D for Good! by Impress Sustainable Lab.
「インターネット遮断」の実態――3年連続で過去最多、手法も高度化
Access Now年次レポートの概要と、アフガニスタン・イランの事例、国際社会の反応
2026年4月24日 06:00
政府が意図的にインターネットを遮断する動きが、世界各地で広がっている。Access Nowが公表した最新の年次レポートは、2025年も遮断件数が過去最多を更新し、年間を通じて遮断がゼロだった日は1日もなかったことを明らかにした。本稿では、レポートの概要に加え、アフガニスタンやイランの事例、国際社会の動きを通じて、その実態を整理する。
365日、インターネット遮断が途切れなかった年
国際デジタル人権団体のAccess Nowが2026年3月31日に公表した最新の年次レポート『Rising repression meets global resistance: Internet shutdowns in 2025』[*1]によると、2025年に記録されたインターネット遮断は、世界52か国で計313件に上った。2024年の304件、2023年の289件に続き、3年連続で過去最多を更新している。
Access Nowは、2009年のイラン大統領選挙後に発生した大規模な抗議活動を契機に設立された団体である。同団体が主導するインターネット遮断の根絶を目指す国際的な取り組み「#KeepItOn」は2016年に発足し、現在、106か国・366団体が参加する。#KeepItOnの発足以来、世界のインターネット遮断の記録・追跡を続け、毎年その実態をまとめた報告書を発行している。
今回のレポートによると、2025年には新たにアルバニア・アンゴラ・カンボジア・リトアニア・パナマ・パプアニューギニア・米国で初めてインターネット遮断が記録され、2016年以来、遮断が確認された国の累計は100か国に達した。その背景はさまざまで、抗議活動への対応から制裁措置、プラットフォーム規制まで、遮断の理由は多様化している。例えば米国では、2025年1月18日にTikTokが国家安全保障上の懸念から14時間停止された。紛争下の全面遮断とは性質が大きく異なるが、Access Nowは政府の関与による通信制限として記録している。
インターネット遮断の主な要因として最も多かったのは紛争・武力衝突で125件となり、全体の約40%を占めた。これに抗議活動や政治的不安定が64件、情報統制が48件、地域間暴力が16件と続き、選挙や試験期間中のカンニング防止を名目としたものなども含まれる。
新たな傾向として目立つのが、Starlinkに代表される低軌道(LEO)衛星インターネットの遮断である。2024年の4件から、2025年には14件へと増加した。これまでチャド・赤道ギニア・イラン・ミャンマー・シリア・タンザニア・イエメンで確認された。また、特定のアプリやSNSのみを制限する「プラットフォームブロック」も、40か国・94件と、過去最多を記録した。
「全面遮断」から「見えにくい制限」へ
インターネット遮断の増加と並行して、手法そのものも高度化している。従来の「全面遮断」から通信速度を意図的に低下させ実質的に利用を困難にする「スロットリング」、さらに、政府が許可したサービスのみに接続を限定する「ホワイトリスト方式」へと移行が進んでいる。ホワイトリスト方式では、銀行や行政サービスは利用できるものの、外部のニュースサイトやSNSにはアクセスできない状態がつくり出される。
こうした変化は、影響を見えにくくする一方で、市民の情報アクセスを確実に制限する。とりわけ、紛争下にある国や市民の基本的な権利が大きく制約されている国では、その影響は生命や安全に直結する。アフガニスタンやイランは、その深刻さを示す事例と言える。
アフガニスタン:教育と医療を断つ通信遮断
タリバン暫定政権は2025年9月15日、バルフ州で「不道徳な活動の防止」を理由に光ファイバーインターネットの遮断を開始した。その後、遮断は複数の州に拡大し、一部地域では携帯電話も利用できなくなった。9月29日から10月1日にかけては、48時間にわたる全国規模の通信遮断が実施された。なお、全国遮断について、タリバン暫定政権は公式な理由を説明していない。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)が実施した111人へのインタビューに基づく報告書[*2]は、この遮断が市民の生命と権利に及ぼした実態を記録している。
医療現場では通信の途絶によって救急要請や医師間の連携が困難となり、複数の州で乳児や子どもを含む死亡事例が報告されている。女性や女児に関しては、教育を制限されている女子学生にとって唯一の学習手段であるオンライン授業が停止されたほか、男性の近親者(マフラム)と連絡が取れないことによって帰宅時の安全が脅かされた。
経済・人道支援面でも、影響は広範に及んだ。銀行システムや国外送金の停止によって日常的な金銭取引が困難になり、公式情報の欠如からデマが拡散してパニックや買い占めが発生した。人道支援の現場でも地震被災者への対応や帰還民への現金支給が停滞し、それに関連した死亡事例も報告されている。
