読めば身に付くネットリテラシー
「パチンコの打ち子募集」それも闇バイトの入り口かも
2025年10月24日 11:52
「パチンコ打ち子募集」といったメッセージが、X(旧Twitter)などのSNSを通じて時々、届いてきます。試しに検索してみると、現在もなお大量の募集投稿がヒットする状況です。
パチンコの打ち子とは、雇い主(指示役)から提供されたお金を使い、指定されたパチンコ台を指示通りに一定時間遊技して、勝って得た出玉をそのまま雇い主に渡す役割の人のことです。その対価として、時給や日給、あるいは歩合制で現金報酬が支払われます。パチンコでなかなか勝てない人や、その日の生活費に困っている人、あるいは「指示通りに打つだけで稼げるなら楽だ」と考える人が、こうした募集に応じてしまうのが実情です。
しかし、この打ち子の募集をきっかけとした詐欺被害が深刻化しています。警視庁のウェブサイトでも、特殊詐欺の手口の1つとして、打ち子の募集を起点とする「ギャンブル詐欺」を挙げ、強く注意喚起しています。
よくある手口は、メールやDM、SNSの投稿で打ち子を募集し、応募してきた人に対して「会員登録が必要だ」「優良な台の情報を教える」などと持ち掛け、登録料や情報料、保証金といった名目でお金をだまし取るものです。これは古くからある「パチンコ必勝法詐欺」とほぼ同じ手口ですが、入り口が「求人」のかたちをとっているため、より巧妙になっています。いかなる理由であれ、仕事(アルバイト)を始めるためにお金を要求された時点で詐欺を疑い、お金を渡してはいけません。
「パチンコ打ち子募集」から犯罪へと引きずり込まれる典型的なパターンとは
自身が詐欺被害に遭うだけでなく、打ち子募集には、応募者をさらに深刻な犯罪に引きずり込むための、より悪質な手口も存在します。特に「割のいいアルバイト」「簡単な作業で高収入」といった言葉に惹かれる人がだまされがちな、典型的なパターンがいくつかあります。詐欺師や犯罪組織が仕掛ける罠にはどのような手口があるのか、一通りチェックしておくだけでも、危険を察知し、被害を回避できる可能性が高まります。
代表的な手口が、「残念ながら打ち子の募集は定員がいっぱいになったが、ほかにもいろいろな仕事がある」と切り出し、別の仕事として闇バイトに誘導するものです。この場合、最初から打ち子を募集する気はなく、打ち子募集の広告は、犯罪の実行役を集めるための「おとり広告」として利用されているにすぎません。
そこで誘導されるのは、「荷物を受け取るだけ」「指定された場所に書類を運ぶだけ」「マニュアル通りに電話をかけるだけ」「指定された建物の様子を調査する」といったものです。これらは一見すると簡単な作業のように見えますが、その実態はオレオレ詐欺の受け子や、強盗犯罪の準備行為、あるいは犯罪で得た収益のマネーロンダリングといった、重大な犯罪行為そのものです。簡単な仕事で高額報酬を得られるような「うまい話」は絶対にないと肝に銘じましょう。
また、最初は本当にデータ入力やアンケート調査など、一見して合法と思われるような作業を任されるケースもあります。応募者も安心して1~2回アルバイト料を受け取った時点で、突然「実はこの仕事は闇バイトだった。君も加担したことになる。警察や家族、学校にばらされたくなければ、指示に従え(もしくはお金を支払え)」と脅迫してくる手口です。一度でも報酬を受け取ってしまったという弱みに付け込み、脅迫によって抜け出せない状況に追い込むのです。
どのパターンでも、最初の応募段階で、登録のためと称して詳細な個人情報を提出させられます。運転免許証やマイナンバーカード、学生証などの身分証明書の写真データ、そして「本人が持っていることを証明するため」として、それらの身分証を顔の横で持った自撮り写真を送るよう指示されます。それらに加えて、自宅の正確な住所や家族構成、学校や職場の連絡先、さらには自宅マンションの入り口から自室のドアまでを撮影した動画や、なぜか上半身裸の写真といった、脅迫の道具としか思えない情報まで求められることがあります。
募集はXなどのSNSを通じて行っていても、応募後の具体的なやり取りは、Telegram(テレグラム)やSignal(シグナル)といった、匿名性が高く、メッセージが自動消去される機能を持つアプリに移行するのも、こうした闇バイト募集の特徴です。万が一の際に捜査機関の追跡を逃れ、足がつかないようにするためです。
もし、こうした闇バイトが発覚して警察の捜査が行われても、匿名アプリで指示を出していた首謀者や幹部が逮捕されることはまれで、実際に行為を実行した末端の人間、つまり応募したあなた自身が真っ先に逮捕されることになります。この記事で紹介したようなパターンに遭遇したら、危険な兆候なので、すぐに連絡を絶ち、引き返すようにしてください。
「楽して稼げる」軽い気持ちでの応募が詐欺被害の入り口
そもそも、詐欺や闇バイトへの誘導以前に、「パチンコの打ち子」という行為自体がグレーゾーン、もしくは、場合によっては完全な違法行為とみなされる可能性もあるのです。例えば、パチンコ店の店長や従業員が、特定の台の設定情報を不正に漏えいさせ、その利益を横領するために仲間として打ち子を募集することがあります。これは店の資産を不当に侵害するものであり、業務上横領罪や背任罪に問われる可能性があります。また、不正な機器やプログラムを使って出玉を盗み出そうとする「ゴト師」と呼ばれる犯罪者が、実行役として打ち子を募集することもあります。この場合、打ち子は窃盗罪の共謀共同正犯として、ゴト師本人と同様の刑事罰の対象となる危険性があります。
また、一部には「軍団」と呼ばれる、同じ店舗で組織的に遊技する一般人の集団も存在します。これが直ちに法律違反とは言えないまでも、ほとんどのパチンコ店では、公平な遊技環境を損なうとして、ハウスルール(店舗規則)によって組織的な遊技や、複数人での出玉の共有・譲渡などを明確に禁止しています。こうしたルール違反が発覚すれば、出玉の没収や即時退店、さらには今後の入店を禁止されるといったペナルティが科されます。
「少しのお金になれば」という軽い気持ちで応募した打ち子の募集が、実際には詐欺被害に遭う入り口であり、気付かぬうちに重大犯罪へ加担させられる危険な罠となっている可能性があります。「楽して稼げる」といった甘い言葉の裏には、あなたを搾取し、使い捨てにしようとする犯罪者がいます。絶対に関わらないようにしてください。
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※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと

