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2026年、「詐欺師としてのAI」に注意せよ! 進化する詐欺の「危険信号」にあなたは気付くことができるか?

2024年の詐欺被害の損失額は4420億ドルに達し、成人の30%が詐欺に遭遇しました(画像は「Trend Micro Consumer Cybersecurity Report:2026 Scam Predictions」より)

 2026年、残念ながらネット詐欺の勢いは弱まりそうにありません。セキュリティ会社のTrend Microが公開したレポート「Trend Micro Consumer Cybersecurity Report:2026 Scam Predictions」によると、2026年に私たちが直面するのは、自律的に思考するかのように振る舞う「詐欺師としてのAI」だというのです。

 世界的な規模で見ると、2024年の時点で詐欺被害による損失額は推定4420億ドル(約66兆円)に達しています。これはもはや1つの巨大産業と言っても過言ではない規模でしょう。成人の30%、約3人に1人が過去1年間に詐欺被害に遭っているそうです。

 詐欺被害の規模は2026年にさらに拡大する見込みですが、その最大の要因がエージェンティックAI(Agentic AI)による「自律的な悪意」の登場です。単に人間が指示した文面や画像の生成をこなすのではなく、詐欺のターゲットを自ら調査し、最も効果的なシナリオを構築し、人間が介入せずとも自律的に騙しの手口を変化させていくAIシステムです。これまでの詐欺師はカモを見つけるために汗をかいていましたが、2026年にはその労力の大部分をAIが肩代わりします。

 犯罪組織はScam-as-a-Service(サービスとしての詐欺)として、この高度なAIツールをパッケージ化し、安価に提供し始めています。技術的なスキルがない人間でも、AIという優秀な助手を雇うことで、容易に大規模な詐欺キャンペーンを展開できるようになってしまったのです。

 また、詐欺の被害者が被害に遭ったことに気付くタイミングが遅くなることも指摘されています。調査によると、被害者の39%は多額の金銭を失って初めて騙されたことに気付いています。銀行からの警告があった時点で詐欺と気付いた人は19%しかいませんでした。

 AIはターゲットの警戒心を解くために自然な会話を生成することに長けています。かつて詐欺を疑う判断材料となっていたような文法の間違いや不自然な言い回しなどは、高度な生成AIによって解消されてしまいました。私たちが相手にしているのは、24時間疲れを知らず、数秒で何千人ものターゲットに個別のメッセージを送ることができる、極めてパワフルで冷酷なAI詐欺師なのです。

 詐欺の手口が単一のプラットフォームで完結しなくなっている点も注意が必要です。同レポートでは「マルチチャネル詐欺の拡大」と表現しています。詐欺師たちは、1つの場所で犯行を行うリスクを理解しており、巧みに複数のアプリやサイトを渡り歩くことで追跡を逃れようとします。

 典型的なパターンとしては、まずSMSや、ソーシャルアプリあるいはマッチングアプリのテキストメッセージで接触を図ります。そこで興味を引いた後、「ここは使いにくいから」といった理由をつけて、WhatsAppやTelegramのようなチャットアプリへと誘導するのです。日本ではLINEに誘導されることが多いでしょう。調査によると、SMS経由で副業詐欺や求人詐欺に遭遇した人のうち、実に73%が別のプラットフォームへ移動するよう指示されています。また、ロマンス詐欺の16.6%、懸賞詐欺の14.0%がSMSを入り口としており、そこから外部への誘導が行われているそうです。

 チャットアプリで信頼関係を築いたら、次に待っているのが、偽の投資サイトやフィッシングサイトへの誘導です。驚くべきは、そうした詐欺サイトの寿命の短さです。Trend Microが観測した詐欺サイトのうち、なんと96%が、24時間以内に消滅しているのです。被害者が「おかしい」と気付いて通報しようとしたときには、すでに証拠となるサイトは跡形もなく消え去っています。

 こうしたマルチチャネル詐欺の手法は、心理的な効果も計算されています。プラットフォームを移動するという行為自体が、被害者に「特別な関係」へのステップアップだと錯覚させる効果があるからです。公の場であるソーシャルメディアなどから、プライベートなチャットアプリへ。そして、2人だけの秘密の投資サイトへと場所を変えるごとに、被害者は詐欺師のシナリオの深みへと足を踏み入れていきます。

ソーシャルアプリやマッチングアプリなどでの接触から、チャットアプリ、偽の投資サイトへと誘導され、最終的にサイトが消滅するまでの詐欺のフロー図(画像は「Trend Micro Consumer Cybersecurity Report:2026 Scam Predictions」より)

 そして、2026年に最も警戒すべきなのが、AIを悪用したロマンス詐欺・投資詐欺です。詐欺被害の損失額を跳ね上げる組み合わせとなっており、オーストラリアでは2024年に投資詐欺で9億4500万豪ドルの損失が報告され、米国でも65億ドルの損失を記録しています。

