山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
11月11日のオンラインショッピング祭りで記録的な金が動く ほか~2014年11月
(2014/12/18 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
APECで、初めて局地的に中国のネット規制が解除
中国の首都北京で、アジア太平洋地域の21カ国の首脳が集まる「APEC(アジア太平洋経済協力会議)」が開催された。この期間、会場では、FacebookやTwitter、YouTubeなどのブロックされているサイトがアクセス可能となった。過去に北京オリンピックなどの国際的イベントでインターネットの制限が解除されると言われてきたが、一度もブロック解除されたことはなく、ブロック解除は今回が初めて。
北京といえば、普段は非常に深刻な大気汚染が起きているが、北京に限り開催期間は休暇とし、工場を停止させ、車の通行制限を行うなど、さまざまな手を打ち、この期間は北京で普段は見られない青空を実現。ただし、早くから大気汚染情報を発表しているアメリカ大使館の大気汚染情報がこの期間消され、同国大使館が発表する大気汚染指数のアプリも、この期間、中国の各アプリストアから削除された。
CDNへのアクセスができなくなるなどネット規制は強化
中国の一般人にとってはネットの規制は変わることなく、悪化の一途をたどる。
11月17日には大手CDNのEdgecastcdn.netのDNSサーバー汚染から、CDNにアクセスできなくなり、何千ものサイトがアクセスできなくなった。この原因について中国側はノーコメントを貫いている。
11月7日には中国政府の機関「国家網絡信息方公室」が29のサイトに招集をかけ、匿名での評論や普段使用している言語以外での評論を禁じる「跟帖評論自律管理承諾書」に署名させた。また、11月27日にはテレビやネットなどの動画配信を管轄する「広電総局」が、テレビの放送において、ネット発の熟語や成語などの文字を変えた文字遊び的な新語を出すことを禁じるという通知を出した。
セキュリティソフトの子会社がウイルスをばらまき、親会社が即対応
新興のセキュリティベンダー「奇虎360(Qihoo)」が、最新のウイルスパターンファイルを自作自演したことが話題となった。奇虎360の投資会社の「麦芽地」がiOS向けウイルス「WireLucker」を作成し、奇虎360が世界最速となるパターンファイル作成をアピールしたためだ。気付いたネットユーザーはこれに怒り、奇虎360のセキュリティソフトをアンインストールを行う動きを見せると、奇虎360は北京ネット警察に麦芽地を差し出し、かつ麦芽地との関係を断つと発表した。だが、ほかにも奇虎360の子会社に、ウイルスを作成している会社があると指摘するメディアはある。ネットユーザーも、麦芽地の対処に対して胡散臭いという反応を示した。
奇虎360は急速に認知度を高めているものの、セキュリティソフトで百度や騰訊の人気サービスを有害サービスとしてブロックし、泥沼の訴訟合戦に持っていくなど、しばしばお騒がせ事件を出すことでも知られている。
11月11日のオンラインショッピング祭りで記録的な金が動く
11月11日は、B2Cオンラインショッピングサイト「天猫(Tmall)」によるオンラインショッピング祭り「双十一」が行われる。毎年この日には各ショップが目玉商品を用意し、今年は天猫の1サイトだけで、前年の2倍近い571億元(当時の日本円の両替レートで1兆円超)が動いた。天猫と兄弟サイトの「淘宝網(Taobao)」もお祭りムードとなり、目玉商品が多数出品された。
一方で、11月11日はオンラインショッピングの祭りだということが定着しているからか、このタイミングを狙ったグレーな商法が横行した。この日に上位販売ショップに名を連ねれば売名になるからと、「実際は購入しないで販売数増加を支援するサービス」が暗躍したり、11月11日に買ってもらうよう、1カ月前からショップ側が顧客に待ってもらったり、半額を訴えながらその日だけ定価を釣り上げたりする動きが見られた。571億元という数字すべてを額面通り受け取れるかというと悩ましいところ。
全体の4割にあたる243億元の売上がスマートフォンなどのモバイル機器からであり、今回の双十一は、以前に比べてモバイルが台頭した。また「優酷」などの動画サイトや「新浪微博」などのマイクロブログ、「高徳地図」などの地図サイトや「QQ」などのチャットソフト経由からの店舗へのアクセスが目立ち、複数のネットサービスのコラボレーションが目立った。一方、売上全体の1割が、ネットが普及していない農村部からの注文であったことから、割合としては少ないながらも、今まではなかったことから存在感を示した。