イラン:記録上最長のインターネット遮断
2025年から2026年にかけて、インターネット遮断の深刻さを最も象徴しているのがイランだ。2009年のグリーン・ムーブメント以降、同国では遮断が繰り返され、その都度、規模と手法は高度化してきた。
2025年12月28日にテヘランで始まった抗議活動が全国に拡大する中、当局は2026年1月8日にインターネットと通信を遮断した。その後、一部は緩和されたものの、2月28日に米国・イスラエルによる軍事攻撃が始まると、再び大規模な遮断が実施された。
インターネットの接続状況をリアルタイムで観測している英NetBlocksのデータによると、トラフィックは通常時の99%減まで落ち込んだ。4月5日時点で同団体は「記録上最長の全国的インターネット遮断」と発表し、遮断開始から864時間が経過して37日目に達したとしている(NetBlocks、2026年4月5日)。
このインターネット遮断が情報統制にとどまらない問題となっているのは、民間人の安全に直結しているためである。イスラエル軍は攻撃に先立ちSNSで退避警告を発しているが、遮断下では市民にその情報が届かない。機能する空襲警報システムや公共シェルターが存在しない中、インターネットは市民にとって唯一のリアルタイム情報源だったためだ(The Conversation、2026年3月6日)。
現在のイランでは、当局が高官や国営寄りのメディア、特定の関係者に限定して外部インターネット接続を認める一方、一般市民は強く制限された国内ネットワーク中心の環境に置かれている(Foreign Policy、2026年2月24日)。加えて、一部通信事業者は、高額な対価を支払うことで例外的に外部インターネットへの接続を認める企業向けサービスを案内しているとも報じられている(Al Jazeera、2026年4月5日)。
国際社会の反応、法的認定と制度整備の動き
こうした事態に対し、国際社会も動いている。
国連教育科学文化機関(UNESCO)は2026年1月20日の声明[*3]で、インターネット遮断を「表現の自由の侵害」と位置づけた。さらに、ジャーナリストや公的機関がデジタルチャネルから切り離されることで検証された情報へのアクセスが困難になり、遮断がむしろ偽情報の拡散を助長するリスクがあるとも指摘している。
法的枠組みの面でも動きが出ている。Access Nowのレポートによれば、国際刑事裁判所(ICC)は2025年12月、インターネット遮断と人道に対する罪の関連を初めて正式に認めた。遮断が証拠隠滅の手段となり、国際犯罪の実行を助長し得るとする判断である。バングラデシュでは市民社会の強い働きかけなどにより、インターネット遮断を法律で禁止する法案が提出された。また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)裁判所は、セネガルにおけるインターネット遮断を「違法」と裁定した。
インターネット遮断の経済的コスト
インターネットの技術標準やポリシーに取り組む国際非営利団体のInternet Societyは、監視プロジェクト「Pulse」を通じてインターネット遮断の経済的損失をリアルタイムで集計している。同プロジェクトによると、過去12か月のインターネット遮断による世界全体のGDP損失は約2億1000万ドルに上る(4月12日時点)。
日本では、こうした他国におけるインターネット遮断が意識される機会は多くないだろう。しかし、想定される経済的な損失額を見ても、遮断の影響は当該国だけの問題ではない。国際社会の対応も進みつつある中、今後も動向を注視していきたい。
[*1]…… Access Now, When repression meets resistance: Internet shutdowns in 2025, 31 Mar. 2026
[*2]…… UNAMA, Out of reach: The impact of telecommunications shutdowns on the Afghan people, 28 Oct. 2025
[*3]…… UNESCO, UNESCO Statement on Internet Shutdowns, 1 Jan. 2026
文:遠竹智寿子 フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員
編集:タテグミ
(「D for Good!」2026年4月17日付記事より)
このコーナーは、インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボがnoteで連載中の「D for Good!」から記事を転載しています。D for Good!では「デジタルで未来を明るく!」を掲げ、書籍「インターネット白書」「SDGs白書」を編集するインプレス・サステナブルラボ研究員が、サステナビリティが身近になる話題を発信しています。





