テレワーク、空いた時間でなにしてる?

「読書」ができない! と悩んだ大学生が、読書のためのお店「fuzkue」(フヅクエ)に行ってみた

フヅクエ 初台店内

 本を読みたい!けれど、なかなか集中できない……。そんな悩みを日々抱えて過ごしていました。

 読書というと、人によっては高尚なものや、気取った趣味のように思われるかもしれませんが、読書とは本来、誰にとっても身近で気軽に楽しめるものだと思います。時には難しい本を開くのもいいけれど、娯楽小説やマンガなどでもよく、ただ、本を開いて、読めればいいのです。

 しかし、気軽で身近なはずの読書が、どんどん遠いものになっている気がするのも事実です。すき間時間には本よりもスマホを手に取ってSNSや動画を見てしまうことが多く、読書は後回しにしてしまいがち。電車内などで本を開いても、周囲の音が気になってうまく集中できなかったり、溜まった疲れに襲われて眠くなってしまったりすることもしばしばでした。

 「文字を読む」だけならばSNSでもできる、と言えないこともありませんが、それでもやっぱり本を読みたい。本に深く集中したときだけの独特の感覚を味わいたいのです。

 そう思いながらも、普段はなかなか読書ができず、でも、書店に行くとつい面白そうな本を買い込んで「積読」だけが増えてしまいます。こうなったら、読書を「気軽で身近なもの」だと思うのは一旦やめて、読書の時間を意識的に作る必要がある、と考えるようになりました。

 そんなときSNSで目に留まったのが、”本の読める店”「fuzkue(フヅクエ)」です。

 フヅクエは2014年に東京の初台にオープンし、現在は下北沢、西荻窪を加え、都内に3店舗を構えています(西荻窪店は2024年1月末より一時休業中)。「『心地よく本を読みたい』と思って来てくださった方にとっての最高の環境を目指した店」という読書好きにとってはたまらないコンセプトを持ち、静かな空間の中、時間を気にすることなく本を読むことができます。

 そして、読書に没入できる環境を作るために、店内ではいくつかのルールが設けられています。例えば「勉強、仕事、執筆、作業、動画視聴、ゲームなどはNG」「お喋りはできない」など。一見厳しくも聞こえますが、映画館のマナーのようなものだと思えばすんなりと納得がいきます。

 映画のために映画館があるように、フヅクエはまさに読書のための空間となっているのです。

 確かに、本を読もうと喫茶店へ行っても、読書以上にやらなければいけない学校の課題や勉強に追われてしまったり、それが終わるとついスマホを取り出してSNSを見てしまったりして、いつのまにか時間が過ぎてしまうことがよくありますが、そのような事態を避けられることはとても魅力的に感じられです。何よりこのお店に来るお客さん全員が、自分と同じような気持ちで本を読みに来ていると思うと、ワクワクしてきます。

いざ下北沢店へ! そこには本に囲まれた穏やかな空間が広がっていました

 というわけで「せっかくフヅクエに行くならとことん本を読むぞ!」と意気込み、同じ趣味の友人にすすめられ買ってみたものの、なかなか集中できず読み進められずにいたドストエフスキーの「賭博者」、太宰治の「ヴィヨンの妻」などの小説を数冊抱えて、いざ出発。

 私が訪れたのは、小田急線下北沢駅から徒歩5分に位置する「fuzkue 下北沢店」です。かつて小田急線の線路が走っていた場所に誕生した「Bonus Track」という商店街のやや奥まったところに位置しています。また、同じ商店街の中に書店もあるため、本を買ってすぐフヅクエへ読みに行くこともできます。

 当日、フヅクエのあるエリア周辺ではイベントが開催されていたことや、日曜の午後だったこともあり、家族連れや友人同士といった人々で賑わっていました。しかし、お店のドアを閉めると周りの活気に溢れた雰囲気から離れ、急に別世界に来たような静けさが広がっていました。

 お店に入ると、まず本の多さに圧倒されました。壁にはギッシリと本が立ち並んでおり、書店では見かけたことのない、めずらしいタイトルの数々に目を奪われました。これらの本は全て店主の私物だとか。座席は全7席と少ないですが、狭い印象ではなく、席の間隔が広く取られていて、ゆったり過ごせそうです。

 店内は読書にちょうど良いくらいの薄明りで、席には思い思いに本を読んでいる人の姿があり、読書への気持ちが高まっていきます。

心ゆくまで、ゆっくり読書を楽しむための過ごし方

 一般的なカフェでは、席に着くと水とメニューが置かれます。ですが、フヅクエではひと味違います。最初に「案内書きとメニュー」と書かれた、50ページほどある小冊子が渡されます。

 読書に取り掛かる前のウォーミングアップのような気持ちで冊子に目を通していくと、フヅクエのコンセプトである「本の読める店」とはどんなお店なのかという説明からスタートし、店内でどんな風に過ごしたら良いかを伝えてくれます。メニューのページにはちょっとしたエッセイのような説明文があり、読み応えがあります。

