが記事を書き始めた ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. いよいよ対話型AIが記事を書き始めた

 この技術が知られるようになってから、文章を書く人の仕事(の一部)を代替するだろうとは予測していた。論文では事例が報告されていたが、いよいよ商用メディアでも実用化の可能性が見えてきた。

 ゲーム媒体「電ファミ」はGPT-4の試験運用を始め、「『電ファミニコゲーマー』が新たなニュースライターとして、GPT-4アーキテクチャをベースにした人工知能である私、ChatGPTを起用することになりました! 3月16日より試験的に運用を開始しています」と宣言した(ITmedia)。

 ITmediaの記者もいろいろな試みをしている。それぞれが「もう少しで本格的な実用域にある」という感想を持っているようだ。なかでも「超長文をChatGPTに読ませる方法」が面白い(ITmedia)。早くも使いこなしの技術によってその成果が大きく変わるということを実証している。単に質問を投げ掛けているだけではだめだ。

 一般誌でも試している人がいる。「AERA」2023年3月20日号では「AI記者・ChatGPT」が“執筆”した記事を紹介している(AERAdot)。ビジネス誌では「日経ビジネス」の編集長がコラム「編集長の視点」を代筆させている(日経ビジネス)。AIの出力に「意外性」や「面白み」はないかもしれないし、そもそも使い手がAIに与える課題設定をどうするかによっても出力は異なるのだろうが、ついにここまできたかというのは共通した感想ではないか。

ニュースソース

  • 「ニュースライターとしてChatGPTを採用します」 ゲーム媒体「電ファミ」がGPT-4の試験運用はじめる[ITmedia
  • ChatGPTはどこまで“使える”ツールなのか いろいろ質問してみて分かったこと[ITmedia
  • GPT-4は記者の仕事を奪うのか? ITmedia NEWSの記事を自動生成してみた[ITmedia
  • ヒエッ! GPT-4がスゴすぎて、「AIで仕事がなくなる」不安がいよいよリアルに[ITmedia
  • GPT-4にGPT-4の発表を要約させてみた 人間よりも良い記事になるか? 超長文をChatGPTに読ませる方法も[ITmedia
  • 「GPT」に恋をする? AIに恋愛感情を抱きやすい4つの特徴を“ChatGPT記者”が執筆![AERAdot
  • AIに代筆させてみました[日経ビジネス

2. 各社から続々とリリースされる対話型AIシステム

 対話型AIはChatGPTにとどまらない。

 出遅れが指摘されていたグーグルも「Bard」を発表した(Impress Watch)。「Google検索の補完的な体験」と位置付けている。ただし「米国と英国からスタートし、その後時間をかけて多くの国や言語に拡大する。現時点では日本からは登録できない」というのはちょっと残念。

 中国インターネット検索最大手の百度も対話型AI「文心一言(アーニーボット)」を発表した(ITmedia)。この分野でも米中の競争が激しくなるとみられる。ただし、当初の市場からの評価は思わしくないようだ。技術的な意味でも、国際関係的な意味でも、今後の進展には注目だ。

 OpenAIの元社員だったDario Amodei氏とDaniela Amodei氏が2021年に創業したスタートアップAnthropicは、グーグルも3億ドルの出資をしたと伝えられていて、OpenAIの対抗馬の1つとみられている。同社の対話型AI「Claude」は要約の提供、質問への回答、文章作成の支援、コードの生成などが可能とされている(The Bridge)。最大の特徴は「正直で無害」で「自己完結を目指すためにインターネットへのアクセスがない」というところか。

 テキストのみならず、画像の生成にも進展がある。

 アドビは画像生成AI「Firefly」のベータ版をリリースした(CNET Japan)。テキストでの指示で画像を生成する。今後、「Creative Cloud」「Document Cloud」「Experience Cloud」「Adobe Express」に組み込む予定としている。

 マイクロソフトもテキストだけでなく、画像生成AI「Bing Image Creator」のプレビュー版を公開した(ITmedia)。現在のところ英語での利用となる。

 この分野では先駆けである「Midjourney」も最新版「V5」をコミュニティ内でテストを開始した(PC Watch)。

 さらに、「Stable Diffusion」の開発に関与したRunway Researchはテキストからビデオクリップを生成する「Gen-2」を公開している(Gigazine)。