 背景には、AIによるディープフェイク技術の悪用があります。これまでのロマンス詐欺は、テキストベースのやり取りが主でしたが、今後はAIが生成した「顔」と「声」が主役になります。2026年には、AIチャットボットやディープフェイクで作られた架空の恋人が、リアルとバーチャルの境界を曖昧にしていくでしょう。ビデオ通話ですら、もはや有効な確認手段ではありません。リアルタイムで顔や声をすり替える技術を使えば、画面の向こうにいるのが愛する人なのか、犯罪組織のオペレーターなのかを見分けることは困難です。

 さらに、性的搾取を目的とした「セクストーション(性的脅迫)」においても、SNSの写真からAIが生成した裸の画像をネタに脅迫する手口が増加しており、人間の羞恥心という最も脆弱な感情が狙われています。

偶然を装い、親密な会話から投資サイトへ誘導する、ロマンス詐欺の典型的なチャット例です(画像は「Trend Micro Consumer Cybersecurity Report:2026 Scam Predictions」より)

 一方で、被害の発生件数で最も多いのが「配送・請求のなりすまし詐欺」です。誰もがネットショッピングを利用する現代において、「荷物を届けられませんでした」という通知は、反射的にクリックを誘発する強力なトリガーとなるからです。詐欺の可能性を判定するTrend Microのサービス「ScamCheck」に寄せられた報告の58%が、こうした配送・請求に関連するものでした。

 興味深いことに、国・地域によって詐欺の傾向に違いもあります。例えば日本では、SMSでの詐欺は企業へのなりすましが主流ですが、最近では「占い詐欺」のようなユニークな手口も浮上してきているそうです。文化的な背景さえもAIは学習し、その地域に特化した騙しのテクニックとして悪用してくるのです。

 2026年、私たちは「誰も信じられない」という孤独な状態に晒される可能性が高いでしょう。AIが生成する完璧な日本語、精巧なディープフェイクなどを前にしては、従来の「スペルミスや不自然な言い回しに注意する」「怪しい送信者からのメッセージを開かない」といったアドバイスだけでは不十分であり、時代遅れです。

 これからは、はっきりとは目に見えにくい、心理的な違和感の中――例えば「Telegramに移動しよう」という提案や、最近の行動履歴に基づいたあまりにもタイミングの良すぎるオファー、そして何より、あなたの「好意」や「恐怖」といった感情を急かしてくるメッセージなどが、詐欺であることを示す「危険信号(Red Flags)」になります。私たちは今後、「感情操作」を仕掛けてくるようなやり取りから、こうした危険信号をとらえなくてはならないのです。

従来の詐欺の「危険信号」と新たな「危険信号」(画像は「Trend Micro Consumer Cybersecurity Report:2026 Scam Predictions」より。以下に参考訳)

[従来の危険信号(引き続き存在するものの、これだけでは不十分)]

  • スペルミスや不自然な文法
  • 怪しい送信元アドレス
  • 一般的なあいさつ(「お客様各位」など)
  • 信じられないほど良い条件での約束
  • 緊急的な脅し(「あなたのアカウントは24時間以内に閉鎖されます」など)
  • ギフトカードや銀行振込による請求

[2026年により重要になる、新しい危険信号]

  • 信頼できるブランドや役人のなりすまし(偽の番号、ロゴ)
  • 正規サイトと全く同一のプロフェッショナルなデザイン
  • WhatsAppやTelegramなど、別のチャットアプリへの移動を促すリクエスト
  • 本物のようなディープフェイクの音声や動画メッセージ
  • 複数段階にわたるプロセス(例:求人オファーチャットの「処理手数料」)
  • 最近の活動に基づいたパーソナライズされた内容
  • 愛や恐怖、時機を巧みに利用した感情操作

 怪しいメッセージに返信する前に常に確認しているとする消費者は38%にとどまっているとの調査結果が、皆さんがどれほど無防備なのかを表しています。AIという強力な武器を持った詐欺師に対抗するために、私たちにできる最大の防御策は、「ゼロトラスト(何も信頼しない)」の精神を個人のコミュニケーションにも適用することかもしれません。

 便利なテクノロジーが普及する一方で、そのテクノロジーが私たちの財布と心を狙っていることを片時も忘れないようにしましょう。2026年は、AIによる自動化された「説得」と、人間の「直感」との戦いの年になるでしょう。次にあなたのスマホが震えたとき、その通知の向こう側にいるのは、友人でしょうか、それとも高度に学習されたAIでしょうか。確認の手間を惜しまないことを心掛けてください。

高齢者のデジタルリテラシー向上を支援するNPO法人です。媒体への寄稿をはじめ高齢者向けの施設や団体への情報提供、講演などを行っています。もし活動に興味を持っていただけたり、協力していただけそうな方は、「dlisjapan@gmail.com」までご連絡いただければ、最新情報をお送りするようにします。

※ネット詐欺に関する問い合わせが増えています。万が一ネット詐欺に遭ってしまった場合、まずは以下の記事を参考に対処してください
参考:ネット詐欺の被害に遭ってしまったときにやること、やってはいけないこと