 後半部分では、前述したような「勉強や仕事などはNG」といった店内での決まりごとについて書かれています。店主ご自身の経験や「あるある……」と思わず頷いてしまうようなエピソードも交えた説明で、ルールにも納得して過ごすことができます。ほかにも料金の仕組みにはどのような背景があるのかが丁寧に綴られています。かなりボリュームのある内容ですが、ユーモアのある文章でどんどん読み進めてしまいました。

ゆっくり過ごすなら2000円、サクッと1時間なら1000円前後の予算感

 一般的な飲食店なら、席に着いたらまず注文しないと! という流れですが、フヅクエではいつ注文してもOK。なんなら何も注文しなくても大丈夫です。

 フヅクエでは、独特の料金システムが取られています。「オーダーごとに小さくなっていくお席料制」と名づけられており、利用者には「席料」が設定され、飲み物や料理を注文すると、席料自体は安くなっていく、というものです。

 例えば、オーダーなしの場合の席料は1500円。ドリンク1杯を注文すると、ドリンク代700円+席料900円で計1600円。何もオーダーしなくても、席料の支払いは行うので、気兼ねなく滞在できます。一方で、たくさんオーダーすれば席料が下がり、トータルでの支払い金額はさほど変わらないので、お腹に余裕があるならオーダーした方が「お得」だといえます。

 利用者の平均滞在時間は2時間半だそうで、これくらいの時間滞在し、ドリンクと軽食を頼むなら、予算は2000円ほどみておくのがいいでしょう。

 もっと短時間でいい、という人向けには「1時間フヅクエ」という設定もあります。これは、席料900円で、ドリンク1杯の注文の場合席料は300円となり、だいたい1000円前後で1時間、読書に耽ることができます(事前に「1時間フヅクエで」と申告する必要あり)。

 「気が付いたらドリンク一杯で長い時間滞在してしまった」とか「周りが満席だからそろそろ帰ったほうがいいかな……」など、お店の都合を心配する必要なく、心ゆくまで読書が楽しめるようになっている、なんともありがたいシステムです。

美味しいドリンク&フードを携え、とことん本を読む

 訪れたのはかなり寒い日だったので、厚着をして出かけました。しかし日中に外を歩くとさすがに少し暑くなってくるし、のども渇いてきます。

 そのため、メニューの「レモンスカッシュ」という文字を見た瞬間、甘酸っぱいシュワシュワを全身が求め始めたので、まずはそれを注文しました。

国産のレモンをはちみつと氷砂糖で漬け込んで作られたシロップのレモンスカッシュ。甘酸っぱさが体に染み渡ります

 本を開きつつ、ドリンクはあまりの美味しさにかなりの勢いで飲み干してしまいました。

 今回は、読むのに集中力がいる小説を中心に持ってきています。普段は、30分もすれば集中力が途切れて放り投げてしまいますが、フヅクエでは、自分でも「こんなに集中できたのか」とビックリするほど、本の世界に入っていくことができました。

 入店から時間が経ち、入口付近の席に座っていたためか、今度は少し体が冷えてきてしまいした。喉の渇きに勝てず、冷たい飲み物を飲んでしまった自業自得でもあるため、やや申し訳ない気持ちでお店のブランケットをお借りしました。

 すると、店員さんが「ヒーターもありますよ」と声をかけてくれました。冷え性のため、「ブランケットではまだちょっと寒いな、カイロを持ってくればよかったな……」と思っていたところだったので、その心遣いにとても感動しました。ありがたくも足元にヒーターを設置してもらうと、冷えに気を取られることはなくなって、再び読書に戻れました。

 1時間半ほど経ち、今度は小腹がすいてきたので、深煎りの豆をゆっくり抽出しているという「カフェオレ」と、フランス産小麦粉やカルピス特撰バターなどこだわりの材料が使われているという「ショートブレッド」を追加注文します。

カフェオレとショートブレッド

 読書に集中していたことで、少し疲れてきた心身をリフレッシュしてくれる、美味しいドリンクとおやつでした。

 このほか、種類豊富なお酒や紅茶、ソフトドリンク、カレーやサンドイッチといったフードなどたくさんのメニューがあります。

 結果的にこの日は約3時間ほど滞在し、本を2冊読み終えました。帰るころには外は暗く、あっという間に時間が過ぎていきました。

 フヅクエに来て、読書と向き合ったことで、いつもよりも本の世界に没入できました。中学生のころ、図書室の隅で食い入るように本を読み込んでいたときにも味わった、まるで文章と同化していくような感覚があり、日常では味わえない、新鮮なような、懐かしいような気持ちになりました。

 普段、いわゆる純文学のような奥深い小説はサラッとなぞるように読んでは「面白かったけど、あんまりよく分からなかったな」となってしまうのですが、今回は心置きなく時間をかけて読書ができたため、感動もひとしおでした。

 くわえて、「本が読める店」というコンセプトの通り、読書だけに集中できることも嬉しいですが、店員さんの気配りもとても有り難く、ここまで快適に過ごすことができるのかと、読書そのものだけでない、想像以上の体験ができました。