 このように競争が激化しているので、情報を追うだけで大変なのだが、こうした切磋琢磨からより良いサービスが生まれると期待したい。

ニュースソース

  • Google、会話型AI「Bard」の登録を開始。「検索の補完」へ[Impress Watch
  • Baidu、中国版「ChatGPT」を発表 AIも米中競争激化[ITmedia
  • ChatGPTにライバル、元OpenAI社員のAnthropicが対話型AI「Claude」公開ーーChatGPTよりも正直で無害なAIを目指す[The Bridge
  • アドビ、画像生成AI「Firefly」を発表--「Creative Cloud」などに搭載へ[CNET Japan
  • キーワードを入れると「画像」が完成! Microsoftが「Bing Image Creator」をプレビュー公開 OpenAIの「新世代DALL-E」を活用[ITmedia
  • テキストから画像を自動生成するAI「Midjourney V5」がテスト開始[PC Watch
  • テキストから動画を生成できるAI「Runway Gen 2」登場、ジェネレーティブAIの主戦場はついに映像へ[Gigazine

3. マイクロソフトが「Copilot」を発表

 マイクロソフトがいよいよOfficeツールに対話型AIを導入する。「Microsoft 365 Copilot」を発表した(ケータイWatch)。Officeアプリである「Word」「Excel」「PowerPoint」に組み込まれるほか、「Business Chat」がビジネスユーザー向けに提供される。多くの人が日常的に使うツールに導入される意味は大きい。これまでよりも生産性が高まることが期待できる。もちろん、使う人のノウハウも必要とされるだろう。

 リンクトインでもAIによる文章作成アシスタントを導入した(ZDnet Japan)。「ユーザーがプロフィールの『自己紹介』や『ヘッドライン』を作成するのを支援する」という機能。ビジネス上、ユーザーが自身をアピールするうえで重要だが、難しい部分をサポートする。

ニュースソース

  • 「Microsoft 365 Copilot」発表、AIが返信メール作成やWeb会議の内容を自動まとめ[ケータイWatch
  • あらゆる製品にAI搭載するマイクロソフト Azureにも「GPT-4」[Impress Watch
  • 「LinkedIn」にOpenAIの「GPT」を活用した新機能--プロフィールと求人情報の作成を支援[ZDnet Japan

4. AIが自動生成したコンテンツは原則、著作権が認められない――米国著作権局が発表

 米国著作権局はAIで生成した画像の著作権登録について、ガイドラインを発表した(ITmedia)。

 「AIが自動生成したコンテンツは原則、著作権が認められないが、AIと人間が協働したコンテンツで、人間の創造力が反映された部分には著作権の保護が及ぶ」としたうえで、登録申請をする際には「『AIが自動生成した部分』と『人間が創作した部分』を分けて明記する」ことが必要だという。

 「人間の創造力が反映された部分」という解釈はそれなりに難しいところだ。おそらく、狭義に捉えた「AI出力のコピペは認めない」という意味ではないかと推測するが、対話型AIでは質問の与え方で出力も異なるとするなら、課題を設定した段階で「人間の創造力」が生じているようにも思う。この議論は今後も続くだろうし、技術の変化で解釈も流動的だ。

ニュースソース

  • 「AIが自動生成=著作権なし」「人間の創作=著作権あり」 米著作権局、AI生成コンテンツの登録ガイドライン公表[ITmedia

5. AIを超え、人としての挑戦する課題

 富山県立大学の下山勲学長は3月18日に開催した同大学の学位記授与式で、ChatGPTが作成した式辞を読み上げた(ITmedia)。その意図としては、AIに奪われる人間の仕事について論じた論文「雇用の未来」を引いて、「歴史的・世界的に初めて挑戦する課題、誰も挑戦したことがない課題に挑戦し、解決してもらえると期待している」と述べることだったと伝えられている。

 言うまでもないことだが、単に式辞の原稿が楽に生成できたということではない。ここにきて人に求められる能力や人の持つ目指すべき価値観が変わる可能性があるということだろう。どのような式辞だったかはニュースソースをぜひ参照してほしい。

ニュースソース

  • 卒業式の式辞をChatGPTで作成、富山県立大の学長が実践 その内容は?[ITmedia
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。