俺たちのIoT

第17回

じつは「外付けIoT」の成功例? テレビとChromecast/Fire TV Stickのいい関係

 前回は、テレビやエアコンなどのリモコン操作をスマートフォンから操作できるスマートリモコンのように、他の製品として組み合わせることでIoTとして活用できる「外付けIoT」を紹介しました。こうした外付けIoTとして、すでに普及が進んでいるのが映像配信サービスの世界で普及が進む、テレビに接続して利用する対応機器です。

 映像配信サービス対応機器として代表的な存在が、Googleの「Chromecast」です。テレビのHDMI端子に装着するだけで、YouTubeやHulu、Netflix、dTVといった動画配信サービスをテレビで楽しむことができるだけでなく、パソコンやAndroidスマートフォンの画面をパソコンに表示するすることもできます。INTERNET Watchの読者でも、Chromecastをお持ちの方は多いのではないでしょうか。

 同様の製品として最近人気を集めているのが、Amazonの「Fire TV Stick」です。Amazonの映像配信サービス「プライムビデオ」はもちろんのこと、こちらもNetflixやHulu、dTVといった他社サービスにも対応しており、最新モデルでは声で操作できる音声認識機能を搭載したリモコンが標準で同梱されるようになりました。

Google「Chromecast」
Amazon「Fire TV Stick」

 ChromecastやFire TV Stickは、テレビのHDMI端子に直接装着する小型の端末ですが、Appleの「Apple TV」、NTTドコモの「dTVターミナル」、U-NEXTの「U-NEXT TV」など、ボックス型の端末も、形状は異なるものの同じ仕組みです。また、あくまでオプション的な機能ではあるものの、PlayStation4やWii Uなどの家庭用ゲーム機で利用できる動画配信サービスも、テレビで動画配信サービスを楽しむことができるという点で「外付けIoT」であると言えます。

 第2回でも触れたとおり、こうしたテレビの周辺機器はあまりIoTとして紹介されることはありません。しかし、インターネットに接続することが当たり前ではないテレビにつながることで、インターネットの映像配信サービスを楽しむことができるという点では、これらの製品もIoTと呼ぶことができるでしょう。

「HDMI CEC」対応で、まるで1つの機器のように操作可能

 これらの映像配信サービス対応機器は、基本的にはテレビに接続する外付け型の機器ですが、2つの異なる機器をまるで1つの機器のように利用できる機能が搭載されています。それが「HDMI CEC」という機能です。

 CECは「Consumer Electronics Control」の略で、HDMI CECはHDMIで接続された機器同士をコントロールできる規格です。例えばHDMI CEC対応のテレビとレコーダーをHDMIで接続した場合、テレビのリモコンでレコーダーを操作する、レコーダーの電源をオンにするとテレビも連動してオンになる、といった連携が可能になります。

 ChromecastやFire TV Stick、Apple TVの最新モデルも、このHDMI CECを搭載しています。そのため、スマートフォンで見たい動画を選んでChromecastへ送るとテレビの電源が自動でオンになると同時にHDMI入力に切り替わってChromecastの画面が表示される、テレビのリモコンからFire TV Stickを操作できるといったように、外付けの異なる機器としてではなく、まるで1つの機器に搭載された機能のように操作することができます。

 また、ChromecastやFire TV Stickのような小型端末は、USB電源で動作するため電源アダプターも不要です。端末へ電源を供給するためのUSB端子もテレビに搭載されていることが多く、基本的にはテレビのUSBとHDMIに接続するだけでこれらの端末を使えるようになります。

 メーカーの異なる2つの製品を組み合わせて使う場合、操作方法や電源なども別々に用意することが多いものの、HDMI CECに対応したこれら製品はこうした使い分けを意識する必要がありません。本連載ではIoTのキーワードとして「つながる」ことに焦点を当てていますが、これらの映像配信サービス対応機器は、インターネットに「つながる」ことはもちろん、テレビともHDMI CECで「つながる」ことで、映像を映し出すだけではない新しい魅力を生み出しています。

効率のいい役割分担……テレビ本体は買い換えずに外付け機器だけ買い換え

 こうした映像配信サービス対応機器が普及する一方で、テレビ本体も映像配信サービスの対応が進んでいます。ソニーはAndroidベースのテレビ向けOS「Android TV」を搭載したテレビを発売し、パナソニックの「ビエラ」もさまざまな映像配信サービスに対応しています。海外メーカーでもLGエレクトロニクスが、独自のwebOSを搭載したテレビを発売しており、映像配信サービスが視聴できるテレビは標準的な存在になりつつあります。

 こうした映像配信サービス対応のテレビが普及した場合、外付け型の端末は不要になる過渡期の存在なのでしょうか? 筆者は、今後もこうした外付け型のニーズは一定数残るのではないか、と考えています。

 その理由の1つは、サービスへの対応年数です。1つの例としてパナソニックは、YouTubeに対応していた同社のテレビやレコーダーで、YouTubeが視聴できなくなるというアナウンスを実施しました(「AV Watch」の2015年1月28日付記事『パナソニック、'12年以前のTVなど、4月20日以降YouTubeが利用できない製品を公開』参照)。このアナウンスが行われたのは2015年で、対象製品は2012年以前のものなので、短い製品では3、4年でYouTubeが視聴できなくなったことになります。

 このニュースは2年前、対象となる製品自体は5年以上前のことであり、最近の製品はAndroid TVやwebOSのようにテレビのOS搭載が進んでいるため、こうしたこと自体は起こりにくくなるのかもしれません。しかし、スマートフォンやタブレットもOSのバージョンアップにより利用できなくなることは多々起きています。比較的OSのサポート期間が長いiOSでも、最新のバージョン「iOS 10」はiPhone 4Sが非対応となりました。iPhone 4Sの発売は2011年のことで、約5年でアップデート対象から外れたということになります。

 一方、テレビのような家電製品は一般的な製品寿命が10年と言われていますが、セキュリティ対策や最新技術への対応を考えると、同一のOSを10年も使い続けるのは非常に難しいことです。PC向けのOSではWindows XPが12年間に渡ってサポートされ、Windows 10は延長サポートも含めると10年間のサポートが保証されていますが(Windowsのサポートライフサイクル期間)、これはあくまでOSの対応であって、利用するサービスの対応ではありません。OSとしては利用できても映像配信サービスのアプリがOSに対応しない場合、結果として映像配信サービスは利用できないことになってしまいます。

 その点、外付け型の端末なら、端末を買い換えるだけで最新のサービスに対応することができます。買い換える費用はかかりますが、テレビそのものを買い換えることに比べると費用は抑えることができます。また、4Kなどの高画質が主流になった場合、古いテレビが4Kに対応していないと映像配信サービスが4Kに対応していても表示できない、という可能性もありますが、下位互換性のあるHDMIであれば、確実とはいえませんが画質が下がるものの古いテレビでも動画を視聴することができるでしょう。

 最近ではテレビを視聴するためのチューナーを搭載せずに価格を下げる製品も登場しており、映像は外付けの機器を利用して楽しむ、というスタイルも増えています。最新の機能を内蔵せずに外付けとし、本体は買い換えずに外付け機器だけを買い換えることで常に最新の状態に対応するというスタイルは、ソフトウェアだけでなくハードウェアの制約も多いIoT製品の寿命を伸ばすという点で効率のよい役割分担とも言えるでしょう。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」