「本が読みたい」というときはもちろん、「ちょっと一人になりたい」ときにも

 今回、フヅクエを紹介させていただくにあたって、お店を立ち上げ、独特のコンセプトで運営している背景をもう少し知りたいと思いました。そこで、店主である阿久津 隆(あくつ たかし)さんに取材を申し込み、フヅクエの1号店にあたる初台店へ、開店前に伺いました。

初台店は初台駅からすぐ近く、床屋さんのあるビルの2階にあります
初台店内の様子

 「コロナ禍を経て、ますますどこでも仕事ができるようになってきました。電車でも座るとすぐにPCを開いて作業に取り掛かることができてしまう。そうすると、気づけば本を読む時間って削れていくんですよね。読書はそもそも能動性を必要とする趣味ですが、必要な能動性が以前よりも大きくなっているように個人的にも感じています。そんな時代だからこそ、フヅクエのような『読書しかできない場所』の意義は相対的に高まっているのではないかと考えています」。誰よりも“フヅクエのファン”だという読書好きの阿久津さんは、笑顔で語ってくださいました。

店主の阿久津さん

 「読書」というと、何となくハードルが高いようにも聞こえますが、阿久津さんは「誰かが好きな読書は、そのまま全肯定されてほしいなって思いますね。”何かを誰かが好きだって思った時に、それを誰もがお互いに尊重し合えて、自分が何かを好きだって表明することが何の不安や屈託なくできる社会”が絶対いいよなと思っています」とおっしゃり、「本が読みたい」というときはもちろん、「ちょっと一人になりたい」というときにも、気軽にフヅクエに来てほしい、と語ります。

 もちろん、物理的に一人になれる場所はいくらでもあるけれど、現代ではSNSを通じて常時人とつながっている状態になりがちです。そんなときに、読書しかできない場所へ行くことで、本当に一人の時間を過ごすことができるのではないでしょうか。

 また、同店は時間を気にせずゆったり過ごすことができるという性質上、だいたい2000円前後になるような料金体系で、一般的なカフェよりは高めの設定になっています。その部分についてもお話を伺いました。

 「前までは映画館の料金くらいという感覚だったのですが、最近はそれに加えて、飲み会代のことも頭によぎりがちです。飲み会だと人は平気で何千円も使うじゃないですか。人とわいわい楽しく話すのと、一人の時間をとことん楽しむのと、そこに優劣はないですよね。そう考えたら、料金に対しても、『これもありじゃないですか?』とより胸を張って言えるよなと」と、映画館や飲み会のイメージでの設定とのことです。

 学生(編集部のインターン生)である私にとって、2000円は決して安い値段ではありませんが、高いお金を払っているからこそ集中しよう! と思える面もあります。また、1つの目的のために誂えられた空間かつ、ドリンクやフードもとても美味しいとなれば、納得できる料金設定だと思います。

 「旅先で読んだ、本とかってその旅と一緒に記憶されたりすると思うんですけど、フヅクエで読んだ本も、そういう感じで記憶されるといいですね。本の背表紙を見たらちょっとそれが思い出されるような感じ。本を読む前後の時間とか、『お店に行くぞ!』って気持ちとか、負荷とか違和みたいなものは記憶にとって結構大切な気がします」と、読書にとっての特別な空間を作ろうとした思いを、語ってくださいました。

「『これを読みたいぞ』とか、『この本超楽しみにしてた』みたいに思っているときには、本当にフヅクエが(読書の場として)オススメだよって気持ちです」(阿久津さん)

 このほかにも、「(お酒もメニューにあるので)お酒に合う本はどんなものですか?」のような質問もしましたが、そうした「読書とは」という実像を絞ろうとするような話題では、「どうでしょうね…(笑)」といった感じで、具体的な回答は話されませんでした。阿久津さんがおっしゃった「誰かが好きな読書は、そのまま全肯定されてほしい」という言葉の通り、どんな本を読んでいても、お店では歓迎されるということだろうと感じました。

 阿久津さんが読書について、「共感できない他人の考えに寄り添えるのが面白い」とおっしゃっていたのが印象的でした。確かに、SNSなどでは「共感」が前提となる中、小説や漫画で自分とは異なるタイプの人物の考えに触れるなど、好きなだけ時間をかけつつ、共感を示す必要なく他者の考えに触れられるのは、読書ならではのことの1つで、意外と貴重なことかもしれません。

 読書そのものだけでなく、店内の心地いい空間と、おいしいドリンクやフードまでをふくめて、総合的に記憶に残る読書体験ができるのが、フヅクエの魅力なのではないかと感じます。初めて訪れて以降、「今度フヅクエに行ったらこれを読もう」と、以前よりもハイペースで増えるようになってしまった積読を抱えて、またフヅクエに行ってきます。

テレワークで余裕ができた時間を有効活用するため、または、変化がなくなりがちなテレワークの日々に新たな風を入れるため、INTERNET Watch編集部員やライター陣がやっていることをリレー形式で紹介していく「テレワーク、空いた時間でなにしてる?」。バックナンバーもぜひお楽しみください。