山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

ネット小説に大量の海賊版、背景には文章自動作成ソフト ほか~2017年2月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

ネット小説に大量の海賊版、背景には文章自動作成ソフト

 浙江日報は、中国で普及しているネット小説の海賊版が大量生産されているという記事を掲載した。記事によれば、例えば中国で著名なドラマ「錦繡未央」においては、209もの小説が非常に似ていると、同ドラマのファンが結論を出したという。

 この背景には、淘宝網(Taobao)で10元(約160円)から売られている文章作成ソフトがあり、文章作成ソフトにより容易に新たな小説が作られていると同メディアは指摘する。さまざまな文学作品の文言を置き換えることで新たな文章を作成するというもので、ソフトによって作文能力の性能はまちまちだが、「数行で千字の文章を作成する」とうたう製品もある。文章を大量に書き換えるために、一見すると元ネタが分かりにくく、現行の著作権法では海賊版の認定は難しい。

 同紙記者の試用レポートによると、名詞を入れるといかにも文筆な人が書くような形容表現を加え出力し、高価格高性能な文章作成ソフトは、人・物・場面などを設定でき、より高品質な文章を出力できるという。

 こうした中で海賊版小説を排除すべく、百度や阿里巴巴、中文在線らは、知的所有権(IP)を保護する目的で「原創(オリジナル)聯盟」というオンライン小説の組織結成を発表。海賊版小説を協力して排除するとしている。

Facebook、中国のツール系アプリ広告掲載を禁止

 Facebookが、中国のクリーナーやバッテリーセーバー系ツールアプリの広告掲載を禁止すると中国の広告代理店に伝えた。掲載した場合、広告代理店はブラックリストに入るという。Facebook側は主な理由として、「ユーザーのスマートフォンのメモリの空きがなくなりました」などユーザーをだます広告が目立ったためだという。

 最近、中国国外でシェアを上げるスマートフォン同様、中国のアプリも中国国外への展開を進めている。しかし中国国外ではユーザーが多く、ネット広告プラットフォームとして効果があるFacebookの広告禁止は、海外に展開したい中国のアプリベンダーにとって大きな痛手となった。

 中国のツールアプリでは「AnTuTu(安兎兎)」などが有名。ツール以外ではフォトレタッチ「美図秀秀」がブラジルで人気となるなど、地域的に普及が進んでいる。

百度、前年同期比で減収減益に

 百度が2月24日、4半期決算を発表。売上高が前年同期比2.6%の182億1200万元、純利益は同83%減の41億2900万元となった。まだ各所で成長している中国インターネット業界での減収減益となった。理由として、本連載の4月のニュースでも「百度、検索結果を金で操作しているとの指摘」として取り上げた「魏則西事件」の影響があると言われている。

 各サービスの利用者数は、百度のモバイル検索月間アクティブユーザー数が前年比2%増の6億6500万、百度地図の月間アクティブユーザー数が同13%増の3億4100万、百度のモバイルマネー「百度銭包」のユーザー数が同88%増の1億だという。

 また、調査会社の易観国際(Analysys International)が発表した2016年第4四半期の中国モバイル検索の調査レポートによると、ユーザーによる検索回数のシェアで百度は78.1%でトップ。以下、「捜狗」が7.8%、「宜捜」が5.2%のシェアとなった。

ECでの使用率、スマホとPCが2年前と逆転

 調査会社のiResearchは、スマートフォンによるオンラインショッピングについての調査レポート「中国移動電商行業研究報告」を発表した。レポートによると、2016年の中国オンラインショッピング市場規模(取引総額)は4兆7000億元(約75兆2000億円)で、中国の小売市場全体の14.7%に相当するという。参考までに日本は、経済産業省が2016年6月に発表した「電子商取引に関する市場調査」結果によると、2015年における日本の消費者向けEC市場規模は前年比7.6%増の13兆8000億円だという。

 スマートフォンによる購入が全体の68.2%、PCによる購入が31.8%となった。2年前はPCが66.2%、スマートフォンが33.8%だったため、2年前の勢力図と比べると逆転したと言える。スマートフォンによるオンラインショッピング取引総額は3兆3000億元で、前年比で57.9%増加。急速に市場が拡大しているようにも見えるが、今年初めて増加率が100%を割り込んだので成長が遅くなったと言える

 サイト別では、淘宝(Taobao)のモバイル版「手机淘宝」が群を抜いて人気で、続いて「京東」「唯品会」「天猫」が続いた。同レポートではベビー・マタニティ用品、生鮮、家具が伸びている商品ジャンルだと注目している。

ネットで購入する商品ジャンル

他人のスマホから大金を盗む案件がたびたび

 多くの中国のスマートフォンでは電子マネーアプリの「支付宝(Alipay)」や「微信支付(WeChat Pay)」がインストールされ、ECサイトやリアルショップでの支払い、送金などに利用されている。そのため、スマートフォンが他人の手に渡ると本体価格以上に損をするリスクがある。

 武漢のスーパーで、店主が顔なじみの顧客に頼まれスマートフォンを貸したところ、顧客に支付宝のパスワードを変更され、1万元を送金された。また、重慶のネットカフェでは、友人にスマートフォンを貸したところ、5000元近くが他人に送金された。