天猫が仕掛けたオンラインショッピング祭りだが、他のサイトも傍観していたわけではない。天猫と競合する家電系B2Cオンラインショッピングサイト「京東商城」や、家電量販店系サイト「蘇寧易購」なども天猫に対抗して目玉商品をこの日に多数用意。これらサイトは、売上では天猫から大きく差をあけられることからか、売上額の数字は出さなかったが、「前年比2倍増の総売上数1200万点を記録」(京東商城)、「2万台超が売れた50インチテレビを筆頭に206万点を1日で販売」(蘇寧易購)など好調だったようだ。
各ECサイトは、12月12日を「双十二」と名付けたオンラインショッピング祭りを仕掛けているが、ニュースメディアは「オンライショッピング祭りを作りすぎては消費者が疲弊してしまう」と危ぐしている。
字幕付き海賊版動画サイト摘発も、韓国サーバーで再開
ハリウッド映画や日本のアニメ、海外の大学の授業など、中国国外の動画コンテンツに字幕を付けて配信(字幕組と呼ばれる)する動画サイト「射手網」「人人影視」が海賊版を配信しているとして、閉鎖に追い込まれた。字幕網は「勉強のため字幕を付けている」というスタンスを数年前の登場以来続けていたが、許されなくなったようだ。海外のコンテンツが人気であることから、字幕組の存在は古株のネットユーザーなら知るところで、閉鎖のニュースに残念がるメッセージが多数書き込まれた。
が、その1週間後、閉鎖した人人影視のサイトと一部コンテンツが復活。IPアドレスは韓国のそれに。人人影視は「中国のサイトは正式に閉鎖した。海外の利用者は自国の法律にのっとって利用してください。字幕組に参加する人はその国の法律に従って自己責任でお願いします」と発表している。
モバイルでの支払いサービスについて調査レポートが発表される
調査会社のiResearchは、中国のスマートフォンによる支払いについてまとめた「中国移動支付用戸報告」を発表した。
現在は阿里巴巴の「支付宝(Alipay)」が最も人気で、その後を騰訊の「微信支付」が追う形となっている。地域によって微信支付が強いといった地域差は見られない。ユーザーは安全面を最も重視しているが、後発の微信支付の方が、使われている期間は長くなく、またその名の通り「微信(WeChat)」と関連するサービスで、SNSありきの支払いサービスのため、セキュリティを不安視するユーザーはやや多い。
利用者の男女比では7:3、年齢では18歳から35歳までが多く、インターネット利用者全体と比べれば30歳以上の利用も目立つなどやや高め。地域別では沿岸部が約4分の3となっている。
主な利用用途(複数回答)は、「オンラインショッピング」(63.2%)、「銀行への振り込み」(36.2%)、「クレジットカードの返済」(31.2%)、「生活費の振り込み」(25.2%)、「宝くじの購入」(16.4%)、「チケットの購入」(11.2%)、「光熱費などの公共料金の支払い」(11.2%)、「投資商品の購入」(9.3%)、「アプリの購入」(9.1%)、「リアルショップでの支払い」(8.7%)となった。
海外旅行の分割払いサービスが続々と登場
年末年始や、その後の春節(旧正月)の連休を見込み、アリババ配下の「阿里旅行」などの旅行代理店が、金融機関と提携し、海外旅行の分割支払いサービスを始めた。これにより、日本やヨーロッパ、北米などの旅行が月500元(約1万円)以下の支払いで可能となる。特に阿里旅行は、中国全土の大都市のバス停や地下鉄駅に広告を張り出しアピール。海外旅行は中国人にとって、もっと気軽に行けるものとなる。
クラウドストレージ、億単位のユーザーがモバイルで利用
百度のクラウドストレージサービス「百度雲」のユーザー数が2億を超えた。アクティブユーザーは8000万で、中国移動(GSM、TD-SCDMA、TD-LTE)からのアクセスが6割を占め、スマートフォンからのアクセスが目立つという。百度によれば、7~9月の検索サイトでの検索数は、スマートフォンからの検索数がPCからのそれを超えたという。
対抗する騰訊(Tencent)の「微雲」は、今年1月にユーザー数が3億を突破。3G・4Gの普及と、スマートフォンの普及などから、クラウドストレージへのニーズが高まっている。
小米、動画充実のため、動画コンテンツホルダーに過去最大級の投資
四半期で中国スマートフォン市場でトップシェアとなった小米が、動画サイト「愛奇藝」に3億ドルの投資を行った。小米が成立してからの4年間で、同社最高投資額となる。また、11月12日には人気動画サイトの「優酷網(YOUKU)」と「土豆(TUDOU)」を抱える優酷土豆に1000万ドルの投資を発表した。
小米はスマートフォンを筆頭に、スマートテレビ、セットトップボックスなどのハードウェアのラインナップはある。しかし、有力な動画サイトが独占配信の人気コンテンツを持つようになった最近においては、特に小米のスマートテレビやセットトップボックスにおいて古いコンテンツしかなく、コンテンツ不足が指摘されていた。また、テレビでネット動画を流すにはライセンスが必要で、その点で同社はたびたびひっかかっていた。今回の投資で、小米は同社ハードウェア製品にコンテンツの付加価値を付け、攻勢をかけていくだろう。