 いずれも発見され、盗んだ側には窃盗罪が適用された。現在、中国ではスマートフォンをなくすことは、本体を失う以上にリスキーと言える。

「中国全土でデータ通信と通話使い放題プラン」登場

 キャリア「中国聯通(ChinaUnicom)」から、中国全土でデータ通信と通話の使い放題のプラン「氷激凌(アイスクリーム)」が登場した。これまで契約地域の省内ではデータ通信と通話がし放題で、契約した省・市以外からの利用対象外となるプランは存在したが、全国で使い放題プランは珍しい。月40GB以上の利用で速度が3Gに落ちる利用制限付き。発表から3月末まで半額の199元でリリースされる。

 また、中国聯通の発表後、キャリア「中国移動(ChinaMobile)」から、中国聯通と同じ名称「氷激凌」のプランが登場。月40GBまで利用でき、価格は399元(約6600円)だが、3月中はキャンペーン価格として半額の199元(約3300円)で提供されるという、中国聯通を非常に意識したサービスとなっている。

使い放題の「氷激凌」プラン(中国聯通)

中古スマホ販売が普及? EC大手「京東」が中古チャンネルをオープン

 「阿里巴巴(Alibaba)」の「天猫(Tmall)」に次ぐECサイト「京東(JD)」は、デジタル製品の中古販売サイト「京東酷売」をオープンした。スマホやPCなどを主に扱う。

 中古市場については、この1年で「愛回収」という中古買取販売サービスを中国全土で展開するサービスにより認知が高まっている中での京東の参入となった。3月中旬現在、人気商品だけを扱っている。

 また、京東は「iPhone 7を月228元から」など、デジタル製品をレンタルできる「京東保租」を発表したが、こちらについては発表はしたがその続報もオフィシャルサイトもまだない。

ブロードバンド速度、下り平均は11.9Mbpsに

 寛帯発展聯盟が発表した2016年末の中国ブロードバンド状況レポートによると、ブロードバンドの下り平均速度は11.90Mbpsだった。地域別では上海が最も速く、14.03Mbpsとなった。なお、中国国内のサイトへの速度であり、日本など外国のサイトへの速度はだいぶ遅い。

 モバイルについては3Gでは3.89Mbps、4Gは11.93Mbpsだった。キャリア別では固定回線・モバイル回線ともに中国聯通(China Unicom)が最も速いという結果に。また、サイトの平均表示速度は1.15秒、動画の平均ダウンロード速度は9.34Mbpsだという。

省別回線速度

バスの公衆無線LANサービスが儲からないため、一部都市で終了

 中国の大都市でバスの公衆無線LANサービスを提供する「16Wifi」が、上海や深セン、広州など一部都市でサービスを終了するとを発表した。設置のインフラコストに対して、利用者が少なく儲からないということを理由に挙げている。すべての都市ではなく、北京や昆明などでサービスは継続する。

 利用のためには専用のアプリをまず車内でダウンロードしてインストールする必要がある。ユーザーを専用アプリに誘導させて利益を得ようとしたが、ユーザーがアプリをダウンロードしなかったという。

16wifiのロゴのあるバス

中国メール利用者は企業管理職など

 微信(WeChat)やQQなどが普及する中国では、メールはあまり使われていない。CNNICからの発表では、メールの利用者は、インターネット利用者全体の7憶3125万人の33.9%に当たる2億4815万人しか利用していない。

 メールサービス最大手で、ポータルサイトやゲームベンダーの網易(NetEase)は、メールの利用状況を発表した。それによると、同社メールサービスの利用者は30代以上、大卒以上が半数を超え、また、半数近くが管理職以上という結果。中国のメールユーザーはネットユーザーの平均よりも高学歴・高年齢・高収入となった。また、業種別では製造業での利用が多いという。

 同社ウェブメールへのPCからのアクセスは、OS別でWindows 7が51.2%で最も多く、続いてWindows XPの25.6%。Windows XPが依然として企業で使われているようだ。

アプリストアは百度、騰訊、360の三つ巴

 Google Playが使えない中国でのアプリストアの利用実態について、調査会社の易観国際が発表した。それによると、ポータル系の百度(27.9%)や騰訊(22.2%)と、セキュリティソフトの奇虎360(10.9%)のアプリストアの利用が多いという結果に。小米(Xiaomi)やOPPOなどのメーカー系や通信キャリア系のアプリストアのシェアはそれぞれ数%程度だった。

旅行会社のサイト改ざん、上海ディズニーのチケットが転売される

 現代金報の報道によると、浙江省杭州にある旅行会社のサイトで、上海ディズニーランドのチケット販売価格が375元(約6000円)から1分(0.1円)に改ざんされた。ハッカーはそれを2700枚分購入した後、チケットを販売する販売屋、いわゆる「ダフ屋」に転売し、50数万元の売上を得た。犯人は2人組で、後日、窃盗罪で逮捕された。

 20歳と24歳の犯人は2016年10月、上海ディズニーランドのチケットを旅行会社30社が取り扱うというニュースを見て、試しに旅行会社のサイトをターゲットにハッキングソフトを利用したところ、改ざんに成功。「まさか成功するとは思わなかった」と話している。

山谷 剛史

中国アジアITライター。現在中国滞在中。連載多数。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。